ニュース

au、省エネ型「トライブリッド基地局」を防災対策にも活用

au、省エネ型「トライブリッド基地局」を防災対策にも活用

トライブリッド基地局で用いられる太陽光パネル(奥側には無線設備や電源箱が見える)

 KDDI(au)は3月1日、太陽光発電と蓄電池を活用した省エネ型基地局「トライブリッド基地局」の運用開始セレモニーを埼玉県春日部市内で行った。あわせて報道関係者向けに、同社の防災対策について解説した。

商用電源、太陽光発電、蓄電池を上手に組み合わせて省エネ、年度内に100局

 トライブリッド基地局はauが開発を進めており、2009年12月にトライアルを全国11カ所で開始した。通常の商用電源に加え、日中の太陽光発電、深夜電力で充電した蓄電池という3方式の電源を組み合わせていることから「トライブリッド」と命名された。

 通常の基地局は、日中・深夜などの時間帯に関係なく、ほぼ一定の電力を24時間消費し続ける。この特性を踏まえ、トライブリッド基地局では、電源を時間帯や天候に応じて切り替える。割安な深夜電力が適用される時間帯には、商用電源で基地局を運用しつつ、同時に蓄電池への充電を行う。日中は太陽光発電を併用し、日没から深夜になるまでの時間帯には蓄電池の充電分と商用電源を使う。

トライブリッド基地局のあらまし
太陽光発電、深夜電力、蓄電池を時間帯に合わせて上手く組み合わせる

 2009年のトライアル開始当初は、温室効果ガス削減のための取り組みという側面が強かったが、おりしも2011年3月11日に東日本大震災が発生。津波による物理的な損壊だけでなく、被災した環境でいかに基地局へ電力を供給するかが、課題として浮き彫りになったという。

 KDDIによると、東日本大震災によって停波した基地局は東北6県で1933局(2011年3月12日時点)。しかし、その原因を分析すると、全損によるものが1%、浸水も2%で、77%(1491局)は停電の影響だった。KDDIの松石順應氏(技術統括本部 技術企画本部 モバイル技術企画部 企画グループリーダー)は、トライブリッド基地局を「停電対策の2本柱のうちの1本」と位置付けていた。

東日本大震災では、停波の理由の77%が停電だった
各地でのトライアル設置の例

 今回セレモニーが行われたのは、春日部市内にあるKDDI工事担当者研修施設に隣接する基地局。高さ数十メートルの巨大なアンテナ鉄塔が目を引くが、通信設備自体は長辺5mほどの敷地に収まるコンパクトな基地局となっており、その隣にはトライブリッド基地局の肝である太陽光パネルが2枚敷設されていた。

 松石氏がかけ声とともに電源箱内のスイッチを入れると、太陽光発電による給電が開始。基地局の消費電力が1000W前後で安定しているのに対し、太陽光発電が約60Wの電力を供給していることがモニター画面に表示された。当日は曇り空だったが、晴天であれば正午前後の約3時間、約400Wの電力供給が十分可能としている。

スイッチをいれて太陽光発電開始
曇り空のため、太陽光発電は60Wほどだった

 約3年のトライアルで得たノウハウも多い。2009年当時、同じ敷地内で行っていたトライアルでは太陽光パネルを8枚、架台に設置していた。対して、今回正式運用がスタートした基地局は太陽光パネルが2枚に減り、なおかつ地面への直接設置となっていた。基地局は周辺の環境によっても運用体制が変わるため、すべてのトライブリッド基地局が太陽光パネル2枚運用ではないが、スケールダウンした感もある。

 しかし、これにはコスト回収のための厳密な計算がある。松石氏は、通常基地局をトライブリッド化するためのコストを「100万円台後半」「(設置コストは)数年でペイできる」としている。導入コストを抑えつつ、なおかつ電力会社へ支払う電気料金を減らせる効果のベストバランスを狙った格好だ。

 また、トライアル当初は太陽光発電の余剰分を蓄電池に充電していたが、今回は行われていない。発電量を増やすためには、それだけの太陽光パネルを現実に設置しなければならないが、すべての基地局に敷地の余裕があるとは限らないからだ。また、仮に外部へ売電する場合には、直流の電流を交流に変換するインバーターが必要となってくる。これらも、コストとのバランスを鑑み、売電しない方向で太陽光パネルの設置数が決定されたようだ。

基地局自体はかなりコンパクト。このタイプは空調も不要(エアコンレス)
ただし、アンテナは巨大。ちなみに、背後にある建物はKDDIの研修施設であり、基地局とは関係ない
奥に見えるのがアンテナ鉄塔の基部
電源箱の内部。下側に蓄電池が備え付けられている

 なお、トライブリッド基地局は2013年3月内に全国で合計100局を稼働させる予定。南海トラフ地震への警戒感が高まっていることから、近畿で29局、四国で18局と、西日本沿岸部へ重点的に配備する。なお、すでに目標の8割ほどの局で実際の運用が始まっているという。

非常用バッテリー大容量化、エアコンレス基地局なども推進

KDDIの松石順應氏が防災対策の詳細を解説した

 トライブリッド基地局と並んで、停電対策のもう1つの柱となっているのが、基地局に設置する非常用バッテリーの大容量化だ。従来でも、一般的な基地局は停電状態で3時間程度の稼働が可能だが、バッテリーを増やすことで、8倍となる24時間程度稼働できるよう、具体的な整備を進めている。

 バッテリー大容量化については、2013年3月末を目標に全国約2000局で実施する。駅前など、携帯電話がよく利用される場所を中心に配備する計画だが、将来的にはさらに200~300局程度増やす意向だ。

 基地局設備自体の省電力化も進める。現在は、通信設備を屋外へ直接置けるケースが増えてきており、空調コストの削減が可能になってきた。また、無線機そのものの電力効率化が進んでおり、従来型基地局と比較して電力消費を約40%低減できるという。

 松石氏は「トライブリッド電力、バッテリーの24時間化、省エネ型基地局の組み合わせで、より長時間の停電対応を実現したい」と話している。

電源箱内にバッテリーを準備。停電しても24時間は稼働するという
基地局設備そのものの省エネも進める

大ゾーン基地局、船舶基地局も検討中

 KDDIでいま現在検討段階にある防災対策についても紹介が行われた。1つの基地局で通常よりも広範なエリアを無線範囲とする「大ゾーン基地局」だ。NTTドコモが同様の取り組みを行っているが、KDDIでも検討中という。

 基地局に対して大容量バッテリーを常設するのではなく、非常時に必要な場所へバッテリーを運ぶとの意図から、可搬型のリチウムイオン電池についてもトライアルを重ねている。外観的には、大人2人ほどで運べる巨大なスーツケースそのもの。発電機と比べて定期的な給油が不要になるといったメリットが期待されている。

 船舶型の無線基地局についても、検討を進める。東日本大震災では、渋滞、道路崩壊、崖崩れなどの理由により、陸路での基地局復旧作業が滞るという事態が現実に発生。また、大型の移動基地局車両が狭い道から先へ入れないケースもあった。

 そこで、KDDIでは船舶に基地局を設置する方向性を検討しており、2012年11月には海上保安庁と協力して試験も行っている。しかし、現在の法律では移動中の物体に基地局を載せることが許されていないため、制度面での対応も必要としている。

可搬型バッテリーをトライアル中
船舶を基地局とする実験はすでに行われた

森田 秀一