iPhone向け最新OS「iOS 4」、アップデート提供開始
日本時間で6月22日の午前2時、iPhone/iPod touchの最新OSである「iOS 4」が公開された。
iOS 4は4月8日(北米時間)に「iPhone OS 4」として発表されていたもの。6月7日(北米時間)に6月21日に公開するとアナウンスされたが、時差の関係で日本では6月22日未明の公開となった。
アップデートはiPhone/iPod touch単体では行えず、最新版のiTunes 9.2(6月17日公開)がインストールされたパソコンが必要になる。アップデートは無償で行える。
iOS 4での一番の変化は、OS自体がマルチタスクに対応したことにある。ただしマルチタスクに対応するのはiPhone 3GSと最新世代のiPod touchのみで、iPhone 3Gや前世代のiPod touchはマルチタスクに対応しないなど機能制限が設けられている。また、日本では発売されていない初代iPhoneなど古い機種はアップデート自体対応しない。
なお、筆者が試用したところ、大きな問題には直面していないが、こうしたOSのアップデート直後はOSの非対応アプリもある。基本的に元のバージョンには戻せないので、これからアップデートする人は注意しよう。
■注目の新機能、マルチタスクは?
iOS 4のタスクバー。アイコンを長押しするとキルモードに変わる |
iOS 4は新たにマルチタスクに対応している(iPhone 3GSと最新世代のiPod touchのみ)。ただしパソコンのOSが実現している完全なマルチタスクとは異なり、省電力やパフォーマンス維持のため、バックグラウンド(アプリが画面に表示されていない状態のこと)での動作に制限が設けられ、実質的にバックグラウンド動作できるのは、一部の機能に限られている。
また、iOS 4上であればすべてのアプリがマルチタスクに対応するというわけではなく、そのアプリがiOS 4のマルチタスク向けに最適化されている必要がある。現時点ではそうした最適化済みのアプリが少ないため、マルチタスクの恩恵も少ない。しかしiOS 4公開直前からiOS 4向けにアップデートを提供しているアプリも見られた。対応アプリは急速に増えていきそうだ。
マルチタスク機能のひとつとして、アプリを前回終了時の状態で素早く切り替えられる「Fast app switching」が用意されている。バックグラウンド状態になっていれば、次にそのアプリに切り替えたとき、起動プロセスを省いて素早く前回の状態に戻るというものだ。
タスクバー左側にある音楽再生と画面回転ロックの操作パネル。回転ロックもiOS 4での新規機能 |
バックグラウンド状態のアプリは、ホームボタンのダブルクリックでいつでも呼び出せるタスクバーに表示され、そこから切り替えることができる。タスクバーはホーム画面同様に右方向に何枚か続いていて、逆の左方向には音楽再生と画面回転ロックの操作パネルが用意されている。タスクバー上のアプリアイコンを長押しすることで、強制的にバックグラウンド状態から解除することも可能だ。
たとえばクラウドノートアプリの「Evernote」の場合、通常は再起動するたびに数秒の起動プロセスが必要となるが、iOS 4対応にバージョンアップすれば、バックグラウンド状態からアプリを切り替えても、前回状態から再開できる。標準アプリも同様に「Fast app switching」に対応している。一方の非対応アプリの場合、バックグラウンド状態としてタスクバーに表示されていても、切り替え時に起動プロセスが必要になる。
ちなみにホームボタンのダブルクリック操作は、従来はカメラやiPodアプリなどの起動ショートカットとして設定できたが、iOS 4ではタスクバー呼び出し専用となり、ほかの機能の割り当てが不可能になっている。マルチタスクに対応しないiPhone 3Gなどの場合、ダブルクリック時の動作を選択できる。
iOS 4には「Fast app switching」以外のマルチタスク機能も用意されている。たとえばEvernoteの場合、通信中にアプリを切り替えても、「Task finishing」という機能により、通信処理が完了するまではバックグラウンド動作を行うようだ。常にバックグラウンドで同期し続ける訳ではないが、アプリ切り替えの前後で同期することで、実用上は完全なマルチタスクに近い使い勝手を実現しているわけだ。
■マルチタスク以外の進化ポイントも
マルチタスク以外にもiOS 4ではいくつかの新機能が追加されている。
ホーム画面上のフォルダ |
メールアプリのメールリスト画面。右側の数字がスレッドに含まれるメールの数 |
Bluetoothキーボード接続中はソフトウェアキーボードが表示されない(純正キーボードなら表示切り替え可能) |
まずホーム画面にはフォルダを配置することが可能となった。アプリアイコンを移動させる際、ほかのアイコンと重ねることでフォルダが自動生成される。なお、フォルダ構造は1階層までで、フォルダ内にフォルダは置けない。
また、ホーム画面の背景に好きな画像を設定できるようになった。ちなみに地味な変化だが、ホーム画面のデザイン自体も変わり、画面下のDockバーや画面上の半透過のピクト行は、最新のMac OS Xのテイストが取り入れられた。
メールアプリにも改良が施され、複数アカウントで1つのフォルダを使えるようになったほか、返信メールをまとめて表示するスレッド表示に対応する。同一スレッドには複数人からのメールが表示されるが、自分が送ったメールは表示されない。また、メールの添付ファイルをサードパーティ製アプリで開く機能も追加されている。
文字入力に関しては、新たにBluetoothキーボードに対応した。ちなみにiOS 3.2を搭載するiPadも同様に対応している。筆者が試したところ、アップルが同社のパソコン向けに販売している「Apple Wireless Keyboard」だけでなく、REUDO社の「RBK-2000BTII」も接続できた。ただし接続が確認できたのはiPhone 3GSのみで、iPhone 3GではBluetoothキーボードは認識できなかった。
配列やショートカットキーの使い方、特殊なキーなどはMac OS Xに準拠する部分が多い。アップル製キーボードであれば、イジェクトキーでソフトウェアキーボードの表示・非表示切り替え、といったこともできる。どちらにせよ、スマートフォンとは思えないくらいの速度で文字入力が可能となるが、Bluetoothキーボード使用時も予測変換をオフにできないため、日本語変換システムの出来がパソコンに比べて劣るところが気になってくる。
このほかにも、いくつかの標準アプリなどで新機能が追加されている。
■気になるパフォーマンスは?
マルチタスクに対応というと、バックグラウンドのアプリやタスク管理にCPUのパワーを取られ、操作感が悪くなることが懸念されるところである。
操作感覚を定量的に計測するのは難しいところだが、iPhone 3GSをiOS 4にアップデートして使ってみたところ、モッサリ感が増したという印象は得られなかった。指フリックによりページをスクロールさせるときの、iPhoneならではの「指に追従する感覚」は低下していない。
しかし一方でiPhone 3GをiOS 4にアップデートしたところ、こちらはマルチタスクに対応していないのだが、パフォーマンスは低下した印象がある。iPhone 3Gは去年のiPhone OS 3.0導入後からパフォーマンスが遅いと感じられたが、それがまた少し遅くなってしまった印象だ。
iPhone 3Gは、発売からちょうど2年が経とうとしている。iPhone 3Gユーザーは、月月割がなくなった時点でiPhone 4を買い増しするのも悪くないだろう。
■iPhone 4に近づいた?
iOS 4は火曜未明に公開されたが、木曜日にはiOS 4を標準搭載する次期モデルの「iPhone 4」が発売される。ハードウェア面で見ると、iPhone 4はディスプレイやカメラが強化され、HD動画撮影やビデオチャットの「FaceTime」に対応した。
しかし、それ以外のマルチタスクなどソフトウェアによる機能は、iOS 4にアップデートしたiPhone 3GSも同等だ。CPUやメモリ容量が強化されている可能性もあるが、詳細は発表されていないので判断できないし、何より実際にiOS 4のiPhone 3GSが快適に動いているのでCPUパワーの不足は感じない。
まだ筆者もiPhone 4を触っていないので、はっきりとは言えないが、発表されている機能で判断する分には、iPhone 3GSとiPhone 4の違いより、iOS 4とiOS 3の違いの方が大きいと感じられた。iPhone 3GSから急いでiPhone 4に機種変更しようとしている人に対しては、よほどの理由がない限り、「ちょっと待って様子を見ても良いのでは?」といった印象だ。
■マルチタスクが大きなアップデート。今後の対応アプリ増加に期待
今回のiOSアップデートは、単体でユーザーメリットを与えるような新機能も追加されているが、それよりもiOSというプラットフォームを拡張し、今後登場するであろう対応アプリをより良くするような改良点も多い。
たとえばマルチタスクは、実は対応アプリでないとあまり意味がない機能だが、逆に言うとアプリ開発者にとっては、これまでのiOSでは不可能だったことを実現する大きなチャンスにも繋がっている。
さらにiOS 4では、広告プラットフォームの「iAd」やオンラインゲームのロビーアプリ「Game Center」も追加されている。これらは単体ではユーザーに影響を与えるものではなく、これから登場するであろう対応アプリやコンテンツと連動するものだ。このほかにもユーザーからは見えないところでは、1,500以上のAPIが追加されたという。
このようなプラットフォームの拡張は、もちろん対応アプリの増加や高機能化などでユーザーメリットともなるが、アプリ開発者にとっては新しいビジネスチャンスとなり、アップルにとってもiAdやApp Store収入の向上に繋がることになる。アップルはこのWin-Win-Winの関係を維持するべくプラットフォーム改善に取り組んでいるというわけだ。
現時点では対応アプリが少ないため、正直言ってiOS 4のユーザーメリットは大きくない。逆にiOS 4では動かないアプリもあるらしいので(筆者は遭遇していない)、人によっては注意も必要だろう。しかし、互換性の問題さえ解決できれば、無償で提供されるとは思えないほどの豪華かつ価値のあるアップデートだ。
そしてiOS 4の真価が発揮されるのは、iOS 4対応のアプリが登場したあとだ。すでにiOS 4対応のアプリアップデートが続々とApp Storeで公開されつつある。現在常用中のアプリがiOS 4に対応するかどうかをチェックするとともに、より使いやすいiOS 4対応アプリが登場していないか、しばらくはApp Storeをマメにチェックした方が良さそうである。
2010/6/22 04:45