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KDDI、鳥取市の1000円タクシーで多言語翻訳システムの社会実験
(2015/11/18 13:07)
KDDIとKDDI研究所は、鳥取市の訪日外国人向け観光タクシーで多言語音声翻訳システムを活用した社会実証を開始した。
1000円タクシーは、2011年1月より鳥取市内で外国人観光客向けに提供されている観光タクシーサービス。「鳥取観光マイスター」に認定されたタクシー運転手が市内の観光地を3時間1000円(税込、乗客1人あたり)で案内してくれる。
今回の社会実証では、KDDIの多言語音声翻訳システムを1000円タクシーに搭載。タクシー運転手と訪日外国人のタクシー内のコミュニケーションの壁を取り払う。
KDDI研究所は音声翻訳の精度向上に向け、位置情報や利用者のスマートフォンなどの情報を活用し、翻訳精度向上技術を研究開発していく。
1000円タクシーの魅力と課題
鳥取市内で開催された発表会において、鳥取ハイヤー共同組合 理事長の澤耕司氏は「10年前から鳥取の観光案内のプロフェッショナルを養成する『鳥取観光マイスター』という取り組みを開始したが、仕事が増えず、なかなか受講するメリットが無かったが、2011年に韓国ドラマ『アテナ』で鳥取がロケ地になったのをきっかけに韓国からの観光客が増えた」と振り返る。
最初は韓国からの観光客が半分以上を占めていたが、昨年度頃から台湾、香港、中国本土からの観光客も増え、2015年8月の実績としては、773人が鳥取市国際観光客サポートセンターを訪れ、地域別では韓国が299人、台湾が200人、香港が81人、中国が54人となった。
こうした状況に対応する形で、鳥取ハイヤー協同組合では、通常3時間で1万5000円ほどかかる運賃を9000円に値下げし、さらに市と県から4000円ずつ補助を出してもらい、外国人観光客向けに3時間1000円で利用できる「1000円タクシー」というサービスを開始した。2015年8月には219人が同サービスを利用したという。
しかし、澤氏によれば、「マイスターを取ったドライバーが、せっかく勉強した歴史や自然について話したいと思った時に、なかなかうまく話せない」という“言葉の壁”が存在する。ドライバー側も挨拶を交わす程度はできるが、行先を変更してほしいなどの細かい話になってくるとコミュニケーションが成立しなくなることもしばしばで、観光案内としても、歴史的な背景など、説明したいことがたくさんあるのに、外国語で伝えられないという実情もあった。
そこで同氏は、これを解決できるのがKDDIとの取り組みではないかと、今回の実証実験に期待を寄せる。
辞書のチューニングと位置情報の活用で翻訳精度の向上を狙う
一方、KDDI 理事 技術開発本部長の宇佐見正士氏は、「外国人タクシー利用者のために、まずは鳥取という場所で徹底的にチューニングして言葉の壁を取り払っていきたい」と今回の実証実験への意気込みを語る。
宇佐見氏によれば、音声翻訳システムは他にもいろいろとあるが、同音異義語やよく似た言葉を正確に選択、翻訳する技術はまだまだ開発途上にある。「例えば、鳥取県の『岩美町に寄って横尾棚田を見たい』と言ったとき、辞書に固有名詞として「岩美町」や「横尾棚田」が無い場合も多く、「イワミチョウ」「○○タナダ」ということは分かるが、変換すると同じイワミチョウでも違う場所の『石見町』になったり、もし場所を何十キロも間違えてしまうと大変なことになってしまう。この辺の課題を鳥取市のタクシーというフィールドを使って解決したい」(宇佐見氏)という。
今回の実証実験では、2つのアプローチで翻訳精度の向上を狙う。1つは、鳥取向けの辞書のチューニングを徹底的に行うということ。同氏は、「固有名詞、場所、ランドマークを入れるということは当然考えられるが、普通名詞でも、鳥取特有の『ラッキョウ畑』『砂の美術館』といった言葉も確実に変換できるようなシステムに持っていきたい」と語る。
もう1つは、スマートフォンに搭載された位置情報機能の活用。「『イワミチョウ』と言った時に近い方の『イワミチョウ』の可能性が高いだろうという推測する。こういうことをきっちりやると、辞書が不完全でも正確な音声翻訳ができる」(宇佐見氏)という。さらに人の流れを導線データとして蓄積し、それを元に推測するアルゴリズムを組み込んだり、将来的にはユーザーのスマートフォンで検索されたキーワードなども組み合わせることで、さらに精度を高めるようなことも検討しているとのこと。
KDDIでは、「今年度内に東京都内でも同様の取り組みを実施する予定」(宇佐見氏)。なお、今回の実証実験は、総務省委託研究開発「グローバルコミュニケーション計画の推進 ―多言語音声翻訳技術の研究開発及び社会実証―」の一環として実施されている。