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Librettoの復活はホンモノか?
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元祖ミニノートPC「Libretto」がついに復活
携帯電話やPHSに「定番」「名機」があるように、携帯電話やPHSと密接な関わりを持つノートPCにも「定番」「名機」と呼ばれるシリーズがある。先日、東芝から発売されたLibrettoと言えば、ミニノートPCというジャンルを作り出し、モバイルをリードしてきた人気シリーズだ。約1年半ぶりに復活したLibrettoの実機を触ることができたので、そのレポートをお送りしよう。
Librettoとは?
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東芝『Libretto L1』。サイズ:268(W)×167.2(H)×20.5(最薄部)/29.3(D)mm、約1.1kg、バッテリー駆動時間:約3.5~4.5時間。
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携帯電話やPHSでメールやコンテンツを楽しむことは当たり前だが、プロバイダや企業のメールを確認するにはPCやPDAといった機器を利用する。外出先でもメールを確認するために、サブノートPCやミニノートPCを利用するユーザーが増えている。もちろん、筆者自身も普段からノートPCを持ち歩いており、ケータイ Watchに連載中のライター諸氏や編集スタッフにもノートPCを携帯するユーザーは多い。
現在、販売されているノートPCには大きく分けて3つのジャンルがある。DVD-ROMドライブやCD-R/RWドライブなどを内蔵したA4ファイルサイズのフルサイズノートPC、B5薄型のサブノートPC(スリムノートPC)、携帯性を重視したミニノートPCだ。最近では中間的な位置付けのノートPCも増えているが、これらの内、ミニノートPCというジャンルを作り出したのが東芝の「Libretto」だ。
1996年4月に発売された初代モデル「Libretto 20」は、そのネーミングの由来にもなった「小さな本」「かわいらしい本」(イタリア語)というイメージに近いサイズで設計され、Windows 95が動作するPCとしては世界最小・最軽量を達成していた。筆者も初代モデルやLibretto 100などを所有していたが、いずれも非常に気に入り、随分と愛用した。インプレスのあるスタッフが海外の展示会に出張するとき、当時、日本でしか販売されていないLibrettoを携行し、会場内でデジタルカメラの画像を読み出すために広げたところ、周りに人だかりができてしまったなどという逸話も残っている。Librettoは軽量・コンパクト、購入しやすい価格設定などが支持された理由と言われているが、他メーカーのノートPCにはない個性を持っていたことも人気の秘密だった。
ミニノートPCというジャンルを切り開いたLibrettoは、その後、いくつかのモデルチェンジを重ねながら、常にミニノートPCの市場をリードし続けていた。しかし、1999年10月に発売された「Libretto ff 1100V」を最後に、Librettoの系譜は途絶えていた。その理由にはさまざまな要因があるようだが、ソニーのVAIO C1シリーズをはじめとする後発モデルの影響で、売れ行きが奮わなくなったからだという声も聞かれた。また、Librettoはサイズが小さすぎるため、東芝が得意とする海外での販売実績が思わしくなかったことも影響しているようだ。
今回発売された「Libretto L1」シリーズは、約1年半ぶりにLibrettoのネーミングを復活させたモデルだ。「帰ってきた名機」という魅力もあるが、10万円台半ばという買いやすい価格に設定した点なども注目に値する。出荷開始直後の売れ行きも好調なようで、家電量販店のデモ機の前は人だかりが絶えない。
Libretto L1に関するスペックやレビューについては、東芝の商品情報のページ、僚誌「PC Watch」や「DOS/V PowerReport」などの記事を参照していただくとして、ここでは筆者なりの解釈で、Libretto L1について見てみよう。
モバイル向けノートPCに求められるもの
ところで、モバイルに利用するノートPCには、どんな機能や要素が求められるのだろうか。以前にも紹介したことがあるが、あるモバイル製品の商品企画担当者が「モバイルのニーズは幅広い。だから、1台ですべてのユーザーのニーズを満たすことは難しい」と話していたことからもわかるように、ユーザーによって求める要件はかなり異なる。たとえば、外出先でプロバイダや会社のメールをチェックしたいというニーズひとつをとっても、外出先が都市圏なのか、郊外なのか、何回くらいメールをチェックするのか、メールに添付ファイルはあるのか、移動中に充電できるかなど、利用環境によってさまざまな条件があり、それぞれに選ぶ機器や接続する通信手段も違ってくる。そこで、PCを開発するメーカーは、できるだけ大多数のユーザーをカバーできるように、モバイル向けのノートPCを設計するわけだ。
今回紹介するLibretto L1も幅広いユーザー層をカバーできるように設計されているが、必ずしも市場のニーズとマッチしていないという印象が残る。もちろん、Libretto L1がベストだと考える人、気に入っている人もいるだろうが、筆者の目から見た場合、今回のLibretto L1は正直言って、まったく物足りないのだ。
まず、外見から見てみよう。ミニノートPCのボディサイズは具体的な定義はないが、今回のLibretto L1は現在、ミニノートPCで最も人気が高いVAIO C1シリーズよりもひと回り大きくなっている。ボディカラーはキーボード側がブラック、外側部分がシャンパンゴールドというツートーンカラーになっており、なかなか高級感がある。ボディ回りの仕上げも良好で、スリムにまとめられているが、全体的には『大柄なミニノートPC』という印象は否めない。
液晶ディスプレイは、1280×600ドットというワイド液晶を採用している。ワイド液晶はLibrettoのラインアップでも「Libretto 100」で800×480ドットのパネルを採用したことがあり、古くはシャープの「Mebius PC-W100」が1024×600ドット、最近のミニノートPCではVAIO C1が1024×480ドット、富士通のLOOX Tが1280×600ドットなどのパネルを採用している。
実は、筆者はワイド液晶のノートPCになぜか縁があり、Libretto 100、VAIO C1、LOOX Tを所有したことがある。これらのワイド液晶を搭載したノートPCを使った感想から言わせてもらえれば、VAIO C1の1024×480ドットの液晶パネルはボディがコンパクトになる半面、Webページなどはのぞき窓から見ているような感覚になってしまい、ややストレスがたまる。これに対し、今回のLibretto L1やLOOX Tで採用されている1280×600ドットの液晶パネルはWebページを見ていてもあまりストレスを感じない。つまり、Libretto L1のワイド液晶は、ミニノートPCに搭載する液晶ディスプレイとして、現時点で最も実用性が高いと見ている。ただ、この解像度そのものについては、すでにLOOX Tで採用されており、あまり目新しさは感じない。
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VAIO C1との比較。やはり、Libretto L1の方がひと回り大きい。
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右側面にはUSBポート2基、V.90対応内蔵モデム用モジュラージャック、ACアダプタ端子を備える。
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次に、機能面だが、USBポートが2つ、IEEE1394(i.LINK)端子が1つ、PCカードスロットが1つ備えられているだけで、その他に目新しい機能はない。カメラもなければ、Bluetoothもなく、Ethernetポートもない。もちろん、携帯電話やPHSと接続する専用インターフェイスなども装備されていない。ある意味では今どき、珍しいほど、シンプルな構成のミニノートPCと言えるだろう。
なかでも非常にガッカリしたのがBluetoothだ。Bluetoothは先週のコラムでも紹介したが、東芝はエリクソンやIBM、インテルなどと並ぶBluetooth SIGの主幹事であり、本来なら国内のBluetooth市場、あるいはPCメーカーを引っ張っていかなければならない立場にある。しかし、肝心のBluetooth搭載ノートPCについてはソニーや富士通、NECに先を越され、携帯電話もソニーが国内初の製品化を実現してしまった。モバイル関連製品ではオムロンのH"用アダプタ、PDA向けではソニーのCLIE用やシャープのザウルス用などが先行している。東芝からはPCカードとワイヤレスモデムステーションしか販売されておらず、店頭で見かける頻度もそれほど高くない。
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左側面にはIEEE1394(i.LINK)端子、PCMCIA TypeII準拠PCカードスロット、外部ディスプレイ端子(専用)を備える。
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右側面にはUSBポート2基、V.90対応内蔵モデム用モジュラージャック、ACアダプタ端子を備える。
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モバイルユーザーのためのミニノートPCであるLibrettoが復活すると聞けば、当然、多くのユーザーはBluetooth機能の標準搭載を期待すると思うが、今回のLibretto L1では搭載が見送られている。「主幹事であることと製品化は別次元」という解釈があるかもしれないし、東芝として、現状の相互接続性が低いBluetoothを避けたかったのだろうという見方もある。しかし、東芝がBluetoothの製品化に対して、積極的な姿勢を見せないのは、一般ユーザーの視点から見ても「なんで?」と疑問に感じるはずだ。
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同社のスリムノートPCに匹敵するキーピッチの広いキーボードを採用。タッチタイプもかなり快適だ。
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一方、ノートPCとしての操作性などはどうだろうか。今回のLibretto L1はB5サイズのスリムノートPC「DynaBook SS」シリーズと変わらないキーピッチを確保していることをひとつのセールスポイントにしている。確かに、実機を触った印象は良く、タッチタイプもやりやすい。
しかし、ポインティングデバイスに目を移してみると、ひとつ気になる点がある。東芝は過去の多くのノートPCにおいて、IBMのThinkPadシリーズなどとともに、スティック式のポインティングデバイス「アキュポイント」(IBMはトラックポイント)を採用してきた。ポインティングデバイスはユーザーによって好みが分かれるが、筆者の周りをはじめ、業界にはスティック式を好むユーザーが多い。
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ポインティングデバイスは東芝ノートPCおなじみのアキュポイントIIを採用。最下段の丸いボタン2つがスクロールボタン。
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今回のLibretto L1でもおなじみのアキュポイントIIが採用され、キーボード下には左右ボタンがレイアウトされている。ところが、その下に位置するスクロールボタンの機能割り当てがどうもいただけないのだ。
最近のノートPCにはPC用マウスのホイール機能に相当する機構が装備されており、Libretto L1にも左右ボタンの下に小さなボタンが2つ装備されている。しかし、下方向へのスクロールが右側、上方向へのスクロールが左側に割り当てられている。実際に、アキュポイントのスティックに合わせ、手を置いてみると、片手で操作するには親指を手の内側に移動しなければならず、非常に操作しづらい。一般的に考えて、スクロール機能は下方向へ操作することが多いはずだが、Libretto L1ではそれをわざわざ押しにくい位置にレイアウトしていることになる。
この他にも、Windows Meを搭載したモデルしか提供しなかったのも残念な点だ。過去の東芝のドライバ提供状況は大手PCメーカーの中でも群を抜いて悪く、Windows XP発売時期などに、きちんと更新されたドライバが提供されるかどうかは非常に不安だ。
Librettoは復活したが……
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VAIO C1(左)とLibretto L1。VAIO C1のようなわかりやすい個性がLibretto L1には欠けている。
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携帯電話やPHSを利用するユーザーにとって、モバイルでの利用を考えれば、ノートPCは気になる存在だ。なかでも携帯性に優れたミニノートPCは注目度が高く、「これから購入しよう」「いいのが出るのを待っている」というユーザーも多いはずだ。ミニ/サブノートPCが停滞した数年前に比べれば、最近は売れ行きも好調なようで、量販店などのデモ機コーナーも人だかりが多い。そんな状況の中に『復活』してきたLibrettoには、否が応でも期待してしまうが、正直言って、今回のLibretto L1はどうも熟成が足らなかったように見える。
好意的に解釈すれば、「シンプルにまとめられたミニノートPC」とも言えるが、本誌連載の広野氏的に言うところの「イバリ度」も少なく、あまり所有する喜びを感じさせてくれない。ミニ/サブノートPCは携行する時間が長く、他人の目にも触れることが多いため、製品そのものの個性や主張、製品にまつわる蘊蓄(うんちく)や話題性なども購入動機になる大切な要素だと筆者は見ている。
たとえば、VAIO C1シリーズの内蔵カメラやBluetooth、MGメモリースティック用スロット、LOOXシリーズのH" IN、ThinkPad i s30のピアノ調ボディなどもこうした「イバリ要素」のひとつだ。ところが、Libretto L1にはこうした『ご託宣』がなく、所有する喜びが感じられないというわけだ。
辛口なコメントばかりで、すでに購入してしまった方々にはたいへん申し訳ないが、過去にLibrettoを愛用してきたユーザーのひとりとして、敢えて辛い評価をさせていただいた。次期モデルではもう一度、東芝らしい個性のあるコンセプトを練り直し、幅広いユーザー層に「おおッ!」と言わせるようなLibrettoが『復活』することを期待したい。
・ Libretto L1ニュースリリース(東芝)
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2001_05/pr_j0701.htm
・ Libretto L1製品情報(東芝)
http://dynabook.com/pc/catalog/libretto/010507l1/index_j.htm
・ 「Libretto復活! Crusoe搭載、1,280×600ドット液晶、実売14万円」(PC Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/pc/docs/article/20010507/toshiba.htm
(法林岳之)
2001/05/29 00:00
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