世界のケータイ事情

初めてのケータイ

 皆さんが初めて携帯電話を手にされたのはいつのことでしょうか。私が初めて自分のケータイを手にしたのは1995年秋のことでした。と言っても日本でではなく、赴任したアメリカでです。

 1995年3月末の日本のケータイ加入者数は433万(人口普及率3.5%)で、私も含めてケータイを持っている人は周囲にはいませんでした。アメリカはもう少し普及していて、同年6月の推定加入者数は2815万でしたが、それでも10人に1人程度の普及率でしょうか。そんな中、何でケータイを買ったのかと言いますと、緊急時のためです。ご存じのとおりアメリカは、ニューヨーク等の大都市を除くと完全な車社会なわけですが、ちょっと行くと人気のない道を走らざるを得ず、そんな時に車が動かなくなったら命にかかわるとケータイを買うことにしました。

 ケータイを手に入れるのは一苦労でした。お店に行って必要書類に記入して待っていると「契約できない」と言われてしまいました。理由を問うと「クレジットヒストリーがない」と。「クレジットヒストリー」は、日本語なら「信用履歴」とでもなるのでしょうが、日本の場合、主として料金の滞納が問題となるのに対して、アメリカでは滞納の有無だけでなく、「しっかりお金を払った実績」がないと諸々の取引(最たるものがクレジットカード)を拒まれることがあるのです(最近は日系の会社が、クレジットヒストリーがなくとも利用できる日本人向けのケータイサービスを提供しているようですし、プリペイドカードサービスもあります)。

 アメリカで暮らし始めて間もない私にクレジットヒストリーなどあろうはずもなく、その後訪れたケータイショップではことごとく断られましたが、めげずに入った何軒目かで事情を改めて説明すると「クレジットカードを持っていれば大丈夫」とのこと。日本で作ったクレジットカードは当然持っていた私は「早く言えよ」と悪態をつきたくなりましたが、クレジットヒストリーがない「どごぞの馬の骨」がクレジットカードを持っているとは思いもよらないことだったのかもしれません。

筆者が初めて手にしたケータイ

 苦労の末、手にしたケータイがこれです。もっとも、苦労して手に入れた割には使ったという記憶がありません。ポケットはもちろん、カバンに入れるのも厳しい大きさであることもあり、車に入れっぱなしだったのですが、幸い「緊急事態」は起きず、恐らく一度も使わなかったように思います。

 そして1999年に日本に帰国。最初に感じたことは「みんなケータイを持ってる!」でした。1999年3月末のPHSを含めたケータイ加入者数は4731万で、普及率は37.4%。4年前の10倍以上なわけで、大人なら相当の割合でケータイを持っていたと思われます。ちょうどiモードが始まり、みんなが電車でケータイをいじるようになったのもこの時期でしょうが、当時の私は「なくても別に困らんからなあ」。

 1年後。勤め先の会社は合併し、ケータイビジネスが売り上げの大半を占めるようになりました。時々観測記事が出たりしていたこともあり、合併そのものにはあまり驚きはありませんでした。しかしながら、ケータイに無縁だった自分が、合併と同時にケータイ事業部に異動し、その後10年弱にわたりケータイを仕事にすることになろうとは想像だにしていませんでした。人事異動の内示を受けて、日本での「初めてのケータイ」を買いに走ったのは言うまでもありません。

 あれから13年。この原稿がアップされる頃には、私の10台目のケータイとしてiPhone 5sを手にしているはずです(多分)。

※日本及びアメリカの携帯電話加入者数は、それぞれ総務省及びCTIA(アメリカの無線関連業界の団体)のホームページによる。