世界のケータイ事情

国境をまたぐ海底トンネルの通信事情

 皆さんは世界最長のトンネルをご存知でしょうか? 正解はこれからお話しするトンネル、と言いたいところですが、これが意外とややこしい。

トンネル名所在地距離備考
ゴッタルドベーストンネルスイス57.09km2010年貫通。開通は2018年頃?
青函トンネル日本53.85km海底部23.3km
英仏海峡トンネル英国~フランス50.45km海底部37.9km

 今回、海底部の総距離が世界最長の、英仏海峡トンネル(The Channel Tunnel)を通る機会がありましたので報告します。

 ベルギーの首都ブリュッセルの南駅と英国の首都ロンドンのセント・パンクラス駅を2時間ほどで結ぶ国際列車ユーロスターに乗車しました。最高時速は300km。30分ほどでベルギー・フランス国境に到達、その後40分ほどでトンネルの入り口に到着します。過去にトンネル内での列車事故を経験していることもあって、トンネル内では最高時速160kmまで減速して運転されますが、それでも50km強のトンネル通過に要する時間はたったの20分です。

英仏海峡トンネル断面図

 英仏海峡にトンネルを建設するアイディアは1802年にアルベール・マチューが時の皇帝ナポレオン1世に提案したとされています。その後、1868年に英国海峡トンネル委員会が設立され、1881年に掘削が開始されましたが、資金難から断念されました。第二次世界大戦後30余年をへた1978年に新たに掘削が開始されましたが、同じ理由で断念に追い込まれ、ようやく1986年に開始された掘削で、1990年貫通、1994年営業開始に至りました。

 その後も多額の建設費用に苦しんだ運営会社が破たんするような事態にも至りましたが、現在は分かり易く安価な料金を設定することで、年々利用者を伸ばしています。これまで3.3億を超える人々が利用しており、英国人が1人4回利用している計算になります。

 この英仏海峡トンネルでは、携帯電話が利用できます。高速列車がトンネルで携帯電話が利用可能、というのは当たり前のように思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、日本でも海底トンネルである青函トンネルや新関門トンネルでは携帯電話は利用できません。

 また、新幹線のトンネルで携帯電話が利用可能なのは半分程度(東海道・山陽新幹線の東京~新山口、東北新幹線の東京~一ノ関、上越・長野新幹線の東京~高崎、九州新幹線の博多~新鳥栖)にとどまっています。Wi-Fiサービスも無料では提供されておらず、有料サービスが利用可能なのも東海道新幹線の東京~新大阪間のみです。トンネル内の携帯電話網の整備は現在も順次進められていますが、多額の費用がかかるため、中々追いついていないのが実情です。

 つい先日3月14日に開業した北陸新幹線は東京~金沢間を最速2時間28分で結ぶのですが、そのうち、トンネル区間を中心に1時間近くが「圏外」になるとも言われています。

ユーロスター

 英仏海峡トンネルは国際トンネルですので、フランスの通信会社と英国の通信会社との間でどこかで切り替えが必要になります。両国の真ん中の海底で切替えるのは技術的にも難しいので、トンネル全体を通していずれかの国が担当することになっています。英仏海峡トンネルは、実は3本のトンネルから構成されており、サービストンネルという保守等に利用するトンネルの両脇に列車用のトンネルが掘られています。列車用トンネルのうち、北側のトンネルを英国からフランスへ向かう列車が、南側のトンネルをフランスから英国へ向かう列車が通っています。北トンネルでは英国の事業者の提供する通信サービスが、南トンネルではフランスの事業者の提供する通信サービスが利用可能です。

 2012年に開催の決まったロンドンオリンピックに向けてトンネル内の携帯電話の整備を進めたのですが、技術面や終夜運転の合間を縫っての工事といった問題だけでなく、費用負担(南トンネルの整備費が1400万ユーロ:約20億円)の問題もあって足並みがそろわず、2012年7月のオリンピック開催には南トンネルしか間に合わず、結局北トンネルのサービス提供開始は2014年5月にずれ込んでしまいました。その汚名を返上するためか、LTEの提供開始は北トンネルの方が早く、2014年9月から利用可能になっています。

 2015年末に投入される新型車両では、全席でWi-Fiが無料で利用できるようになり、これで車内でも電話やメールだけでなく、様々なコンテンツにアクセスできるようになります。

 現在のロンドン~パリ、ロンドン~ブリュッセルに加え、新たに2015年5月にロンドン~マルセイユ、2016年末にはロンドン~アムステルダムの運行が開始されます。みなさんも、英国とフランス・ベネルクスを訪れる機会があれば、ぜひユーロスターで、海底からのインターネットアクセスにチャレンジしてみてください。