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番号ポータビリティの研究会、キャリアの消極姿勢が目立つ

厳しい意見が交わされた研究会
 総務省は、携帯電話キャリアを変更しても電話番号が継続される番号ポータビリティ(MNP:Mobile Number Portability)について議論する「携帯電話の番号ポータビリティの在り方に関する研究会」を開催した。2回目となる今回の研究会では、総務省、NTTドコモ、KDDI、ボーダフォン、ツーカーセルラー東京の携帯4キャリアの代表が出席し、各キャリアのMNPへの姿勢を明らかにするものとなった。このほか東京大学、立教大、早稲田大学の教授、NTT東日本、消費者団体の代表なども出席した。

 今回の4キャリアの発表では、ドコモ、KDDI、ツーカーの3キャリアがMNPに対して慎重な姿勢を示したのに対し、ボーダフォンが前向きな姿勢を鮮明に表わした。各社の立場を見ていこう。


ボーダフォン、「MNP希望ユーザーは約1,900万」

 ボーダフォンは、MNP導入に賛意を示した上で、導入条件として、「メールアドレスには適用せず電話番号に限定」「2Gと3G双方で実施」「全てのキャリアで導入」「キャリア移行期間の短縮」などを挙げた。また「携帯電話会社を変更したいか?」とのユーザーアンケートにおいて、MNPを希望するユーザーが23.8%、キャリア変更を望まないユーザーの中でもその理由に「電話番号の変更が嫌」を挙げた潜在的なMNPユーザーが27.1%となった点を指摘。これを携帯電話の市場規模に照らし合わせると、MNP希望ユーザーで約1,900万、潜在ユーザーを含めると約4,000万ユーザーになるという。

 しかし、メールアドレスのポータビリティ制については、ドメイン引継ぎ際のシステム上の問題やコスト面の負担を理由に難色を示している。MNPと同時に導入しようとすれば、MNPの導入自体を遅らせる結果になるという。

 さらに、キャリア変更した場合の旧番号へ着信があった場合に、発信者に対して移転先の新しい携帯電話番号を案内する「移転先番号案内サービス」についてもボーダフォンは反対している。同サービスは、他キャリアがMNPへの布石として提示しているものだが、旧番号が利用不可能となるほか、MNPの代替案とした場合にその不完全なサービスから再びMNPへの投資が必要となる点で不備があるという。

 しかし、MNPで先行する欧州やアジアの一部では、導入したものの有効に機能していない現実もあるようだ。ボーダフォンではこうした諸外国の現実を踏まえ、不安要因を取り除いた上で導入することが重要としている。

 なお、費用の負担方法については、発信者から広く薄く回収する方法や、利用者負担、キャリア間精算などが考えられるとしており、いずれにしても値頃感のある利用料が必要だという。


ドコモ、KDDI、ツーカーは消極的

 KDDIでは、コスト面での負担増が考えられることから、ユーザーニーズや費用対効果を踏まえて慎重に検討していく必要性を挙げた。一般的には、MNPの導入により企業間の競走が加速しユーザーに利便性を与えられるとしているが、同社では国内携帯電話市場ではすでに充分な競走が機能しており、MNPを導入していない現在でも年間1,000万規模のユーザーがキャリアを変更していると指摘。導入する際の多額のコストとニーズにギャップがあるとした。

 同社の試算では、利用料収入のみでMNPを賄えないとの結果が出ており、このコスト増がMNPを利用しないユーザーにも影響が出るという。導入コストは、総務省やキャリアが行なった勉強会で、設備投資が915~1,487億円、ランニングコストが年間13~47億円、さらに販売店などの受付対応コストやその他運用コストが必要になるとしており、ブロードバンドサービスが拡大している状況から、IPネットワークの技術向上に柔軟に対応できるよう交換機の開発や投資対効果、投資回収期間にシビアにならざる得ないとした。

 加えて、キャリアが行なったユーザーアンケートでは、MNPの利用料が1,000円未満であっても利用したいと語ったユーザーが10%程度に留まっている点もコストに見合わないと判断させたようだ。KDDIでは、利用料1,000円未満とした場合の導入後5年間の収入を194億円と試算している。

 慎重な姿勢を見せるKDDIでは、利便性向上策として低コストで早期に実現できるサービスの必要性を訴える。MNPでは、メールアドレスのポータビリティ制が含まれていない点を指摘し、国内のメール利用率を考えると変更通知サービスが望ましいとした。

 同社では、今年11月より他キャリアを解約したユーザーがauに加入する際に、旧端末のアドレス帳からユーザーが指定して相手先に電話番号やメールアドレスをメールで通知するサービス「お知らせメール」を開始。さらに、ボーダフォンが反対している移転先番号案内「電話番号変更案内ガイダンス」を2004年夏以降に提供する予定。まず、この2つの変更通知サービスを導入し、その上で状況を見ながらMNPの検討を重ねていきたい考えだ。


 なお、こうした慎重姿勢はドコモやツーカーも共通している。

 ドコモでは、「携帯キャリア変更経験」を聞いたアンケートで、約7割のユーザーが変更したことがないと回答している点を示し、キャリア変更は一部のユーザーで行なわれていると説明。MNPを導入している諸外国でも大きな成果が上げられていないとした。

 また、KDDIと同様にコスト面の負担増も指摘。ユーザーアンケートで電話番号変更をためらうユーザーの9割が、「新しい番号を知らせるのが面倒」と回答していることから、MNPを導入しなくとも番号変更通知の手間を解消すれば利便性が向上できるとしている。KDDIと同様にメール通知と番号案内を導入し、MNPを検討したい考えだ。

 ドコモでは「メールアドレスのポータビリティ制については、MNPと切り離して考えるべき」としており、ドメイン名からサービスキャリアが判断できなくなる点や、キャリアによって文字数制限などの仕様が異なる点を挙げた。iショットにも影響が出るとしており、「MNPよりもさらに慎重な検討が必要」との見解を示した。

 ドコモ・KDDIと同様の姿勢を示したツーカーでMNPの代替案は同じだ。同社では、緊急電話などの対応でもMNPで問題が発生する恐れがあり、再検討の必要性を語った。

 現状の携帯電話番号は「090-XXX○-○○○○」の「XXX」の3桁がキャリア識別番号となっており、警察などは、この番号を元にキャリアにユーザー照会を求める場合があり、MNPでは、こうした場合の作業が煩雑になる可能性もあるとのこと。


研究会のメンバーがキャリアに厳しい指摘

 4社の見解が示されると、その消極的な姿勢に対し大学教授などから厳しい指摘が飛んだ。

 まず、キャリアが行なったユーザーアンケートの質問の問い方にクレームが付いた。アンケートでは、「有料でもMNPを利用したいか」との質問に10%程度が利用意向を示した。しかし、この質問が「番号が変わらずにより安いサービス、より良いサービスに移れるとしたら利用したいか」だった場合に、その結果は大きく変わる可能性があるとしており、アンケートが必ずしもユーザー動向を示していないというのだ。

 また、「番号通知サービスとMNPは全く別モノ」「キャリアはMNPを番号通知サービスにすりかえている」との声もあり、MNPの導入でユーザーが能動的に事業者を選択可能となり、キャリアのサービスが活性化する利点を指摘。MNPにおけるネガティブ面ではなく、それによって広がる利便性をキャリアに要望する意見も挙がった。

 さらにコスト面についても、「消極的な試算ではないものを期待したい」との声が挙がっており、もう一度試算し直す必要性も語られた。

 研究会の座長を務めた東京大学名誉教授の齊藤 忠夫氏は「各国でやっているMNPが日本でできないのはなぜか? 日本は後進国か、MNPを提供しないのであれば国民が納得できる理由を用意するべきだ」と語っており、次回12月に予定されている第3回の会議ではキャリアの積極的な姿勢がさらに求められることになりそうだ。

 なお、総務省ではMNPについての一般ユーザーからの意見募集も今後実施する予定となっている。



URL
  総務省
  http://www.soumu.go.jp/
  NTTドコモ
  http://www.nttdocomo.co.jp/
  KDDI
  http://www.kddi.com/
  ボーダフォン
  http://www.vodafone.jp/
  ツーカーグループ
  http://www.tu-ka.co.jp/
  プレスリリース
  http://www.soumu.go.jp/s-news/2003/031119_1.html
  プレスリリース
  http://www.soumu.go.jp/s-news/2003/031106_1.html

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(津田 啓夢)
2003/11/25 22:35

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