第555回:災害用音声お届けサービス とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「災害用音声お届けサービス」は、大規模災害が発生した際、ユーザーが携帯電話で録音した音声メッセージをパケット通信で相手に送信できるサービスです。災害用伝言板と同じく、震度6弱以上の地震などの大規模な災害が発生した場合に運用されます。

 これまで災害時には、テキストで安否情報を書き込める「災害用伝言板」が運用されていましたが、災害時には音声通話が一挙に増えるなど、声で安否を確認したいという根強いニーズがあります。2011年3月の東日本大震災発生時、たとえばNTTドコモでは通常の50~60倍ものトラフィック(通信量)が発生したことを受け、ドコモでは“災害時に音声データで伝言を残せるサービスを導入する”と発表しました。

 その後、他キャリアとの共通運用に向けたガイドラインも制定され、各事業者が実装することになったのがこのサービスです。

 このサービスは、NTTドコモが提供を開始し、auも今春開始する方針です。ソフトバンクモバイルやウィルコム、イー・モバイル(イー・アクセス)では正式なサービス導入を発表していませんが、ガイドラインの制定には参画しています。

災害時に繋がりやすいパケット通信を活用

 総務省で開催された会議における資料を見ると、東日本大震災では、ドコモの場合は通常の50~60倍、auの場合は東北で約8倍、首都圏で約10倍、ソフトバンクモバイルは首都圏で3~6倍の通話量になりました。こうした状況から規制がかけられ利用しづらくなりました。ちなみにイー・モバイルは通常の10倍の通話量でしたが処理できたため、規制はかけられませんでした。またウィルコムも通信規制を行っていなかったと発表しています。

 通常よりも遙かに多くのトラフィックになると、通信設備が処理しきれず、通信が繋がりにくくなる「輻輳」(ふくそう)と呼ばれる現象が発生してしまいます。この輻輳が大規模なものへ拡大しないよう、電話や通信が繋がりにくくなる規制が行われるというわけです。これは他の携帯電話事業者の場合でも同じです。輻輳は、年末年始などでも発生しやすいとされるものですが、特に大規模な災害が発生すると規制によって利用しづらくなります。

 携帯各社の設備は、通話と通信をそれぞれ分けて、規制できます。ドコモが開示している資料によれば、東日本大震災発生時、音声通話のトラフィックと比べ、パケット通信は、音声通話ほどのトラフィック増加にはなっていません。サーバーの一部が輻輳したため、メール配信に遅延が発生したものの、すぐにパケット通信の規制は緩やかになりました。災害時には、声を聴いて安否を確認したい、というニーズが高いことが背景にあるのでしょう。世界有数の人口密集地である東京23区においても、そうした傾向であり、災害時にはパケット通信のほうが利用しやすいという状況になります。そこで、開発されたのが、この音声回線を使わずに、伝言メッセージを残せる「災害用音声お届けサービス」です。

 このサービスは、通常の携帯電話の通話とは別の機能として提供され、家族など特定のユーザーに対し、30秒以内の音声ファイルを記録しパケット通信で送信します。宛先となるユーザーには、SMSで「災害用音声お届けサービス」で音声メッセージが寄せられていると通知します。

 先述したように、パケット通信は、これまでの震災などの経験から、比較的早期に規制が解除される、あるいは規制が緩やかになることから、災害発生時でも音声を使った安否確認が早くできるようになるだろうと予測されています。

 利用時には、安否を伝えたい人の携帯電話番号を入力(または電話帳から選択)して、マイクに向かってメッセージを録音します。録音したメッセージはパケット通信で、センターにある着信側のメッセージボックスに登録され、メッセージを送られた人に「メッセージが送られた」という内容のSMSが送られます。宛先となったユーザーは、センターからSMSメッセージに書かれた手順に従って操作すると、音声を聞けます。このメッセージを聞いた、ということも発信したユーザーにSMSで通知されます。これで、発信・着信双方のユーザーの安否が確認できるわけです。

 2012年3月時点では、NTTドコモだけが提供するサービスですが、「災害用音声お届けサービス」の共通的な運用に関するガイドラインが策定されており、サービスの基本内容はどの会社の携帯電話でも同じとなる予定です。

ドコモの場合の対応機種

災害用音声お届けサービスは、災害に「音声」でメッセージを残せる

 3月1日より災害用音声お届けサービスを開始したNTTドコモの場合、利用できるのは、FOMA、Xi、iモード、spモード、mopera Uのいずれかを契約しているユーザーです。これらに契約している場合、申し込みは不要で、月額料金・パケット通信・SMS通信料とも無料になっています。

 ちなみに、メッセージの送信に対応する端末ですが、Android 2.2以降のスマートフォン(GALAXY NEXUS SC-04Dやタブレット端末など除く)で、2011年~2012年の冬春モデルとして発表されたSTYLEシリーズのうち「F-02D」「F-04D」「F-06D」「F-06D Girls'」「N-02D」「N-03D」「P-03D」「SH-03D」「SH-05D」が対応しています。

 対応のスマートフォンでは、Androidマーケットから「災害用キット」アプリをダウンロードすることで、フィーチャーフォンではソフトウェア更新を適用することで、「災害用音声お届けサービス」で音声メッセージを送信できるようになります。今後発売になる機種では、この災害用キットは端末にプリインストールされる予定になっています。

 このように、送信できる機種は当初限られますが、受信側は幅広い機種で利用できます。Android搭載スマートフォンのほか、iモーション対応のiモード端末で利用できます。BlackBerryシリーズや「L-06C」「N600i」「D2101V」など初期のFOMA端末は利用できません。

 災害用音声お届けサービスは、基本的には、一定規模の災害時のみ運用されます。しかし、以下の期間には、サービスを体験できますので、そうした機会に利用してみるとよいでしょう。


・毎月「1日」「15日」
・正月3が日
・防災週間(8月30日~9月5日)
・防災とボランティア週間(1月15日~1月21日)
・2012年3月1日~2012年3月31日




(大和 哲)

2012/3/6 11:57