インタビュー
ドコモが「dtab」「dstick」を手がける理由
ドコモが「dtab」「dstick」を手がける理由
“ドコモスマートホーム”が目指すものとは
(2013/3/8 11:58)
2013年春モデルとともに、NTTドコモは「ドコモスマートホーム(docomo Smart Home)」というコンセプトを新たに掲げ、第1弾として、Wi-Fiタブレット「dtab」、テレビに装着するスティック型端末「dstick」を発表した。どちらも月額利用料がかからない端末で、なおかつ宅内向けと、これまでのドコモにはなかった存在だ。
こうした端末が提供されることになった「ドコモスマートホーム」とは一体何か。NTTドコモのマーケティング部プロダクト戦略担当課長の武岡雅則氏、同じくプロダクト戦略担当の片岡寛氏に話を聞いた。
新たな収益源を創出
――1月の春モデル発表会では、「スマートフォンのコンテンツを家庭で」「家庭にあるコンテンツをスマートフォンで」というスタイルが“ドコモスマートホーム”だ、という説明でした。こうしたコンセプトの背景から、まずは教えてください。
武岡氏
ドコモでは、中期ビジョンとして「総合サービス企業」を目指す方針を掲げています。以前から音声通話による収入は減少傾向にあり、現在は本格的なスマートフォン時代を迎えてパケット通信料による収入は増加傾向ですが、これもいずれ伸びが止まります。通信事業だけに依存しない形にして、新たな収益源を見つけていく必要がある、というわけです。この方針によって、ドコモから出資を行っている分野もありますし、dマーケットのように自ら運営するストアを開設しているところもあります。
では今回の「ドコモスマートホーム」はどういう考えかと言えば、いわゆる「サービスレイヤー」できちんと事業を成立させよう、ということなのです。そのため、これまでの端末ありきの考え方とは異なる目線で、オンラインサービスとして展開する、ということなのです。
第1弾のサービス
――ということは「ドコモスマートホーム」はデジタルコンテンツ事業を収益化するための取り組みですか?
片岡氏
いえ、それだけではありません。先の発表会で、加藤(ドコモ社長)は第1弾と申し上げました。今後、第2弾、第3弾といったサービスを投入する考えで、安心・安全などを含めて幅広く提案していきたいと考えています。
武岡氏
デジタルコンテンツだけではなく、リアルとの連携もあります。まずは「dstick」「dtab」というデバイスを発表しましたが、外出時にはスマートフォンや小型軽量なタブレット、家の中では「dstick」「dtab」で楽しむ、という形を提案する取り組みなのです。
――となると、今後投入というサービスが揃ってきて「ドコモスマートホーム」の全体像がわかるわけですね。それらのサービスが気になるところです。
武岡氏
それはまだ申し上げられません(笑)。ただ、「dstick」のメニュー画面を見ると、下部はまだ空白がありますので……。
――なるほど、そのあたりに追加される新サービスもあるわけですね。
片岡氏
そしてこの時期に「dstick」と「dtab」を発表した理由の1つは、スマートフォン、タブレット、テレビのいずれもHDサイズの画面になって、同一のコンテンツを提供しやすくなったことがあります。処理能力という面でもそうです。そして「dstick」のように安価なスマートデバイスを提案できるようになってきたことも理由の1つです。多くのご家庭でWi-Fiが普及してきていることで、「ドコモ=家の中の暮らしもレベルアップしてくれる存在」として提案できる状態になったのです。
武岡氏
dビデオなどを楽しむという形で第1弾が発表されたのは、これまでの蓄積でデジタルコンテンツが一通り揃っていたからですね。そして「dtab」はファミリー層を意識した端末で、エンターテイメントだけではなくショッピングが利用でき、映像コンテンツは定額で、とさまざまな楽しみ方があります。
“これまで”から脱却する「月額利用料なし」
――端末を用意しながら利用料がない、というのは、ドコモが提供するサービスとして珍しいですよね。
武岡氏
はい、ここまで来るのに紆余曲折がありました。ただ、社内では「今の事業をこのままやっていくだけでいいのか」という問題意識が幹部を含めて共有できているのです。数多くのオプションサービスをこれまで提供していますが、ユーザーにとって不要なものと判断されれば、不評を買ってしまいます。「総合サービス企業」を目指すこともあって、きちんと満足して利用していただけることが最も重要だろうと思います。
たとえば、スマートフォンを購入した方にとって、2台目として回線契約が必要なタブレットを購入するのは、ハードルがあります。ですから、これまでの考え方から脱しましょう、サービスレイヤーで勝負しましょうという考えなのです。
さらに言えば、サービス事業者という立場で考えれば、提供相手がスマートフォンやタブレットだけでいいのか、という疑問がありますよね。場合によってはiPhoneやiPad、テレビ、パソコンと他の世界に飛び出さなければいけないのではないか。そしてドコモの6000万ユーザーだけでいいのか、日本市場にさらに6000万人いますよと。「ユーザー倍増計画」みたいな形で考えていかなきゃいけない。既存サービスでも、ソーシャルゲームの「dゲーム」は他社ユーザーでも利用できます。こうした動きをさらに加速しなければいけません。
ようは、「お客様目線で納得してもらえる」ようにすることが肝要です。
スピード勝負の「dstick」
――なるほど、意欲的ですね。
武岡氏
今回「dstick」を提供することになりましたが、こうしたスティック型端末を装着するのは、テレビのHDMI端子です。この端子の数は、1台のテレビに数カ所しかなく、限られています。一度、この手のデバイスを購入して使い始めると、なかなか買い替えていただくのは難しい。ですから、スピーディに事を進める必要がありました。
片岡氏
実際、「dstick」は昨年のCEATEC(10月開催の展示会)あたりから動きだしたプロジェクトで、ドコモとしてはかなり速く進めてきました。出来合いの端末をそのまま提供するのではなく、操作画面は社内のプロダクト担当や、UX(ユーザー体験)担当と一緒に、きちんと作り込みました。
――こうしたスティック端末は「テレビを“スマートテレビ”にするデバイス」などと呼ばれますが、今回、「dstick」は、dビデオなど映像コンテンツに特化した形です。
武岡氏
「dtab」と同時に進めてきたのですが、両方の機器を使って楽しめる、というのが前提です。たとえば「dstick」の機能として、テレビでショッピング、ということは実現する必要がなく、それは「dtab」でどうぞ、という形、つまり役割分担をしたのです。機能を絞り込んだ分、開発工数を抑えることができ、スピーディに提供できました。
その上で、5月末までのキャンペーンで、7万台を抽選でプレゼントします。大規模なプロモーションを展開せずに、どこまで反響があるのか心配もありましたが、1カ月ちょっとで、10万件近い応募をいただいています。
――もうそれだけの応募があったのですか。そういえばdビデオのユーザー数はどれくらいなのでしょう。
片岡氏
400万契約に迫る状況です。2005年に「ドコモ動画」として、動画コンテンツの取り組みを強化して以来、有料動画サービスとしては、老舗で、ユーザー数も国内最大級だと自負しています。これだけの応募をいただいて反響の大きさを感じていますし、「dstick」にはバージョンアップの仕掛けも入れており、今後も商品性を高めたいと思っています。
――それだけユーザーがいれば、7万台の「dstick」プレゼントは、応募が殺到しそうな気もします。
武岡氏
「dstick」をパッと見て、何ができるか理解し、その上で無料でプレゼントということもご存知で……となると、実は結構ハードルが高いのです。想定以上の反応だったと思っています。
――「dstick」の目標台数はどれくらいでしょうか?
片岡氏
スマートテレビ市場は、これから立ち上がってくるところで、さまざまなプレーヤーが参入していますので、予測は難しいのですが……現時点で国内の薄型テレビの普及台数は4000万台です。Wi-Fiを導入している世帯は40%で、この2つをかけあわせた、1600万台以上のポテンシャルがあると考えています。まずは数十万以上のユーザーに対して、満足して利用いただけるようにすることが、ファーストステップになります。
現時点で、「dstick」はドコモオンラインショップだけでの販売で、価格は8925円です。より多くの方に利用していただけるよう、販売チャネルの拡充、求めやすい価格といったところに対して、継続的に取り組みます。
――こうした端末は、Androidのアプリを動作させるセットトップボックスもあれば、「AppleTV」のようなものあり、実にさまざまです。
武岡氏
そもそもスマートテレビの定義も難しいところですが、アップルやグーグル、メーカーなど、いろんなプレーヤーが“お茶の間の一等地”を巡って競いあっていますね。ただ、そこで重要なポイントはコンテンツのラインナップだけではないと思っています。私自身も、「Apple TV」を所有していますが、徐々に利用しなくなってきたというのが正直なところです。たとえば1タイトルあたり300円程度で、高画質なコンテンツはさらに高額になります。
――ひるがえって「dビデオ」は月額525円と。
武岡氏
映像作品については、ヒット作や名作、「BeeTV」のオリジナル番組が充実している一方で、新作タイトルが少ないとの指摘をこれまで数多く頂戴しています。こうした指摘をいただけるのは大変ありがたいことで、新作タイトルの取り扱いを含め、サービスを積極的に強化していきます。
Wi-Fiだけに対応したチャレンジな端末
――さて、Wi-Fi対応の「dtab」も、価格などが話題になりましたが、こちらの販売目標は?
片岡氏
9975円という価格は、spモード契約が必須で、「dビデオ」を6カ月間、契約いただいた上で、1契約1回だけ、という2013年9月末までのキャンペーン価格です。本来の価格は2万5725円ですが、この価格も10インチタブレットとしてはお求めいただきやすい価格帯だと思います。しかし、サービスレイヤーで事業の柱を築くならば、攻めるべきだということで、キャンペーン価格で展開することにしました。具体的な販売目標については明確には申し上げられませんが、2013年度末までに数十万台というレベルです。
武岡氏
これまでの国内のタブレット市場を見ると、7~8割がWi-Fi端末で、残りが回線付のモバイル通信対応タブレットです。ドコモはこれまでモバイル通信対応のタブレットのみ扱ってきましたが、そうしたタブレット市場のおおむね半分のシェアを獲得できている、と考えています。
一方、Wi-Fiタブレット市場の大半はiPadが占めています。iPadには、アプリなど強固なエコシステムがあり、どんな端末メーカーでも、その牙城を崩すのは難しいでしょう。しかし豊富なコンテンツとエコシステム、ユーザーサポート体制を持っているドコモが、そうしたWi-Fiタブレット市場を切り崩さずして、いったいどうするのかという気持ちなのです。
――では、これからドコモのタブレットは「dtab」が主力に?
片岡氏
そこは、モバイル通信対応のXiタブレットと2枚看板ですね。
武岡氏
「dtab」はあくまでサービス利用のためのデバイスです。モバイル通信対応のタブレットは外で利用でき、これまでに100万台以上の販売実績があります。もちろん2~3年後はどうなっているかわかりませんが、まずは2つの看板で進めるということです。
片岡氏
価格については、モバイル通信対応タブレットも割引の適用で、実質負担額は「dtab」とそう大きく変わらないところがありますので、「薄く軽く、持ち歩きたくなるタブレット」と、「サービスに特化したWi-Fi対応のホームタブレット」という2枚看板でのご提案です。
武岡氏
スペックとしても、「dtab」は“安かろう、悪かろうではダメだ”と考えていました。長く利用される端末になるだろうと想定し、上質なアルミボディに、クアッドコアCPU、HDサイズのディスプレイなど高いスペックに仕上げています。
片岡氏
たとえば2年前、あるいは1年前にAndroidスマートフォンを手にしていた方からすると、「dtab」の快適さをより実感していただけるのではないかとも思います。機種変更せずとも、最新のスペックを楽しめる環境を提供できるのではないかな、とも。
――なるほど。ちなみに今回は10.1インチというサイズで、宅内利用には合っているように思ったのですが……。
片岡氏
そうです。宅内でのコンテンツビューワー、ショッピングなどのWebブラウジングといった使い方がメインですから、10.1インチという画面サイズは最適です。
中には、「7インチがタブレットのトレンド」という指摘もあろうと思いますが、10インチクラスのタブレットの販売数は堅調です。ドコモでも売れ筋は10インチクラスがメインです。大画面のスマートフォンを既に手にしている方にとって、7インチクラスのタブレットへの関心が低いのかなと思います。
これまで私どもでは、「スマートフォンと10インチタブレット」「フィーチャーフォンと7インチタブレット」という2台持ちを提案してきました。LTE、防水、ワンセグに対応しながら、とても軽量なXiタブレットを多数ラインナップし「プラスXi割」(2台目の料金を割引)によって、販売が伸びています。
「dtab」のUIの考え方
――「dtab」は独自ユーザーインターフェイスを採用していますね。
武岡氏
右横に、ドコモの各種サービスへアクセスできるドック(ランチャー)が用意されています。一方で、このドックの下部には、Google Playへのリンクも用意していまして、通常のAndroid端末としてもご利用いただけます。こういったドックを用意したのは、やはりサービスへのスムーズなアクセスのためです。パソコンの場合、電源をONにして、ブラウザを起動して、検索したりブックマークを開いたりといった流れですが、「dtab」ならばロック画面を解除すると、すぐドックが現われ、各種サービスを利用できます。時間にすると、ほんのわずかですが、この数ステップの省略が重要です。
――現状はドコモのサービスばかりという形ですが、他社のサービス、たとえば最先端のWebサービスなどと連携、といった可能性はあるのでしょうか。
武岡氏
「サービスレイヤー」で展開する“総合サービサー”としての取り組みに、何かメッセージとして関連するところがあれば、提携や連携などは考えられます。ただし、「最先端だけ」ということであれば、ちょっと方向性が違うかなと思います。
――そういった意味では、Google Play対応というのは懐が広いようにも思えてきました。
武岡氏
隠したところで、利用したい方は利用しますし、Google Playのアイコンを隠すという意地悪なことをしても満足度が下がるだけで、タブレットとしての魅力が薄れてしまいます。
マルチユーザーについて
武岡氏
そういった流れのなかで、今後は「docomo ID」がより一層、重要になってきます。先述したように、ドコモのユーザー以外にも視野を広げていくと、「docomo ID」があれば当社のサービスを利用いただける、という形になっていきますから。
――なるほど。しかし「dtab」がファミリー層を意識した、ということであれば、「docomo ID」も家族の利用を踏まえた形に進化するのでしょうか。
武岡氏
それは正直なところ、次の次の……そのまた次の、といった段階でしょうか。制度面との兼ね合いで、すぐ提供できる状況ではないのです。
――ちょっと先の話になりそうですね。制度面との兼ね合いとは?
武岡氏
通信事業者に対する法制度として電気通信事業法などがありますが、こうした制度上では、契約者と利用者の考え方があり、「グループID」のような概念を実現するのは、思った以上に難しいのです。とはいえ、タブレットを家族みんなで活用いただきたい。既に「ARROWS Tab」といったXiタブレットには、家族での利用を意識したユーザーインターフェイスが搭載されています。今後もマルチユーザーという面での機能強化を図っていきたいと考えています。
――そうなのですね。今日はありがとうございました。