第473回:オペレータパック とは
NTTドコモの携帯電話の開発では、最近「FOMA端末用オペレータパック」と呼ばれるソフトウェアが使用されています。
オペレータパックには、ドコモの携帯電話に必要なミドルウェアやアプリケーションといったソフトウェアが含まれていて、世界共通で利用できる通話などの基本機能をパッケージ化したLiMo仕様準拠のLinuxベースのプラットフォーム、そしてSymbianベースのプラットフォームが用意されています。世界の携帯電話で利用されている基本的な携帯電話アプリケーションをサポートし、オペレータパックによってiモードやiアプリといったドコモの各種サービスにも対応する携帯電話を開発しやすくなるのです。
ドコモでは現在、オペレータパックによる端末開発を推し進めています。オペレータパック以前は、ドコモ向け携帯電話では、MOAP(Mobile Oriented Applications Platform)と呼ばれるミドルウェアが用意されていました。これには通話やSMSといった携帯電話の基本的な動作をするアプリと、iモードなどドコモ用のミドルウェアの両方が含まれていました。
オペレータパック採用機種以降の世代では、この部分が「共通ミドルウェア・共通アプリ」「共通ミドルウェアをベースにしたアプリ」と、ドコモ開発の「オペレータパック/オペレータアプリ」に分離され、開発されるようになりました。
従来(MOAPベース)と、オペレータパックを採用した携帯電話のOS・ミドルウェア・アプリの構成の違い。共通部分とドコモ携帯電話独自機能のライブラリである「オペレータパック」が分離している。 |
共通ミドルウェア・共通アプリには、ダイヤル、通話、SMSといった携帯電話の基本的な動作をするアプリが含まれます。たとえば共通ミドルウェアをベースにしたアプリとしては、かな漢字変換モジュールなどが含まれます。基本的な文字入力は共通部分に含まれますから、この部分の情報があれば、入力されたひらがなから辞書データを使って漢字に変換するというようなモジュールを作成することは可能なわけです。
オペレータパックには、iモードブラウザ、iモードメールの送受信に関連する部分といったドコモ用の基本的なアプリから、レコメンデーションエンジン、iコンシェル、おサイフケータイなどの高度なアプリまで含まれます。
また、実際に発売される携帯電話では、共通部分、オペレータパック部分に加えて、各メーカー独自開発の部分やアプリが含まれます。カメラ機能で笑顔を認識してシャッターを切ったり、複数枚撮影して最適なシーンを選んだり、あるいは名刺を読み取ったりする機能など、特定の機種だけに用意されている機能もメーカー独自の部分と言えます。
なお、Linuxベースの携帯電話ではNEC製の「N-01B」「N-02B」やパナソニック製の「P-02B」、Symbianベースの携帯電話では富士通製の「F-06B」、シャープ製の「SH-07B」などで、オペレータパックが利用されています。
■コストダウン、独自機能への注力が可能に
このオペレーションパックの導入のメリットは、通信事業者であるドコモ、端末メーカー、それぞれにあります。
ドコモやメーカーにとって最も大きなメリットは、FOMA端末の機能が複雑になることで増大しているソフトウェア開発の負担が抑えられることでしょう。オペレータパックのように、ソフトウェアの構造を分離すれば、ドコモは自社サービスに関連のある部分だけを開発し、共通部分のソフトウェアは外部から調達できます。同じようなソフトを作るとしても規模の大きな海外向けにも供給しているソフトメーカーならば、日本の事業者独自に開発するよりも、ソフト一本辺りのコストは大きく下がりますから、内部で開発するよりも外部調達するほうが安くあげることが期待できます。
また、電話の基本に関わるソフトウェアが分離しているので、たとえば現在主流の3G携帯電話から次の世代に代わるなど、大きく変わるような世代交代があった場合も、ベース部分を次世代用に取り替えればiモードやメーカー独自機能は従来のものを踏襲してスムーズに次世代の携帯電話を開発できる可能性もあります。
端末メーカーは、携帯電話に必要な基本部分をオペレータパックにまかせて、差別化したい部分に注力できるようになります。同じコストで、特徴となる部分に集中して開発することが可能になるわけです。
また、これまでNTTドコモ向け端末を手がけていない海外メーカーにとっては、これまで作ってきた携帯電話のソフトウェアに加えて、ドコモ用オペレータパックを利用することで、従来よりコストを抑えて、ドコモの携帯電話を設計できるようになるでしょう。
2010/6/29 12:58