■ CUT Keyを採用した片手メール端末
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NTTドコモ「パクティ」。82.5(W)×82.5(D)×32(H)mm、135g(単4乾電池2本含む)。
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各社から相次いで発売されているメール端末。その多くがPCと同じQWERTY配列のキーボードを採用するなか、メール端末のラインアップを充実させているNTTドコモから「CUT Key」と呼ばれる新しい入力方式を採用したメール端末『パクティ』が登場した。発売から少し間隔が開いてしまったが、実機を入手することができたので、レポートをお送りしよう。
■ 片手サイズの『コンパクト』デザイン
メール端末という分野を確立した製品と言えば、NTTドコモの初代『ポケットボード』だ。この製品なくして、現在のようなメールブームは起きなかったと言えるだろう。今回紹介する「パクティ」は、ポケットボードや後継モデルの「ポケットボード ピュア」と同じシチズン時計が製造を担当している。
パクティは他の多くのメール端末と違い、手のひらに載るサイズにまとめられており、女性の化粧道具のコンパクトを模している。このサイズを実現した要因のひとつがパクティ最大の特長である「CUT Key」という入力方式だ。詳しくは後述するが、CUT Keyの採用により、キーボードのサイズが大幅に小さくなり、手のひらサイズが実現できたわけだ。
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ケーブルはキーボード下に格納されている。キーボードの裏側には鏡を貼ることが可能。
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本体を開けると、フタ側に液晶ディスプレイ、手前側にキーボードが見える。このキーボードの部分はさらに開けることができ、その内部には乾電池ボックスと携帯電話との接続ケーブルが格納されている。携帯電話の接続ケーブルは、本体の外側に約10cmほど伸ばすことができる。ちなみに、キーボードの裏側部分には本物のコンパクトのように、鏡を貼ることができるようになっており、パッケージにはシールタイプのものが付属している。さすがに、この鏡で化粧を直すような女性はいないだろうが、ご愛敬の機能としては悪くない。
ボディの幅と奥行は手のひらサイズにまとめられているが、液晶ディスプレイとキーボード、ケーブル格納部分という三段構造のおかげで、厚みは32mmとかなりある。おそらくメール端末としては、最も分厚い製品ということになるだろう。ちなみに、何人かの女性に聞いたところ、今どき、「こんな分厚いコンパクトはない」とのことだ。
■ メールだけでなく、Webブラウザも搭載
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メール作成画面。最上段に宛先の一部が表示され、タイトルも同時に表示可能。最大25文字×15行はメール端末トップクラスの表示能力。
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通信機能はNTTドコモのPDC方式デジタル携帯電話に対応し、最大9.6kbpsのデータ通信が可能だ。208シリーズで採用されたパケット通信には対応していない。
メールはmopera POPメールをはじめとする一般的なPOP/SMTPによるインターネットメール、NTTドコモとマスターネットが運営する「10円メール」に対応する。本体には送受信合わせて最大300件(150KB)まで保存でき、受信したメールの転送や返信、全員への返信などにも対応している。メールアドレスなどを登録しておくためのアドレス帳も搭載されており、最大100件まで登録しておくことが可能だ。受信したメールからアドレス帳に登録することもできる。
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メインのメニュー画面。メニューの下に、現在設定されている接続先名が表示される。
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また、簡易Webブラウザも搭載されている。敢えて「簡易」と記載されているのは、表示できるものがテキストと一部の画像に限られているためだ。表示可能な画像はGIF87形式のものに限られ、アニメーションGIFやJPEG形式のものは表示できない。また、読み込めるWebページのサイズも最大8KBに制限されており、マニュアルには「moperaのホームページに限定した利用をおすすめします」と記載されている。ちなみに、「ケータイ Watch」などの普通のWebページを読み込もうとすると、当然のことながら、容量オーバーで表示できないのだが、そのまま回線も切られてしまうという仕様にはかなり疑問が残る。
インターネット接続及びメールの設定はmopera、DreamNet、10円メールが標準で用意されており、「mopera POPメール」のクイックスタートへ接続するためのメニュー、10円メールのオンラインサインアッププログラムも搭載されている。mopera POPメールのクイックスタートのメニューでは、設定した内容がパクティ本体に自動的に設定される。
■液晶ディスプレイはいいが、画面は難あり
本体の液晶ディスプレイはモノクロ反射型のもので、全角25文字×15行の表示が可能だ。表面のテカりも少なく、ポケットボード ピュアとほぼ同じ程度という印象だ。
ただ、筆者はパクティの画面表示にかなり不満がある。それは文字の大きさだ。12×12ドットのフォントを採用しているが、とにかく字が小さく、書体も細いため、強烈に視認性が悪いのだ。筆者は幸い、裸眼で生活できるレベルの視力を維持しているが、パクティの画面は5分も見ていられないというのが正直な感想だ。若い女性でもこれはかなりキツいだろう。
パクティ | 7mm |
ポケットボード ピュア | 14mm |
ブラウザボード | 12mm |
ポケットモペラ | 15mm |
F502i | 12mm |
N502i | 11mm |
C302H | 10mm |
こうした視認性の悪さを考慮してか、パクティにはフォントを縦2倍角にして表示する機能も搭載されており、この状態では辛うじて、通常のメール端末に近い視認性を確保している。ただし、縦2倍角表示が可能なのは、メール作成画面などに限られており、メニュー回りは小さく細いフォントのまま読まなければならない。参考までに、筆者の名前を画面に表示したときの文字を幅を別表にまとめてみた。
表を見ると、いかにパクティの画面に表示される文字が小さいかがわかっていただけるだろう。店頭に展示されているモックアップやレポートの写真などでは分かりにくいが、ハッキリ言って、これはもう製品として納得できるレベルにない。今まで、筆者は各社のメール端末をテストしているため、通常のユーザーよりはメール端末のスペックなどに対して広い許容範囲を持っているつもりだ。しかし、パクティの画面だけは、どうしても許容することができない。正直なところ、画面については「使えない」という印象しか残らなかった。
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パクティでは筆者の名前もわずか7mm幅で表示できる。
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最近の携帯電話では標準的サイズのF502iでは約12mm。
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■ CUT Keyは入力しやすい?
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ミサワホームが開発した「CUT Key」が採用されている。右側の文字キーの配列を良く見て欲しい。
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さて、パクティ最大の特長である「CUT Key」はどうだろうか。CUT Keyはミサワホーム(株)が開発した入力方式で、基本的な文字入力を12個のキーで行なう。
CUT Keyはローマ字入力をベースにしたもので、キーは母音と子音を分け、ほぼ50音順にレイアウトしている。まず、「あ」「い」「う」「え」「お」はそのまま、[A][I][U][E][O]キーを押すと入力される。それ以外の子音を組み合わせるときの文字は、子音側のキーに続いて母音のキーを押す。子音側がキートップの文字の1文字めのときは1回、2文字目のときは2回、3文字目のときは3回押した後に、母音側のキーを押す。
文章で表現してもなかなか分かりにくいので、いくつか入力の例文を表にまとめてみた。キーボードの写真と照らし合わせながら、ご覧いただきたい。
○「ほうりん」と入力したい場合
[HBP][O] ほ |
[U] う |
[RML][I] り |
[NCQ] ん |
○「どこも」と入力したい場合
[TDV]×2[O] ど |
[KGF][O] こ |
[RML]×2[O] も |
○「いんぷれす」と入力したい場合
[I] い |
[NCQ] ん |
[HBP]×3[U] ぷ |
[RML][E] れ |
[SZJ][U] す |
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何となくイメージしていただけただろうか。表を見てもわかるように、CUT Keyは少ないキーで可能な限り、簡単に文字を入力することを意識して作られている。子音側の文字の順列もよく考慮されており、よく使う清音は1文字目、濁音や半濁音は2文字目に並んでいる。記号類については、左下の「文字種切替キー」で入力モードを切り替える必要があるのだが、頻繁に切り替えるときのために、文字種切替キーを押しながら文字キーを押すことで、一時的に入力モードを切り替えることを可能にしている。
実際に、筆者もいろいろと入力してみたが、予想以上に入力しやすいとの印象を得た。ちなみに、ミサワホームのWebサイトにCUT Keyを紹介するページがあり、ここに掲載されている情報によれば、日本語はもちろん、英語の出現頻度もよく考慮されているそうだ。
■ パクティは「買い」か?
最後に、パクティが買いかどうかを判断してみよう……、と言いたいところだが、ここまで読んでもらえればわかるように、すでに結論は出ている。とにかく、筆者としては、この画面がどうしても納得できない。前提条件として、小型化があったことは十分に理解できるが、人間とのインターフェイスとなる部分にもっと配慮すべきではないだろうか。仮に、筆者が老眼(そんな歳でもないけど)だったとしても、前述のように、数値的にも無理があることは明らかだ。多くのメール端末はムダな部分を省き、シンプルにすることで使い勝手を向上させているが、パクティは根本的な部分を見誤ったという印象が強い。もう少し視認性の良い画面であれば、「買い」の判断もできたはずだ。
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CUT Keyという新機軸を打ち出したメール端末だが、文字サイズなどは今ひとつ。
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しかし、パクティに評価できる部分がないわけではない。それはパクティ最大の特長であるCUT Keyだ。原稿だけではなかなか理解してもらえないかもしれないが、慣れてしまえば、入力は軽快であり、片手でメールを書くことも十分可能だ。ある程度、使い込んでくれば、パクティのカタログにある「ワンハンドメール」というキャッチコピーも納得ができるようになるはずだ。
ただ、CUT Keyという入力方式が果たしてメール端末として適当だったかというと、少々疑問が残る。CUT Keyのメリットは、「QWERTY配列のキーボードを知らなくても良い」「キーボードを小型化できる」「入力を容易にする」という点にあるはずだ。このメリットを活かすために、ボディの小型化が重要視され、結果的に画面サイズが決まったのだとすれば、これはもう本末転倒だ。むしろ、CUT Keyのメリットを活かすのであれば、メール端末ではなく、「iボード」のような外付けキーボードというアプローチもあったのではないだろうか。現状では、iボードは各メーカー独自の仕様になっているため、汎用品にできないが、将来的に仕様が統一されれば、CUT Keyを採用した外付けキーボードというのも十分に考えられる。
外見は非常に注目度の高い製品だが、全体的に見て、良くも悪くも「キーデバイスはCUT Key」というのがパクティに対する素直な評価だ。次期商品ではもっと人間工学的にもユーザーフレンドリーな製品が開発されることを期待したい。
■URL
・「パクティ」製品情報(NTTドコモ)
http://www.nttdocomo.co.jp/mobile/lineup/pacty/
・「CUT Key」紹介ページ(ミサワホーム)
http://www.misawa.co.jp/CUTKEY/
(法林岳之)
2000/04/25 00:00
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