ドコモの2012年度上期決算、スマホ拡大に大幅投資


ドコモ社長の加藤氏

 NTTドコモは26日、2012年度の第2四半期(2012年7月~9月)の業績を発表した。同日行われた報道関係者向け説明会では、2012年度上期を通した業績について、同社代表取締役社長の加藤薫氏から説明が行われた。

 2012年度上期における営業収益は2兆2073億円(前年同期比4.5%増)、営業利益は4711億円(同7.4%減)で、増収減益となった。音声通話による収入が減少する中で、パケット通信の収入は9756億円で、7.6%増となっている。

 このほか解約率は0.77%で、前年同期よりも0.27%増加した。

上期のトピック主な財務数値

スマホ拡大に注力、800億円を追加投資

 説明会のなかで、加藤社長は「スマートフォンユーザーの拡大を最優先に取り組みたい」と語る。これはスマートフォンユーザーが、短期的にはパケット通信の収入増に繋がり、長期的には、同社が拡充を図る“新領域サービス”を成長させるための基盤になるためだ。

2012年度の業績を修正ドコモの競争戦略

 そこで2012年度の計画として、スマートフォン販売数の目標を100万台増加させ、1400万台を目指す。上期の時点でスマートフォン販売数は644万台(そのうちXiは約7割の395万台)で、上期以上のペースアップが図られることになる。そこで、業績予想についても見直されることになった。通期では営業利益が9000億円になる見通しだったが、800億円減少し、8200億円となる。なお営業収益は700億円増となる。

 利益から減る800億円について加藤氏は「競争力を強化して早期にスマートフォンユーザーを拡大したい。800億円を超える追加費用を投入する」と説明。具体的な施策の1つとして、10月18日からスタートしているキャンペーン「Xiスマホ割」が挙げられたが、その他の施策について、現時点では明らかにされていない。ただ加藤氏は「月額利用料に効くもの、端末購入時の一時金にあたるもの、どういった配分がベストか、試行錯誤する」と説明したほか、プロモーションなどを含めた、総合的な取り組みになるとした。

スマートフォンの販売数スマートフォン販売シェア

GALAXY S III、らくらくスマートフォンの販売数

 スマートフォンの販売数が好調に推移、とされるなかで、具体的な例として今夏モデルの「GALAXY S III」「らくらくスマートフォン」の販売数が示された。

 両機種とも発売から約3カ月を経ているが、「GALAXY S III」は約80万台、「らくらくスマートフォン」は約30万台となった。加藤氏は「グローバルモデルに日本市場向けの機能を取り入れ、日本で育ってきたらくらくホンがスマートフォンになった」と語り、日本市場へ最適化を図った機種が一定の支持を受けているとした。

GALAXY S IIIとらくらくスマートフォン冬モデル

LTEエリア整備計画前倒しで140億円増、2015年にかけてコスト削減も

 LTE方式のサービス「Xi」については、契約数が620万件で、第1四半期の332万件から倍近くにまで増加した。これは、ドコモにとって想定以上に速いペースでの増加とされており、今年度末の目標数である1100万件はそのままながら、中期目標である2015年度の目標数は3000万件から4100万件へ大幅に上方修正となった。

 10月11日に開始された冬モデル発表会では、2012年度末に、LTEの基地局の敷設計画が前倒しされ、当初予定の2万1000局から2000局増加し、2万3000局にすることが明らかにされている。人口カバー率でいえば、70%という予定が75%に上方修正された形。今回の決算説明会では、この費用として140億円、追加されることが示された。

Xiのエリア整備Xi契約数

 その一方で、ドコモでは2015年度にかけて経営基盤を強化するため、2011年度実績と比べてコストを2000億削減する方針も今回発表した。このコスト削減では、設備投資の効率化も行われるとのことで、中期目標として7000億円を下回る方針となっている。過去5年間でドコモの設備投資額は、2009年度と2010年度は7000億円を下回り、2008年度、2011年度、2012年度(計画)は7000億円を超えている。加藤氏は「(設備投資の効率化は)来年度から緒につく」と述べ、2013年度から設備投資額が現状よりも減少することを示唆した。また大幅な計画前倒しは現在、考えておらず、前倒しするとしても少しずつ、といった規模感になるとのこと。

2011年度比で2000億円の削減設備投資効率化へ

人口カバー率について

 2012年度末時点で75%の人口カバー率になるとした加藤氏に対し、質疑では、他社が示す実人口カバー率などの数値に対抗できるか、問う声が上がった。これに対して加藤氏は「実人口カバー率と言われているが、分母がよく分からない。面食らっているのが正直なところ。我々は従来の人口カバー率を用いており、75%という数字は小さく見えるが、使い勝手で負けるものではなく、むしろ我々が進んでいるのではないかと思う」とコメント。

囲み取材で、人口カバー率における過去の問題も指摘した加藤氏

 他社で言う実人口カバー率をドコモに当てはめたところ、他社と遜色ない数字になる、としつつ、「他社の数値での分母や分子がわからないため、(ドコモが同じと思える数字を表明しても)建設的ではないかなと思っている」と述べて、同じ計算式になるかどうか不明なため、ドコモ版の人口カバー率は開示しないとした。囲み取材で加藤氏は「その中身があっているかどうか、実は昔にも問題になって、人口カバー率が定義された」とも述べていた。

7GB基準と3GB基準のパケット定額、利用率は

 Xiユーザー向けの通話オプションである「Xiトーク24」の利用数は300万件を突破し、2012年度末で約600万件に達する計画。現在、Xiユーザーのうち7割以上の契約率になるという。

 またXiのパケット通信定額サービスでは、現在、月間通信量に上限を設けて、一定以上に達すると通信速度が下がる、あるいは追加料金を支払うことで通信速度を維持する、といった形になっている。この10月からは、月額4935円で上限3GBの「Xiパケ・ホーダイ ライト」が新たに導入されたが、こちらを選ぶユーザーは、Xiを新たに契約するユーザーのうち40%~45%程度で、想定よりも少なく、月額5985円で上限7GBの「Xiパケ・ホーダイフラット」を選ぶユーザーのほうが多いという印象だという。

 なお、月間の通信量については、増加傾向にあり、3GBを超えるユーザーは22~23%になってきたとのこと。7GBを超えるユーザーは以前より5%程度とされているが今回示されたグラフでは、やや増加しているものの、5%という水準に近いところにあると見られる。

Xiトーク24パケット通信量は拡大

ポートインは増加、iPhone 5は「想定より強めの影響」

 スマートフォンユーザーの拡大は、ドコモが進めるドコモクラウドなどが利用されることになり、将来的にはヘルスケアや物販など、これまでとは異なる領域での利用に繋がる――こうした考えに基づく同社の計画だが、その一方で、毎月のMNP(携帯電話番号ポータビリティ)で転出(ポートアウト)超過が続く。これに対し、今回の説明会では、端末総販売数が1184万台(同14.4%)になり、端末販売そのものでは他社に劣っていないことが紹介された。なお、通期での総販売数目標は2380万台とされている。

 また転出超過ながらも、転入(ポートイン)自体は増加しており、この上期は前年同期よりも60%、ポートインが増えた。他社との競争の結果とも言われるMNPの利用件数だが、前任の山田隆持社長は今年4月の2011年度決算会見において「2011年度はMNPが80万件の転出超過だったが、2012年度は半分程度(40万件)にしたい」と目標を示していた。これまで毎月同社が開示しているMNPの利用件数を合算すると、2012年度上期だけで、ドコモでは45万を超える転出超過になっている。

総販売数MNPの状況

 加藤氏は、「上期の実績では(目標達成は)厳しいところがあるが、総販売数では負けていない。ポートインも新規契約獲得も頑張っている」と語り、自社の取り組みが一定の成果を出していることを示しつつも、いかにポートアウトを抑えるか、という点で苦慮していることもにじませる。囲み取材で「家族全員で転出するケースも見受けられる。家族全員で留まってもらえるよう家族セット割を提供している。またドコモから転出したものの、戻ってくる人もいる」

 他社が販売するiPhoneの影響について質疑で問われた加藤氏は「9月21日まではiPhone 4Sで、4月はポートアウトが多かったが、それ以降は改善が進み、GALAXY S IIIなどで(iPhone 4Sに対して)一定の競争力を持っていたと思う。iPhone 5は私どもの想定よりちょっと強めに(影響が)出ている。現在、家族セット割なども実施しており、12月にはさらにパワーアップした機種を投入する。販売面では全面的に見直しをかけながら競争力を上げたい」と意気込みを示しつつ、下期での目標数を示すことは避けた。

 なお、ドコモでは今回の業績予想の見直しで、純増数を当初予想の280万から、200万件に下方修正している。80万件の減少を予想した背景については、「一定の影響を織り込んだ」(加藤氏)とされるに留まった。

7インチタブレットには注目、iPhoneの取り扱いについては従来通り

 10月に入り、7インチクラスのタブレットが数多く発表、発売されたことを受け、加藤氏は「Wi-Fiだけに対応したものがあったり、OSもそれぞれ特徴がある」として、動向を注視するとした。

 iPhone、iPad miniの取り扱いについては「今までとスタンスは変わりがない」と説明。アップル製品は魅力的でラインナップに加えたいものの、条件面で折り合っていないという従来の見解のままとした。

Kindleでの収益効果

 11月に日本で発売される電子書籍端末「Kindle Paperwhite」は、ドコモの3Gネットワークに対応している。加藤氏は、「どちらかといえばB2B2Cモデル」と、その構造を説明する。

 ドコモとしては、Amazonに対して回線を提供し、ドコモのSIMカードがKindle Paperwhiteに装着されることになる。この段階で、ドコモにとっては売上が成立し、契約数の増加、という形になる。「Kindle Paperwhite」では、通信量を気にせず、電子書籍の購入などが可能となっているが、Amazonは、通信サービスとしてドコモを選択、つまりドコモに回線代金を支払う格好で、通信料はKindleのビジネスモデルのなかで賄われていることになる。加藤氏は「Amazonに選ばれたことは光栄。これは、当社ネットワークの厚み、広さをご理解いただけたからではないか」と述べた。

ドコモクラウド、2015年度には1000億円規模に

 ドコモならではのサービスとして展開が進められている「ドコモクラウド」は、コンテンツ面、しゃべってコンシェルや翻訳サービスなどのインテリジェントサービス、フォトコレクションやクラウド化するドコモメールなどのストレージと、3つの柱で構成される。

 コンテンツ面では、11月下旬に「dゲーム」が開始される予定で、2年後のユーザー数を1000万人、売上高150億円を目指す。また12月中旬開始の「dショッピング」は食品、日用品、化粧品を主軸に、ヘルスケア、生鮮食品、CD/DVDなどを扱い、今後は教育、家具、チケット、書籍などに拡大するとのことで、2年後の取扱高目標が200億円規模とのこと。特にショッピングについては、「Amazonに品揃えなど劣るのではないか」と問われた加藤氏は、「いわゆるOTT(Over The Top、インターネットの上位レイヤーでサービスを提供する事業者)と比べ、我々はユーザー基盤を抱えていることが有利だと思う。ただAmazonは、OTTとはちょっと別だと認識しており、我々に近いのはやっぱりAmazonで、非常に強敵。書籍や楽曲などを含め、同じような方向での競争になるだろう。ただ我々は日本のユーザーの嗜好にあったものを揃えて利用されるようにしたい」とした。

ドコモクラウド3つの柱
dマーケットの進化dゲーム

 新たなサービスが始まる一方、既存サービスとして、1年前にスタートした「VIDEOストア」の契約数は280万件に達し、今年度末には400万件になる見込み。400万件になれば年間の売上高が250億円規模になる。またアニメストアは7月のサービス開始以降、10万契約に達し、今年度末には30万契約になるとされている。これも通期でみれば15億円規模となる。今年度末時点で、コンテンツサービス全体での規模が200億円になるが、ゆくゆくは映像コンテンツだけで265億円の市場になると期待されており、ドコモのコンテンツサービスは2015年度に1000億円規模を目指す。

 これまでのクレジット事業に加え、物販も手がけることになるドコモでは、2012年度のコマース分野の売上を1200億円、2015年度には3000億円と見込み、金融・決済分野(クレジット、回収代行など)は今年度末の2000億円から、2015年度末には2500億円の達成を目指す。

dショッピングVIDEOストア
アニメストアdマーケットの収入増を目指す
インテリジェントサービスはなして翻訳はCEATEC JAPAN 2012で米国メディアから評価
新領域事業新領域での収入目標
コンテンツ分野での展開コマース分野
金融・決済分野

ベンチャー支援、海外ではM&Aも

 新規事業への進出は、国内だけではなく、海外での展開も睨んでいるとのことで、今回の会見で加藤氏はこれまで既に出資している欧米でのコンテンツ事業者などを例に挙げつつ「M&Aのチャンスがあればやりたい」とした。これにより、海外事業での収益は2015年度に約2000億円(今年度末で約400億円)を目指す。

 ドコモでは26日、決算会見にあわせて、「ドコモ・イノベーションファンド」の設立を発表。起業を支援する取り組みである「ドコモ・イノベーションビレッジ」もスタートして、複数のチームを審査で選出して、新規サービスの開発を促し、有望なチームには出資をしていく。ファンドは運用期間10年間、100億円の運用が予定されている。

国際事業イノベーションファンド

 同様の取り組みは、KDDIが「KDDI∞Labo」としてスタートしているが、今回のドコモのベンチャー支援について加藤氏は「APIをオープンにして技術的な支援を行い、良い物があれば出資を検討する。技術開発を手伝い、成長できればいいと思う。さらに(ドコモが狙う)新領域の中に取り込めれば」とした。

「スマートARPU」を提唱

 新たなベンチャー支援策を交え、新規領域への進出に鼻息を荒くするドコモだが、会見では新たに「スマートARPU」という指標が提案された。

 ARPUとは、ユーザー1人あたりから得られる平均収入額を指す用語だが、携帯電話事業では、本業である音声通話およびパケット通信でのARPUが業績の傾向を示す数値として用いられてきた。しかし、新規領域で新たな収入を得るドコモでは、そうした領域での収入の一部だけがパケットARPUに影響する形となっている。そこで、これまでパケットARPUに貢献してきたiチャネル、iコンシェルをパケットARPUから切り離してスマートARPUにし、さらにdマーケット、NOTTV、携帯電話の補償サービスもスマートARPUにする。つまりモバイルに付随するサービスでの収入がスマートARPUになるという。

スマートARPUスマートARPUの拡大を図る

 ドコモの総合APRUの内訳は、音声、パケット、スマートの3つで分類されており、これまでの定義でのARPUは示していない。同社の資料によれば、2012年度上期における総合APRUは4900円で、内訳は音声1850円、パケット2660円、スマート390円となる。今回と同じ基準であらためて算出しなおした前年同期の数値では総合ARPUが5230円(音声2310円、パケット2570円、スマート350円)となっている。今回、ドコモがスマートARPUを導入したことで、新たな領域での取り組みの状況を業績に反映しやすくなる。一方で、減少傾向にある通信サービスによるARPUを少しでも上向きに見せるための試みにも見える。

 ARPUあるいはそれに類する数値については、たとえばソフトバンクが過去に「1契約あたりの現金収入」としてAPRUと端末割賦請求分などを合算した数値を示したことがある。またKDDIも、3M戦略および事業領域にあわせてARPUを再編し、新たに「付加価値ARPU」を2012年度の上期決算で示した。ARPUは、これまで各社間の業績を示す数値の1つでもあり、競争環境を判断する材料にもなっていたが、事業領域の拡大や再編が行われる現在、各社共通の新たな基準が必要と言えるだろう。

ソフトバンクのスプリント出資、Windows 8について

 ソフトバンクが発表した米国のスプリント・ネクステル出資について、加藤氏は「(孫氏は)規模を追求する方針なのか。(出資に踏み切った環境として)円高などもある。ドコモとしては、日本のユーザー向けのサービスとシナジーがあったり、日本発のサービスプラットフォームの展開などをやっていきたい。ただし、既にアジアで通信事業者同士のアライアンスも存在し、インドやバングラデシュなどでの取り組みもある。シナジーの中で良いものがあれば排除しない」として、海外での出資はアジアを中心にしつつ、さまざまな展開を検討するとした。

 このほか、26日に発売あれたWindows 8については、「キャリアとして答えにくい」と前置きしながら、Windows Phone 8は時期が遅れるものの、法人で利用されているパソコンは依然としてWindowsであり、それがWindows 8にリプレースされ、タブレットの普及が進み、さらにWindows Phone 8も……といった状況をマイクロソフトとしては狙うだろうと分析。ただスケジュールについては「遠からず来るのだろうが、いつとは言えない」とするに留まった。

営業利益の状況パケット収入の動向
株主還元配当
ドコモの取り組みの全体像主要指標の2015年度に向けた目標

(関口 聖)

2012/10/26 20:25