法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

コンシューマ家電をつなぎ、支えるモバイルデバイス

 1月6日から9日まで、米国・ラスベガスで開催されていた「2015 International CES」。モバイル業界にとっては、3月の「Mobile World Congress」(MWC)、9月の「IFA」と並ぶ重要なイベントのひとつだ。本誌をはじめ、僚誌「PC Watch」「AV Watch」「Car Watch」などの各誌に現地からの速報レポートが掲載されたが、ここでは2015 International CESから見えてきたモバイル業界の注目すべき動向について、考えてみよう。

新製品が少ないスマートフォン

 毎年1月に米国で開催されるInternational CES。一般消費者が利用するコンシューマ家電を対象にした展示会としては、毎年9月にドイツ・ベルリンで開催されるIFAと並び、世界最大規模の家電の展示会だ。なかでもここ5~6年はスマートフォンの普及が急速に進んだこともあり、北米向けに供給される製品を中心に、各社が相次いで新製品を発表するなど、モバイル業界にとっても欠かせないイベントのひとつとなっていた。

 ところが、昨年あたりからスマートフォンの完成度が高まり、市場も少しずつ成熟してきた印象もあってか、International CESでは新製品を発表するメーカーの数が減り、3月のMWCや9月のIFAに発表を集約する方向性が見えていた。とは言うものの、International CESの各メーカーのブースには、さまざまなスマートフォンやタブレットが並び、来場者が熱心に製品を試すシーンが多く見受けられた。同時に、昨年あたりからはウェアラブル端末が数多く登場し、これと連携する形で各社のスマートフォンが使われ、コンシューマ家電の『ハブ』のような存在として、定着した印象だった。

 そして、今年の2015 International CESでは、これまで、毎回プレスカンファレンスなどで新製品を発表してきたソニーやサムスンといったメーカーが何も新製品を発表せず、日本市場に関わりのある製品もほとんど新製品がないという状況になってしまった。

 これは、昨年来続いているスマートフォンの存在がコモデティ化し、スマートフォンそのもので目新しい個性を発揮するのではなく、スマートフォンがウェアラブル端末やIoTと呼ばれる製品群、テレビなどの家電製品のつなぎ役的な存在になってきた印象だ。

 だからと言って、スマートフォンの重要度が下がってきたというわけではなく、ウェアラブル端末やIoTデバイス、テレビなどのスマート家電を利用するときのユーザーインターフェイスはスマートフォンが担うわけで、リモコンとしてもビューアーとしても情報ツールとしても、ユーザーにとって、もっとも重要な存在であることに変わりはない。

日本市場に関わるスマートフォンは?

 そんな状況下であることを踏まえたうえで、今回発表された新製品や出品された端末、各社の動向を簡単に振り返ってみよう。

 まず、プレスカンファレンスの先陣を切ったのはLG Electronicsで、昨年、曲面ボディで注目を集め、au向けにも供給された「G Flex」の後継モデル「G Flex 2」が発表された。従来モデルが6インチのHDディスプレイを採用していたのに対し、今回は5.5インチのフルHD対応ディスプレイを採用したことで、従来モデルよりも持ちやすいサイズに仕上げられた印象だ。LG G3やその派生モデルであるauのisai FL/VLなどに搭載されている「Knock ON」や「Knock Code」などの機能が継承され、カメラも光学手ブレ補正を搭載するなど、ハイスペックモデルとして申し分ない環境を実現している。日本市場向けの投入については、何も正式にアナウンスされなかったが、従来モデルよりも持ちやすく、完成度が高められていることを考えると、SIMロックフリーモデルも含めて、ぜひ投入を期待したいモデルのひとつだ。

5.5インチディスプレイ搭載で、従来モデルよりもひと回りコンパクトになったG Flex 2。
ヘアライン加工が美しい背面は、浅いキズの自動修復が可能な塗装を採用。

 次に、ソニーについては、例年、北米市場向けのモデルも含め、スマートフォンの新製品を発表してきたが、今回はウェアラブル端末を北米向けに発表したのみで、スマートフォンに直接関係ある話題は、Xperia Z3にAndroid 5.0を提供することが明らかにされたのみだった。近年の発表から見ると、いささか寂しい印象は否めないが、この点については、平井一夫CEOがグループインタビューにおいて、昨年9月にIFA 2014で発表されたXperia Z3が昨年末に米Verizon向けで発売されたばかりなので、新製品の発表は見送ったとコメントしていた。

 新製品が発表されなかった理由のひとつとして、理解できる部分もあるが、実質的なところとしてはここ1~2年、矢継ぎ早にフラッグシップモデルを発表し、同時にデザインテイストを受け継いだミッドレンジモデルなども投入したため、ラインナップの整理を図ろうとしているのだろう。今年3月に開催されるMWCでの新製品の発表に期待したいところだ。ちなみに先日、スマートフォン参入が発表されたVAIOについては、平井一夫CEOはグループインタビューにおいて、「VAIOは別会社ですので、VAIO株式会社が経営判断をなさること」とコメントし、Xperiaをはじめとしたソニーのスマートフォンとはまったく関わりがないことが強調された。

グループインタビューでXperiaの新製品投入がなかったことを説明したソニーの平井一夫CEO。
新製品はなかったが、Xperiaの展示ブースはいつも人が多く、人気の高さをうかがわせる。

 国内市場向けでは後発ながらもMVNO向けを中心に着実に人気を集めているASUSは、同社のスマートフォン「ZenFone」の新モデル「ZenFone 2」、光学3倍ズームを搭載した「ZenFone Zoom」を発表した。

 こちらは他のプレスカンファレンスと日程が重なったため、筆者は見ることができなかったが、ZenFone 2は5.5インチのフルHD対応液晶ディスプレイを搭載するなど、従来のZenFone 5よりも1クラス上のモデルという位置付けになる。特長としては、SoC(CPU)にインテル製64ビットCPUのAtomシリーズ「Z3530」「Z3560」「Z3580」を採用し、世界初の4GB RAMを搭載したことなどが挙げられる。従来のZenFone 5に続き、MVNO各社向けに供給されるのか、あるいは国内の携帯電話事業者での採用があるのか、今後も動向が気になるモデルと言えそうだ。

ZenFone 2は5.5インチのフルHD対応液晶ディスプレイを搭載するなど、従来のZenFone 5よりも1クラス上のモデルという位置付け

 国内向けにはモバイルWi-Fiルーターなどを供給するZTEは、スマートフォンの「ZTE GRAND X MAX+」や「ZTE STAR II」、Android搭載プロジェクター「ZTE SPRO 2」などを発表した。プレスカンファレンスのレポートでも触れられているが、ZTE GRAND X MAX+は6インチのHD対応ディスプレイ、13メガピクセルカメラを搭載しながら、199.99ドル(約2万4000円)というリーズナブルな価格を実現していることが注目される。国内でもMVNO向けを中心に、ミッドレンジクラスのスマートフォンが注目を集めているが、今後、こうした『お手頃価格』のモデルが勢いを増してくることになるのかもしれない。

ZTE GRAND X MAX+は6インチのHD対応ディスプレイを搭載しながら、200ドルを切る低価格を実現。

 Huaweiは「Ascend」シリーズと並ぶ、もうひとつのブランドである「Honor」シリーズの新製品として、昨年12月に中国国内で発表された「Honor 6 Plus」を出品していた。5.5インチのフルHD対応ディスプレイを搭載したモデルで、背面に備えられた800万画素のデュアルカメラで撮影し、奥行のある写真を撮ったとき、フォーカス位置を自由に変更できる機能などを搭載する。

Huaweiのもうひとつのシリーズである「Honor」シリーズの上位モデル「Honor 6 Plus」。

 国内向けにはまだスマートフォンを展開していないLenovoは、別会場でプレス及び関係者向けに製品ラインナップを展示していた。米Motorolaの端末事業を傘下に収め、NECとはパソコンで協業するなど、着実に足固めをしてきた印象だが、この別会場では日本で販売されていないMotorolaブランドのスマートフォン「Moto X」、Android Wear端末「Moto 360」などが高い関心を集めていた。今後の日本市場への展開も期待したいところだ。

Lenovoは別会場で関係者に製品ラインナップを公開。日本では販売されていないMoto Xなどが注目を集めていた。

 また、すでに欧州では販売が開始され、国内でも注目を集めているPanasonicのLUMIX DMC-CM1は、北米向けにも販売が開始されることが発表され、同社ブースでも高い注目を集めていた。欧州、北米と来れば、いよいよ日本市場への投入が気になるところだが、Panasonicの社内でも議論が進められているという。少しでも早い時期に国内でも楽しめるようになることを期待したい一台だ。

Panasonicブースでは欧州に続き、米国でも販売が開始される「Lumix DMC-CM1」が展示されていた。来場者の注目度もかなり高かった。
シャープブースではSprintやboost Mobile向けなどに供給されるAQUOS CRYSTALが展示されていた。

百花繚乱のウェアラブル端末とIoTデバイスだが……

 従来に比べ、目立った新製品の数が減ってしまったスマートフォンに対し、昨年あたりから急激に増えているのがウェアラブル端末であり、今年はそれがIoTデバイスへと拡がってきている。

 ウェアラブル端末については、本誌の速報レポートにもあるように、腕時計型に始まり、グラス型(メガネ型)、ヘッドバンド、イヤークリップなど、実に多彩なタイプが出品されていた。こうしたウェアラブル端末の勢いを飲み込んでしまうような形で、さらに拡大しているのがIoTデバイスで、スポーツ分野では野球やゴルフ、テニス、スノーボードなどに利用できる製品をはじめ、生活シーンにおいても電球や電灯、電気ポット、歯ブラシ、哺乳瓶、バーベキューのガスメーター、プールに浮かべる環境センサーなど、ありとあらゆるものをネットワークに接続しようとしている。

 ただ、ここまで製品が拡がってくると、どういうタイプのウェアラブル端末がいいか、どういうIoTデバイスが優れているかという見方より、それぞれのジャンルにおいて、どんなニーズがあり、どの製品が応えられるのかが重要になってきた印象だ。

 たとえば、ウェアラブル端末ひとつ取っても、ランニングをする人と日常生活のみの人では求めるものも違うだろうし、ランニングに限っても人によって、かなり走りのレベルが違い、そこで求められる要素も違ってくる。自ずと選ばれる製品、期待される製品もかなり違ってくるわけだ。

クアルコムが示したIoTの世界観

 また、IoTデバイスについては、個々の製品ができることは理解できるものの、どちらかと言えば、単機能的な製品が多く、IoTデバイスによって、どんな世界を描こうとしているのかが今ひとつ見えにくい印象もある。そんなIoTのふわっとしたイメージをもう少しわかりやすく説明していたのが米クアルコムのIoT関連デモだ。

 クアルコムのブースに設けられた小部屋では、3つのシチュエーションに基づいて、IoTデバイスの連携について説明を行なっていた。そのひとつが、IoTピルケースを使ったデモだ。医療機関に通っている人が、決められた時間に薬を飲むために、通信機能搭載ピルケースを持っていたとする。ところが、薬をきちんと飲まないでいると、その人が居る部屋のテレビ画面の片隅に、医療機関(お医者さん)から「きちんと薬を飲むように」というメッセージが流される。それでも薬を飲まないでいると、今度はテレビ画面のメッセージに加え、室内の電灯が点滅して、薬を飲むことを促すというオチが用意されていた。「そんなピルケースは使いたくないし、医者に薬ごときで、とやかく言われたくない」と考えるかもしれないが、そういったシチュエーションの有無はともかく、ここで大切なのは一見、関係ないジャンルの製品でありながら、それぞれの機器が連携し、ひとつの利用シーンを形成していることが挙げられる。

 テレビは一般的な家電製品だが、通信機能搭載ピルケースや照明器具はIoTデバイスの範疇に入る。これまでの世界観では、それぞれの機器が独自に規格を決め、情報を表示していたが、IoTの世界ではさまざまな機器が存在するため、その組み合わせも膨大なものになる。

 そこで、それぞれの機器が相互に必要な情報をやり取りするために、IoT推進団体「AllSeen Alliance」が設立され、技術的なことが協議されている。このAllSeen Allianceには米クアルコムのほかに、Panasonicやシャープ、ソニー、LG Electronics、マイクロソフト、ハイアール、Electroluxなどがプレミアメンバーとして加盟するほか、世界各国の家電メーカーや関連企業が参加している。ちなみに、このAllSeen Allianceで協議されている技術には、米クアルコムが開発し、International CESなどでデモを行なっていた「AllJoyn」の技術が活かされており、同社としても積極的に関わっている。

米クアルコムのブース内で行なわれていたAllSeenによるIoTデバイスのデモ。冷蔵庫のドアが空いていると、テレビにメッセージを表示するなどの連携が可能。

 ただ、こうしたIoTデバイスや家電製品の連携を実現するには、その他の機器のしくみも少しずつ変わっていかなければならない。なかでも家庭内の情報デバイスとして、もっとも存在感の大きいテレビは、画質や解像度といったスペック面以外にも大きな進化が求められる。それが前回の本連載「テレビを変えるモバイルプラットフォーム」で触れたスマートテレビというわけだ。

 これまでのテレビは、出荷時に決められた機能のみが利用できる組み込み型の設計であるのに対し、今後、IoTデバイスなどが普及してくると、各社が提供する新しいサービスや機能に対応できるフレキシブルな環境が求められる。ここに来て、主要メーカーがこぞって、モバイルプラットフォームを搭載したスマートテレビを開発し、出品してきた背景には、こうした将来を見据えた拡張性の要因も関係している。

シャープはソニーなど共にAndroid TVを採用したスマートテレビを発表。
PanasonicはFirefox OS搭載のスマートテレビを発表。多彩なコンテンツを自由に楽しむことができる。

 ところで、ウェアラブル端末やIoTデバイスの記事では、スタートアップ企業などの新しい製品や変わった製品が取り上げられることが多いが、以前から腕時計などのユーザーに近いポジションで製品を展開してきたカシオ計算機がスマートフォンと連携する「G-SHOCK」のデモを行ない、来場者の注目を集めていた。G-SHOCKがBluetooth LE対応により、スマートフォンにメールなどの着信を知らせる通知機能が搭載されたことは、読者のみなさんもご存知だろうが、最新の環境ではサードパーティ製アプリ「IFTTT」と連携し、スマートフォンで得られた情報を基に、G-SHOCKに最新情報を伝えるというしくみを実現している。たとえば、サッカーの試合のニュースが入ってきたら、G-SHOCKに通知するといった使い方ができる。

 また、iPhoneなどの音楽再生機能と連動し、G-SHOCKで音楽再生をコントロールする機種が販売されていたり、時刻やアラームなどの情報を専用アプリで設定し、G-SHOCKに設定を反映するといった環境も実現されている。ちなみに、同社製品のスマートフォンとの連携が充実した環境は、かつてカシオ計算機やカシオ日立、NECカシオなどでケータイやスマートフォンの人気機種を生み出してきた商品企画担当の人々が携わっていることも関係している。スマートフォンやケータイの特長をよく理解しているからこそ、実際の利用環境に適した製品や機能を搭載できていると言えそうだ。

カシオ計算機のブースではG-SHOCKとスマートフォンのBluetooth LEによる連携をデモ。IFTTTのアプリと連携し、G-SHOCKに通知が可能。

コンシューマ家電を支えるモバイルデバイス

 International CESは元々、コンシューマ家電の展示会だが、時代と共に、その主役が入れ替わってきたと言われている。かつてはテレビなどが家電の主役であり、2000年代前半はパソコンを中心としたIT企業、2000年代半ばからはケータイやスマートフォンなどのモバイル関連が注目を集めてきた。数年前からは自動車メーカーを中心としたクルマ業界の出展が増え、昨年と今年はウェアラブル端末やIoTデバイスが話題となっている。

 今年の2015 International CESはスマートフォンやタブレットなど、モバイル関連の新製品が少なく、「いよいよ主役交代か」と見る向きもあるが、ここ数年、International CESで存在感を増している自動車やウェアラブル端末、今年話題となったIoTデバイス、今後の展開が気になるスマートテレビなど、いずれの環境にもスマートフォンなどのモバイルデバイスは関わっている。モバイルデバイスは、ユーザーにとってもさまざまな機器と接続するためのユーザーインターフェイスであり、もっとも優れた情報ビューアーであることは変わりない。スマートフォンやタブレットなどの最新動向も気になるところだが、モバイル業界で培われてきたノウハウや知見が今後、どのように活かされ、他業界でどう変えていくのかも非常に興味深いところだ。

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。