プラチナバンド対応、「どこでもつながる」目指すソフトバンク

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 5月29日、ソフトバンクモバイルはウィルコムと共に、2011年夏商戦向けのラインアップを発表した。ウィルコムは経営破綻後、ソフトバンクグループ傘下に入っており、今回、はじめて合同という形で発表会を行なった。

 これまでソフトバンクモバイルの発表会では、さまざまなテーマが掲げられてきたが、今回は今年2月に割り当てられた900MHz帯を「プラチナバンド」と名付け、同帯域に対応した端末ラインアップを揃え、「どこでもつながるソフトバンクを目指す」とアピールしている。発表会の詳しい内容については、本誌レポートで解説されているので、そちらを参照していただきたいが、ここでは筆者の目で見た今回の発表内容と全体の捉え方などについて、説明しよう。

「つながる」ことに対する評価

 改めて説明するまでもないが、携帯電話は電波を使って、通話や通信を可能にするものだ。現在の国内の携帯電話サービスのように、端末やサービス内容が高度化し、他の業種とも密接に関わるようになってくると、各社の携帯電話サービスの優劣を簡単に判断できなくなってきている面もあるが、究極的にはこの『電波』をどれだけ上手に使っていけるかが携帯電話事業者の評価を左右することになる。どんなに使いやすい端末、どんなに楽しいコンテンツ、どんなに便利なサービス、どんなにリーズナブルな料金体系を提示しても、端末がネットワークにつながらなければ、携帯電話サービスは成立しない。

 この「つながる」という部分において、ユーザーの間で今ひとつ十分な評価を得られてこなかったのがソフトバンクモバイルだ。2006年にボーダフォンの日本法人を買収し、携帯電話事業に参入して以来、料金施策では「ホワイトプラン」、端末では「iPhone」など、さまざまな形で業界に大きなインパクトを与えてきたが、その一方で、「つながる」という部分については、上位2社になかなか追いつくことができず、ユーザーから常に厳しい評価が与えられてきた。

 この繋がらない要因の1つとして、買収したボーダフォンの日本法人が構築していた基地局のネットワークが十分なものではなかったことが挙げられるが、2010年3月にはこれを挽回すべく、「ソフトバンク電波改善宣言」を掲げた。設備投資を前倒しで増やし、基地局を倍増する計画を明らかにしたが、それでも評価を覆すことはできていない。もちろん、状況が改善されていないわけではなく、場所によっては以前はつながらなかったところがつながるようになったり、他社がつながらなくてもソフトバンクがつながるといった場所も見受けられるようになってきた。ただ、一度、ユーザーが持ってしまったイメージはなかなか覆すことができないうえ、ソフトバンクは必ずしも他社と同じ条件でネットワークを整備できない状況もあり、「つながる」という部分の評価については相変わらず厳しい戦いを強いられている。

 そんなソフトバンクが置かれた状況を大幅に改善することが期待されているのが今回の発表で主たるキーワードとして掲げられた「プラチナバンド」、つまり、今年2月に割り当てられた900MHz帯の免許だ。当初、ソフトバンクはボーダフォン日本法人が3Gサービス向けの国際共通バンドとして割り当てを受けた「2.1GHz帯」(国内では2GHz帯と表記されることが多い)のみでサービスを提供していた。これに対し、NTTドコモは2.1GHz帯に加え、800MHz帯や1.7GHz帯(東名阪のみ)で割り当てを受け、auも2.1GHz帯と800MHz帯で3Gサービスを提供してきた。ソフトバンクもPDC方式による2Gサービス終了後、1.5GHz帯の割り当てを受けたが、携帯電話サービスに有利と言われる700~900MHz帯の割り当ては受けることができなかったため、エリアカバーに苦労し、なかなか「つながる」状態を作ることができなかったわけだ。

 ちなみに、周波数の帯域ごとの特性について、少しおさらいをしておくと、一般的に周波数帯は高い方が直進性が強く、ビル街や山間部ではどうしても電波が届かない陰ができてしまう傾向にある。これに対し、低い周波数帯はビル陰や山間部にも電波が回り込むように届くため、広いエリアをカバーしやすいという特徴を持つ。電波で考えると、今ひとつイメージがつかみにくいかもしれないが、オーディオ機器のスピーカーでは高い音を出すスピーカーは指向性がハッキリしているため、設置する向きが重要になるのに対し、低音を出すウーファーは音が回り込むため、あまり設置する向きを考えなくても構わないという事例に当てはめると、少しわかりやすいだろうか。ただし、周波数帯が低ければ、低いほどいいということではなく、通信速度などの兼ね合いなどを考えると、700~900MHz帯付近が携帯電話サービスには適しているとされてきた。

 また、もうひとつ900MHz帯については、ソフトバンクとして、意地でも割り当てを受けなければならなかった背景がある。それはソフトバンクの主力商品のひとつであるアップルのiPhone 4SやiPad(第3世代)が900MHz帯に対応しているためだ。だからこそ、900MHz帯の周波数の割り当てが決まるまで、さまざまな形で自社への割り当ての正当性を訴える発言をくり返したり、設備投資も前倒しで取り組んできたわけだ。各携帯電話事業者に割り当てられる周波数帯域をイコールフッティングにすることを考慮すれば、ソフトバンクへの割り当ては自然な流れだったとも言えるが、設備投資の前倒しなどは同社の900MHz帯割り当てへの並々ならぬ意気込みが表われたものだったわけだ。

 こうした経緯を経て、今年2月、無事に総務省から900MHz帯の割り当てを受けたソフトバンクは、これを「プラチナバンド」と名付け、7月25日から利用を開始することを発表している。そして、その対応端末として、今回、スマートフォン4機種とフィーチャーフォン3機種を発表し、すでに販売されているiPhone 4S/iPhone 4/iPad(第3世代)をはじめとした10機種を加え、計17機種でプラチナバンドでのサービス展開を開始する。ちなみに、プラチナバンドを利用したサービスについては、既に導入されている通信方式「HSPA+」を採用するため、端末側では特に何も設定変更などをする必要がなく、900MHz対応の基地局のエリア内であれば、そのまま使うことができる。ただし、利用できるのは夏モデルをはじめとした対応端末の17機種のみで、今年の春モデル以前の機種については、そのほとんどが利用することができず、バージョンアップなどでの対応も予定されていない。かつて、NTTドコモが800MHz帯を利用したFOMAプラスエリアの展開をはじめた頃、郊外で使おうとしたとき、対応機種の人はつながるが、非対応機種の人はつながらないといったことが起きたが、今後、ソフトバンクでもプラチナバンド対応か、非対応かによって、利用できるエリアに大きな違いが出てくることが起きる可能性が高い。ただ、今回の発表会でも触れられているように、7月25日から一気に全国のすべてのエリアでプラチナバンドが利用できるわけではなく、最初は数百局からはじめ、年内には数千局、2012年度中には1万6000局まで拡大する計画なので、1年くらいをメドに対応機種に買い換えていけば、間に合うという見方もできる。

 いずれにせよ、900MHz帯の割り当てを受け、いち早く対応機種のラインアップを拡充したことで、ソフトバンクにとって、いよいよつながることに対する評価は発表会で孫正義社長が自ら述べたように、「言い訳のできない状況」になったと言えるだろう。7月25日を予定している900MHz帯の運用開始以降、ユーザーからの評価がどのように変わってくるのかが注目される。

【お詫びと訂正 2012/05/31 20:35】
 記事初出時、900MHz帯で導入される通信方式の名称に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

ソフトバンクから9機種、ウィルコムから3機種を発表

 これまでソフトバンクはNTTドコモやauに対抗するべく、さまざまな施策を打ち出してきたが、発表する機種数とカラーバリエーションについても他の2社に負けず劣らずの充実したラインアップを展開してきた。しかし、昨年あたりから少しずつ端末ラインアップを絞り込み、今回はスマートフォン4機種、フィーチャーフォン3機種、モバイルWi-Fiルーター2機種の合計9機種が発表された。機種数が多ければいいというものではないが、一時期のような豊富なラインアップを展開するより、本当にユーザーが見込める、売れる端末のみを展開する構えのようだ。

 夏モデルのラインアップについては、スマートフォン4機種、フィーチャーフォン3機種、モバイルWi-Fiルーター2機種という構成となっている。NTTドコモがスマートフォンとタブレットのみをラインアップしてきたのに対し、ソフトバンクはau同様、フィーチャーフォンを含むラインアップを加えてきた格好だ。モバイルWi-Fiルーターが2機種というのは、昨年9月の2011年冬~2012年春モデルのラインアップに1機種あったことを考えると、他社に比べても多い印象もあるが、SoftBank 4G&ULTRA SPEEDのデータ通信サービスを積極的に展開したいという意向なのだろう。ただ、発表会の質疑応答でも質問された話題だが、これだけモバイルWi-Fiルーターをラインアップするのであれば、他社同様、スマートフォンのテザリングについては解禁するべき時期に来ているのではないだろうか。特に、900MHz帯の割り当てを受けたことを考慮してもそろそろ何らかの答えをユーザーに示すべきだろう。

102HW102Z

 メーカー別で見ると、シャープが5機種ともっとも多く、パナソニックと富士通、Huawei、ZTEが各1機種ずつを供給する。これらの内、注目すべきは、やはり、富士通の存在だろう。富士通は元々、NTTドコモ向けに端末を供給し、東芝の携帯電話事業を統合後、au向けにも参入し、いよいよソフトバンク向けにもARROWSブランドのスマートフォンを供給することになった。ちなみに、今回発表された「ARROWS A 101F」は富士通初のソフトバンク向け端末になるが、富士通はボーダフォン、J-フォンよりも前のデジタルホン時代の1990年代末頃に供給していたことがあり、その意味で捉えると、十数年ぶりの復活という見方もできる。

 ところで、auとNTTドコモの夏モデルについては、米クアルコム製チップセット「Snapdragon」の第四世代「S4」のベースバンドチップセットが世界的に不足していて、端末の生産などにも影響が出ていることに触れたが、ソフトバンクの場合、ULTRA SPEEDのサービスがDC-HSPAを採用しているため、「MSM8260A」というチップが直接、影響を受けることになる。今回は「AQUOS PHONE Xx 106SH」のみがこのチップを採用し、富士通の「ARROWS A 101F」はNTTドコモ向けの「REGZA Phone T-02D」などと共通の「MSM8960」を採用する。

 個々の端末については、後述するが、機能面で注目を集めたのは、「PANTONE 5 107SH」に搭載された放射線測定機能だろう。昨年の東日本大震災による福島の原子力発電所での事故に対し、放射性物質による汚染への不安が拡がっているが、スマートフォンに放射線測定機能を搭載することで、少しでも安心して生活ができるようにという取り組みだ。放射線測定機は市販のものも数多く出回っているが、携帯電話やスマートフォンのように、常に持ち歩くものに搭載すれば、いつでも測定できる上、GPSによる位置情報を付加することもできるというメリットもある。

 こうした機能を持つモデルをラインアップに加えられることは確かに素晴らしいのだが、問題はその測定したデータをどうするかという点だろう。今回は風評被害などを考慮し、ソーシャルサービスとの連携は見送られたようだが、根本的な問題として、測定した数値が高かったとき、どうするのかといった対処方法があまり明確になっておらず、そういった面も含め、ユーザーに対し、きちんとした情報を提供できるような仕組みも検討して欲しいところだ。

 また、今回の発表会ではソフトバンクグループ傘下に加わったウィルコムも夏モデルとして、スマートフォン1機種とフィーチャーフォン2機種を発表した。ウィルコムのラインアップには昨年発表された「ストラップフォン WX03A」や「イエデンワ WX02A」をはじめ、ユニークな機種が増えてきているが、今回は昨年、ソフトバンクグループ傘下に入ったときから予告されていたPHSにソフトバンクの3Gサービスを組み合わせた「DIGNO DUAL WX04K」も発表された。PHSと携帯電話の組み合わせと言えば、ウィルコムの「HYBRD W-ZERO3」が記憶に新しいが、さかのぼれば、NTTドコモの「ドッチーモ」シリーズも人気の高かったシリーズで、今回のDIGNO DUAL WX04KはHYBRID W-ZERO3以来のデュアルモード端末ということになる。内容に関しては後述するが、こうした両社のネットワークを活かした製品はユーザーとしても非常に興味のあるところだろう。

 デザインや意匠という面では、両社の持つリソースが融合させた「PANTONE WX01SH」も興味深いモデルだ。PANTONEシリーズと言えば、豊富なカラーバリエーションを揃えるソフトバンクの人気シリーズだが、そのコンセプトとボディデザインをそのまま受け継ぎ、中身はPHSという構成になっている。

 この他にもスマートフォン向けサービスとして、「ムービーLIFE」の拡充と「スポーツLIFE」の開始が発表されたが、動画配信サービスは2009年夏モデルの発表時にもフィーチャーフォン向けに「選べるかんたん動画」などを提供してきた実績があり、豊富なコンテンツ展開にも期待がかかるところだ。ただ、どちらのサービスも基本的にスマートフォン向けに提供されるもので、auのようにマルチデバイスに展開するアプローチは提案されておらず、提供されるコンテンツの内容もあまり特徴がアピールされていない。

 スポーツLIFEについては自社でプロ野球チームを保有していることもあり、「テレビで福岡ソフトバンクホークスのダイジェストがちょっとしか流れないときでもスマートフォンなら、たっぷり楽しめる」という話は納得できるが、むしろ野球のように十分にテレビで見られるスポーツではなく、テレビ放送ではあまり見られないようなカテゴリーのスポーツも含め、ダイジェストのバリエーションを増やしていくべきではないだろうか。

夏モデルとして12機種を順次発売

 さて、ここからは今回発表されたソフトバンクとウィルコムの12機種の内、スマートフォンとフィーチャーフォンについて、タッチ&トライでの印象を踏まえつつ、それぞれの製品について説明しよう。ただし、いずれも開発中の製品であり、なかにはモックアップの製品もあったため、十分な情報がなく、実際の製品とは差異があるかもしれないことをお断りしておく。また、本誌にはすでに各端末の詳しいレポート記事が掲載されているので、そちらも合わせて、ご覧いただきたい。

【ソフトバンク】

PANTONE 5 107SH(シャープ)

 フィーチャーフォンでソフトバンクの豊富なカラーバリエーションを提供してきた「PANTONE」シリーズ初のスマートフォン。新開発のセンサーによる「放射線測定機能」を搭載し、本体前面のボタンを長押しするだけで、すぐに測定できる。ボディ幅は58mmとコンパクトで、女性の手にも持ちやすいサイズにまとめられている。PANTONEらしいカラーは背面パネルと前面のボタンに限られるが、カラーによってはかなり目立つ印象だ。発売時にはキャンペーンなどで割安な料金プラン、もしくは販売施策を検討している。今回発表されたスマートフォンとフィーチャーフォンは全機種プラチナバンド対応だが、スマートフォン4機種の中で、PANTONE 5 107SHのみがULTRA SPEEDに対応しておらず、受信時最大14Mbps、送信時5.7MbpsのHSDPA対応となっている。ユーザーインターフェイスは今夏のシャープ製端末に搭載されている「Feel UX」が標準で設定されている。放射線測定機能ばかりが注目されているが、コンパクトで扱いやすいスマートフォンを求めるユーザーにおすすめできるモデルだ。

AQUOS PHONE Xx 106SH(シャープ)

 今夏のソフトバンクのラインアップで、フラッグシップに位置付けられるハイエンドモデル。4.7インチでHD表示が可能なSuper CG Silicon液晶を搭載し、SnapdragonのS4(第四世代)のMSM8260A/1.5GHzが搭載される。NTTドコモ向けの「AQUOS PHONE ZETA SH-09D」、au向けの「AQUOS PHONE SERIE ISW16SH」などと同じように、狭額縁で仕上げられているため、大画面のディスプレイサイズを搭載しているにもかかわらず、ボディ幅は67mmに抑えられている。タッチパネルのレスポンスはAQUOS PHONE 104SHのダイレクトトラッキング技術を活かし、まだチューニング中とのことだったが、基本的にはストレスなく、使うことができている。ホームアプリは他のシャープ製夏モデル同様、「Feel UX」と呼ばれる3ラインホームがプリセットされており、はじめてスマートフォンを使うユーザーがストレスなく、使えるようにしているが、すでに既存のAndroidスマートフォンを利用してきたユーザー向けに、「SHホーム」もインストールされる予定だ。ワンセグやおサイフケータイ、赤外線通信、防水など、求められる仕様も基本的にすべてカバーしており、もっとも人気が出そうな一台と言えるだろう。

ARROWS A 101F(富士通)

 ソフトバンクモバイル向けとしては、初の富士通製スマートフォン。防水、ワンセグ、おサイフケータイ、赤外線通信など、日本仕様をしっかりとサポートするだけでなく、背面には富士通製端末でおなじみの指紋センサーを備える。仕様及びデザインはNTTドコモ向けの「REGZA Phone T-02D」とほぼ同じで、ホームアプリは富士通オリジナルの「NX! Comfort UI」がプリセットされる。周囲の明るさに合わせてディスプレイの色彩を調整する「インテリカラー」、手に持っている間はディスプレイをオフにしない「持っている間ON」など、今夏の他社向け富士通製端末に搭載されている独自機能もサポートされる。ディスプレイは4.3インチのNEW AMOLED plus(有機EL)を採用するが、解像度が960×540ドット表示のQHDとなっており、今夏のハイエンドモデルよりは少しスペックが抑えられている。ただ、無線LANが5GHz帯対応のIEEE802.11a、Bluetoothが4.0に対応し、カメラも1310万画素の裏面照射CMOSセンサーを採用するなど、他機種を一歩リードしている部分もある。NTTドコモ向けやau向けで人気を得てきたREGZA Phoneがソフトバンクユーザーにどのように受け入れられるのかが注目される。

AQUOS PHONE 102SH II(シャープ)

 昨年12月に発売された「AQUOS PHONE 102SH」をベースに、今年7月から展開が開始されるプラチナバンドに対応したモデル。従来モデルとの違いは、プラチナバンド以外に、緊急速報メールに対応していることのみで、プラットフォームはAndroid 2.3を継続して搭載する。ただし、今夏以降にAndroid 4.0へのバージョンアップが予定されている。スペック的には「AQUOS PHONE Xx 106SH」がリードするが、ベースモデルは発売から半年が経過しており、安定感を求めるユーザーにとってはこちらを選ぶという手も十分に考えられるだろう。当然のことながら、価格面でもリーズナブルになることが期待される。


109SH THE PREMIUM9(シャープ)

 PANTONEと並ぶソフトバンクの人気ラインアップ「THE PREMIUM」シリーズの最新モデルで、2010年冬モデルとして発表された「THE PREMIUM7 WATERPROOF 004SH」の後継モデルに位置付けられる。今回はモックアップのみが展示されていた。基本的なコンセプトやデザインはそのまま継承され、プラチナバンド対応や緊急速報メール対応などが追加され、トップパネルのデザインの変更やカラーバリエーションを7色展開することなどが異なる。Wi-Fiが非対応になったことは少し残念だが、スマートフォン全盛となった今となっては、ある意味、珍しいと言えるほど、ハイスペックなフィーチャーフォンであり、まだフィーチャーフォンを使い続けたいユーザーにとっては、非常に魅力的なモデルと言えそうだ。

COLOR LIFE3 103P(パナソニック)

 2010年冬モデルとして発表された「COLOR LIFE 2 002P」の後継モデル。基本的なボディデザインなどを継承しながら、プラチナバンドに対応し、カメラを510万画素に強化し、トップパネルのロゴ周辺のデザインなども変更されている。従来モデルは全15色がラインアップされていたのに対し、今回は全8色に絞り込まれている。ただ、カラー名が同じでも実際のボディカラーは従来モデルと若干、異なる印象のものもある。コストパフォーマンスやカラーバリエーション、デザインをフィーチャーフォンに求めるユーザー向けのモデルだ。

かんたん携帯 108SH(シャープ)

 ソフトバンクのシニア向けケータイ「かんたん携帯」の最新モデル。2011年夏モデルとして発表された「かんたん携帯 008SH」の後継モデルに位置付けられる。ディスプレイやカメラなどのスペックは変更されていないが、通話中に相手の声を聞こえやすくする「トリプルくっきりトーク」が新たに搭載され、プラチナバンド及び緊急速報メールにも対応する。大きく押しやすいボタン、ワンタッチで連絡ができる「楽ともボタン」、自動的にメールを指定した家族などに送る「読んだよメール」「元気だよメール」など、従来モデルで評価されたシニア向けの仕様もそのまま受け継がれている。

【ウィルコム】

DIGNO DUAL(京セラ)

 ウィルコムのPHS、ソフトバンクの3Gを搭載したウィルコム初のAndroidスマートフォン。いわゆるデュアルモード機ということになるが、PHSは音声通信のみをサポートし、データ通信は3Gのみで利用できる仕様となっている。3Gを利用した音声通話も可能だが、30秒21円が課金され、ホワイトプランのような無料通話は適用されない。PHSの音声通話は「だれとでも定額」を契約していれば、一定の条件に基づき、無料で通話ができる。電話番号もPHSと3Gのそれぞれに割り当てられ、両方で同時に待受をすることもできるため、ユーザーの工夫次第で、プライベート用とビジネス用などのように使い分けることができる。ベースバンドチップセットは昨年発表された同じ京セラ製スマートフォン「HONEY BEE 101K」と同じルネサス製デュアルコアのMP5225/1.2GHzが採用されている。ディスプレイは4.0インチのワイドVGAで、ボディサイズは標準的なサイズにまとめられている。京セラがau向けに供給する「URBANO PROGRESSO」とサイズ的には近い印象だ。コンセプトとしても非常にユニークで面白そうな端末なのだが、既存のウィルコムユーザーが移行するときに障壁となりそうなのがメールアドレスのドメインとして、従来の「pdx.ne.jp」を使うことができず、新たに提供される「@wcm.ne.jp」を使うことになる。従来の「pdx.ne.jp」から転送を設定しておけば、メールを受信できるとしているが、同じ事業者が提供するものでありながら、従来のメールアドレスでの送受信ができないというのは、あまりにも不親切な仕様と言わざるを得ない。pdx.ne.jpドメインのユーザーがどれだけ残っているのかはわからないが、ユーザーによっては端末の魅力を半減させてしまいかねない制限と言えそうだ。

Casablanca WX05K(京セラ)

 シニア層のユーザーをターゲットにしたPHS端末だ。昨年発売された「WX01K」をベースに、メニュー構成やボタンデザインを変更し、文字サイズも大きく変更できるようにするなどの改良を加え、50~60代のアクティブシニアのユーザーにも使いやすい端末として、仕上げている。「ゆっくり通話」や「はっきり通話」など、音声系のサポート機能も充実している。ウィルコムの音声端末については、PHSが持つ音質の良さや低消費電力、低電磁波などの特徴を活かしたシニア向け端末が期待されていたが、ようやくそういったユーザー層のニーズにも応えられる端末が出てきた印象だ。

PANTONE WX01SH(シャープ)

 ソフトバンクの人気ラインアップ「PANTONE」シリーズのコンセプトをそのまま受け継いだPHS端末。デザインは2010年冬モデルとして発表された「PANTONE 3 001SH」を継承しており、ボディの金型なども基本的にはそのまま使われているようだ。シャープ製端末ではおなじみのアークリッジキーも受け継がれており、非常に押しやすく操作しやすい印象だ。外部接続端子もソフトバンクのフィーチャーフォンと同じものが採用されており、ソフトバンク及びNTTドコモ向けのACアダプタを使うことになる。ボディの部材は同じものが使えるため、ある程度のコストダウンが見込めるものの、内部のハードウェアやソフトウェアは新たに開発されたという。開発を担当したシャープは元々、NTTドコモ及びNTTパーソナル向けにPHS端末を開発したことがあるものの、DDIポケットの流れをくむウィルコム向けはW-ZERO3シリーズを除けば、実質的に初めてということになる。ちなみに、W-ZERO3シリーズはシャープの大和郡山で開発されていたのに対し、今回のPANTONE WX01SHはソフトバンク向けのケータイやスマートフォンと同じように、東広島事業所が担当したようだ。ケータイのクオリティとセンスが活きるPHS端末が欲しいユーザーにおすすめしたいモデルだ。

「どこでもつながる」に期待したいラインアップ

 冒頭でも説明したように、携帯電話サービスは端末やサービス、コンテンツ、料金プランなど、さまざまな要素によって構成されているが、やはり、究極的には「つながるかどうか」が生命線であり、それが実現できなければ、どんなに素晴らしい端末やサービスを提供してもユーザーはついてこない。これまでソフトバンクは「つながる」という部分において、なかなかユーザーの評価を得ることができなかったが、今年2月の900MHz帯の割り当てにより、NTTドコモやauとイコールフッティングの環境を作ることができた。そして、今回の発表では機種数こそ、少ないものの、早速、プラチナバンド対応モデルをラインアップに加え、いよいよ本格的に他社と争う環境を整えつつある印象だ。

 もちろん、実際にはこれから基地局を順次、展開していくわけだが、他社と肩を並べる環境ができたことはソフトバンクを利用しているユーザーにとって、非常に喜ばしいことだ。ただ、これは裏を返せば、孫社長が自ら述べていたように「言い訳のできない」環境ができたということも意味している。これまでのようなエクスキューズが認められない状況になり、ユーザーが他社と変わらないクオリティを求めてくることも容易に想像できる。プラチナバンドの効果が発揮されるまで、1年程度は掛かるかもしれないが、本当にユーザーから「つながるようになったね」という声が上がってくることを期待したいし、そのためにも今回の夏モデルをはじめとしたプラチナバンド対応モデルをぜひとも早く手にしたいところだ。

 また、ウィルコムについても今回はそれぞれにユニークかつユーザー層が見える端末をラインアップに加えており、今までのユーザーだけでなく、「だれとでも定額」を使いたい新規ユーザーにも魅力的なラインアップが揃ってきた印象だ。DIGNO DUALのメールアドレスの件はかなり残念と言わざるを得ないが、他社にはないタイプのスマートフォンが登場してきたことはユーザーとしても嬉しいところだ。

 さて、今回発表されたモデルは、6月から順次、販売が開始される予定だ。なかには発売が9月のモデルもあるうえ、今夏はNTTドコモとauの発表会レポートでも説明したように、ベースバンドチップセットの供給状況が良くないこともあり、機種によっては発売予定がずれることが起きるかもしれない。また、今夏は以前にも増して、これまでフィーチャーフォンからスマートフォンに移行するユーザーが多くなりそうだが、十分に情報を厚め、店頭などで実機を試したうえで、購入することをおすすめしたい。今後、本誌では開発者インタビューやレビューなども掲載する予定なので、そちらも合わせて、ご覧いただきたい。じっくり検討して、自分のための「つながる」1台を見つけていただきたい。




(法林岳之)

2012/5/31 18:08