キーパーソン・インタビュー

高橋誠氏に聞く、「Link→au」のアライアンス型サービスとは


 KDDIは、5月24日にアライアンス型サービス「Link→au」を発表した。同日にはナビタイムジャパンから、「Link→au」を活用した通信カーナビ「CAR NAVITIME」が発表されており、アライアンスの成果が同時に示された格好だ。一方、12月より社長に就任するKDDIの田中孝司氏からは、他業種・他企業とアライアンスを強化してく方針が打ち出されており、「Link→au」での取り組みは今後さらに重要になってくると思われる。

 今回、KDDI 代表取締役執行役員専務 グループ戦略統括本部長の高橋誠氏に「Link→au」と今後のKDDIの取り組みについて伺った。

KDDI 代表取締役執行役員専務 グループ戦略統括本部長の高橋誠氏

 

ユーザーとのさまざまな接点に

――まず、「Link→au」という取り組みについて、始めたきっかけを教えてください。

 これから秋にかけて、いろいろ発表していきますし、スマートフォンもかなり力を入れていきます。そういった、オープン化された世界のことを考えたとき、ユーザーの多様化にともなう、ユーザーが欲する入り口、それに応じたブランドが前面に出てくることが重要になってくると思います。実際そういう流れは世の中にありますし、最近のauなら、「Link→au」ではなく「CAR NAVITIME」がユーザーとの新たな接点になっています。そういう時代を支える仕組みとして、「Link→au」を作りました。

――いつごろから考えていたものなのでしょうか?

 1年ぐらい前でしょうか。これからは、プラットフォームとしてほかにもいくつか出していきたいと考えています。

――ユーザーからすると、先ごろ発売されたCAR NAVITIMEなどは、「カーナビ」としては安いと感じるかもしれません。これはやはり、パケット通信量などを緻密にシミュレーションした結果ということでしょうか。

 「Link→au」での取り組みということで、端末からのトラフィックがどれくらいになるかを約束してもらった上で、そのトラフィックに応じて、提供できる料金を決めています。

――ハードウェアが進化すると、料金体系も変わるということでしょうか?

 新しい端末が出て、想定していたトラフィックを超えるようなことになれば、新しい料金設定が必要になると思います。

CAR NAVITIME

――現在はユーザーが月額で料金を払っていますが、例えば広告が入るかわりにユーザーは無料で利用できるようなこともあるのでしょうか?

 誰かが負担してくれるならいいのではないでしょうか。ただ、広告モデルだけでフォローできるかといえば、現状では難しいかもしれません。

 ユーザーからは見えにくい部分ですが、「Link→au」におけるCAR NAVITIMEとの協業というのは、CAR NAVITIMEを売る上でのビジネスモデルはすべて両社で共有する、というものです。回線を卸すだけでなく、協業モデルですね。一緒にCAR NAVITIME上の広告ビジネスや携帯連携サービスを考えたり、端末の仕様と料金をすり合わせたりといったように、無機質な関係ではなく“べったり”とやっています。それが「Link→au」の姿だと思います。

 CAR NAVITIMEはクラウド型で動き、本当に可能性を感じています。自動車メーカーのカーナビはこれまでの資産を活用されていると思いますが、これからはクラウド型の情報の活用が重要になってくるのではないでしょうか。

――現時点では、携帯電話ではないデバイスで「Link→au」というアライアンスが展開されている形ですが、携帯電話・スマートフォンの上で展開されることもあるのでしょうか?

 可能性はあると思います。例えばこれまでに「ナカチェン」という比較的近いコンセプトのプラットフォームがありましたが、スマートフォンではもっと展開しやすいのではないかと思います。

――今後も、さまざまな取り組みがあるわけですね。

 先日、頓智ドットへの出資を発表しましたが、ARという仕組みもプラットフォームですよね。ARプラットフォームの上に、コンテンツプロバイダーがマッシュアップしてどんどん乗ってくる。こういう展開を、いろんな切り口で作りたいですね。

 遡れば、最初の例はグリーでしょうか。当初は「(キャリアの)ポータルサイトのユーザーが一般サイトに奪われていく」と心配している人もいましたが、我々からするとあまり関係は無く、決済(回収代行)というベースがあるので、ユーザーとの接点が我々のポータルでもGoogleでもGREEでもモバゲーでも問題無いわけです。

 これから秋にかけて発表していくものも、そういった協業を意識した、外部の人に使ってもらえるプラットフォームを、特徴のある人たちと組んで発表していくつもりです。私のノリなので、軽いのもありますよ(笑)。ビジネスとしてはフィーチャーフォン向けがメインですが、必ずスマートフォンにも対応していきます。

――「Link→au」という名前ではCAR NAVITIMEがひとつ大きな展開でしたが、ネットワーク上のサービスとしての展開も有りうるわけですか。

 あると思います。いくつかそういうものを仕掛けているところです。ARの構想にしても、プラットフォームを作って、いろんな人に乗って欲しい、というものです。そういうタイプのサービスがこれから進んでいくのではないでしょうか。

――今後は、そうやってオープンにしていったほうがユーザーの利便性も高いと考えているのでしょうか。

 私はそう思います。また、iPhoneのApp Storeではこれまで、コンテンツプロバイダーから「1回しか買ってもらえない」と嘆く声も聞かれるように、総じて儲からなかったわけですが、Androidの「au one Market」では工夫して、月額やアイテム課金で使ってもらえるような課金プラットフォーム(auかんたん決済)を用意しています。auかんたん決済は手応えを感じていますね。

 

auのスマートフォンとコンテンツプラットフォーム

――auとして、今後の方針はどうでしょうか

 スマートフォンで遅れた分、これから出るスマートフォンではFeliCa、ワンセグ、その他諸々、対応します。その他諸々にいろんな仕掛けもありますが、秋にかけて発表していきます。

――各キャリアのAndroidのラインナップはさらに充実するようで、普及台数でiPhoneを追い越す日も時間の問題かもしれません。

 そうしたときに、コンテンツプロバイダーが集ってもらえるようなプラットフォームを作っていければいいですね。当然、auの差別化のためになればいいと思いますし、将来的に横展開や、海外展開まで持っていければいいですね。今後、ほとんどのサービスはAndroidに対応していくと思います。

――スマートフォンではおサイフケータイを使う際のセキュリティ面での懸念があったと思いますが、クリアになったということでしょうか。

 そういう懸念が(過去には)あった、ということですね。これからも、Androidはグローバルフォンとして手を加えずに国内展開するものと、しっかりと国内向けに手を加えたものという2つが出てくると思います。

 この秋冬から、ラインナップとして遅れていたところは戻せるのではないでしょうか。こういうのは“波”のような部分もありますから、また頑張ります。

――Androidはカーナビやフォトフレームのようにいろんなデバイスに搭載できるので、キャリアとしてプラットフォームを手がければいろんな展開が見込めます。

 CEATECの発表でもそのあたりは意識して、Androidベースのサービスや発展系も紹介できればと思っています。私の今の仕事の担当にはCATVも含まれていますが、一般的に高品質な映像は放送で、VODやインタラクティブなものはネット、ということになると思います。テレビ主導なのか、ケーブルのSTBのようなものなのかわかりませんが、例えばOSがAndroidのものが出てくる可能性はあり、そうなると携帯電話やスマートフォンとの親和性は極めて良くなってくる。そういう世界では、ワンコンテンツ・マルチデバイスを実現していかなければいけないでしょうし、権利者側もそういう対応になってくるのではないでしょうか。

 今までKDDIでは「FMBC」を提唱してきましたが、必然性の問題になりつつあります。現在のようにスマートフォンのトラフィックが上がってくると、無線だけでは捌き切れない時代がくるかもしれません。なおかつ、端末で無線LAN搭載などが当たり前になると、ユーザーから見てバックエンドの回線は意識しないという意味で関係がなくなってきます。光やCATVなども手がけている当社は、ある意味で強いカードを持っている事業者と言えます。

――無線LANの話題ですと、モバイルWi-Fiルーターがauにはありませんが、そこはUQコミュニケーションズに任せているということでしょうか。

 それでいいと思います。マルチキャリアRev.Aでは検討していますが、現段階ではUQをきちっと立ち上げていかなければいけません。

――本日はどうもありがとうございました。

 



(太田 亮三)

2010/9/16 16:40