デュアルコアCPUやiOS 5で進化を遂げたiPhone 4S

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 10月14日、アップルのiPhone 4Sが発売された。10月4日に米国で発表されて以来、米国では24時間で100万台の予約を記録し、日本でも予約開始の10月7日から各店で行列ができるなど、従来モデル以上に発売前から期待の大きかったモデルだ。特に、国内はソフトバンクに加え、auもiPhone 4Sを販売することになったため、今まで以上に注目度が高まっている。本誌ではすでにiPhone関連でおなじみの白根雅彦氏によるレビューや解説記事も掲載されているので、そちらもぜひご覧いただきたいが、ここではiPhone 4Sが登場した背景なども踏まえながら、実機のインプレッションをレポートしよう。

意外だったau版iPhoneの同時リリース

ソフトバンク版iPhone 4S(左)とau版iPhone 4S。左上の事業者名の表示を除き、外見も標準のホーム画面の内容もまったく同じ

 10月14日から販売が開始されたアップルのiPhone 4S。早いタイミングで予約したり、当日分を入手した人などを中心に、すでにネット上でも数多くのレポートが公開されている。国内では昨年来、Androidスマートフォンが各社から発売され、iPhoneは安定した人気を保っていたものの、話題性という点ではAndroidスマートフォンが一歩リードしていた。

 しかし、今回のiPhone 4Sの発売に至るまでの動静や発売直後の反響は、改めてiPhoneに対する関心と期待の高さを改めて見せつけられた印象だ。少なくとも現在のAndroidスマートフォンで、これほどまでのインパクトを持って、市場に迎え入れられる製品は、ほぼないだろう。

 そして、奇しくもiPhone 4Sが発表された直後、米Appleの創業者であり、会長のスティーブ・ジョブズ氏が56歳の若さで死去したことが発表され、多くの人のiPhone 4Sへの思いを一段と募らせることになった。ちなみに、スティーブ・ジョブズ氏というと、iPodやiPhoneのことばかりが強調されているが、筆者と同世代の人にとっては、Apple IIからMacintosh、Apple社からの追放と復帰、NeXT社やピクサー社の設立など、パーソナルコンピュータの進化からビジネス、ライフスタイルに至るまで、多大なる影響とさまざまなドラマ、多くの話題を振りまいてきた人物であり、まさに「象徴」と呼べる存在だった。心からご冥福をお祈りしたい。

 さて、今回発売されたiPhone 4Sについて、日本のユーザーにとって、もっとも大きなインパクトをもたらしたのは、他でもないKDDIによるiPhone 4Sの販売、つまり、au版iPhone 4Sの存在だろう。本誌読者なら、よくご存知の通り、iPhoneは国内にはじめて登場したiPhone 3G以来、ソフトバンクが独占的に扱い続け、同社の純増シェアNo.1を連続獲得する原動力になったわけだが、今回のiPhone 4Sからはその独占状態が崩れることになった。

 では、au版iPhone 4Sが業界的に見て、『青天の霹靂』と呼べるようなインパクトだったかというと、必ずしもそうではない。さまざまな情況証拠を積み重ねると、auによるiPhoneの販売は時間の問題だったと言えるからだ。

 まず、今年1月の2011 International CESが終わった直後、以前から噂されていたCDMA版iPhone 4が米Verizonから発売されることが発表された。すでに販売されているW-CDMA版のiPhone 4とはほぼ同じながら、CDMA2000 1x EV-DO Rev.Aに対応したモデルだった。ちなみに、このとき、本誌の「けーたい お題部屋」で「CDMA対応版iPhone、日本でも発売して欲しい?」という質問をしたところ、「もちろん」が64.6%、「あってもいい」が20.5%と、約8割以上が肯定的な回答をしていた。

 ただ、この米Verizon向けのCDMA版iPhone 4は、日本で採用するために、いくつかクリアしなければならない課題があった。たとえば、CDMA方式で利用する周波数帯は、元々、日本と米国で上り方向と下り方向が逆で、これを是正する800MHz帯の周波数再編が実施されており、auでは2012年7月に完全切り替えを実施する予定だが、米Verizon向けのCDMA版iPhone 4は、この新800MHz帯しか利用できない仕様だった。また、auのショートメッセージサービスである「Cメール」は、グローバルで標準のショートメッセージサービスと違い、上り方向にパケット通信と同じしくみを採用しているため、そのまま、利用することができなかった。さらに、auでは一部の例外を除き、フィーチャーフォンもスマートフォンも契約者情報を記録したau ICカードを採用していたのに対し、米Verizon向けのCDMA版iPhone 4は、au ICカードなどを導入する以前のように、端末本体に直接、電話番号などを書き込む通称「ROM書き」を採用していたため、auへの導入は難しいとされていた。

 しかし、そんな状況に変化が見えてきたのが今年4月に+WiMAX対応のhtc EVO WiMAX ISW11HTが発売されたときだ。このhtc EVO WiMAX ISW11HTは、国内初のWiMAX対応スマートフォンだが、それと同時に、auが今後、グローバルモデルを積極的に導入する試金石になる端末でもあった。

 まず、周波数帯については現在、移行中の新800MHz帯と2.1GHz帯に対応し、旧800MHz帯は利用できないという仕様で発売された。本来なら、こういった仕様の端末は、2012年7月の切り替え完了以降に発売するものだが、他の端末とエリアが異なることを告知したうえで、販売に踏み切っている。これに加え、契約者情報は直接、本体に電話番号を書き込むROM書きを採用していた。つまり、CDMA版iPhone 4を日本に導入するための課題が一気に2つもクリアされたわけだ。ちなみに、結果的にiPhone 4Sは「World Phone」と呼ばれるように、CDMA版とW-CDMA/GSM版が1つのハードウェアで実現され、auもmicroSIMカードを採用したため、このROM書きの問題はハードウェアのレベルでクリアされている。

 こうなると、残すはCメール送信だけなのだが、これについてもグローバルと仕様を揃えるため、2012年前半に仕様を変更するという情報が伝えられており、iPhone 4の後継モデルにCDMA版があれば、auが販売する可能性は十分あると見ていた。

 こうした状況において、一部のメディアで『iPhone 5がKDDIから発売される』というニュースが伝えられ、9月後半はちょっとした騒ぎになってしまったのだが、この段階でも筆者や周囲の関係者は「出る可能性は十分にあるだろうけど、年明けだろう」と高をくくっていた。しかし、この読みは見事に外れ(笑)、いきなり、ソフトバンク版と同時にau版iPhone 4Sが登場することになってしまった。

 こうした状況が生まれてきた背景には、iPhoneが国内市場において、一つの節目を迎えつつあったことが挙げられる。よく一般メディアの報道を見ていると、iPhoneを扱うために、各携帯電話事業者が米Appleに詣でて、厳しい取引条件を突きつけられながら、苦労して、iPhone導入を勝ち取ったようなストーリーかまことしやかに語られている。

 しかし、視点を変えてみると、米AppleがKDDIと取引をする流れは、ある意味、自然だったとも言える。現在、ソフトバンクは約2300万の契約を獲得している。このうち、何台がiPhoneの契約なのかは明らかにされていないが、すべてがiPhoneになるわけもなく、現実的に考えれば、どんなに増えたとしても半分近くの1000万契約程度が限界になると推察される。米Appleも一つの企業であるため、当然のことながら、昨年より今年、今年より来年と、毎年、売り上げを伸ばすことが求められるはずだが、過去3年間でソフトバンクが独占的に販売してきたiPhoneを今まで以上に販売するには、新しい市場を開拓する必要がある。その有力な選択肢は言うまでもなく、NTTドコモとKDDIであり、今回はその中からKDDIが選ばれたというわけだ。

 NTTドコモが選ばれなかった理由として、「iPhoneにiモードが載らないからだ」という指摘もあるが、NTTドコモ自身、スマートフォン向けにiモードは提供していないことを考えると、まったく的外れの指摘でしかない。むしろ、NTTドコモはラインナップにiPhoneを加えたいという考えがあるものの、販売価格や料金などの面で条件の折り合いがつかなかったと筆者は見ている。特に、他社以上に公的な色合いが濃いNTTドコモとしては、特定の機種のみに対し、特別な料金体系を設定することが難しいのではないかと推察される。同時に、これだけAndroidスマートフォンが充実してきた現状では、逆にiPhone導入にメリットを見いだせないと判断したのかもしれない。

iPad 2と同じA5デュアルコアプロセッサを搭載

 続いて、具体的な商品について、触れておこう。すでに本誌にはiPhone関連でおなじみの白根雅彦氏による速報レビュー、iOS 5及びiCloudの解説記事が掲載されているので、そちらもぜひ合わせて、ご覧いただきたい。

 まず、iPhone 4Sの本体についてだが、その型番からもわかるように、基本的に従来のiPhone 4と同じボディを採用している。外見上で違いがあるのは、周囲のフレーム部分の切れ目と側面スイッチの位置のみで、それ以外はまったく同じだ。もちろん、底面のDock端子もiPod/iPadなどと同じ形状を採用しており、ケース類なども含め、基本的には同じオプション類を使うことができる。ただ、アップル純正のBumperのような周囲をカバーするオプション類は、側面スイッチの位置が微妙にずれているため、穴の位置が合わないケースがある。

底面のDock端子は形状も位置も変わらないので、iPhone 4の周辺機器はそのまま使うことができる上面には3.5φのステレオイヤホンマイク端子を備える。iPhone 4(下)にあったフレームの継ぎ目は右側面に移動している
iPhone 4(下)とiPhone 4Sでは左側面のスイッチの位置が微妙に異なる。アップル純正のBumperをはじめ、側面をカバーするオプション類は注意が必要右側面はiPhone 4(下)と比較して、microSIMカードのスロットの位置が同じだが、ボディフレームの上面側(写真右側)の継ぎ目の有無が異なる

 今回のiPhone 4Sの発表に際し、噂されていた「iPhone 5」ではなかったことを残念がる声が多く聞かれたが、従来モデルでiPhone 3GからiPhone 3GSへ進化したことを考慮すれば、iPhone 4はiPhone 4Sへ進化するのが自然な流れだ。特に、iPhoneの場合、過去のアップル製品を見てもわかるように、かなり高密度にパーツを実装するため、さまざまなパーツの調達によって、デザインが一新されるかどうかが決まる。なかでも液晶パネルはボディサイズを大きく左右するが、iPhoneの液晶パネル調達の話題が頻繁に報じられたのは昨年末以降であり、過去の経緯から見て、従来モデルを踏襲したボディで発表されたことは、当然だったという見方もできる。iPhone 3Gが登場した3年前に比べ、インターネットで『次期iPhone』に対する噂が数多く語られるようになったことも影響し、さまざまな憶測が積み重なって、「次のiPhone 5はこんなにスゴいらしい」という噂ばかりが先行してしまった感は否めない。

 外見は同じだが、内部は大きく変更されている。CPUはiPad 2と同じA5デュアルコアプロセッサになり、カメラは800万画素のセンサーが搭載された。A5デュアルコアプロセッサについては、すでにiPad 2で十分な実績があるが、iPhoneでは従来比、CPUパワーで約2倍、グラフィックで約7倍のパフォーマンスを引き出しているという。実際にiPhone 4と比べて使ってみると、本誌トップページ(PC版)のように、写真やグラフィックの多いWebページなどはキビキビと表示される印象だ。これがiPhone 3GSとの比較になると、当然のことながら、その差は一段とハッキリする。

 ちなみに、スマートフォンのデュアルコアについては、パソコンのようにハイパフォーマンスを追求するばかりではなく、与えられた処理を早く終わらせることによって、省電力に寄与することが挙げられるが、iPhone 4Sではスペック上、3Gでの通話時間が1時間伸び、連続待受時間が最大300時間から最大200時間になっている。アプリなどを使った実用レベルでの差はあまり感じられないが、連続待受時間が短くなっているということは、頭の片隅に覚えておいた方がいいだろう。

 次に、カメラについてだが、歴代のiPhoneに搭載されてきたカメラは、画素数こそ、高くないものの、米アップルが持つ画像処理技術などを活かし、うまくチューニングされてきた印象がある。ただ、スペック面では国内のフィーチャーフォンやスマートフォンに搭載されているカメラに一歩譲り、暗いところでの撮影など、あまり得意としないシチュエーションもあった。今回のiPhone 4Sでは、800万画素の裏面照射型センサーと5枚構成レンズを組み合わせたカメラ機能が搭載されている。この裏面照射型センサーは、おそらく多くのスマートフォンやフィーチャーフォンに採用されているソニー製のモジュールが採用されていると推察される。一般的に裏面照射型センサーは従来の表面照射型のCMOSセンサーに比べ、暗いところでの撮影に強いとされているが、iPhone 4と比べてみると、その差は歴然としている。標準的な照明の屋内でも明るさやノイズで明らかな差があり、普段のスナップ写真もきれいに撮影することができる。

 撮影機能については、従来からiPhoneはシンプルなユーザーインターフェイスで、オートフォーカスやタップしてフォーカスする機能などが備えられていたが、今回から顔検出も追加され、ポートレート撮影などにも効果を発揮する。

 撮影した画像については、従来から「メールで送信」や「壁紙として使う」などの利用ができたが、iPhone 4Sの発売を機に公開されたiOS 5では、編集機能が追加され、トリミングや回転、縦横比の変更、自動補正などができるようになった。多彩というほどではないが、通常の利用では十分な編集機能が揃っている。気になるとすれば、VGAなど、指定サイズへの変更ができないことくらいだろう。

 また、カメラが800万画素化されたことにより、静止画だけでなく、ビデオ撮影も720p/30fpsから1080p/30fpsへ向上した。本体のみ、あるいはパソコンに転送して編集するなどの活用法があるが、オプションで販売されている「Apple Digital AVアダプタ」を利用すれば、HDMI端子を持つ薄型テレビなどに映し出すこともできる。撮影したビデオを他の場所で再生することがあるユーザーは、1つ持っておいても損はないかもしれない。

 ハードウェア面で1つ気になるところがあるとすれば、やはり、ディスプレイサイズだろう。昨年、iPhone 4が登場したとき、960×640ドット表示が可能な3.5インチ液晶ディスプレイはスマートフォンでも最高クラスのスペックだったが、約1年4カ月が経過したことで、ディスプレイサイズは4インチ以上が主流になり、解像度は1280×720ドットのHD表示が可能な製品も登場してきた。前述のように、ディスプレイサイズはボディサイズに大きく影響を与えるため、今回は従来のスペックを継承したが、この秋冬に登場する他のスマートフォンと少し差があることを意識しておきたい。ただし、スペックでは一歩譲るものの、iPhone 4Sのディスプレイは視認性や発色も良く、iOS 5の画面デザインとも相まって、実用上はまったくストレスなく、使うことができる。

UMTS/HSDPA/HSUPAとCDMA EV-DO Rev.A両対応を実現

 さて、今回のiPhone 4Sでハードウェア面でもっとも大きく変わったところと言えば、前述の通り、UMTS/HSDPA/HSUPA、つまり、従来モデルから継承したW-CDMA/GSM版と米Verizon向けに供給されたCDMA版を1つのハードウェアで実現したことだろう。

 従来のiPhone 4は先般、米Intelに買収されたInfineon製のベースバンドチップが搭載されていたが、今年2月に登場した米Verizon向けのCDMA版iPhoneでは通信方式が異なることもあり、米Qualcomm製MDM6600が採用されていた。実は、このMDM6600はCDMA2000 1x EV-DO Rev.A/Rev.B方式に加え、HSPA+/W-CDMA/GSMなどをサポートするデュアルモードのベースバンドチップで、今回のiPhoneで実現された「World Phone」と呼ばれるW-CDMA/GSM&CDMA両対応の布石となっている。つまり、従来モデルでは通信方式ごとに、個別に端末を開発する必要があったのに対し、iPhone 4Sでは1つのハードウェアで両方式に対応できることになり、日本向けには通信方式が異なるソフトバンクとauに同じハードウェアを供給することが可能になったわけだ。

 それぞれの通信方式によるモバイルデータ通信の違いについては、理論値ではあるものの、ソフトバンク版が下り方向で最大14Mbps(14.4Mbps)であるのに対し、au版はCDMA 1x EV-DOを採用するため、最大3.1Mbpsとなる。改めて説明するまでもないが、これは理論値であり、実際にこの速度が保証されているわけでもなければ、何回、あるいは何十回に一回の割合で、この速度に達することもない。通信業界、なかでも携帯電話業界ではすでに理論値で語ることの意味のなさを十分に理解されているはずなのだが、それでも発売前にソフトバンクが行なった説明会で「ソフトバンクの方がダウンロード速度が約5倍になる」とまで言い切ってしまったのは、ちょっといかがなものだろうか。

 実際の通信速度についてだが、発売から約1週間ほど、端末を持ち歩き、速度測定アプリなどで何度か計測してみたが、au版は全体的に安定して、1~2Mbps程度の速度が得られるのに対し、ソフトバンク版は4Mbps近い速度が得られる場所もあれば、数百kbpsしか出ないような場所もあり、かなりバラツキがある印象だ。白根氏のレポートにもあるように、筆者が利用した範囲でも比較的、au版の方が低遅延のようで、pingの結果もソフトバンク版で400ms以上になることがあるのに対し、au版は100~200msで安定していた。

 ただ、ここで示した内容はあくまでも筆者が限られた範囲で利用したものであり、利用する場所や時間帯などによって、その結果は大きく異なる可能性があることをお断りしておく。iPhone 4Sの発売以来、ソフトバンク版とau版のどちらが速いといった論争がネット上でくり広げられているが、電波を利用する携帯電話は刻々と状況が変化するため、まったく同一条件の環境でテストすることが難しく、数回、数カ所のテストでどちらが速いのかを決定づけてしまうのは、かなり乱暴な判断だ。さまざまな場所で何度もテストをくり返し、全体の傾向として、つかんでいくしかないだろう。

 同じ通信関連では、今やiPhoneを扱う携帯電話事業者にとって、欠かせないWi-Fi(無線LAN)にも対応する。通信方式としては、iPhone 4同様、IEEE802.11b/g/nに対応しており、iPad/iPad 2が対応するIEEE802.11aには対応していない。同様に、WPSなどのWi-Fiの簡易設定にも対応しておらず、ユーザー自身でESSIDやパスワードを入力しなければならない。iPhoneがより幅広いユーザー層に受け入れられるようにするために、今後はこうした部分にも強化を望みたいところだ。

ミュージックでは複数のBluetooth機器を接続しておき、出力先を切り替えることが可能

 Bluetoothについては、最新版のBluetooth 4.0に対応する。先日、スマートフォンとの連携が可能なカシオ計算機製の腕時計「G-SHOCK」が発表されたが、このモデルで採用されている「Bluetooth Low Energy」がBluetooth 4.0にも採用されており、低消費電力で動作させることができる。これに加え、iOS 5では複数のBluetooth機器を登録しておき、切り替えながら利用できるようになっており、Bluetoothの使い勝手は一段とよくなっている。このあたりは「iPod」という音楽プレーヤーとしてのDNAがしっかりと生きている印象だ。

iOS 5で使い勝手が向上

 今回のiPhone 4Sで欠かすことができないiOS 5とiCloudについても少し触れておこう。iOSはいうまでもなく、iPhoneやiPod touchで利用できるOSだが、iPhone 4Sでしか利用できないわけではなく、iPhone 3GS以降の機種であれば、iTunesに接続して、アップデートすれば、すぐに利用することができる。

 かねてからiPhoneは、パソコンが必須であることが課題の一つとされてきたが、今回のiOS 5からパソコンが必須でなくなったため、今後は他のスマートフォンと同じように、パソコンなどを接続しなくても本体のみでアップデートができるようになる見込みだ。ちなみに、iPhone 3GS登場時にはiPhone 3Gに最新版のアップデートを書き込むと、かなり動作が重くなる印象があったが、今回、試した範囲ではiPhone 4をiOS 5にアップデートしてもそれほどストレスを感じることはなかった。iPhone 3GSについては試していないが、発売から2年が経過したことを考慮すれば、iPhone 4Sへの買い替えを検討したいところだ。

新たに追加された「通知センター」。天気予報や株価、着信、メールなど、さまざまな情報が一括して表示される

 iOS 5のアップデート内容についても白根氏による詳細なレポートが掲載されているので、そちらを参照していただきたいが、大きなところでは通知センター、iMessage、リマインダーなどが挙げられる。

 通知センターはメールやSMS/MMS、iMessage、音声着信、カレンダー、リマインダー、天気予報、Facebookなど、さまざまなアプリの情報が通知されるしくみで、ホーム画面のときは画面上から下方向にドラッグすることで、通知内容が一覧で表示される。ロック画面のときも画面中央にその内容の一部とともに表示されるのだが、設定画面で通知するか否か、通知のスタイルなどをアプリごとに個別に設定することができる。特に、日本のユーザーの場合、ロック画面に不在着信やメールの内容の一部が表示されることを敬遠する傾向にあるので、個別設定は欠かせないものだ。ちなみに、この通知する範囲については、アプリが対応していれば、通知されるため、待機中に動作しているゲームの情報などが通知されるケースもある。

 iMessageはiOS 5で動作するインスタントメッセンジャーで、Apple IDをユーザー名として利用する。おそらく、読者のみなさんの周りにもiPhoneは持っていないが、iPod touchやWi-Fi版のiPad/iPad 2を使っている友だちや家族がいるだろうが、こうした人たちともSMSと同じ感覚でメッセージがやり取りできるのは意外に面白そうだ。また、Mac OS Xには標準的なインスタントメッセンジャーがないため、将来的にMac OS XやWindowsといったiTunesの動作するパソコンでもiMessageが利用できるようになり、こうした機器ともメッセージの送受信が可能になるかもしれない。ちなみに、iMessageは今のところ、au版では利用することができず、今後のバージョンアップでの対応を検討しているという。

 リマインダーはいわゆる「To Doリスト」「備忘録」だ。iOSには従来から標準で「メモ」アプリが用意されていたが、単純にメモが取れるだけで、カレンダーなどとの連携は取ることができなかった。リマインダーは何かやっておかなければならないことなど、日常生活や仕事の用件を書き留め、用件を片付けなければならない締切を入力しておくことで、常に手元にあるiPhoneでいつでも参照したり、期日や指定された時間に知らせてくれるというものだ。ここまでなら、普通のチェック機能がついたTo Doリストでしかないが、iOS 5のリマインダーではロケーションとの連動も実現されており、特定の場所に行ったとき、何かをするといった設定ができる。たとえば、どこかのお店に行ったとき、何かを買うという用件もあるだろうし、どこかの会社を訪問するときに、何かを持っていくといった情報を設定しておくことができる。これはユーザーの工夫次第で、便利に使うことができそうだ。

 そして、iOS 5の登場を機に、アップルが提供を開始したのが「iCloud」だ。iCloudはその名の通り、いわゆるクラウドサービスで、従来のMobileMeを進化させ、最大5GBまでのストレージを無償で使うことができる。すでにEvernoteやGmail、Googleドキュメントといったサービスを利用している人なら、クラウドサービスもイメージしやすいが、iCloudはそういったサービスをまったく知らないユーザーでも簡単に利用できることを狙っている。

 もっともわかりやすいのはフォトストリームで、iPhoneやiPadなどで写真を撮影すると、iCloudの領域に保存され、同じアカウントを登録した他の機器で閲覧できるようになる。パソコンについては自動的に保存され、iPhoneなどのモバイルデバイスは最新の1000枚が共有される。ただ、フォトストリームは有効にしてしまうと、撮影した端末側で写真を削除してもiCloudの領域からは削除されず、他の機器にも表示が残ったままになる。写真には必ず失敗があり、それがしばらく残ってしまうのは困りものだが、それ以上に、外出先でiPhoneやiPadを使い、写真を見せているとき、余計な写真も見えてしまい兼ねないので、プライバシー面で少し注意が必要だろう。

 もちろん、写真だけでなく、文書などもiCloud経由で自動的に同期することが可能だ。iWorkのアプリケーション「Pages」「Keynote」「Numbers」とも連動しているので、パソコンで作成した文書をiPhoneで確認したり、iPadで手直しするといった使い方もできる。iPhone本体にインストールされているアプリやダウンロードした音楽、アプリ、電子書籍などもiCloudにバックアップを取ることができ、いつでも本体に書き戻すことができる。カレンダーやメール、連絡先なども同様だが、これまで個別にユーザーがさまざまなサービスやアプリを利用して、同期を取っていたのに対し、標準機能として搭載されたことにより、複数の機器で利用しやすい環境が整ったことになる。もちろん、プライバシー面など、ユーザー自身が全体的な流れをきちんと把握しておく必要はあるが、5GBという無料のオンラインストレージを活かし、さまざまなアプリが登場してくれば、今までとは少し違った楽しみ方が生まれてくるかもしれない。

写真の編集機能も追加された。トリミングは自由サイズだけでなく、縦横比を設定することもできるiPhone 4Sでフォトストリームを使うには、iCloudの設定メニュー内で有効に切り替える
フォトストリームを有効にすれば、iPhone 4Sで写真を撮影すると、iPadなどの他の機器にも自動的に転送されるリマインダーは時間だけでなく、特定の場所に着いたときや出発するときに知らせることもできる

完成度の高い世界観こそがiPhone 4Sの魅力

 ソフトバンク版に加え、au版も登場したことで、国内では今まで以上に注目が集まっているiPhone 4S。発売日にはソフトバンクの登録システムがダウンするというトラブルが起きたが、その後は順調に販売され、現在はauのほとんどのモデルが当日、店頭で受け取りができるようになるなど、予約の残りも解消しつつあるようだ。

 2社が販売するということで、どちらのiPhone 4Sがいいのかといった議論も相変わらず活発だが、両社のiPhone 4Sを個人的に購入し、約10日間ほど、利用した範囲で比較すると、いろいろな面で違いが見えてくる。まず、ネットワークについては、前述のような傾向があり、筆者の利用する範囲に限れば、au版がやや快適という印象だが、場所によってはソフトバンクがかなり高速なところもあり、必ずしもau版だけが勝っているとは言い難いというのが率直な感想だ。

 サービス面については、3年間、独占的にiPhoneを販売してきただけに、ソフトバンクに一日の長がある。たとえば、au版の場合、EZwebのメールアドレスをiPhone 4Sでも送受信できるが、ユーザー自身でIDやパスワードを取得し、手入力で設定しなければならない。パソコンのダイヤルアップ接続を手動で設定してきた人たちには、それほど面倒がないかもしれないが、フィーチャーフォンのように、ある程度、オートマチックにセットアップされる環境しか知らないユーザーには、ちょっとハードルが高い。

 同様に、公衆無線LANサービスについてもau Wi-Fi SPOTが利用できず、今のところはau版iPhone 4Sを購入したユーザーに対し、ワイヤ・アンド・ワイヤレスの「Wi2 300」を2012年3月末まで無料で利用できるキャンペーンが提供されているのみだ。ちなみに、「Wi2 300」のホームページではau版iPhone 4S購入者向けのアカウント登録ページが用意されているのだが、こうした情報も十分に周知されているとは言いにくい印象だ。

 さらに、au版iPhoneでは、iMessageやFaceTimeが利用できないのも残念だ。もっともこれらはiPhone導入決定から発表までの時間が少なかったことも関係しているようで、仕方がない部分もある。auとしては、「対応しない」と言っているわけではなく、今後、対応する方向で進められているので、ユーザーとしてはじっくり待つしかないだろう。

 さて、最終的にiPhone 4Sはどうなのかという話になるが、ボディデザインこそ、従来モデルを継承しているが、中身は大幅にパワーアップしており、ユーザーがiPhone 4Sを使う快適性は格段に向上している。なかでも裏面照射型センサーを採用した800万画素カメラは秀逸だが、通知センターやリマインダーなどの実用的な機能が充実してきたこともユーザーとしてはうれしいところだ。iCloudという新しい取り組みはまだ未知数の部分もあるが、今後のアプリの対応などによって、さらに楽しみが増えることになりそうだ。巷では「iPhone 5」なるものではなかったことを云々する声があるが、充実した内容と完成度の高さは「iPhone 4S」が「S」であるがゆえのものであり、「S」だからこそ、ユーザーとしても安心して楽しめるわけだ。アップルの製品は元々、独特の世界観を持つと言われるが、iPhone 4Sはその世界観に磨きを掛け、さらに完成度を高めたスマートフォンであり、それこそが他製品では体験することができないiPhone 4Sの最大の魅力と言えるだろう。




(法林岳之)

2011/10/25 15:01