ソフトバンク四半期決算は最高益更新、Zynga日本法人設立も


ソフトバンク孫氏

 ソフトバンクは29日、2010年度第一四半期の決算説明会を開催した。連結ベースでの売上高は7008億4000万円(前年同期比5.2%増)で、営業利益は1566億300万円(同44.6%増)となっている。

 29日の説明会で、説明を行った同社代表取締役社長の孫正義氏は、業績や財務の最新状況を紹介したほか、5期連続で最高益を更新したこと、競合他社であるKDDIを営業利益、経常利益で抜いたことに触れたほか、米国で急成長しているソーシャルゲーム提供事業者のZynga Game Network(ジンガゲームネットワーク)に出資し、合弁会社を設立することなどについて説明を行った。

今期の業績概要連結ベースでの営業利益でKDDIを抜いたとアピール

 

Zynga日本法人設立

孫氏(左)とZyngaのGoldberg氏(右)

 29日の決算説明会にあわせて発表されたのは、Zyngaへの出資と日本法人「Zynga Japan」の設立だ。今年5月に米Ustreamと合弁会社「Ustream Asia」を設立するなど、他社との提携を進め、“戦略的シナジーグループを構築する”ことを戦略の一環とする中、米国発のSNS「Facebook」内で人気ソーシャルゲーム(アクティブユーザー数)上位10作品のうち半数以上を提供するZyngaとの提携も、戦略的シナジーグループ構築の1つとされている。

 ソフトバンクからZynga本体に対して6月初旬に1億5000万ドル(約137億円)の出資が行われている。出資比率はZynga側の意向もあって開示されていないが、数%程度になるとのこと。両社では、日本市場においてソーシャルゲームを展開する合弁会社「ジンガジャパン」を設立する方針だ。資本金や設立時期、サービス開始時期の詳細は明らかにされていないが、ソフトバンクと米Zyngaが50%ずつ出資する形となり、孫氏は「年内にもサービスインしたい。(国内ではmixiなどのSNSがメジャーだが、との指摘に対し)複数のSNSと提携してやっていきたい」とコメントした。

 また、挨拶を行った、ジンガジャパン社長就任予定という米Zynga シニアバイスプレジデントのRobert Goldberg氏は「日本は重要で、最先端のマーケット。世界的にも大きな市場と考えており、ソフトバンクと一緒にサービスを提供できるのは嬉しい」とコメントしたほか、一般的な携帯電話(フィーチャーフォン)向けサービスから提供する方針を明らかにした。スマートフォン向けサービスについて、孫氏は「時間の問題」と回答し、提供時期の明言は避けつつも、意欲は見せた。

 

オペレーションデータについて

WACへの統合についても触れた

 第1四半期の業績のうち、携帯電話(移動体通信事業)の売上高は4410億7800万円(前年同期比8.3%増)、営業利益は1026億5700万円(前年同期比70.4%増)となった。また、純増数は69万6600件、ARPU(ユーザー1人あたりからの平均月間収入)は4290円(前年同期比で260円増)となった。ARPUのうち、データ通信ARPUは2250円で、前年同期から370円増加している。

 営業利益が1000億円を超えたのは初めてとのことで、その要因の1つとして挙げられたのが、5月に発売されたアップルの「iPad」だ。今回の会見では、大塚製薬、みずほ銀行など法人でiPadの採用が進められていることが紹介され、「大企業向け説明会では3000人を超える人が集まった」(孫氏)と、個人だけではなく法人での活用をアピールした。データ通信を促進する施策の1つとして紹介された「ビューン」については、「31媒体の雑誌が450円(iPadでの利用料)で利用できる」と紹介された。

 このほか、28日に発表されたJIL(ソフトバンクやチャイナモバイル、ボーダフォンらが設立した携帯向けウィジェットの開発を促進する企業)が、WAC(世界の主要事業者が参画する団体)へ統合されることについては、「JILを拡張する形でWACが設立されたことになる。参加する事業者が抱えるユーザー数は30億人で、そこに向けてサービスを開発しようと言うことになった。(統合により)ソフトバンクやチャイナモバイルもボードメンバーに入っており積極的にリードしたい」と、意欲は見せたものの、具体的な今後の展開についての説明は行わなかった。

 

iPhone 4について

 iPadに続き、6月に発売されたiPhone 4に触れた孫氏は「どちらを買ったらいいか問われるが、武士は大刀と小刀の2本差し、両方あって初めて武士と説明している」と述べ、それぞれ特性が異なるデバイスであり、使い分けられると紹介した。

 質疑応答で、iPhone 4のホワイトモデルの発売時期延期や、米国でのアンテナ問題について問われると「アップルが既にコメントしており、あえてコメントを加えることはない」としながらも、アンテナ関連については孫氏個人の見解として「米国で言われるほど、アンテナ問題は実感していない。むしろ、これまでのiPhoneより快適さの度合いは増えてたと思っている」と問題視していないとした。

 またiPhone 4発売時に、一部ショップで頭金という名目での料金を求められたり、オプション契約の強制があったというユーザーが、Twitter経由で孫氏に訴えかけた件について問われると、「(店頭価格は販売店が決めるものだが)Twitter上でのコメントを受け、(頭金の設定やオプション契約の強制はソフトバンク側の)意図が違うのでやめてとお願いした。(過去のiPhone発売時には)価格統制にあたるという独禁法での懸念をしていたし、指摘も受けていたが、弁護士に相談したところ、値下げをやめろというのはやってはいけないが、想定価格より高くしているものを、そうしないよう求めるのは、米国の事例において独禁法上、問題にならないという見解が出ているということで、日本では(法律上の扱いが)はっきりしていないものの、消費者のメリットがあるということで踏み込んだ。消費者保護を優先した。ただし、そうしたお願いが(販売店への)インセンティブどうこうと直接の関係はない」と述べ、過去の端末販売時と異なる取り組みになった背景を語った。

 

インフラ増強への取り組み

 iPadやiPhoneについて説明を行った孫氏は、デバイスが今後さらに普及することで、データトラフィックは飛躍的に伸長すると指摘して、インフラ設備の重要性を説く。

 これまでにソフトバンクモバイルが3月末で終了した第2世代サービス(PDC方式)で用いていた1.5GHz帯を、3Gサービスへ転用する方針が示されていたが、今回の会見で9月から本格的に1.5GHz帯でのサービス提供が明らかにされた。今年度の設備投資額は約4000億円(移動体通信向けは約3100億円)とのことだが、そのうち1.5GHz帯に用いられる資金は「1000億円まではいっていないが、数百億円の上のほう」(孫氏)というレベルになるとのこと。

 携帯事業における第1四半期での設備投資額は、259億8700万円となっており、4000億という総額で見ると10%にも満たない額だが、これについて孫氏は「Twitterを初めて、ユーザーから『電波が繋がらない』という指摘を受けて猛反省して、設備投資額を4000億にした。上半期は、(基地局設置箇所の)場所探しや機材、人員の調達、基地局設置の許認可申請に時間がかかる。実際の工事が進むのは下半期になるだろう」と説明した。2010年3月末(2009年度末)時点では約6万という基地局は、現在6000カ所増加したほか、9000カ所については1.5GHz帯の運用に向けて設計を終えているという。また、1万9000カ所の場所を確保済みとのこと。こうした取り組みを今後も続け、今年度末時点で約12万局の設置を目指す。

 あわせて行っているインフラ増強施策の1つ、フェムトセルの設置については、7月29日時点で申込受付数が3万件に達したとのこと。ただ、小型とはいえ基地局となるため、総務省への届出が必要となり、運用されているフェムトセルの数は「着々と開通し始めている」と表現するに留まった。ソフトバンクのフェムトセルでは、他社の固定通信網でも利用できることをうたっているが、この点については「Yahoo!BBにしか繋がらないということであれば、利用できるユーザーが限られる。個別に固定網を提供する企業と有償、無償で交渉を進めている。フェムトセルを接続したからといって、固定通信として急にトラフィックが増えるわけではないと思っており、(有償利用という交渉であっても)無茶な金額にならず交渉できると思っている」とした。また、ソフトバンクWi-Fiスポットというサービス名称で展開する公衆無線LANサービスでも、さまざまな小売店舗との提携を進めていることをアピール。フェムトセルやWi-Fiの活用が今後も進むとした。

 総務省で700MHz帯と900MHz帯の今後の利用について検討が進められていることについても触れた孫氏は「今後数カ月で割当方針が決まり、来年度には割り当てられ、再来年度になると実際に電波を吹く(基地局から電波を発してサービスを提供する、という意味)ことになる。現在、NTTドコモとKDDIは、(比較的浸透しやすいとされる周波数帯の)800MHz帯を利用しているが、我々は現在2GHz帯しかない。ぜひイコールフッティング(という考え方)で、(ソフトバンクに700/900MHz帯を)いただく番だと強く認識している」と語った。

 また7月21日から提供される「海外パケットし放題」については「欧米にこのようなサービスはなく、海外から来た人に教えると『日本へ引っ越したい』と言われる」と述べ、安価で使いやすいサービスであることをあらためて紹介した。

 このほか会見では、ヤフーへのデータセンター事業売却が東京国税庁から申告漏れを指摘された件について、「(節税効果を狙ったものと)国税から指摘されたが、クラウド化を迎え、世界の主要IT企業は自前のデータセンターを持ち始めている中で、国税の指摘は的外れ。IT業界の常識から逸脱している」と、国税庁の見解を非難した。

 



(関口 聖)

2010/7/29 20:29