キーパーソン・インタビュー

SOMO社COOウミンスキー氏に聞く、英国スマートフォン最新動向


 国際的に仕様統一されたスマートフォンの隆盛によって、コンテンツ市場もまたボーダーレスの時代へと突入した。日本のコンテンツプロバイダーが長年磨いてきたWebやアプリの開発技術が、海外でも通用するかを試す千載一遇の好機とも考えられている。

 中でもヨーロッパはスマートフォンの普及が著しく、日本企業にとっては有力な海外進出先候補といえるだろう。今回は、英国を拠点にモバイルでのブランド戦略、システム開発、広告枠の買い付けなどを総合的に手がけるSOMO社のCOOであるカール・ウミンスキー氏に、現地の最新スマートフォン動向を聞いた。

スマートフォン人気が女性にも波及

英SOMO社COOのカール・ウミンスキー氏

 ウミンスキー氏によると、英国内での携帯電話利用者全体に対するスマートフォン利用者の割合は約35%。近年は定額制データ通信サービスが普及し、比較的安価に通信を利用できるようになった。この背景には2007年に初登場したiPhoneの影響力があるとみられる。Android端末が増加している傾向も日本とほぼ同様だ。

 スマートフォン向けアプリの販売も伸びており、中でもゲームが人気を集めている。ウミンスキー氏は「驚くべき事に、スマートフォンで楽しめるカジュアルゲームアプリが35歳~50代女性に受け入れられている。これは英国の企業・ブランドが広告戦略を考える上で非常に重要なトピック」と語る。

 これまで、女性は先端テクノロジーの導入に慎重と考えられてきたが、スマートフォンにおいてはこの原則が当てはまらないようだ。ちなみに、英国でスマートフォンを利用する女性ユーザーの割合は、iPhoneで約45%、Androidで約34%に達する。

 最近では、GoogleでのWeb検索時にスマートフォン用アプリが候補として表示されるようになった。このためSEOの観点から新たな対策が必要とされている。

 一方、スマートフォンのオンラインアプリストアでダウンロードされるタイトルの大半は、無料アプリ。このためアプリ内広告による収益化も重要となってくる。ウミンスキー氏は「2009年は3780万ポンド(1ポンド=140円換算で約52億9200万円)ほどの市場規模だったが、2010年はこれが5000~6000万ポンド程度になると思う。ホッケーのスティックのような急激な伸びだ」と説明。市場規模の大きさに言及した。

 この急激な伸びを支えたのは「大手ブランドが自社サイトの周知を目的にした広告だ」とウミンスキー氏は分析。その上で「2011年はこれらのサイトが直接のオンライン販売に乗りだし広告を増やすのではないか」とも補足した。

NFC、ジオフェンスなどの新興サービスにも注目

おサイフケータイを使用したクーポンサービスをチェックするウミンスキー氏。NFCへの期待感は非常に大きいという

 ウミンスキー氏が大きな期待を寄せているのが、ICチップによる近距離無線通信規格の「NFC(Near Field Communication)」だ。NFC対応端末の第1弾となるNexus Sが英国でも発売。2012年には英国で発売されるすべてのスマートフォンがNFC対応になるとみられ、同年開催のロンドンオリンピックを契機に、さまざまなマーケティングへの応用を検討しており、同氏は「おサイフケータイで先行している日本からも学びたい」と語っている。

 位置情報を利用したマーケティングもすでに動き出しており、「ジオフェンス(Geofence)」もその1つ。基地局の近隣にいるユーザーをを端末ベースで検知し、オプトイン済みのユーザーにSMSでクーポンなどを配信するサービスだ。英国のキャリア「O2」が「O2 More」の名称でサービスをはじめている。

 Facebookの人気も、英国人ユーザーのモバイル志向を高めている。すでに、PCよりもモバイルでFacebookへアクセスするユーザーの方が多いという。ウミンスキー氏は「ただFacebookはモバイル向けの広告を開始していない。実際に始まれば恐らく広告市場の規模が5~6倍になると思うが、我々はその時をじっと待っている状況」と語り、広告の観点からもFacebookの動向に注目している。

 また、将来的にはHTML 5の普及によって、これまでネイティブアプリでなければ実現できなかった高品質なサービスがWebブラウザ上で実現すると見られる。「iPhoneとAndroid双方でアプリを開発するには当然コストもかかる。しかしHTML 5で構築したWebサービスであれば1つの開発で済むわけで、コストパフォーマンス的には注目だ。しかし、ゲームのように端末の性能を使い切るタイプのアプリは引き続きネイティブ形式で提供されるのではないか」とウミンスキー氏は説明。目的によってWebとアプリを使い分ける方向にあるとの予想も示している。

テクノロジーの壁はすでになし、いまが海外進出の好機?

 コンテンツプロバイダーが海外進出を検討する際、重要視すべきことは何だろうか。ウミンスキー氏は「各国文化への理解と同時に、人々とどのようにインタラクト(相互作用)していくかが大事」と説明。その上で、サービスの価格設定や収益化の手段、成功でき得る市場規模があるか専門家とともに考えていくことが必要だと語る。

 その上で「日本の企業が英国へ進出するには、もちろん困難はあるがチャンスもその分大きい。端末OSの共通化も進んでいる」「技術面においての参入障壁は、もうほとんどないのではないか」と、かつてない好機であるとも述べた。

 ウミンスキー氏は最後に「日本市場の皆さんはモバイルを大変よく理解していらっしゃる。その素晴らしいテクノロジーを英国にも持ち込んで、ぜひNFC連携などでも協力していきたい」と呼びかけた。



(森田 秀一)

2011/3/10 06:00