19日に開催された、クアルコム主催のイベント「MediaFLO Conference 2008」の第2部では、モバイルメディア企画の石原弘取締役と、メディアスコープ代表取締役の宮脇和秀氏が登壇し、法整備の必要性とビジネスモデル案の紹介、ならびにMediaFLOを利用した「島根ユビキタスプロジェクト」の事例紹介を行なった。
■ 海外を参考に、日本の法制度の見直しが必要
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モバイルメディア企画の石原氏
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まず、モバイルメディア企画の石原弘取締役が「2011年VHF帯・携帯マルチメディア放送サービスに向けて -成功のための制度・技術、ビジネスモデルとは-」というテーマで講演を行なった。
ソフトバンク全額出資のモバイルメディア企画は、モバイルマルチメディア構想のタイミングにあわせて作られたという経緯を踏まえ、「モバイルメディア企画には、一番よい技術をもって事業をやるべきだという考え方があり、その中で今一番いいと思うものがMediaFLOである。今後もMediaFLOが一番いい技術であってほしいし、一番良い技術になるよう、積極的に意見を述べていきたい」と抱負を語った。
サービス開始に向けた法制度の整理については、総務省の資料をもとに、放送と通信ならびに、コンテンツに関する法整備の今後の行方を解説。日本の現在の法体系は、通信と放送それぞれに法律が用意されているが、この法体系を、2011年に向けて見直そうという動きがある。日本の通信・放送の法体系見直し案として、縦割りの法体系からレイヤー別の法体系へ移行しつつあるという「情報通信法」(仮)を紹介した。
海外では「既存メディア別で縦割りの規律の枠組みを維持しつつ、個々の問題への対応を図る米国型」と、「規律をコンテンツやサービスで横割りに大別し、類似コンテンツ・サービスについては、用いられている技術に関係なく同じ規律を適用するという、技術中立性を目指すEU型」の二つが存在するが、日本はアメリカ型だという。
石原氏は「EUは大きな方針を決め、後は各国で同じ方針に基づいて実施しようというスタイル。アメリカ型は縦割りであり、それぞれの規制に基づいてやってきている。いずれも一長一短があり、どちらが正しいというものではない」としながら、放送と通信という文化の異なる両者が、うまく融合し合う法整備への期待を寄せた。
また、「日本のコンテンツに関する法体系見直し案」として、今後はオープンメディアコンテンツ(仮称)としてホームページなども対象となる方向で整備される点を強調した。
■ 成功するための条件と、ビジネスモデルの構築
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産業の振興・発展に必要な要素
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文化・社会への貢献に必要なモデル
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携帯電話での利用を前提の「携帯端末向けマルチメディア放送サービス」の在り方の基本的視点として、文化・社会への貢献、コンテンツ市場の拡大、地域社会の発展、産業の振興・発展、国際競争力、視聴者ニーズの6つの要素が、新たな市場を形成する重要であるという。
また、成功するための必要条件として、競争政策の促進、オープンなビジネス環境、技術の中立性、国際連携を挙げ、「マルチメディアに関する懇談会ではこれら4項目を考えてもらわなくてはならない」とした。特に「競争政策の促進」に関しては、競争によってよりよいサービスを生み出すためにも、VHFハイバンドへの割り当てを2社以上にすべきであり、特に新規参入者を優先すべきであると強く主張した。
このほか、限られた周波数の有効活用、競争による指針に定義されるカバー率以上のエリア品質の向上、サービス対象地域は全国にすること、技術方式の選択を事業者に委ね、中立性を保つことなどを条件として挙げた。
ソフトバンクが考えるビジネスモデルは、ハード・ソフトが分離した携帯電話コンテンツの配信モデルを基本とし、自社で行なう部分と、課金システムなどの仕組みの貸し出しを視野に入れ、より多くの参入者が見込めるものにするという。
また、視聴する機会が最大化する仕組みとして、趣味嗜好にあった情報やコンテンツのキャッシングや、日本にいても海外にいても、同じサービスが受けられるような携帯放送の海外ローミングも考えているという。
「メールのように、放送系サービスについても、世界中どこにいても同じように見られる環境を、海外の事業者と連携してつくっていくことが大事。その際には、1台の携帯電話で、複数の携帯放送技術をサポートし、より簡単なインターフェイスで見たいものが簡単に見られるようにすることが大事」と課題も指摘した。
石原氏は、講演の最後に「マルチメディア放送サービスを行うことで、ソフトバンクグループの一番の強みであるコンテンツ・サービスを世界に展開したい」と意欲を示した。
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国際競争力の向上
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成功を成し遂げるために必要な条件
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ソフトバンクグループが提案するビジネスモデル
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■ MediaFLOを活用する「島根ユビキタスプロジェクト」
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メディアスコープの宮脇氏
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経済産業等「社会基盤」(インフラ)の変化
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メディアスコープ代表取締役の宮脇和秀氏は、MediaFLOの活用事例として、「島根ユビキタスプロジェクト」を紹介した。
「島根ユビキタスプロジェクト」とは、2007年10月31日に総務省より募集された『「ユビキタス特区」に関わる具体的提案』に対して、メディアスコープが提案した「産学公民」が一体となって行なうプロジェクト。島根大学、研究開発型団地「ソフトビジネスパーク」、島根県立東部情報化センター、島根県産業技術センター、商店街を含むエリアで、2008年6月から2011年3月までの3年間に渡り多様な受信デバイスを対象に、MediaFLOを用いた新しい技術やサービスの提供を試みる予定だ。
プレゼンテーションの前半では、「インフラとは何か」をテーマに、社会基盤(インフラ)とアクセスポイントの変化の歴史を紹介。
「人・物・金・情報・技術」を伝えることが文化・文明の発達に重要であるとしたうえで、「1800年代は、物や情報の伝達手段として活躍したのは船であり、アクセスポイントは港であったが、今ではコンピュータの登場で、部屋の中や個人がアクセスポイントになった。しかも、ユビキタスといわれた頃から、アクセスポイントが個人の力で移動する。もはや定点観測できない時代だ」とインフラとアクセスポイントの歴史的変化の過程を紹介しながら、現代のインフラは「情報通信」であり、アクセスポイントは移動するものであるという考え方を披露。
またインフラやアクセスポイントの変化のみならず、市場も顧客も変化する例として、「モノ」対するニーズに関する変化の過程も紹介。「モノだけなら自販機でも買える。モノにサービスという付加価値も必要になっている。その付加価値がコンテンツなのかどうかは考えていきたい」として、時代の変化とともにあらゆる分野で価値が変動しており、コンテンツを考える上でも、ニーズの変化に合わせて柔軟な対応を迫られている現実を示唆した。
インターネットが社会インフラになり、メディアがCATV、HVTV(ハイビジョンテレビ)などと進化し、通信が多機能モバイル端末となった現状を踏まえ、「メディアスコープでは来たるべきユビキタス社会に向けて、住民や行政を巻き込み、高齢者社会も視野に入れた、簡単・安全・便利・安価、かつ面白いコンテンツを模索したい。また、デジタル・デバイドとも言われるが、何がデバイドされているのか、個人が本当に望んでいるものは何なのかも無視できないテーマだ」とした。
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経済産業等「社会基盤」(インフラ)の変化
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ハイテクで、あらゆる分野での価値も変わる
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■ ユビキタス特区では、MediaFLOを用いて情報を配信
ユビキタス特区では、メディアスコープが情報提供の主体となり、島根大学工学部のビルの上にアンテナを設置し、大学を中心とした2kmにMediaFLOを用いて電波を送信。実証実験地域は、ソフトビジネスパークしまね(テクノアーク島根)、島根大学松江キャンパス及び、学園通り商店街となっており、商店、病院、事務所など約370店舗が対象。島根大学からは、学生5,000名、及び教職員700名が参加する。
大学を中心に広がる商店街では「フェリカポケット」や「Edy」と連携させ、島根大学の教授や学生による利用者回遊等のデータ取得実験も実施。携帯電話を使ったマイレージスタンプの利用も可能にする。加えて、「店頭パソコン」や「サイネージ」を設置し、デジタルサイネージの開発や、実証実験も行なうという。
さらに、USBチューナーなどの受信専用端末をモニタリング用に配布し、コンテンツに関する評価と要望の受付も行なうとしている。「住民として本当にほしいコンテンツは何か、我々がいいと思っているコンテンツが、本当に住民に必要かどうか知りたい。こういうものを作ってほしいなどの声を集め、コンテンツにウェイトを置いたユビキタス社会のトライアルもしていきたい」と述べた。
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メディアスコープの考える事
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ユビキタス特区でのイメージ
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■ レセプション会場内では映像受信デモが人気に
プレゼンテーション終了後は、関係各社による展示・デモが開催され、信号発生器、送信機、アンテナ、受信機、プレーヤーなどが展示された。中でも会場内で配信された電波を受信し、その場で映像を確認できる携帯端末が人気を集めており、来場者が次々と手に取る様子が見られた。
イベントを主催したクアルコムのブースでは、MediaFLO展示端末として、ベライゾンの商用端末である「VX9400」(LG)、「SCH-u620」(サムスン電子)、「z6tv」(モトローラ)、「Voyager」(LG)、「V-Card」(クアルコムによる試作機)、「muCard」(クアルコムによる試作機)を展示し、ストリーミングビデオ9チャンネル、及びストリーミングオーディオ1チャンネルによるデモンストレーションを実施。
LGの「Voyager」には、画面右上に視聴中の番組を表示しながら、他の番組を選択できる最新のEPGが搭載されており、スムーズな番組選択と30fpsの滑らかな映像を楽しむことができた。
クアルコムのスタッフは「MediaFLOという技術は、すでに米国で商用化されている。第2位の携帯電話事業者であるベライゾン・ワイヤレスに続いて、第1位のAT&Tでもサービス開始が発表されているため、スタンダードになる日も近い。この会場でも、すぐ近くに設置したアンテナから直接電波を受信して映像をご覧いただいている。周波数さえあればすぐ実現可能であるということを、ぜひ知っていただきたい」とアピールした。
なお、講演ビデオは3月27日15時ごろより公式サイトで公開される予定。
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ローデ・シュワルツ・ジャパンによるFLO用送信機及びテスト用送信機のデモ
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リーダー電子株式会社による地上デジタル放送シグナルジェネレーター
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アンリツによるベクトル信号発生器によるフローFLO
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Roundbox/CTCによるITデータキャスティングソリューションのデモ
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パケットビデオによるMobile Broadcast Receiver(仮)のモック。ストリーミングが可能なプレーヤーを搭載し、WiFiに対応した端末なら、ソフトのインストールは一切不要で映像再生が可能という
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パケットビデオによるLinuxプラットフォーム上での、MediaFLO対応プレーヤー。アンテナで直接電波を受信して映像を再生する
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マスプロ電工 MediaFLO送信オムニアンテナの展示
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ニューポートメディアによる無線受信試作機
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クアルコムによる商用端末、および試作機を使用した、無線伝送デモ
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サムスン電子の「SCH-u620」(クアルコムブース)
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LGの「Voyager」。BREWで動作している(クアルコムブース)
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miniUSB対応で、パソコンでも映像を視聴できるアンテナ内蔵型の「muCard」の試作機。クアルコムが独自に制作したという(クアルコムブース)
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周波数の利用状態がリアルタイムにわかる、MediaFLO統計多重デモンストレーション。左側下段は各チャンネルの周波数使用量、左側上段は全チャンネルの周波数を1つにまとめた状態が確認できる。6MHzあれば20チャンネル配信できるMediaFLOは、周波数効率のよい技術だという(クアルコムブース)
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MediaFLO、ワンセグ、DVB-Hの3つをサポートするチップも開発済み(クアルコムブース)
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左は旧タイプのEPG(バージョン3.0)。右は映像を見ながら番組選択が可能な最新のEPG(バージョン3.5)のUI。番組を見ながらチャンネルを変えられるのが特徴で、Voyagerから搭載されている
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■ URL
クアルコム
http://www.qualcomm.co.jp/
モバイルメディア企画
http://www.mmpl.co.jp/
MediaFLO
http://mediaflo-info.com/
(すずまり)
2008/03/21 15:30
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