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【MediaFLO Conference 2008】
メディアフロージャパン企画の増田氏が語る国内展開の課題
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クアルコムジャパンの山田氏
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19日、クアルコム主催のイベント「MediaFLO Conference 2008」が開催された。
最初に挨拶した同社日本法人社長の山田 純氏は、「昨年6月に続いて2回目の開催となった。これまではどういった機能が実現できるか、という点を強調してきたが、今やテレビ1ch分の帯域で、ワンセグ同等のソースであれば30ch分伝送できるレベルに仕上がり、伝送効率は世界最高クラス。VHF帯に向けて新たなパラメーターも追加され、長距離の伝送遅延に耐えうるシステムになった」と述べ、技術面での順調な仕上がり具合をアピールした。
そして現時点での重要な点として「ニーズに合致する新しいサービスを提供できるかどうか、という段階ではないか。ユーザーに受け入れられてこそ、周波数という限られた資源を割り当てる意味がある」と語った。
■ 2011年に向けた動き
テレビ放送がアナログからデジタルへ完全移行する2011年以降、アナログテレビが使っているVHF帯とUHF帯を他の通信分野で活用する方針となっている。その使い道の1つが携帯機器向けのマルチメディア放送サービスだ。
総務省でも、どのような技術・サービスを取り入れるべきか議論する会合「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」が開催されているが、まだ具体的な方針は定まっていない。一方、総務省が定めたユビキタス特区では、携帯向けマルチメディア放送サービス向け技術の候補「次世代ワンセグ」は、国が予算支援することとなった。クアルコム主導の規格「MediaFLO」は、KDDI系列のメディアフロージャパン、ソフトバンク系列のモバイルメディア企画、メディアスコープの3社が、国からの予算支援はないものの、日本各地で実験を行なう予定となっている。なお、携帯機器向けのマルチメディア放送サービスとしては、ラジオ業界や自動車業界も着目しており、デジタルラジオで用いられている「ISDB-Tsb方式」をベースにする構想もある。
いくつかの方式が次世代のサービス提供に向けて、名乗りを挙げている段階だが、そのうちMediaFLOは、米国で商用化され、リアルタイムの放送やオンデマンドの映像配信、ニュースなどのデータ配信などが可能となっている。ちなみに「FLO」とは、“Forward Link Only”、つまり基地局(放送局)から端末に向けて一斉配信するだけという意味で、通信のようなインタラクティブ性はない。通信では一斉同報配信しようとすると、どうしても混雑してしまうが、MediaFLOのような放送型技術であれば、多くのユーザーにリッチなコンテンツを一斉同報配信できることが大きな特徴とされている。
■ 携帯ユーザーに向けたサービス作りが重要
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メディアフロージャパン企画の増田氏
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リアルタイム/非リアルタイム、映像/非映像でサービスを区分
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最初のプレゼンテーションでは、KDDI系列のメディアフロージャパン企画代表取締役社長 増田和彦氏が壇上に立った。
日本での展開を目指して準備を進めているというメディアフロージャパンの増田氏は、「リッチコンテンツをプッシュ配信できる放送型、オンデマンドサービスを提供できる通信型、双方の利点を活かすメディアをどう作るか、ビジネスモデルやサービスを考え出すのが、日本でMediaFLOを導入する大きな意義」と指摘する。
国内の携帯電話では、ワンセグ機能でテレビ番組をリアルタイムに視聴でき、通信経由で動画コンテンツを入手できる。またニュースや天気予報を定期的に取得することもできる。これら複合的なサービスを1つのインフラで実現できる点がMediaFLOの特徴とされているが、国内動向に触れた増田氏は、これまでに開催された総務省の懇談会を通じて「ユーザーをどう定義するか」「採用技術」「全国・地域の区分」「ハード・ソフトの一致/不一致」「キャリアフリー」といった点がポイントになっているとした。
同氏は、「放送という点からすれば視聴者という概念があるのは間違いないが、携帯電話ユーザーと考える視点も重要だ。たとえばワンセグ機能は屋外だけではなく、自宅で利用されるケースも多い。個々人にフィットしたツールになっており、常に身近にある携帯電話のユーザーに向けたサービス、ネットワーク構成という考え方が必要だ」とした。
■ 複数技術対応のワンチップ
また増田氏は、技術方式については「技術中立性がどう担保されるか、注目している」と発言した。
同氏は「1つの技術に対して方向性を出すのではなく、あるべきサービス像を実現するためには、選択の自由という考え方が重要だ。技術中立性の担保は世界的潮流であり、この概念が重要な要素と見ている。たとえ複数の方式があったとしても、ワンチップで複数技術に対応する、というのは現実的な段階に来ている」と述べ、1つのデバイス、チップセットでMediaFLOや次世代ワンセグなど複数の方式を導入することができるとの考えを示した。
1つのチップセットで複数方式をサポートすることにより、ライセンス料などコスト面を不安視する考え方についても触れた増田氏は、「スケールメリットで決まると思っている。複数方式をサポートしたチップが出てくれば、そのチップが世界で何個売れるのか。最終的にエンドユーザーが負担する部分は、ごくわずかになるだろう。無視できるレベルだ」として、コスト面に影響しないと述べた。
ハードウェアとソフトウェアを切り分けるべきかどうか、という考え方については「議論を注意深く見ていきたいが、端末とコンテンツが大きな要素の1つ。端末だけあってコンテンツがない、あるいはコンテンツだけあって端末がない、という状況では市場そのものの立ち上げが難しくなりかねない」と指摘した。
放送エリアについては、地域ごとのコンテンツに良さはあることを認めながら、携帯電話という移動できる機器向けの機能という点から、全国どこでも同じサービスが利用できるほうが利便性が高いとした。
また、メディアフロージャパンは、KDDIが80%、クアルコムが20%と出資するという資本構成だが、増田氏は免許を得られれば、NTTドコモやソフトバンクモバイル、イー・モバイル、ウィルコムといった他キャリアに対してもサービス提供するという。
■ 「2009年に免許を」
携帯機器向けマルチメディア放送サービスの周波数帯については、VHF帯が想定されているが、メディアフロージャパンでは、実装の都合上、より高い周波数帯の割当を希望しているという。そこで、VHF帯のハイバンド、6MHz幅での展開がイメージされている。
一方、米国で商用化されたMediaFLOは、UHF帯を使っている。そのため、既にVHF帯向けに最適化できるよう仕様の検討を進めており、遅延を抑える工夫も図っている。これにより、1エリアで最大110km程度カバーできる仕組みも取り入れる。増田氏は「電波特性として干渉をいかに防ぐか。組み合わせて考えていけば、6MHz幅の一波でエリア構築することはできるだろう」と述べ、電波資源を効率的に利用できると自信を見せた。
免許の交付時期については、「デジタルテレビへの完全移行が2011年で、その前にネットワーク構築期間として2年ほど費やすことを想定している。逆算すると、2009年には事業者を確定して欲しい。つまり来年の夏ということになるが、今後1年間、どういう準備をするか、重要な時期にさしかかっている」と述べた。
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国内の携帯向けマルチメディア放送サービスで重要視されている点
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増田氏は、VHF帯ハイバンド、6MHz幅、全国単一周波数(SFN)をイメージしていると語った
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■ ユビキタス特区での取り組み
このほか増田氏は、同社が沖縄で行なうユビキタス特区での実験概要についても紹介した。
同氏によれば、実フィールドでの試験に向けて、現在はデータ取得のシミュレーションを行なっている段階とのことで、現地自治体との交渉を含め、既に活動を初めており、那覇市内でどういったエリア構築ができるか、シミュレーションしているという。
VHF帯でのMediaFLOは世界初となり、電波伝搬特性などが検証される予定。今後は2008年前半はシステム構築が進められ、2008年第4四半期ごろから、実験の第1段階として伝搬試験や単一周波数試験、受信評価実験などが行なわれる。続いて2009年第4四半期には第2段階としてユーザビリティ評価やコンテンツ評価の試験などが予定されている。
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那覇市南部から放送波を発するという想定でエリアをシミュレーション
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おおよそのスケジュールも示された
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■ FLO Forumでの取り組み
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カミール・グライスキ博士
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MediaFLOの技術標準化などに取り組む業界団体「FLO Forum」からは、プレジデントのカミール・グライスキ博士が出席し、プレゼンテーションを行なった。
それによれば、MediaFLOは、ITU-Rで「Multimedia System M」として勧告されたほか、米国ではTIA(米国通信工業会)内で、FLO技術を元に7種類以上の仕様が発行された。欧州ではETSI(欧州電気通信標準化協会)でワークアイテムとして承認されたという。
同氏は「FLO Forumとしてのミッションの1つは、技術中立性を担保するということ。世界市場を見ると、携帯向けブロードキャスト技術は複数存在する。従って、スケールメリットを活かすには、複数の技術を前提とすることが重要だ。これまでの議論・検討の結果、2つの結論に至った。1つは、技術中立性を持った市場のフレームワークが技術革新をもたらし、競争を促進するということ。もう1つが同じく技術中立性を持った市場のフレームワークがビジネスモデルを最適にするということ。何か1つの方式に特定する、ということはベストな回答ではない」と述べ、MediaFLOの一翼を担う立場ながら、市場にとっては、MediaFLOだけにこだわらず、他の方式をあわせて取り入れた方が良いとの見解を示した。
■ URL
MediaFLO Conference 2008
http://mediaflo-info.com/conference2008_j.html
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(関口 聖)
2008/03/19 19:06
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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