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「ローコストで価値あるものを」、ウィルコム宮内社長の戦略
(2013/7/4 15:49)
「もうPHSは終わりじゃないのか、将来はあるのか。そんな時に注目したのが“ローコストで価値あるもの”という視点だった」――ユーザー数が減少して会社更生手続きを進めるまでになっていた状況から約3年、更生手続きを終えてソフトバンクの子会社となったウィルコムが4日、新商品説明会を開催した。
先の言葉は、プレゼンテーション中、代表取締役社長の宮内謙氏が語ったもので、新生ウィルコムが再建を果たすため、生き延びるために見つけ出した、新たな道を示している。
低価格で新たな価値を提供
2009年秋頃から財務体質の悪化が明らかになったウィルコムは、翌2010年に会社更生手続きを開始。その後、ソフトバンクの支援を受けることになり、2010年12月に発表した新サービス「だれとでも定額」以降、純増傾向に転じ、6月末時点では「だれとでも定額」ユーザーが270万人に達した。そして、2013年7月1日、ついに会社更生手続きを終えてソフトバンクの100%子会社となった。
そのウィルコムのポジションは、航空会社における“LCC”(ローコストキャリア)と同じ、と宮内氏は語る。そして、スマートフォンがより一層普及する中で、安価な通話を、他社のスマートフォンでも利用できるようにするのが、今回発表された「だれとでも定額パス」だ。クレジットカード型PHS端末が親機で、スマートフォンがBluetooth経由で繋がる子機となり、専用アプリで電話をかけると、他キャリアのスマートフォンでも「だれとでも定額」で通話定額を利用できる。
宮内氏は「音声通話の利用頻度が高いユーザーは、毎月5000円~6000円ほど費やしている。そうした人には、(だれとでも定額パスが)プラスになる」とその利便性を強調した。
同じく低価格で、これまでにない価値をもたらすサービスの1つが「迷惑電話チェッカー」。電話を悪用して金を詐取しようとする犯罪など、迷惑電話を減らすためのツールだ。
質疑応答では、「だれとでも定額」「だれとでも定額パス」というサービスは、特殊な仕組みで実現したものではなく他キャリアでも提供できる、としつつも、PHSの特性として長時間駆動が可能なことは、他キャリアとの差別化要因になることも示された。
ユニークな端末の提供となるが、これまでもウィルコムでは定番商品だけではなく、他社にはない挑戦的な機種もたびたびリリースしている。たとえば「ストラップフォン」のような超小型端末は、端末販売数としては事前の調査で販売数の予想はするものの、実際にはどうなるかわからない部分があることを踏まえて出したとのこと。際立った特徴を持つ機種は、話題性が高くニュースとして幅広く伝えられることから、宮内氏は「メディア価値、効果が大きいので出していきたい」と、今後も継続する方針が示された。
「スマホ戦国時代」、低価格で攻める
さらに、多くのユーザーが手にしているスマートフォン分野も強化する。
「だれとでも定額」が中心となることもあってスタンダードなPHS端末が売れ筋となる一方、固定電話型端末「イエデンワ」が自治体などから根強いニーズを得たりするなど、バリエーション豊かな端末ラインナップを誇るウィルコムだが、そうした製品群の一環として、今回、4G(AXGP)とPHSに対応した「DIGNO DUAL2」、コンパクトボディのPHS/3G端末「AQUOS PHONE es」、AXGP/3G対応(PHS非対応の「STREAM」が発表された。
宮内氏は、「スマホシフトではなく、これまでの端末もスマホもやる、ということ」と説明。新機種で利用できる新プランが、通信量1GBで価格を抑えた料金体系となっており、“通信のLCC”としてスマートフォンを取り扱い、そうした料金を用意した、とする。
価格競争を招くのでは? という問いには、あらためて通信量制限の違いがあることから、異なるユーザー層で市場が分かれるとの見方が示された。
ソフトバンク、イー・モバイルとのすみ分け
ソフトバンクグループには、ソフトバンクモバイル、イー・モバイル、ウィルコムと3つのモバイル通信事業者が揃う。月額利用料を安価にできるスマートフォンをウィルコムが提供することは、NTTドコモやauだけではなく、グループ会社からもユーザーを奪う形になることも予想される。
こうした見方に対して宮内氏は、「これまでも若干、グループ間で奪い合うことはあるが、たとえば動画をたくさん観たいという方は違ったタイプの契約をされるのではないか。スマートフォンを使いたいと思っているのに、料金を気にしているユーザーはたくさんいる。市場調査はグループ間で一緒にやっている。過去のデータから互いに取り合う部分が何%になるか調べている。イー・モバイルもスマートフォンを出しているが、ウィルコムとイー・モバイルの間でも緊密に連絡を取り合っている。3社がうまくシナジーを出せるようにしたい。それによって競合他社から乗り換えてもらう、というのが私の考えている戦略の大枠」と説明した。
ウィルコムでのiPhone 4S販売、「大して売れなかった」
ソフトバンクモバイルの主力端末だった「iPhone 4S」が、ウィルコムでも取り扱われているが、宮内氏は「正直に言うと大して売れなかった」と吐露。
「米国では、iPhone 4SとiPhone 5は半々くらい。ところが日本は圧倒的にiPhone 5。新バージョンが出ると全部そっちにいっちゃう。ウィルコムでは1つ型落ちであるiPhone 4Sがガンガン売れるといいと思ったが、そうではなかった」
宮内氏は、このようにiPhone 4Sの取り扱いがうまく進まなかったとしつつも、逆にうまくいった事例もあったと説明。たとえば若年層の女性ユーザーに向けた端末「HONEY BEE」と、ソフトバンクモバイルではイマイチの売れ行きだったというAndroid端末のセットは一瞬で売り切れたこともあったという。
宮内氏は「いろんなテストをやっている。ケースバイケースだろう。ウィルコムプラザ(実店舗)が800あり、そこを活用していろんなトライアルができる」と語り、グループ間のシナジー創出を図るとした。
また囲み取材で、今回の料金プランでiPhone 4Sを販売するのか? と問われた宮内氏は「それはない。iPhoneはますますデータトラフィック(通信量)が増える。それなりの料金を払っていただかないと通信事業者は成り立たない」と否定した。
ネットワークコストがかからない=低価格に
囲み取材でネットワーク整備での課題は何か、と問われた宮内氏は「ネットワークコストは毎年ぐっと下がってきている。もうすぐ600万ユーザーだが、PHSのキャパシティはまだ倍くらいいけそうな感じ。それでいて、古い機器を交換するといった費用以外で、設備投資はほとんど要らない状況。それと同時にグループのネットワークにも切り替えている。ITX化をどんどん進めて出力を倍にするといったことも進めている。コスト的には、来年、もう一段下がるのではないか。これが低いARPU(ユーザーからの平均収入)でもウィルコムを再建できた理由。そうではければ、なかなか(再建は)難しかったと思う」と述べた。
エリアに対する不満がないのか、という点は、ユーザーが割り切ってウィルコムを選択しているという現状から、不満がないとした。また、今回発表された新機種は、ソフトバンクが「プラチナバンド」と呼ぶ900MHz帯に対応していることから、エリアに対する不満は少ないであろうとした。
他社が進めるLTEでは、将来的に音声通話もLTE上で実現することが期待されている。これはVoLTE(ボルテ、Voice over LTE)と呼ばれる。宮内氏は、VoLTE時代の到来について「米国では、全キャリアが音声と通信を合体したプランにしている。韓国も少し高いが同じような合算形式。データ通信については、米国は通信量に応じて階段になっている。日本ではどうなるかわからないが、世界の通信事業者の動向を見ていると、この世界になっていくのではないか。LINEを使えば通話料はタダだが、本当に音声ARPUがゼロになるかというと、そうでもない。どういうタイミングで新しい料金施策をつくるか、これからやっていく」と述べた。
このほか、ソフトバンクの株主総会でグループ間の無料通話を導入すると、孫正義氏が発言したことについては「今、計算しているところ」と述べるに留まった。