第540回:大ゾーン基地局 とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 NTTドコモは、2011年9月から「大ゾーン基地局」を整備すると発表しました。今回紹介する「大ゾーン基地局」とは、通常の基地局とは別に、およそ半径7km、360度のエリアをカバーする、災害時に向けた基地局です。万一の災害発生時、広域停電などで通常の基地局の多くが利用できなくなった場合、最低限の携帯電話の機能を維持するため、主に都市部で設置されます。

 東日本大震災で初めて運用され、有効に活用されたことから、全国で展開されることになりました。9月に名古屋市と岐阜市の2カ所に全国初の設置を皮切りに、10月6日には東京都5カ所、神奈川県2カ所、埼玉県、長野県、新潟県各1カ所に、設置されました。そして2011年内には関東甲信越27カ所に、最終的には東京都は5カ所、大阪府は4カ所、そのほかの道府県は各2カ所をめどに、全国で100カ所整備される予定です。

 普段は使われない基地局ですが、大規模な災害が発生した時、広い範囲で携帯電話が使えない状況になると、被災状況を踏まえて、ドコモ内の現地災害対策本部長の判断により、運用が開始されることになります。

設置例

大災害時でも最低限の利用を可能とするために

 携帯電話の基地局の間隔は、たとえば都心部などでは距離にして数百m程度、特定の方角、あるいは2つの角度程度を範囲内としてカバーするものが多く設置されています。携帯電話は、各所に点在する基地局と電波で繋がり、データをやり取りすることで、通話やパケット通信を行っているわけです。

 しかし、大災害が発生した場合、これらの基地局は機能しなくなる可能性があります。基地局は一般的に独自のバッテリを持ち、数時間の停電程度であれば持ちこたえることができる設計になっています。しかし、たとえば、2011年に発生した東日本大震災のように、地震や津波で基地局自体、あるいは基地局への回線が破壊されてしまったり、あるいは地域の電力網への被害によって想定以上に停電が長引いてしまった場合などには、基地局が使えない状況になります。

 そのようなことが起きた場合、携帯電話事業者は全力で基地局の復旧に向けて取り組むことになりますし、また、基地局システム自体も、たとえば交換局から基地局への回線を二重化や多重化、通信衛星の利用拡大、機器の耐震補強・固定、通信ケーブルの地中化などによって耐災害性の強化を図っています。

 これらのような対策も、想定以上の災害によって破られてしまった場合、広範囲で通信が途絶えてしまうような事態を避けるため、大ゾーン基地局が運用されることになります。

 「大ゾーン基地局」は、その名の通り、1つの基地局でカバーするエリアを従来の約10倍程度、およそ半径7km程度という大きなエリアをカバーします。主に設置場所としては、NTTやNTTドコモの局舎など、耐震性の高いビルや鉄塔を活用し、ネットワークに接続する伝送路も多重化して敷設します。自家発電によっては、地域が大規模停電を起こしても使えるように対策が施され、音声通話であれば同時に1000~2000回線程度接続可能になります。

 NTTドコモでは、災害対策の「重要通信の確保」として


・防災機関などに対する災害時優先電話制度
・ネットワークの効率的なコントロール
・災害時における自治体などへの携帯電話の貸し出し

なども掲げています。そうした対策の1つとなる大ゾーン基地局は、全てのユーザーのニーズを満たすものではなく、ある程度、管理された形で、最低限の通信経路を確保する、という使い方になると思われます。それでも、全く都市の回線が全滅するわけではない、という意味ではこの施策は有意義な災害対策であると言えるでしょう。




(大和 哲)

2011/11/15 06:00