今週のケータイ Watchの読み方 (2012年6月8日)


microSDXCカード、既存端末で注意喚起


 

 NTTドコモが6月6日に明らかにしたmicroSDXCカード利用時の注意点は、KDDI、ソフトバンクモバイルからも同様の事象が確認されたことが明らかにされ、問題はmicroSDHC対応の端末全般に広がりそうな状況だ。調査中のため、ハードウェアかソフトウェアか、あるいは規格側かといった不具合の原因は分からないが、microSDXCカードを利用、もしくはこれから利用を検討しているユーザーは、注意する必要があるだろう。

 microSDXCは、microSDHCから高速化、大容量化が図られた規格。ファイルフォーマットについてもそれまでのFAT32に代わってexFATが採用され、理論上は最大2TBまでの製品がラインナップできるようになっている。従来のmicroSDHC対応の端末では、microSDXCカードを認識できないため、そもそも、microSDHC対応端末とのデータのやり取りにmicroSDXCカードを利用することはできない。

 現在市販されているmicroSDXCカードは、2月頃から販売されている64GBモデルのみ。発売時点で同規格に対応する携帯電話・スマートフォンは存在していないため、ユーザーはデジタルカメラなど携帯電話以外で利用していると考えられるが、今後も、勘違いなどで不具合の対象となっているmicroSDHC対応の端末に挿入しないよう注意する必要がある。

 なお、microSDXCカードに対応したスマートフォンは、ドコモの「GALAXY S III SC-06D」「AQUOS PHONE ZETA SH-09D」「AQUOS PHONE sv SH-10D」「ELUGA POWER P-07D」「ELUGA V P-06D」、auの「AQUOS PHONE SERIE ISW16SH」、ソフトバンクの「AQUOS PHONE Xx 106SH」で、いずれも夏モデルとして今後発売されるモデルとなっている。

 microSDXCカードの普及が進む前に、ソフトウェア更新あるいはmicroSDXCカード側の対応などで対処されることを望みたい。

 


最悪の場合microSDXC内のデータ破損、SD規格の互換性に注意

 


 

イー・モバイルのLTEで下り150Mbpsは実現するか


 

 イー・アクセス(イー・モバイル)が6月6日に発表したモバイルWi-Fiルーター「Pocket WiFi LTE(GL04P)」は、20MHz幅で下り最大150Mbps、上り最大50Mbpsを実現する、LTEのカテゴリー4への対応が大々的にアピールされた。しかし、イー・モバイルが持つ帯域幅では、カテゴリー4の20MHz幅は運用できず、今後提供できるかどうかも確定していない。イー・モバイルによれば、カテゴリー4、20MHz幅への対応は技術的なアピールという側面が強いという。実際には、カテゴリー4の15MHz幅を利用した、下り最大112Mbpsのサービスの実現を目指している。

 焦点となるのは、同社が利用する1.7GHz帯の帯域幅だ。イー・モバイルは現在1.7GHz帯で15MHz幅を持ち、あと5MHz幅を追加で獲得できれば合計20MHz幅となり、仕様上はLTEでカテゴリー4、下り150Mbpsを実現できる環境が整う。

 しかし、イー・モバイルが仮に1.7GHz帯で追加の5MHz幅を獲得しても、課題は残されている。1.7GHz帯では、同社のHSPA+(5MHz幅)やDC-HSPA(10MHz幅)といった方式が現行のサービスとして提供されているからだ。20MHz幅をすべてLTEで使ってしまうと、既存の3Gサービスを提供する余地が無くなってしまう。

 そこで現実的な解となるのが、1.7GHz帯で5MHz幅を追加で獲得し、合計20MHz幅とした上で、5MHz幅は既存サービス(HSPA+)に残し、15MHz幅をLTEで運用するというものだ。LTEのカテゴリー4は、15MHz幅であれば下り最大112Mbpsで提供でき、今回発表された「Pocket WiFi LTE(GL04P)」がこの通信速度に対応できる。また、6月1日に発売されたUSBデータ通信端末「GL03D」も、カテゴリー3対応で、15MHz幅であれば下り最大100Mbpsまでサポートしているという。イー・モバイルは、この100Mbps超のサービスを1つの節目として準備を進めているようだ。

 この筋書きでは、想定する合計20MHz幅のうち15MHz幅をLTEで使うため、残りは5MHz幅となる。となると、10MHz幅が必要なDC-HSDPA方式の「EMOBILE G4」を提供できなくなるが、発表会で質疑に応じたイー・アクセスのエリック・ガン社長は、「EMOBILE G4」のユーザー数がそれほど多くないことを示唆しており、現在の新規加入はLTEが中心となっていることと合わせて、既存の「EMOBILE G4」ユーザーが早期にLTEに移行してほしいといった願望をにじませていた。

 総務省は現在、700MHz帯について割当ての検討を進めており、1.7GHz帯の追加割当てなどについては、700MHz帯の割当て方針が決まってから開始される見込みとなっている。700MHz帯の割当ては6月中にも決まると見られており、1.7GHz帯については、追加割当てがそもそもあるかどうかも含めて、2012年中に方針が示される見込みだ。ガン社長は、1.7GHz帯の追加の獲得について、手応えなどは明らかにしていないが、ほかのキャリアにとっては利用しづらい周波数帯であることに触れるなど、帯域幅の追加割当てが行われた際の獲得には比較的楽観的な様子を見せている。対外的には皮算用の域を出ないとはいえ、ある程度の見込み(あるいは願望)があって今回の端末を発表したと考えることはできそうだ。

 一方、700MHz帯についてもイー・モバイルは割当てを申請している。ドコモやKDDIでも利用が見込まれる700MHz帯はプラチナバンドと呼ばれ、伝搬特性が優れているのみならず、千本会長が有利であると語るように、端末調達も含めてさまざま面でメリットは多いとみられる。仮に700MHz帯を獲得できれば、1.7GHz帯で15MHz幅(あるいは20MHz幅)のみの同社の戦略に、大幅にオプションを追加できることになる。

 もっとも、700MHz帯は獲得できたとしてもLTEのみで運用されると考えられるほか、実際に利用できるのは何年か後になると見込まれているため、早い時期に、1.7GHz帯の20MHz幅をすべてLTEで運用し、下り150Mbpsのサービスを提供するというのは、やはり非現実的ということになる。

 同社はかねてより、新サービスの発表会では理論値だけでなく実効速度もアピールし、今回の発表会でもシールドルームの中の録画映像ながら、ピーク時で143Mbpsという実測値を公開した。ベストエフォートのサービスでは実効速度が保証されないが、実現不可能ではないものとして、技術的な成功をアピールするのが狙いだ。発表会のあった6月6日にはこの実験の成功について、別途ニュースリリースも発表されている。

 しかしながら、商用サービスとしては実現がまだ先となる通信速度を大々的にアピールした背景には、他社の影響もありそうだ。ドコモはLTE(Xi)開始当初は下り最大37.5Mbpsという謳い文句がメインだったが、現在はXiの中でも一部エリアで対応する、下り最大75Mbpsというスペックを大々的に謳い、最近の決算会見では下り100Mbpsのサービスの導入にも言及している。さらに、ソフトバンクモバイルは先日の発表会で「SoftBank 4G」が下り最大110Mbpsになるとアピールした。データ通信サービスを事業の主軸に据え、都市部では高速な通信方式をいち早く導入してきたイー・モバイルにとっては、こうしたスピード競争に対抗する意味でも150Mbpsの規格の実験結果を公表する必要があり、ユーザー数の増加と合わせて、周波数の追加割当てを要望していくものとみられる。

 今回発表された「Pocket WiFi LTE(GL04P)」については、実際に販売する製品に技術的アピールまで込めてしまったことから、そのスペックについてユーザーの理解は得るのは簡単ではないように思われるが、2年前からは考えられない、あるいは2年後のことは想像もできないような、技術の進歩が非常に速いモバイル業界ならではの出来事といえるのかもしれない。

 


イー・モバイル、下りを高速化する新規格対応のLTEルーター


イー・モバイル、スマホ・タブレット・ルーターを揃えた発表会

 

(太田 亮三)

2012/6/8 22:57