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携帯向け次世代放送の会合、論点整理も技術統一の是非で議論

 22日、総務省で「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」第12回会合が開催された。

 第9回~第11回まで、3回連続で非公開となった同会合だが、今回、約2カ月ぶりに傍聴できる形で開催された。今回の会合で配布された資料は、「論点整理(案)」として、多くの部分で方針が固まったことが明らかとなっている。一方、会合後半には、技術方式を統一するかどうか、という方針が定まっていない点について構成員の間で議論が進められた。


これまでの経緯

 地上デジタルテレビ放送がスタートし、現行の地上アナログテレビ放送は2011年に停波することになっている。これによりアナログテレビが使っている帯域(VHF帯:90~108MHzと170~222MHz、UHF帯:710~770MHz)が空くことになった。昨年6月には、情報通信審議会が「携帯機器向けのマルチメディア放送や、ITS(自動車向け情報技術)などに用いることが適当」という答申を行なった。その結果、90~108MHzのVHFローバンドと207.5~222MHz帯というVHFハイバンド、あわせて32.5MHz幅という帯域が携帯機器向けのマルチメディア放送に割り当てられることになった。

 アナログテレビが終了した後ということで、3年以上先の話だが、昨年8月から本会合は開催されており、これまでに携帯各社をはじめ、割当を希望する事業者らが意見を述べる機会もあった。3月10日の第9回会合以降、3回連続で非公開で傍聴できない状態となったため、どのような議論が進められているか不明だったが、最近になって非公開分の議事録や資料が公開された。

 携帯機器向けのマルチメディア放送用の技術は複数存在する。たとえば、現在既に提供されているワンセグは、据置型テレビ向けの技術「ISDB-T」を使って、帯域を13に分けたうちの1つを使っている。

 フジテレビやNTTドコモなどが出資するマルチメディア放送企画LLCや同LLCが参加する団体「ISDB-Tフォーラム」がリードする技術方式は、現行のワンセグをベースにした「ISDB-Tmm」だ。一方、デジタルラジオ陣営が進めているのは、3セグとも呼ばれる「ISDB-Tsb」となる。また、米クアルコムが提唱し、国内ではKDDIやソフトバンクモバイルが主導する方式が「MediaFLO」ということになる。

 このほか海外では、T-DMBという方式が韓国やドイツで用いられ、DVB-H方式はイタリアで採用されている。試験放送という形だが、欧州や東南アジアではDVB-Hが優勢。日本発のISDB-Tはブラジルでの採用が進められ、中南米での展開が期待されている。総務省の資料によれば、多くの国で携帯向け放送の技術は1種類となっているところが多い。


論点整理で割当帯域や受信義務、外資規制などの方向性が固まる

 今回の第12回会合で配布された「論点整理(案)」とする資料は、これまでの議論を踏まえて、多くの部分で日本における携帯機器向けマルチメディア放送サービスの方向性が示された。

 たとえば、据置型テレビ向けのアナログテレビ/デジタルテレビといった放送では、公共的な役割を果たすために「あまねく受信できるような環境作り」が定められている。この点について、携帯向け次世代マルチメディア放送では、参入希望の各社に対するヒアリングの結果、各事業者が事業開始から5年後には、FMラジオの世帯カバー率(約90%)を超えることを明言した。そのため、「開始から5年後に世帯カバー率90%を実現する」ことを参入条件にすることなどが提言されている。

 また、テレビやラジオは地域によって放送局が異なる、いわゆる県域放送という仕組みが取り入れられているが、携帯機器向けマルチメディア放送では、CS放送などのように全国向け放送を可能にすること、また全国をいくつかのブロックに分ける地域ブロック向け放送にも帯域を割り当てる方針となった。この結果、本会合における周波数の割り当ての考え方としては、全国向け放送は1つのチャンネル(SFN)で行なうこと、地方ブロック向け放送は干渉を抑えるために複数のチャンネルを割り当てることを提案している。なお、コミュニティ放送については、地方ブロック向け放送が整備された段階で、その地域で使われていない地方ブロック向け周波数を割り当てるという考え方が示されている。

 携帯機器向けマルチメディア放送用の周波数は、VHF帯のローバンドとハイバンドになる予定だが、携帯キャリア系の参入希望者が「ハイバンド使用を希望している」として、「論点整理(案)」では、全国向け放送をハイバンドに、地方ブロック向け放送をローバンドにすることになった。


 ハードウェア(端末・設備)とソフトウェア(放送サービス)を提供する事業者を分離させるかどうか、という点も議論の1つとなっている。たとえばテレビ放送では、多くのメーカーがテレビを販売し、各放送事業者が番組と放送設備を手掛けるというモデルだ。また、国内の携帯電話はNTTドコモやau、ソフトバンクモバイルなどがそれぞれ独自の端末とサービスを提供しており、ハードとソフトが一致した事業モデルと言える。携帯機器向けマルチメディア放送のあるべき姿について、今回の資料では全国と地方で別々に考えるべきとしながらも、ハードウェアには投資額が大きくなることから、ハード事業者が優先的にソフト事業者になれる制度を検討すべきとされた。また、特定のキャリア向けのサービスにするよりも、他社も希望すれば利用できる形にすべきとされた。

 参入事業者の母体がどのようになるか、という点に関わってくる出資規制と外資規制については、携帯電話が主な利用機器になる想定され、放送と通信は異なる分野という観点から既存キャリアに対する出資規制は行なわれない方向が示された。外資規制については、電波が有限の資源という観点や、放送が社会的に影響力の強い媒体であることから、現在と同じ外資規制を設ける必要があるとされた。ちなみに2.5GHz帯の割当では携帯キャリアの出資率が制限され、無線通信の分野では外資による議決権保有比率が1/3(放送局は1/5)に制限されている。

 このほか、サイマル放送(既存放送と同じ内容)に対しては制約を設ける必要が無く、有料放送にするかどうかという点は事業者に任せるということになった。ただ、有料化一辺倒にすることについては、一部の構成員から「公共的役割にそぐわないのでは」といった異論も出ており、他の委員からは地震などが発生した場合などに限って全員に放送が流されるといった手法が提言された。


ハード事業者の数

 207.5~222MHz帯というハイバンドは、14.5MHz幅使えることになる。ちなみにワンセグは1チャンネルあたり429kHz幅を使い、米国のMediaFLOサービスは全チャンネルであわせて6MHz幅を使っている。多チャンネル放送を実現するためにはまとまった帯域が必要とされることを踏まえて、論点整理(案)では「2~4の事業者への割当が適当ではないか」と記されている。

 だが、この点はまだ明確に決まっていない。今回配布された資料では、3社以上への割当は設備投資効率、周波数の利用効率を踏まえ「基本的に想定されない」と記され、1社か2社への割当について検討されている。

 それによれば、1社のみに割り当てれば設備投資額が少なく済み、ガードバンドが不要になることから周波数の有効利用に繋がる。一方、競合がいないため、競争促進効果が見込みにくい。

 2社に対する割当を想定すると、設備投資は二重投資と見なされ、非効率とされている。またガードバンドが必要になるため周波数の有効利用では1社割当のケースと比べ、劣るとされている。ただし、競争促進効果があると見られている。

 一見すると1社のみへの割当の方が有利と見えるが、総務省側は設備投資について「資本がしっかりしている携帯キャリアであれば二重投資かどうか意識しなくて良いではないか」と説明し、周波数の有効利用と競争効果という2点が主眼になるとの見方が示された。


技術方式は統一? 複数?

 ある程度方向性が見えてきた携帯向けのマルチメディア放送だが、本会合では、「この技術方式にすべき」と統一化を促すか、あるいは参入事業者に任せるかという点で構成員の間で議論が分かれている。統一によるメリットとしては、端末コストの低廉化が挙げられ、複数技術の導入は事業者の自由度が確保される。競争環境については、どちらであっても効果があると見られている。技術が単一でも、番組内容などでの競争が可能で、複数技術の導入となれば異なる技術間での競争が見込まれている。

 構成員の東京理科大学理工学部教授 伊東 晋氏は「こういったサービスは、受信端末がどれだけ普及するかに成否がかかる。視聴者の利益を保護するという観点から考えると、VHF帯のローバンドもハイバンドも含めて、全て単一の規格を採用した方が端末コストの低廉化、ひいてはユーザーの利便性向上に繋がるのではないか。これまでの会合で端末メーカーにヒアリングした際、複数方式であればテストも複雑になるという意見があったが、その通りだと思う。事業者の選択の自由、それによる競争促進というメリットもあるだろうが、主役は事業者か視聴者か。視聴者をメインに考えるのが筋ではないか」と述べ、方式の統一化を強く訴えた。

 これを受けて、採用技術を1つにするよう提言することに対して否定的な考えも明らかにされた。同じく構成員の吉田 望氏(ノゾムドットネット代表)は「有料放送であれば、設備投資の大半をキャリアが出資するだろう。この場でどの方式を使えとまで言えるのかどうか。事業者が自主的に判断できるかどうかが大事」と述べた。また座長代理の黒川 和美氏(法政大学経済学部教授)は、「総務省がどの方式を選べとは言えないだろうが、我々がこの会合で統一すべきと言うかどうかは選択しなければいけない。だが、どの方式と言われても選びにくい」と語った。また、野村総合研究所の北 俊一氏は「世界的に見てもモバイルテレビは産声を上げたばかり。DVB-Hはバージョンアップを図ろうとしており、MediaFLOも次のバージョンがあるとしている。今の段階で、技術を判断するのは容易ではない。各事業者はリスクを負って経営判断する。どれであれば自社の利益に繋がるか判断する」と述べた。

 伊東氏は「どの技術であれ、基本はOFDMで大きな違いはない。ただ、各社からヒアリングして、携帯向けマルチメディア放送は“通信ではなく放送だ”と思った。複数の方式を認めたとしても、全対応の機種は登場しないと思う。技術には標準化という考え方がある。現状は国ごとに分かれているという現実はあるが、本質的には1つの方式でなければ意味がない。通信・放送ともにワンシステム・ワンスタンダードであるべきだと思う」とした。

 これらの議論を踏まえてもなお、今回の会合では決着がつかなかった。技術方式をどう取り扱うか、5月20日開催の次回会合でも引き続き議論される予定となっている。



URL
  携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会 開催案内
  http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/mobile_media/

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(関口 聖)
2008/04/22 21:30


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