インタビュー
急成長するモバイル周辺機器ブランド「ルミシング」の戦略
独自のデザイン思考で需要にマッチするモバイルバッテリーを作る
2016年10月14日 12:00
モバイルバッテリーといえば、今や国内外の多数のメーカーによる数えきれないほどの製品が店頭に並ぶ、競争の激しい人気商品カテゴリーだ。そんなライバルがひしめくなかで、販路をネット通販に絞り、急成長を遂げている若い企業がある。それがルミシング・ジャパンだ。
中華人民共和国広東省の深セン(深圳)にあるATC Science & Techology PLCの日本法人として、2014年に設立されたばかりの同社は、この短期間でどのようにしてモバイルバッテリーという競合ばかりの商品分野で存在感を示すまでになったのだろうか。今回は同社代表取締役の牟(む)氏に、事業や商品開発の中身、今後の計画も含め、話を伺った。
日本の人気カラーは? 「カープ」カラーの製品も視野に?
――では最初に、ルミシング・ジャパンがどういう会社でどういう事業をしているのか、また、企業としての特徴を教えてください。
主な事業はスマートフォン周辺機器の企画、開発、販売です。もともと2009年に、深センで30代のメンバー5人くらいで会社を立ち上げたのが始まりで、当初はPCの互換バッテリーを米Amazonやebayで販売して、そこそこの成功を収めることができました。しかし、日本に進出するのは遅かったんですよね。日本上陸は正式には2014年からとなりました。
PC互換バッテリーの後は、スマホ、タブレットが増えてきて、そういう機器に対するモバイルバッテリーがどうあるべきか、ということで、開発して市場に投入しました。ただ、最初に作ったモバイルバッテリーの形は今から見るとダサいですよね(笑)。
――電池型の丸いセルの形が見えている状態ですね。
そう。そういうものから今の形にたどりつきました。今はモバイルをテーマに、モバイルバッテリー、充電器、ケーブル製品を展開しています。
モバイルバッテリーについては、日本市場には有名メーカーがあり、ある程度地位を築いた中国メーカーもあって、いろんなブランドが乱立しています。そのなかで弊社の強み、一番の大きな武器は、PCバッテリーに関するノウハウと、サプライチェーンです。商品については、今はいろいろな需要があり、それを満たすために多様性のあるデザイン、スペック、機能をそろえた開発に力を入れています。
――そもそもなぜ日本市場に参入しようと考えたのでしょうか。
最初米国で成功して、その後EUに進出しました。でも、やっぱり日本は国単位で言えば世界で(米国に続く)2番目の市場だと思うんですよ。EUと言ってもその中の国ごとにいろいろ違っているところがあり、同じとは言えません。
日本は無視できない大きな市場です。それまではほとんどネット通販の形でやってきたので、そういった面でのインフラ整備が完璧にできているという意味でも、日本はすごく魅力のある市場だと思います。
――デザイン面で地域ごとに売れ筋が違ったりしますか。
米国はとりあえず大容量のものが人気があって、あとアウトドアアクティビティをやる人が多いためか、わりとデザイン性よりは丈夫なイメージのもの、頑丈そうなものが人気になる傾向があります。欧州は米国と似ていて、ただ、実は販売している製品の種類は少ないんです。軽量なものを好きな人もいるし、色もシャンパンゴールドやシルバー、黒のように、素の色が好きみたいですね。
日本はどちらかというとデザイン性、総合的なところを求めていますね。カラーはピンクが日本で一番売れていたりします。今後はリーグ優勝を記念してカープの赤とか、考えていきたいなと(笑)。できるだけ多くの方に使っていただいて、さまざまな機能、性能、形、色に満足いただければ。もちろん不評なものもあると思うので、そういう指摘をいただけると、私たちは喜んでそれを受け止めて、また次の製品で完成度を高くして提供していきたいと思います。
需要に合わせながら「時代に先んじて」出す商品も
――御社製品のデザインコンセプトを教えてください。
モバイルバッテリーのデザインはiPhoneを意識して、iPhoneとセットになるボディカラーで作っているんですよね。シャンパンゴールド、ローズゴールドとか。また、最近発売した「Lumsing Grand A2」シリーズは、USB Type-Cの充電も直接できて、Quick Charge 3.0にも対応しています。いろいろな需要に合わせて商品を作っています。
USB充電器の方は、iPhoneとは関係なくカラフルなバリエーションをそろえています。今の世の中、個性が尊重される時代なので、さまざまな需要があります。そこに合わせていろんな形、いろんな色を提供したいというのは、我々の商品開発のポリシーとしてやっています。趣向性の強いユーザー、今までのものと違うところに価値を感じる人をターゲットにしている、ということです。
例えばファッションというのは、今流行っていないものがファッションと言われているような感じがありますよね。流行っているものはもうファッションじゃない、みたいな感覚で。なので、今後は他にはない形状、デザインが出てくる世の中になっていくのかなと思っています。
――機能面で言えば、スマートフォンやモバイルバッテリーにおいて充電方式の仕様はこれまで何度か変わってきています。今はType-Cへの移行期でもあり、本格的に対応製品を投入するべきかどうか悩むタイミングかと思います。
機能や仕様に、今は基準というのものがない状態ですよね。需要があればその商品を開発していく。今はそういう流れです。我々が使っているMacBook、スマホ、タブレットのインターフェースがはっきり統一されれば集約される可能性はありますけども、今の状態はさまざまな需要に、さまざまな商品を提供していくしかないと思います。
今回Type-C対応製品を発売しましたが、我々が商品開発に当たって重要なポイントとしているのは、すでにお話しした多様な商品を出すことに加えて、時代に先んじて前もって出す、ということです。使っている人が少ない状態でも、あえて早く商品を出してブランドイメージを作りつつ、世間に浸透させるという考えです。これからのブランディングについてもしっかり考慮しながら進めていきたいですね。
――Qiなどのワイヤレス給電についてはどうお考えですか。
ワイヤレス給電のニーズには気付いています。開発の段階にはまだ入っていないんですけど、本社の方も検討していますね。いずれ、我々のポリシーとしては必ず出すことになるでしょう。
――LEDライト付きのモバイルバッテリーも多いですよね。
弊社製品は今はほとんどLED付きが標準になっていますね。実は、熊本地震の時に多数のユーザーから「これがあって良かった」というメッセージがすごく届いたんです。こちらとしても地震の時に役立ったのがうれしくて、できる限りLEDライトを付けられる仕様であれば付けていきたいと思っています。
将来的には、スピーカー型のモバイルバッテリーも考えられます。バッテリーの周りにBluetoothスピーカーを取り付けて、バッテリーで動かす。持ち歩きながらスピーカーも使える。モバイルバッテリーをコアにした拡張というのが、我々にとっての挑戦になってくるかなと思います。
モバイルバッテリーはこのまま大容量化に進んでいくのか
――御社のモバイルバッテリーではどういう製品が売れ筋ですか?
けっこういろいろなシリーズを出していますが、どの商品もたいてい売れるんですね(笑)。最初、2014年に発売したのがハーモニカ型で、インターフェースを全部側面に用意したものでした。おそらくルミシング独自の形状だったこともあってか、発売当時はかなりブレイクして初期ロットは全部売り切れました。今も販売は続いていますが、そろそろ形を変えたい(笑)。ただ今年いっぱいくらいは続けようかなと思っています。
あとは、(iPhoneに似たカラーの)Grandシリーズですね。以前はQuick Chargeなどではなく、普通のUSB充電でしたが、最初から評判が良かったんです。他メーカーも当時ほぼ同じような形で出していましたが、弊社のものは3色展開なのが人気でした。
それら今まで売れたシリーズのなかでは、1万mAh以上の大容量のものがより好調で、色はシャンパンゴールドを選ばれる方が多かったですね。今後はユーザーに使っていただいた後のレスポンスを見て、付加価値商品とか、デザイン性の異なる商品とか、そういう商品の開発を進める計画をしています。
――では、バッテリー容量は今後も大きくしていくと。
弊社はPCの交換バッテリーはまだそこそこのシェアをもっていて、PCのモバイルバッテリー製品に踏み出すか、という戦略も検討しています。モバイル機器向けの大容量モバイルバッテリーの準備はしていますが、今はタイミングを図っているところで、いずれ市場に出回ると思います。早ければ来年でしょうか。
ただ、モバイルバッテリーはそろそろ大容量化が落ち着くというか、反対に軽量さや薄さを重視していくことになるんじゃないかなと思っています。できれば今年中には、そういう軽量な商品を出そうかなと思っています。
――つまり、1万mAh以上と5000mAh未満などに2極化するイメージでしょうか。
個人的な感覚では、1万mAh以上は、例えば旅行とかゲームとかにすごく使いますけど、だいたい普通のスマートフォンの使い方だと1日1台分充電できるモバイルバッテリーがあれば十分だと思うんですよ。逆に容量が大きいと、中途半端に消費した時に、その日モバイルバッテリーを充電するかどうか迷うのがストレスになるじゃないですか。だから1回分がちょうどいいんじゃないかと。
まだしばらくは今のモバイルバッテリー需要は続いていくと思うんですよね。将来的にもっとウェアラブル機器が普及すれば、変わった形のバッテリーが出てくるかもしれないし、そこは我々も楽しみにしています。
――たしかに、大容量になったはいいけれど、モバイルバッテリー自体の充電に時間がかかってしまうのも現状の課題ですね。
モバイルバッテリーは安全第一で作られています。電流が大きくなると危険性が高まりますし、ある程度(電流の)速度を抑えて、100%安全な範囲で充電していますから、なかなか充電には時間がかかります。今の段階では、それ以上に早いものをメーカーとしてもあまり開発したくない、ユーザーにも提供したくないということじゃないかなと思います。逆に急に充電の早い製品が出ると、こっちが心配になっちゃいますね。
工場から製品が届かなくなった“Pokémon GO騒動”
――「Pokémon GO」がスタートした時には大変な需要が発生したんじゃないかと思います。
大変でした(笑)。在庫もなくなるし、倉庫のものも足りなくなるし、(工場に)注文を出しても2カ月くらい商品が来ない、ということになったんです。世界中が欲しがっているみたいな状態でした(笑)。今は少し落ち着いてきましたが。
――供給という側面では、リチウムイオンバッテリーは現在は空輸が難しいですし、船便では時間がかかり過ぎる場合があります。輸送はどうしていますか。
そこは本当に大きな課題になっています。2016年4月から空輸できなくなっていて、米国ではすでに現地で工場を建てる計画でいます。日本は中国の工場に近いところにあって、(船便でも)だいたい1~2週間で届くんですね。だから日本はまだ中国生産でも間に合うんです。でもPokémon GOの時は厳しかったですね。そういう場面では市場の動きを予測して準備するしかないと思います。
――スマートフォンの一部機種では内蔵バッテリーが発火するという問題があり、安全に対しては世の中がセンシティブになっています。
我々の場合、スマートフォンより電圧も、電力も高い、PCの互換バッテリー事業をこれまでやってきています。ですから、そういうことが問題にならないような技術をもっていますし、そこは今のモバイルバッテリーに活かしているところでもあるんです。
工場の品質管理もきっちりチェックしています。製品の中に保護チップを入れて、過大電流が流れた時に停止する機構もしっかり備えていますので、安心して使っていただけます。
――これからもネット通販のみを続けていくお考えですか。店頭販売はされる計画は?
今までずっとネット通販に集中していて、そのノウハウがあり、なかなかそこを主軸から外すことができていません。しかし今後は店頭販売も検討しています。実店舗、例えば量販店への進出なども考えています。また、来年から自社サイトや、他の販売ルートも開拓していく予定です。日本は日本の(ビジネス慣習に沿った)やり方で進めていこうと思っています。
――本日はありがとうございました。