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月面探査レースで優勝を目指す「HAKUTO」、鳥取砂丘でフィールド試験
2016年9月28日 14:44
KDDIの支援を受けながら月面探査の国際賞金レース「Google Lunar XPRIZE」での優勝を目指す日本チーム「HAKUTO」。同チームは9月27日、報道関係者向けに鳥取砂丘でフィールド試験の様子を公開した。
今回のフィールド試験は、月面環境を想定し、カメラの性能評価を行うことを目的としたもの。2015年10月に作られたプリフライトモデル3を使用して実施された。
月面に降り注ぐ太陽光は、地球のように空気により散乱されず、平行光に近いとされる。このため、地球上での日中とは影のでき方やコントラストが異なる。そこで、鳥取砂丘において夜間にスポットライトを用いた模擬平行光をあて、月面に似た光環境を再現し、映像撮影用のカメラの露出などの調整を行うとともに、ToF(赤外線)センサーでの障害物の見え方の確認が行われた。
また、翌28日には通信試験が行われる予定だったが、天気予報が雨ということで、急遽その一部を27日に前倒しで行うことに。こちらは2016年9月に作られた本番用のフライトモデルのプロトタイプを用いて実施された。
ローバー本体とランダー(着陸機)との通信は、2.4GHz帯のWi-Fiで行うが、月面での通信距離を算出する上での目安をつかむとともに、地形や砂などの影響が机上計算とどれくらい違うのかを確認するのが今回の通信試験の目的とされる。
日本国内での試験ということで、試験時の出力は日本の法律に合わせた形で行われた。Google Lunar XPRIZEでは500m以上の月面走行が求められるため、実際にはこれよりも出力を上げた状態で通信を行うことになるが、試験では想定しているシミュレーションモデルの理論的な正しさを検証する。こうした通信まわりの技術は、KDDI研究所の協力の下で検証が進められている。
HAKUTOの袴田武史代表によれば、ランダーと地球との間の通信速度は100kbps程度になるという。ちょうどISDNの時代のような通信速度で、距離があるために数秒の遅延が発生することになるが、こうした通信環境の下、ローバーを安全に制御し、クリアな映像を撮影するというレースの条件を満たす必要がある。
フライトモデルの設計は終わっており、2017年初頭には完成する予定で、2017年中の打ち上げを目指す。「開発は8合目まで来ている」と語る袴田氏。10億円とされる資金集めについては、あと一歩のところまで来ているとのことで、クラウドファンディングによる資金調達し、一般にもHAKUTOの夢を共有することも検討しているという。
27日の試験には、鳥取県知事の平井伸治氏も視察に訪れ、「XPRIZEは砂(Sooner) is better」「(鳥取砂丘は)ポケモンだけでなくXPRIZEもゲットする」など、ユーモアあふれるコメントとともに、「夢のあるプロジェクトを地域をあげて応援していきたい」とエールを送った。
1000円タクシーの多言語音声翻訳システムが進化し、HAKUTOを応援
KDDIとKDDI研究所は、昨年11月から鳥取市内を走る3時間1000円の訪日外国人向け観光タクシーで多言語音声翻訳システムを活用した社会実証にも取り組んでいる。この取り組みでは、当初、スマートフォンを活用したシステムを使っていたが、表現力や視認性を高めるため、タブレットを使用する形に改良していく。タブレット版のシステムは現時点では1台しかないが、近く4台に運用を拡大するという。
従来のスマートフォン版では言語の翻訳のみを行っていたが、タブレット版では鳥取県が保有する写真や動画といったマルチメディアコンテンツが活用され、会話の中に観光名所が登場すると、その映像が表示・再生される工夫が施されている。
ちなみに新システムには、「月面探査機」という言葉をトリガーにHAKUTOを紹介する隠し機能も搭載されていた。