今週のケータイ Watchの読み方 (2012年6月1日)


新IGZO液晶、500ppiクラスが実現する世界


 

 シャープが6月1日に発表した新IGZO液晶の発表会では、6.1インチ、2560×1600ドット、498ppiという、これまでとは次元の違う500ppiクラスの高精細な試作品が公開された。6インチと小型タブレットのようなサイズであり、フルHDも軽く凌駕する、超高精細パネルだ。実際に目にしても、1ピクセルを肉眼で識別することは不可能という印象で、発色次第ではプリントした写真を見ているような感覚になる。

 例えば2.6インチでXGA(1024×768ドット)など、パネルサイズが異なれば、500ppiクラスという密度の液晶はすでに他社で開発されているが、量産を前提とした6インチクラスのパネルで、2560×1600ドットという解像度を実現する今回の新IGZO液晶は、低消費電力化ともあいまって、大きなインパクトがある。ディスプレイパネルを開発する各社は、高解像度で500ppiクラスのパネルの開発・量産化を急いでおり、液晶に注力してきたシャープがリードした形といえる。

 こうした新技術を採用した試作機を目にすると、まずは感動してしまうのだが、次に思い浮かぶのは「何に使うのだろうか」ということだ。また、高解像度のデータを処理するには相応のCPUやGPUの能力が必要になると予想され、したがって消費電力への懸念も高まる。もっとも、IGZO液晶ではパネル駆動の電力を大幅に削減しているとのことなので、こうした懸念は相殺できるのかもしれない。

 500ppiクラスのモバイル機器向けパネルの用途について、シャープから具体的な例は示されなかったが、映像フォーマットはフルHDとして1920×1080ドットでの利用が今まさに普及している最中なので、「動画に最適」と謳うにはオーバースペックと考えられる。コンシューマー向けということであれば、ひとまずは写真や地図など、拡大・縮小を頻繁に行うコンテンツでは恩恵がありそうだ。

 「用途も無いのに高精細化?」と考えるかもしれないが、シャープの水嶋副社長は、「半年、1年先の商品のためのもの。500ppiクラスへの要望は普通にある。特別なことではない」と語る。ここで重要なのは、IGZO液晶などの事業において、シャープは部品の供給メーカーであり、自社の理想のみを掲げて開発しているのではないという点だろう。

 液晶の高精細化に限ったことではなく、GPU、CPUなどのコンピューティングの分野でも、先端技術が実現する性能と、その用途については、ギャップが指摘されることは少なくない。簡単に言うと「そんな性能、何に使うのか」ということだ。しかし一方で、最先端の性能を手にして初めて思いつく、あるいは理解できる用途が生まれるのもまた事実だ。手にして、経験しなければ、思いつきようがない場合も多い。新IGZO液晶を求めているメーカーが、革新的な用途を思いついているかどうかは分からないが、モバイルの世界が新たな領域に入ることは間違い無いだろう。


シャープ、IGZOの新技術を開発しモバイル向けを強化

 

(太田 亮三)

2012/6/1 21:11