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スティック型の音声翻訳機「ili(イリー)」法人向けに6月サービスイン、月額3980円/台

海外渡航者向けルーターレンタル「グローバルWiFi」で4月下旬レンタル開始

 ログバーは、スティック型で、スタンドアロンの音声翻訳機「ili(イリー)」を法人向けに貸し出すサービス「ili for guest」を6月より提供する。1月31日から申込受付を開始した。利用料は1ライセンス/1台あたり月額3980円。一般向けの提供は2017年中になる予定。

 「ili」は、海外旅行向けに翻訳内容をチューニングした翻訳機。話しかけると外国語に翻訳して、読み上げてくれる。2016年1月、米国の展示会「CES」で初披露され、今回、正式なサービスが発表された。

翻訳の精度は……

 翻訳エンジンや音声認識は、資本業務提携を結ぶフュートレックと協力して開発した。ディープラーニングで翻訳モデルを構築し、そのうち旅行会話に特化する翻訳エンジンを「ili」に搭載した。日本語・英語・中国語に対応し、今後は韓国語などに対応する予定。全ての会話に対応するのではなく、旅行会話だけに特化しており、精度の向上を図っている。たとえば「高いです」と発話した場合、「高さ(high)」ではなく「高額(expensive)」という意味で翻訳する。このため、医療現場での利用や、商談の場などでの翻訳は不得手。

 「冷たいものをたくさん食べてお腹が痛いので、胃薬を飲むため水が欲しいです」などと、長い文章になると翻訳精度は下がってしまう。的確に翻訳する場合は「水が欲しいです」とシンプルにすればいいという。31日の発表会で実際に試したところ、宿泊先でWi-Fiなどインターネットに繋がらない、という場合に「インターネットに繋がらない」とだけ話す、という例では、文章に主語がないため「You can not……」といった翻訳文になってしまった。こうした場合は「私はインターネットに繋がりません」と、日本語としてはやや不自然ながら、翻訳しやすい構成にすることで、相手に伝わりやすくするなど、話し手が工夫する場面はまだ必要なよう。

 また、ログバー側が用意した文章ではなく、記者が即興で思いついた文章として「プリペイドSIMが欲しい」と話したところ、うまく翻訳されなかった。デモンストレーションの担当者によれば、「SIMカード」というワード自体は翻訳対象として登録されているものの、「プリペイドSIM」というワードは未登録だったため。「プリペイドのSIMカード」「前払いのSIMカード」などと言い方を変更すればいいかもしれないが、ここで記者の体験時間はなくなってしまった。また別の機会にトライしたい。

 「ili」自体は一方向だけの翻訳をサポートする。たとえば英語を話す人と、日本語を話す人の会話で「ili」を使う場合、英語→日本語、あるいは日本語→英語と、一方向だけの翻訳になる。話す人がそれぞれ「ili」を持っていれば、お互いに翻訳結果を聴きながらよりスムーズな会話翻訳した結果はリピート機能で、ボタンを押すだけで翻訳結果を繰り返して再生できる。

 USB端子を搭載しており、パソコンと繋いで、翻訳エンジンや収録ワードを含めたソフト更新もできる。

【「ili(イリー)」 日本語と英語の翻訳デモンストレーション】

ボタンはわずか2つ

 本体にはマイク、スピーカー、メモリ、CPUなどを搭載。マイクで捉えた音声をテキスト化し、そのテキストを翻訳し、再び音声にする。この処理は最も速い場合で0.2秒で完了する。バッテリー駆動時間は約1日。

 本体に備わっているボタンはメインボタンとサイドボタンの2つ。メインボタンを押すと話し手の声を聴き取って翻訳を開始、メインボタンから指を離すと翻訳結果を読み上げる。サイドボタンは、翻訳結果をもう一度再生するときに使うリピートボタンとなっている。たとえば「こんにちは」と発話した場合、メインボタンを押すと「Hello」などと外国語にする。そこでサイドボタンを押すと機械の音声で「こんにちは」と再生。発話した内容が「ili」にどう認識されたか確認できる。ボリューム調節用のボタンはなく、相手が聞き取りづらかった場合は、相手に近づけてリピートする。

 法人向けサービスでは、導入企業の業態にあわせたオリジナル辞書の追加や、入出力言語の切り替え機能、翻訳データのログを分析して店舗のサービス改善などを行う。

海外旅行者向けWi-Fiレンタルで4月下旬より提供

 Wi-Fiレンタルサービスを提供しているビジョンでは、4月下旬から「ili」のレンタルサービスを開始する。事前予約のほか、空港で当日申込を受け付ける方針。31日の発表会で壇上に立ったビジョンの佐野健一社長は「海外に行く人たちの行動スタイルが変わると思った」と、iliの将来性を高く評価する。

 また日本ではイオンモールが実証実験を2回実施。1回目は店内を案内するインフォメーションスタッフだけが、2回目は来店客にも貸出して実験をしたところ、スタッフと来店客の両方が「ili」を手にした2回目のほうがスムーズに楽しくコミュニケーションできたという。

左からイオンモールインバウンド推進グループの趙氏、ビジョンの佐野社長、ログバーの吉田社長、東京メトロ企業価値創造本部の小泉氏

 また東京メトロでは、海外からの訪日観光客(インバウンド)が増えるなかで、できるだけスタッフで対応してきたが、英中韓以外の言語への対応が今後必要になると見込む。「ili」にはそうした多言語への対応のほか、通信不要でどこでも使えること、スムーズなコミュニケーションでワンアクションで使えることを評価。

 ログバーによれば、イオンモールと東京メトロでは、「ili」を導入して活用する方針とのことだが、その導入規模や活用方法はあらためて検討され、準備が整い次第、案内される見込み。

個人向けは2017年中に、価格などは未定

 高校生のとき初めて米国を訪れた、中学高校と6年間、英語を勉強していたのに現地では英語が通じなかった――そんな自身の思い出を発表会の壇上で語ったのは、「ili」を開発したログバー社の代表取締役社長である吉田卓郎氏だ。

腹痛に襲われ、胃薬を飲むために水を買おうとしたのに、英語が通じず、別のドリンクを買うはめになったときのエピソードを寸劇で再現するログバーの吉田社長

 その後、留学などで数年間、米国に滞在したことから英語は話せるようになったが、中国語はさっぱりわからないと語る吉田氏は、スタンドアロンで使える「ili」のメリットとして、どこでも使えること、使う際の仕草が自然で警戒されにくいことなどを挙げる。
 最近ではニューラルネットワーク技術を用いた「Google翻訳」の精度が格段にアップするなど、クラウドやスマートフォンを使った翻訳のほうが話題だ。しかし吉田社長は「実際に海外でスマートフォンを使おうとしても、(サービスエリアの整備状況が影響してか)ずっと繋がらないことがある。遺跡や自然のなかでのトレッキングなど繋がりにくい場所がある。もし繋がったとして、スマートフォンのスピーカー位置や形状では、話しかけた後の翻訳を相手に聞かせようと思っても聞こえにくかったり、そもそもスマートフォンをそのように使って相手に警戒されたりすることがある、と説明。翻訳に特化し、スティック型に仕上げた「ili」であれば、翻訳できる範囲は限られるものの、スムーズに使えるとアピールする。

 かつて、ジェスチャーでさまざまな機器を操作できるとうたう指輪型ウェアラブルデバイス「Ring」を発売したものの、思うように動かないといった指摘も挙がった。吉田氏は「Bluetoothって何? といった反応もあった。ジェスチャーはシンプルな操作方法だと思っていたが、ユーザーにとっては複雑なものだったということがわかった」と振り返る。「ili」は汎用的に使う翻訳デバイスではなく、海外旅行中に使うことに特化することで、実用性を高めようとしている。31日のデモンストレーションや、ごくわずかな時間しかなかったタッチアンドトライでは、翻訳に失敗する場面もあったが、簡単な文章では滑らかに翻訳した印象も受けた。規模などは未定ながら、導入を予定するイオンモールや東京メトロでの利用は、「〇〇を買いたい」「△△へ行きたい」など、やり取りする内容は絞り込めると見られ、ある程度の実用性を期待できそう。吉田社長によれば、今後の個人向け販売については、価格や販路は未定で、クラウドファンディングの実施なども含めて検討していく。