【IFA2019】

ファーウェイ、世界初の5G内蔵チップ「Kirin 990」を発表

 ドイツ・ベルリンで開幕したIFAの会期初日にあたる6日(現地時間)には、オープニングキーノートが開催された。キーノートには、ファーウェイのコンシューマー・ビジネス・グループCEO、リチャード・ユー氏が登壇。主に同社のスマートフォンに採用される最新チップセットや、ノイズキャンセリング対応イヤホンが発表された。

リチャード・ユーCEOがオープニングキーノートに登壇した

 キーノートの冒頭で、ユー氏は、AIの処理に特化したNPUを搭載する「Kirin 970」を発表した2017年のIFAを振り返りつつ、「この2年で、AIを活用したアプリは増え続けている」と語った。2年間で、「ファーウェイのフラッグシップスマートフォンのAI-APIへのアクセス数も、1.6兆回にのぼる」と、実際に利用されている回数も増えていることが明かされた。

Kirinシリーズは、3年連続、IFAの会場で発表されてきた
フラッグシップモデルのAI-APIへのアクセスは、1.6兆回にのぼるという

 ただし、ユー氏によると、これは「モバイルAI 1.0」という位置づけだという。端末側で高速な処理ができる一方、速度や遅延の関係で、クラウド側にあるAIとの協調が十分取れてない。ここに5Gが加わることで、「モバイルAIを2.0にアップグレードすることができる」という。「リアルタイムなオンデバイスの処理に加え、クラウド側もリアルタイムに近くなる」ためだ。

「モバイルAI 2.0」では、オンデバイスだけでなく、クラウド側のAI処理もリアルタイムになるという

 このモバイルAI 2.0を実現するためのチップセットとして発表されたのが、ファーウェイ傘下のハイシリコンが開発した「Kirin 990」になる。

5Gモデムをワンチップ化したKirin 990

 同社の「P30」シリーズに搭載される「Kirin 980」も、「Balong 5000と組み合わせることで、マルチモードをサポートできる」というが、Kirin 990では、アプリケーションチップとモデムをワンチップ化。ユー氏も、「すでに商用化された、世界初のオールインワンチップ」と胸を張る。

Kirin 990を掲げるリチャード・ユー氏
ワンチップ化したのは、ファーウェイが初になる

 ワンチップ化したことで、実装のための「スペースを節約できる」といい、2チップのものに加え、36%程度小型化できる。Kirin 990には、5Gにまつわる様々な問題を解決する機能を搭載した。その1つが、「Smart Uplink Split」。5Gの電波が弱いセルエッジで、上りを分割して高速化を図る技術とのこと。弱電界での実験では、クアルコムの「Snapdragon X50」が2.4Mbpsだったのに対し、Kirin 990は16.4Mbpsと、7倍以上の速度が出た。

実装のための面積は36%小型化するという
上りの通信を分離する「Smart Uplink Split」

 また、基地局側から帯域幅や周波数位置などを指定し、トラフィックの状況に応じてそれらを変更する「Bandwidth Part(BWP)」にも対応する。これによって無駄に広帯域で通信する必要がなくなり、「消費電力効率が対競合(クアルコム)で44%向上する」という。

「Bandwidth Part」で、省電力化も図れているとした

 ユー氏は、Kirin 990でBWPをオフにしたときと比べても、15%省電力性能が向上するというデータを紹介した。さらに、時速120KMでの走行中にも、スループットが19%ほど向上する「Advanced Adaptive Receiver」と呼ばれる技術も採用した。

「Advanced Adaptive Receiver」で、高速移動にも強くなった

 Kirin 990は、5Gと4GのデュアルVoLTEにも対応。「1つのSIMカードで電話しながら、5Gでデータ通信することができる。これも、ほかのチップセットではサポートしていない」という。

4Gと5GのDSDVに対応

 Kirin 990は、4Gと5Gが協調する「NSA(ノンスタンドアローン)」方式に加え、5G単独で動作する「SA(スタンドアローン)」方式にも対応する。ユー氏が、「今の5Gだけでなく、将来の5Gに向けてデザインされている」と語るのはそのためだ。

5GはNSA方式だけでなく、SA方式もサポートするという

 モデムをワンチップ化したことに加え、アプリケーションチップ側のパフォーマンスも向上した。NPUは、ビッグコアとタイニーコアからなる「ダ・ヴィンチアーキテクチャー」を採用。処理能力が向上した結果、動画撮影時に複数の人物を認識し、背景だけを差し替えることも可能になった。こうした機能は、9月19日(現地時間)にドイツ・ミュンヘンで発表される「Mate 30」シリーズに搭載される可能性が高そうだ。

ダ・ヴィンチアーキテクチャーを採用
複数の人物を同時に認識し、背景を差し替えた。写真の人物は元々は5人いたが、2人だけカットされている

 ユー氏によると、GPUも「10コアから16コアにアップデートした」といい、ゲームなど、パフォーマンスを要求されるアプリも快適に動作するという。ISPは第5世代に進化。「低照度下でのノイズリダクションが30%、ビデオのノイズリダクションが20%向上した」という。

GPUは16コアに増加
ISPも第5世代に進化し、ノイズリダクションの性能がアップした

ウェアラブル向けのKirin A1

 Kirin 990に続いて発表されたのが、ウェアラブルデバイスなどに採用される「Kirin A1」だ。

ウェアラブル端末やイヤホンなどに採用される「Kirin A1」

 このチップセットは、Bluetooth 5.1、BLE 5.1に対応しており、左右独立型のイヤホン両方と同時に接続するデュアルチャンネルもサポートする。同機能は競合製品(アップルのH1チップとみられる)にも採用されているというが、ユー氏は、Kirin A1の方が、省電力性能に優れていると語った。

左右独立型のイヤホンがそれぞれ端末と通信でき、省電力性能も高いという

 このチップセットを採用した初の製品が、左右独立型のBluetoothイヤホン「HUAWEI FreeBuds 3」だ。アップルのAirPods風ともいえるイヤホンだが、最大の特徴は、「インテリジェントノイズキャンセレーション」に対応しているところにある。ノイズキャンセル機能はマイク側にも搭載され、クリアな音で電話をすることが可能だとした。

Kirin A1を搭載した「HUAWEI FreeBuds 3」
「HUAWEI FreeBuds 3」を掲げるリチャード・ユー氏

 このほか、ユー氏は、P30 Proの新色を紹介。同系色で質感を変えたツートン仕上げになっているのが特徴で、カラーはミスティックブルーとミスティーラベンダーの2色。ユー氏によると、P30シリーズは、6カ月で累計1650万台が出荷され、P20シリーズとの比較で53%拡大したという。

P30 Proには、新色が2色追加される