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カシオの腕時計は“スマホリンク”で時刻補正を大幅強化

世界市場で機械式、クオーツに次ぐ第三極の形成を目指す

 カシオ計算機は、時計事業において、スマートフォンと連携した時刻補正機能を大幅に強化し、対応製品のラインナップを拡大させていく方針を明らかにした。

 カシオは、スマートフォンと連携できる「スマートフォンリンク」モデルを既にラインナップしており、スマートフォン内の情報を利用した自動の時刻補正や、アプリでの時計の設定変更、一部の通知を時計側に表示させるといった連携を実現している。

「EDIFICE EQB-600」

 スマートフォンリンクモデルで新たに利用できるのが、アプリ側で実現する新機能「Accurate Time System」。5月に発売された新モデル「EDIFICE EQB-600」の発売と同時に提供されている。2016年はスマートフォンリンクモデルがさらに拡大される見込みで、この秋には、女性向けの「SHEEN SHB-100」もスマートフォンリンクモデルとして発売される。このモデルではアプリに女性向けのデザインも採用される。

 「Accurate Time System」は、スマートフォンのアプリ側で独自に正確な時刻を生成し、スマートフォンと連携した時計が1日4回の時刻の自動修正を行うというシステム。海外渡航時も、時計のワンプッシュの操作で時刻を修正できる。

 具体的には、スマートフォンが接続したネットワークからタイムサーバーに接続し、世界標準時を取得する。その上で、スマートフォンの位置情報を取得し、世界標準時を現在地やタイムゾーンに合わせた時刻に変換する。また、サマータイム情報も最新の情報が反映される。

「Accurate Time System」

 すでに電波式時計やGPS時計が提供されており、これらでも、正確な時刻に補正することが可能だが、中国や欧州、北米でも利用できるという電波式は、利用しづらいエリアがあるのが実情。逆に、環境や条件によっては、ハワイやタイでも日本の電波を受信してしまうというケースもあるという。

 GPSは電波が届かない場所でも利用できるが、屋内では利用できない。加えて現在のGPS対応モデルはカシオの樹脂ケースのモデルでも10万円台と高価だが、スマートフォンリンクモデルは4~5万円代からラインナップが可能という。

 こうした電波やGPSでの課題をスマートフォンとアプリで解決するのが、「Accurate Time System」と位置づけられている。

 例えば海外に渡航し、空港に降り立って時計をワンプッシュすれば、ペアリング済みのスマートフォンからデータを取得し、現地にあわせた正確な時刻に修正される。GPS時計では、空港の窓際に行くなどの工夫が必要だったが、「Accurate Time System」ではスマートフォンが通信できるエリアならどこでも正確な時刻に修正できる。

樫尾俊雄発明記念館、時計の展示を刷新

 6月2日には、東京・世田谷の「樫尾俊雄発明記念館」で説明会が開催された。樫尾俊雄発明記念館は、カシオ計算機の創業者の一人である故・樫尾俊雄氏の自宅を改装し一般公開されているもので、計算機や時計、電子楽器などのさまざまな同社の歴史や発明が、実機とともに紹介されている。入館は無料だが、Webサイトから事前予約が必要。

 同記念館では、6月10日の「時の記念日」に、時計に関する展示内容を刷新する予定。このリニューアルにより、同社の時計事業の歴史の中でも、電波式やGPSなどの取り組みが“正確な時刻の追求”として、新たな展示内容に加わる。上記の「Accurate Time System」は、こうした取り組みの最新の事例として解説されたもの。

 刷新される展示ではまた、樹脂製ケースなどの外装や構造への取り組みの歴史も、新しく紹介される。ほかにも、時計事業とは異なるものの「情報端末の歴史的モデル」という一角が設けられ、カシオ製の携帯電話やスマートフォン、Android Wear搭載のスマートウォッチも展示される。

新たな展示「正確な時刻の追求」
新たな展示「構造・外装・表示の多様化」
新たな展示「情報端末の歴史的モデル」
既存の展示「デジタル独自の多機能化」

カシオの実体験をもとに指摘「スマートウォッチが広まらない理由」

 記念館で開催された説明会では、カシオの時計事業の戦略も解説された。カシオ計算機 取締役専務執行役員の増田裕一氏は、カシオの時計事業の最初の30年(1974~2003年)を「デジタルで、アナログを置き換えようと思っていた。しかし本流には至らなかった」と振り返る。その理由は、「(デジタルの腕時計で)ほんとうに必要な、“必需機能”が見つからなかった。ボタンの操作も特殊だった」と分析する。

カシオ計算機 取締役専務執行役員の増田裕一氏

 デジタルであることが存在意義として始めた時計事業だが、2004年からは「思い切ってアナログに変えた。失敗したらとんでもないことになる」と、大きな方針転換であった様子を語る。同社はこれ以降、内部はデジタルで制御しながら、時刻の表示は針で表示するアナログ時計の高機能化を進めていく。

 2000年代は、市場にはiPhoneをはじめとするスマートフォンや、ウェアラブルデバイスが登場しはじめる。増田氏は、「Apple Watch」に代表されるスマートウォッチや、Fitbitなどのウェアラブルデバイスは、カシオが初期に目指していた「“多機能デジタル”の進化版だ」という。そして、「スマートウォッチが広まらない理由は、我々がぶつかった課題と同じで、“必需機能”を解決できていない。それが本流に入っていけない理由だ」と指摘した。

 なお、カシオはアウトドアをテーマにしたスマートウォッチも提供しているが、これは時計事業とは異なる組織が企画したもの。「ターゲットを設定してやっていく」としており、時計事業の戦略とは別の、スマートフォンや情報端末に近いアプローチであるとしている。

時計の歴史、「正確な時刻」で差別化

 時計業界を世界全体でみると、1970年代の日本発の“クオーツ・ショック”で、それまで市場を支配していたスイスの時計メーカーが大打撃を受け、日本メーカーが台頭し市場規模が爆発的に拡大したという歴史が一般的に語られる。その後スイスメーカーは機械式にこだわり、1990年代には高級路線に舵を切って復活を果たす。日本メーカーは、クオーツ式が安価に普及した後、差別化に苦しむという課題を抱えたまま現在に至っており、約3兆円という世界の時計市場では、高級モデルを中心としたスイスメーカーの売上が7割を占めているのが現状だ。

 カシオを含む日本メーカーは現在、正確な時刻という時計の基本機能を追求する方針をとっており、安価なクオーツ、高級なスイスという2極に対し、エレクトロニクスで性能を高めて付加価値を上げる第3極を形成しつつある。

 カシオはデジタル時計の時代から培ってきたエレクトロニクス技術を基盤に、針を駆動するモーターを緻密に制御する仕組みや、ソーラー発電や電波関連のノウハウを蓄積しており、「メカニカルやクオーツとはまったく違うセグメントを作っていける」(増田氏)。この日本メーカーが中心となって形成するセグメントで、カシオはトップブランドを目指しているとした。

スマートフォンリンク、電波式が普及していない海外市場での拡大も期待

 前述のスマートフォンリンクは、電波、GPSと手がけてきた取り組みをさらに進めたもの。日本では電波式時計が広く販売されているが、海外市場で電波式時計は(ドイツ以外では)広まっておらず、安価なクオーツかスイスの機械式、という構図が続いている。これには、日常生活のさまざまな部分が正確な時刻で運用されていない国では、そもそも正確な時刻の必要性が低いといった、ローカルな事情もあるという。

 一方で、カシオの時計の75%は海外で販売されており、海外市場で高付加価値の製品を展開・拡大することは、重要なテーマになっている。増田氏はスマートフォンリンクについて、日本国内や、日本から海外に渡航するユーザーだけでなく、「海外のユーザーの拡大という意味ではメリットがある」としており、海外市場のユーザーにとっても高い付加価値になると期待を語っている。

 「将来的には、時計が(スマートフォンを介さず)ネットにつながるようになる。1日1回の通信ならソーラーでまかなえる。LTE通信も多分可能。今すぐはできないが、何年か後にはできるようになる。我々はここでトップランナーになれる」と増田氏は自信や構想も語り、2016年度上期から本格的に展開していくスマートフォンリンクモデルを、今後さらに発展させていく方針を示している。

説明会には神戸市消防局 特別高度救助隊の森本崇氏もかけつけ、神戸市消防局とのコラボモデルのG-SHOCK(腕に装着)や時計の重要性について語った