【英国大使館 ビジネスフォーラム インタビュー】

3D印刷とアバターを融合~Makielab社ローチ氏の新たな取り組み


 パソコン、スマートフォン、タブレットなど、あらゆる端末がインターネットへ接続されるようになった現代。メディア、そしてコンテンツの形もまた、大きく変貌を遂げた。例えばゲームは、テレビに接続した据置機やパソコンを使って1人で楽しむものだったが、手のひらサイズの携帯ゲーム機が登場。そしていまやスマートフォン上でオンライン越しの交流や対戦を楽しむ段階に至っている。

 ゲームは、スマートフォンで提供されるアプリの中でも特に人気のジャンルだ。英国でもその存在感は高いという。伝統的なゲーム開発会社から小規模の新興IT企業まで、さまざまな会社が魅力的なゲームを作ろうと切磋琢磨している。

 このゲームと、切っても切り離せない存在となりつつあるのが、今まさしく注目されている「ソーシャル」の要素だ。ゲームとソーシャルが組み合わさることで、果たしてどんな未来が開けるのか。今年5月に英国でMakielab社を創設し、玩具としてのドール(人形)を核としたサービス開発に取り組むジョー・ローチ氏に話を聞いた。

Makielab社のジョー・ローチ氏

ネットで作ったアバターを元に、本当のドールをお届け

 ローチ氏は、フリーランスのプロデューサー、コンテンツクリエイターとして長年活躍。近年は、英国のテレビ局「Channel4」が手がけるWeb向けのプロジェクトに参画してきた。そんなローチ氏自身が会社を設立して手がけているのが、3Dプリンターによるドール作成と、アバターと連携するサービスだ。

 ローチ氏のコンセプトは明快だ。ゲームの中で登場したキャラクター、車、ロボットなどを、現実に触れるおもちゃとして出力できたら面白い――。この取り組みの第一歩となるのが、女児向けのドール。ソーシャルゲーム上でアバターを作ってネットで注文すると、アバターそっくりのドールを3Dプリンターで作成し届けてくれるというものだ。

 アバターのサービスは、Makielabの関係者がもともと10年前から手がけていた。「若い子供達は、本当に多大な時間をかけてアバターで遊んでいるけれども、実際に手にすることはできない。これを何とかできないか」(ローチ氏)というのが発想の原点。その上で、アバターを元にしたドールが作れたなら、逆に、ドールがあることでアバターへの没入感がさらに増すと予測する。

 このドールは、頬骨の高さ、顎のラインなどもユーザー好みに調整できる。「今までは『自分と友達の持っている人形が同じでガッカリした』ということもあったろうが、これは本当に世界に1つだけのオリジナル人形が作れる」と語る。将来的には、ドールの外形だけでなく、着せる服なども同様にカスタマイズできるようにしたいという。

 このドール作成サービスは、今まさに開発プロジェクトが進行中。ユーザーからの試験的な受注は2012年5月頃を予定しており、ベースとなる素体は数種類の中から選べるようにする。これを100体程度製作し、正式サービス時の受注体制なども合わせて策定したいという。

 現在の課題としては、ドールの関節の処理、色の再現などがある。「3Dプリンターを使ったコンシューマー向けのサービスはあまり例がなく、これまでは医療用モデル製作などが中心だった。そのため、肌の色の再現が難しい」とローチ氏は語る。顔の“そばかす”も表現できるようにしたいという。

 さらに将来、ドール作成サービスがデジタルからリアルへ橋渡しを行うように、その逆の、リアルからデジタルへのアプローチも当然必要になるという。「例えばドールの位置情報の利用、複数体のドールがオフラインで相互連携した内容をオンラインに反映させるといった機能が考えられるのではないか」とローチ氏は語る。なお、ドール作成サービスと連動するデジタル版ゲームのパブリックベータは、2013年3月にスタートさせる計画だ。

ソーシャルメディアによるコミュニティ作りが重要に

ローチ氏が手にしているのは、現在取り組んでいるドール作成サービスの試作品

 こういった新種・新興のサービスを立ち上げるとき、サービス開発者自身はどんな手法で知名度向上を図っていくのだろうか。ローチ氏は大前提として「ドールを中心としたコミュニティ作り」が欠かせないと説明する。ドールをテーマに、人々や企業が交流してもらうことで、それ自体をマーケティングに活かそうという考えだ。そして、それを支えるのがソーシャルメディアだ。

 ローチ氏は「我々の取り組みを見て、ボールジョイント式の関節を提案してくれた企業も実際にある。こういった人々と積極的にパートナーシップを結んでいきたい」と、1つの例を示す。広告のスペースを買うといった従来型の宣伝手法ではなく、製品やサービスを直接手がける企業・団体とのパートナーシップに特に重点を置く姿勢を見せた。

 もう1つは、企業自らの発信。これについてもローチ氏は「このプロトタイプの人形はまだ色も真っ白だし、関節の調整もこれから。でも、そういった状況を含めて、我々自身が情報を発信していきたい」としており、進行中の事象を細かに発表していくことも重要だと指摘した。

 また、このドールそのものをプラットフォーム化し、着せ替え用の服、あるいはまったく新しい機能を、外部企業が容易に追加できるようにし、コミュニティを活性化するという考え方もある。それに対してローチ氏は「やはり、この人形で遊ぶ人々自身のニーズを把握し、それに対して応えていきたい」と、サービスのあり方自体を顧客に委ね、柔軟に対応していく方向性を示している。

英国ゲーム市場、位置ゲーは有望?

 ローチ氏は英国からドールとゲームの世界に携わっている。英国のゲーム市場では、現在どんなスタイルのゲームが楽しまれているかも伺った。

 ローチ氏によれば、スマートフォンで暇つぶし的にゲームを楽しむ人は多いという。Facebook上では、30代以上の女性の多くもゲームをプレイしているという傾向が出ている。ただし、課金ユーザーの割合は1%程度と見られるほか、日本企業がこれからFacebook向けゲームへ参入するには困難も多いとした。

 また、大変な人気を集めているのが、子供向けSNSでもある「Moshi Monsters」だ。基本的には10歳以下の子供を対象としたサービスだが、関連グッズや書籍の展開も始まっている。算数の計算といった教育的な要素も組み込まれているため、保護者から容認されやすいという背景も少なからずあるようだ。

 英語圏の企業が確固たる立場を築く英国市場だが、日本企業が進出する余地はあるのだろうか。ローチ氏は「仮に私が、英国のゲーム市場へ海外から新参入すると考えた場合、今生まれつつある新しい行動様式に着目すると思う。やはり、普及ペースが著しいスマートフォンやタブレットを対象としたゲーム、中でもAndroidはまだまだ未開拓の分野なので、そこを狙うべきではないか」と助言する。

 一方、日本ではGPSを活用したゲーム、いわゆる“位置ゲー”が多数あるが、英国にはほとんどないという。ローチ氏も「Foursquareはあるが、移動距離まで利用したロケーションベースのゲームは見たことがない。英国ユーザーも食いつくのでは」と、期待を寄せた。

 




(森田 秀一)

2011/10/31 06:00