「PHOTO-U SP01」開発者インタビュー

他社との差別化を模索したauのデジタルフォトフレーム


 デジタルフォトフレームに通信機能を付加した製品が、にわかに注目を集めている。

 この分野を開拓したのは、ソフトバンクモバイル。2009年6月に「PhotoVision HW001」を、他社に先駆けて発売した。通信機能を搭載し、メールに添付するだけで写真を送信できる手軽さや、端末価格・維持費用の安さが受け、一躍ヒット商品となったことは記憶に新しい。同社は、よりスペックを上げた「PhotoVision HW002」や、高機能でデザインにも凝ったソニー製の「PhotoVision DPF-NS70」を立て続けにリリースするなど、この分野に対して積極的だ。一部の店頭では、iPhoneなどのヒット商品とセットで販売するような施策も行っている。PhotoVisionの料金は月額980円でメール受信し放題だが、2年契約の「フォトビジョン割」を付けると、半額の490円になる。更新月以外の解除料は9800円。他社ケータイやPCから写真を送信したい場合は、月額300円の「フォトビジョンEメールサービス」を利用する。

 対するNTTドコモは、まず試験的にサービスをスタート。2009年7月には、限定1000台の「フォトパネル 01」を発売した。この機種は、ネットワークとの連携も特徴で、端末と同時に、遠隔操作で写真の追加、削除、回転などが可能になる「お便りフォトサービス」を開始している。ドコモがこのジャンルが本格化させたのは、2009年12月に発売された「フォトパネル 02」から。ソフトバンクのPhotoVisionと同じファーウェイが製造した端末を用意し、お便りフォトサービスに、写真が自動的に届く「フォト配信」などのコンテンツサービスを対応させている。利用には、お便りフォトサービスの210円に加入した上で、490円から9765円の間で変動する、専用の「定額ユビキタスプラン」に加入する必要がある。ただし、本年8月31日までは、お便りフォトサービスが無料に、定額ユビキタスプランの上限も980円になる。定額ユビキタスプランは1パケット0.084円。10万パケットまでは980円、それ以上は上限に達するまで1パケット0.084円だが、写真はサーバーで1枚約150KB前後に圧縮される。キャンペーン終了後も、980円で月に約60枚程度送信できる計算だ。

PHOTO-U SP01

 一方で、KDDIが通信機能付きのデジタルフォトフレーム「PHOTO-U SP01」を発売したのは、2010年6月になる。最後発となる分、機能やサービスは充実。簡単操作を実現するシンプルなリモコンを搭載したほか、時計やカレンダー、フレームなどを購入できる専用サイト「カスタモ for PHOTO-U」にも対応した。ドコモのお便りフォトサービスと同様、Webサイトからの遠隔操作も可能で、スライドショーの切り替え時間や受信音量、文字サイズなどを変更できるのも特徴だ。料金は、このモデル専用の「PHOTO-Uプラン」を用意。基本使用料は月額1440円だが、2年契約の「誰でも割シングル(特定機器)」に加入すると、月390円になる。1パケットは0.105円で、超過分は390円まで課金。誰でも割シングル(特定機器)を契約していれば、合計最大780円で写真が送り放題になる。

 このように、業界においては最後発となったPHOTO-U SP01だが、市場で差別化していくための秘策もありそうだ。では、この製品は、どのようなコンセプトに基づき企画・開発されたのか。また、コンテンツサービスに対応する狙いはどこにあるのか。KDDIでPHOTO-U SP01の商品企画、サービスを担当した岩見大介氏と柳沢夕子氏に、お話を伺った。

シンプルなボタンを背面に搭載ストラップホール付きのリモコンを同梱する

サービスで育っていけるフォトフレーム

KDDI 新規ビジネス推進本部 事業開発部 アライアンスビジネス2グループ 柳沢夕子氏

――まず、PHOTO-U SP01のコンセプトを教えてください。

柳沢氏
 メールで写真を送って、それを表示するというのが基本的な機能です。ただ、そういったデジタルフォトフレームは、すでに他社からも出ています。一方で、事前の設定が必要だったり、送る人に制限があったりすると、使い勝手が損なわれるので、誰でも簡単に使えることを目指しました。こちらの商品については、買ってきて電源を入れるだけで、すぐに使い始めることができます。

 また、付属品としてリモコンを付け、そちらで操作できるようにしました。珍しいかもしれませんが、このリモコンには、ストラップも付けられるんです。

岩見氏
 ちょっとサイズは大きいのですが、逆に薄すぎると失くしてしまう恐れもありますし、クリック感も少なくなってしまいます。メーカーさんと議論し、あえて使い勝手のいい適度なサイズを目指しました。もちろん、本体にもボタンがあり、触れば操作がすぐ分かるようにしてあるので、高齢者の方でも使いこなせるのではないでしょうか。

柳沢氏
 企画がスタートしたのは、ちょうど1年ぐらい前で、ソフトバンクさんからPhotoVisionの1号機が出た頃になります。デジタルフォトフレーム自体への注目も高くなってきた時期で、結婚式の2次会の景品などとして、目にする機会が増えたと感じていました。

KDDI サービス・プロダクト企画本部 プロダクト推進部 プロダクトマネジメントグループ 岩見大介氏

岩見氏
 3社の中では最後発なので、どのようにハードやサービスを作っていけばいいのかということを、相当考えました。そこは、プロダクト部門、サービス部門が連携して、何度も協議しています。

 まずハードに関しては、非常にシンプルに仕上げることにしました。写真やサービスを引き立てる筐体にしようというのが、その理由です。メーカーさんにも頑張って薄くしていただきいました。白とクリアパーツにこだわり、LEDも光っていない時は見えないようにと、極力シンプルに作っています。イメージとしては、おしゃれなカウンターキッチンに、さり気なく置くようなものですね。

 その分、通信を活かして、液晶で色々なことができるようにしています。サイトからコンテンツを落として、全く違うフォトフレームに見えるように変えられるというのがコンセプトです。写真に付けるフレームは有償、無償でサイトからダウンロードできますが、これもケータイで買ってフォトフレームに送るという操作をするだけです。例えば、今、このPHOTO-Uには「ウサビッチ」のフレームを入れてありますが、ハードウェアがシンプルな分キャラクターが際立つので、これ自体が「ウサビッチのフォトフレーム」に見えますよね? フレームはアドビさんのFlashを使って実現しているので、時計やカレンダーを重ね合わせることもできます。コンテンツの購入はケータイ、PCの両方に対応しています。料金の回収代行は利用できませんが、他社のケータイからアクセスすることも可能な仕様にしました。

――ケータイコンテンツのノウハウを活かした部分はあったのでしょうか。

岩見氏
 もちろん、我々はずっとケータイをやってきているので、そこで培ったノウハウを活かしたいというのはありました。ただ、やはりケータイとは使い方や画角も異なりますから、単にコンテンツを移植するというより、世界観や使い勝手のよさをデジタルフォトフレームの世界に持ってくることを意識しています。

――ちなみに、製造はパンテックさんが担当していますが、デジタルフォトフレームを作るメーカーという印象はありませんでした。

岩見氏
 製品としてはおとなしくして、サービスで育っていけるフォトフレームというコンセプトを、一番よく理解してくださったのが、パンテックさんだったからです。あとは、アジア企業ならではのスピード感があったというのも、製造をお願いした理由ですね。実際、企画から発売まであまり時間はありませんでしたから……(苦笑)。ただ、これはあくまでPHOTO-Uシリーズのきっかけなので、今後はほかのメーカーさんが作ったものも含め、様々な製品を出していく可能性があります。

――インテリアという位置づけを考えると、iidaブランドで発売する選択肢もあったと思いますが、その点はいかがでしょうか。

岩見氏
 iidaの製品も検討していきたいですね。ただ、同時期にデジタルフォトフレームが4種類、5種類と店頭に並んでいたら、お客さまも混乱してしまう思うので(笑)、今後の話になりますけどね。

「ウサビッチ」のフレームを表示したところ

――PHOTO-U SP01は縦と横、どちらでも置けるようになっていますが、コンテンツも両対応なのでしょうか。

柳沢氏
 先ほどご紹介した「ウサビッチ」のコンテンツは、縦横両方のフレームをセットにして配信しています。置き方次第で、どちらも楽しむことができます。

岩見氏
 センサーは搭載していないので、お客さまに設定していただく形になります。

――今、コンテンツは何種類ぐらいあるのでしょうか。

柳沢氏
 100種類以上あって、フレームのほかにも、全面を時計やカレンダーにできるFlashコンテンツや、グリーティングカードなどを用意しています。このフォトフレームで表示する、専用の画像も配信しています。

岩見氏
 画像配信は、定番の海外風景や、富士山の写真をセットにした写真集があります。あとは、赤や青といったように、色でパックにした写真も用意しました。リビングに置く端末ということで、色も大切な要素だと思っています。それぞれの部屋には色のコンセプトがありますからね。

――今後、ここにニュースを配信するといった可能性もありそうですね。

柳沢氏
 検討していきます。先ほど申し上げたように、Flashを再生できるので、現在提供していない分野のコンテンツもどんどん追加することができます。

岩見氏
 レシピやニュースなどのコンテンツも端末としは受けられるようになっているので、あとは色々なコンテンツが出るよう、柳沢の部隊に頑張ってもらいたいですね(笑)。

――現状では、コンテンツの配信を手がけているのはプライムワークスさん1社です。この部分を、プラットフォーム化し、ほかのコンテンツプロバイダーに広げていく可能性はあるのでしょうか。

柳沢氏
 このサービスに関しては、プライムワークスさんと協業でやっているので、今のところは1社で配信という形を考えています。ただ、ここでコンテンツを配信したいという方がいれば、こちらも柔軟に対応していきたいとは考えています。

――本日はどうもありがとうございました。



(石野 純也)

2010/7/28 06:00