ケータイ用語の基礎知識

第930回:TWS Plus(True Wireless Stereo Plus)とは

音が途切れにくい新たなワイヤレス規格

 TWSとは英語の「完全ワイヤレスステレオ(True Wireless Stereo)」。簡単に言うと右耳用のプラグから左耳用のプラグまでのケーブルがないイヤホンのことです。このようなタイプのイヤホンを、トゥル-ワイヤレスイヤホン・フルワイヤレスイヤホン・TWSイヤホンなどとも呼びます。

 True Wireless Stereo Plus(TWS Plus)は、クアルコムの完全ワイヤレスイヤホンの技術で、従来型のTWSワイヤレスホンより音ズレやプチ切れを減らし、バッテリー保ちを長くする、というものです。

 TWS Plusを利用するには、スマートフォン側、イヤホン側の両方の対応が必要です。スマートフォンは、チップセットがSnapdragon845以上で対応ファームウェアを搭載した機種、2019年11月現在ではシャープの「AQUOS R3」やソニーモバイルの「Xperia 1」などが該当します。イヤホンは、オーディオテクニカの「ATH-CK3TW」や「AVIOT TE-D01b/TE-D01g」「Mavin Air-X/Air-XR」など多くのTWS Plus対応機種が販売されています。

 一般的にTWS Plus対応のイヤホンは「レガシーモード」と言ってTWS Plusに対応していないスマートフォンとの互換モードも備えており、TWS Plus非対応のスマートフォンとペアリングしても普通にステレオイヤホンとして利用することもできます。

完全ワイヤレスを切れにくく、電池保ちも長く

 ワイヤレスイヤホンは、スマートフォンなどの機器への接続には無線、一般的にはBluetoothを使って接続しています。TWS Plus対応イヤホンもこれに関しては同様です。

 一般的なBluetoothのみを使ったステレオイヤホンや、TWS Plusイヤホンのレガシーモードでは、まず「1つめの通信経路」として、スマートフォンなどのデバイスと左右どちらかのイヤーバド(耳に挿す機器)への通信を行います。そして信号を受け取ったイヤーバドは左右の音声を分離して、自分ではないもう一方のイヤーバドに「2つめの通信経路」を使って通信を行います。

 ちなみにこの時の通信には、Bluetooth同様2.4GHz帯の電波を使うほうが、設計的には楽です。なぜなら「1つめの通信経路の受信機」が「2つめの通信経路の受信機」を兼ねることができるからです。

 しかし残念ながら、安定した通信には別の問題が存在します。それは、人間の耳が頭の両端にあるということです。つまり、水分を多分に含み、電波の通過を阻害する要因が目の前にある状態で通信をしなければなりません。

 TWS Plusは、1つの機器に左右両方のイヤーバドへそれぞれに経路を接続し、二つ同時にスマートフォンから音声データを送る、という方法でこの問題を解決しています。ステレオ音声の左右分離はスマートフォン内部で行います。なお、アップルの「AirPods」などでは、これを解決するために電波の送受信とは別に「近距離磁気誘導」による通信回路を搭載して、左右イヤーバドの通信を行っています。

米クアルコムのWebサイトより引用。左がレガシーなTWS。一つのイヤーバドに受信・送信の負担がかかってしまう。右がTWS Plusの接続。スマートフォンから左右それぞれに接続を行う。

 TWS Plusのアーキテクチャーを採用することで、信号の伝送レートは左右まとめて送る場合の半分になるので、その分安定性が上がり「音がプチ」っと切れることが少なくなります。

 また、大きなメリットとしては左右どちらのイヤーバドの負荷もそれほど変わらないということが挙げられます。電波を使うにせよ、磁気誘導を使うにせよ、左右どちらかのイヤーバドに負荷が集中するということはそちらのバッテリーのみが片減りするということになります。

 TWSでは片方のイヤーバドのバッテリーが切れてしまえば、両耳ともイヤホンとしての用をなさなくなってしまいます。バッテリーの減りが左右ほぼ均等になるTWS Plusの方が、全体としてはバッテリー保ちがよく見える、というわけです。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)