第438回:レアメタル とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


希少金属、レアメタル

 「レアメタル」とは、“希少金属”とも呼ばれる金属です。その名前のとおり地殻中での量が少なかったり、純粋な金属にする「製錬」が難しくコストがかかるといったの理由で、流通量が少ないのです。

 リチウムイオン電池に使われるリチウム、ICソケットやスイッチに使われるベリリウム、液晶パネルのバックライトに利用されるガリウム、あるいはスピーカーの磁性体となるストロンチウムなど、携帯電話には数多くのレアメタル、レアメタル由来の合金が使われています。

 携帯電話だけでなく、現代社会を支える多くの機器にレアメタルは使われています。たとえば、自動車から排出される排気ガスから有害物質を浄化する触媒には、白金やパラジウムといったレアメタルが使われます。

 ちなみに、普通乗用車の場合、平均して1台あたり白金は0.4g程度、パラジウムが3.9g程度使われています。市場での白金地金の価格(2009年9月10日時点)は、1gで3800円程度。ちなみに金は1gで2940円程度ですから、白金は金よりも1.3倍近く高価です。それほどレアメタルは貴重です。レアメタルは、日本をはじめ世界の国々の産業・生活にとって欠かすことのできない重要な原材料であると言えるでしょう。

資源のほとんどを特定の外国に頼る

 レアメタルの産地を見ると、世界の産出量の90%を中国が占めています。特にリチウム、ベリリウム、ニオブなどは、中国の中でも新疆ウイグル自治区などに非常に多く埋蔵されているとされています。

 また、それ以外の産地を見ても、インドやオーストラリア、ブラジルなどいくつかの国に偏っています。このような状況では、たとえば相手国の事情、あるいは思惑によっては供給量が少なくなったり、最悪の場合には供給が途絶えるというようなことも起こりえます。

 そのため、日本では国家・民間での備蓄制度を整え、普段からレアメタルを蓄えておき、足りない状況では放出したり、売却したりしています。

 具体的には、ニッケル、クロム、タングステン、コバルト、モリブデン、マンガン、バナジウムの国家備蓄については、石油天然ガス・金属鉱物資源機構が国内基準消費量の42日分を目標に備蓄するようにしています。民間備蓄については、国際鉱物資源開発協力協会がとりまとめ、民間企業であわせて18日分を目標に備蓄します。国家・民間で60日分を目標に備蓄するようになっているわけです。

 ちなみに、2009年3月現在、国家備蓄は7種平均すると約22.2日分で、目標の半分程度の量になっています。レアメタルは、ここ数年でいくつかの鉱種の価格が高騰しており、売却制度によって備蓄が売却されているのです。

「都市鉱山」携帯電話リサイクルでレアメタルを産出

 このようにレアメタルはそもそも希少であり、また、製錬が難しくエネルギーを必要とするにも関わらず、それを使用した機器が使い捨てにされていたり、あるいはごみとして流出したりしています。

 特に携帯電話は、その筐体内にレアメタルや貴金属を豊富に含み、有効にリサイクルすれば、需要のうち相当量をまかなえるようになるとの観測もあることから「都市鉱山」という呼び方さえされます。

 そのため、日本を初めとする先進国では、レアメタルを含む機械をリサイクルし、取り出して再利用しようとする動きが始まっています。

ソニー・エリクソンでは、試作機5000台から230gの金を回収

 最近では経済産業省や環境省、総務省などによる「使用済携帯電話回収促進キャンペーン」が実施され、ショッピングセンター、家電量販店などを拠点として、携帯電話の回収を呼びかけました。

 また、日鉱金属では、早稲田大学および名古屋大学と共同で、使用済みリチウムイオン電池およびリチウムイオン電池用の廃正極材からコバルト、ニッケル、リチウム、マンガンといったレアメタルを回収する実証実験を開始すると発表しています。この実証実験では、日鉱敦賀リサイクル社構内にパイロットプラント(実用化に向けた研究設備)を設置し、月産6tのニッケルとマンガン、10tのコバルトと炭酸リチウムを回収することを想定しています。回収したレアメタルは、日鉱金属の車載用リチウムイオン電池用正極材に利用されるほか、正極材メーカーへの供給も予定している、としています。

 ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズでは、携帯電話の開発時に使用した試作機からレアメタルであるパラジウムなど、それに貴金属の金、銀や銅を抽出したと発表しました。金に関しては約230gの金を回収できたとのことで、携帯電話の半導体製造約100万個分に使われる予定です。

 この半導体は、来年中にKDDIから発売される新製品の携帯電話に使われる予定になっています。来年には、本当に「都市鉱山」携帯電話リサイクルから、作られた部品を使った携帯電話が販売されることになるわけですが、今後もリサイクルを促進するためには、企業や官庁による取り組みだけではなく、消費者側でも心掛けることが重要でしょう。

 



(大和 哲)

2009/9/15 12:00