【英国大使館主催ビジネスフォーラム】
MCF岸原氏が語る、英国の通信・コンテンツ事情と可能性


 駐日英国大使館は、「英国モバイル・コンテンツ&スマートフォン ビジネスフォーラム ―英国からグローバル展開の機会を探る―」と題した講演イベントを開催した。英国におけるモバイルコンテンツの市場や、スマートフォン市場の動向、日本企業が進出する際のポイントなどが、コンテンツやモバイル広告といった各分野で活躍するキーマンから解説された。

駐日英国公使のデイビッド・フィットン氏

 講演イベントの冒頭には、駐日英国公使のデイビッド・フィットン氏から挨拶が述べられた。フィットン氏は、英国でもスマートフォンユーザーが急激に増えており、日本でもスマートフォンが普及しはじめたことで、英国でのビジネス展開に高い興味が集まっていると説明。「英国・ヨーロッパで何が起こっているのか、伝えることが重要。英国のモバイルコンテンツとスマートフォン市場の最新動向を話す」とイベント開催の経緯を説明したほか、5億人のEUマーケットに近いことや、人材を集めやすく、法人税率が低いといったメリットを紹介。「英国でのビジネス展開をぜひ検討してほしい」と、集まったモバイルコンテンツの関係者に語りかけた。


「インタラクティブな市場が日本の優位性」

モバイル・コンテンツ・フォーラム 常務理事の岸原孝昌氏

 講演の最初の登壇者は、モバイル・コンテンツ・フォーラム 常務理事の岸原孝昌氏。岸原氏は英国を視察したレポートをもとに、海外展開の可能性について解説した。それによれば、日本の状況と比較して、英国を含む海外ではパケット定額制が日本ほど普及しておらず、英国では、増設されているWi-Fiスポットでリッチコンテンツが利用される傾向が強まっているという。一方、日本市場は優れた通信環境や1億のユーザーなど、環境が整っていることで、サービスが検証され実現されてきたとし、「ユーザーの反応をみながら変えていくインタラクティブな市場が日本の優位性。スマートフォンになってもおおきな割合を占めるだろう」と、コンテンツを提供していく姿勢が日本の優位性とした。一方、スマートフォン市場ではこれまでとは異なるビジネスモデルが求められるとし、MCFとして、スマートフォン市場への参入をサポートしていく取り組みも紹介。キーワードは「端末×OS×地域(キャリア)」とし、グローバル展開では脅威と機会が併存するものの、コンテンツをこれらのキーワードに最適化していくことが重要とした。

 視察をもとにした英国のモバイル事情については、ポジションとして、EUの圏内に位置し、英語圏であるといった、さまざまな標準の中心に位置していると指摘。日本と海外の市場のギャップについても、スマートフォン化で障壁が取り払われつつあり、スマートフォン向けアプリを基本とした、グローバル統一プラットフォームが出現するとした。

 英国のビジネス環境については、スマートフォンが全体の34%にまで拡大しており、AppleやAndroidが人気を集めている様子を紹介。英国では、若年層を中心にBlackBerryも人気を集めているとのことで、AndroidやApple同様の勢いがついている。これは、無料で利用できる「BlackBerry Messenger」が若年層で流行していることが影響しているという。パケット定額制が日本ほど普及していなことから、コンテンツの容量もポイントとのこと。一方、前述のように英国では都市部で無線LANスポットの整備が進んでおり、大容量のコンテンツについては無線LANを基本として普及する可能性もあるとした。

 このキャリアによる無線LANの整備について、岸原氏は、「3Gのトラフィックが逼迫しているが、回線の増強をやめつつある。無線LANとの組み合わせを推進している」とキャリアの現状を指摘。英国ではむしろパケット定額が減少傾向にあるというグラフも示した。「3G免許の取得は、オークションで巨額の費用がかかっている」と因果関係を分析し、「日本でも周波数オークションが議論されており、どこかのタイミングで実施されるだろうが、インフラ投資が遅れることも考慮しないといけないだろう」と述べ、通信環境の整備という面では懸念が残るという考えを示した。また、英国では基地局の出す電磁波の問題が社会的な問題として取り沙汰されることも多いとのことで、基地局の建設がキャリアの思うように進まないという側面も紹介した。

 モバイルコンテンツが実際に提供される環境については、従来はアグリゲーターが介在するモデルだったものの、スマートフォンの普及でアプリマーケットモデルに変わりつつある。岸原氏が視察の際に訪れた複数の企業は、異口同音にサブスクリプション(定期購読/月額課金など)が有望だと語ったという。アイテム課金などのフリーミアムモデルも含めて、アプリダウンロード後の課金に注目が集まっているという。

 日本と大きく異なるのは、決済代行サービスの仲介代理業者が存在している点。業者により対応キャリアやサービスに違いがあるものの、これらの仲介代理業者を利用することで、キャリアと相対契約を結ばなくても、コンテンツプロバイダーがキャリアの公式課金のようなサービスを提供でき、その内容も複数の種類から選べるようになっている。また、前述のようにBlackBerryが若年層で広まっている点も指摘し、「日本のポップカルチャーとの相性がいいのではないか」と、日本企業のアプリ展開においても有望な市場になる可能性があるとした。

 岸原氏は、「日本のコンテンツは受け入れられやすい環境になっている。今後も日本のコンテンツプロバイダー向けに情報提供を検討していく」と語り、引き続き海外展開を支援していく姿勢を示した。

プレゼンテーション資料

 



(太田 亮三)

2011/3/4 20:34