インタビュー

久しぶりに登場したタフネスケータイ「TORQUE X01」

ユーザーの期待に応える端末づくりの裏側

TORQUE X01

 京セラのTORQUEシリーズというと、au向けに販売されている高耐久タフネス仕様のスマートフォンのシリーズだ。アウトドアギア感にあふれる頑丈さとデザインから、ファンからの強い支持を受けている。

 とくにauには、2000年からカシオ計算機(のちのNECカシオ)の「G'zOne」というタフネスケータイのシリーズがあったことから、タフネスケータイを好むユーザーが多い。NECカシオはすでに解散してしまったが、そのあとに京セラがTORQUEシリーズを発売したことで、「G'zOneからTORQUEに乗り換えた」というユーザーの声も良く耳にする。

 しかし、フィーチャーフォンタイプのタフネス端末は、2010年発売の「G'zOne TYPE-X」を最後に発売されておらず、「折りたたみのタフネスケータイを使いたい!」というユーザーの受け皿がない状態が続いていた。

 そうした状況の下で、京セラはau向けモデルとして、TORQUEシリーズのフィーチャーフォン「TORQUE X01」を2月下旬に発売する。中身は京セラの「GRATINA 4G」などと同じAndroidベースで、Google Playこそ使えないものの、auスマートパスからアプリをダウンロードしたり、VoLTEやLINEなどの最新のネットワーク/サービスにも対応している。一方で耐久性やデザインは、TORQUEシリーズらしいものになっている。

 今回はこのユニークな製品をどう商品化していったのか、開発を担当した京セラの通信機器事業本部 通信事業戦略部 商品企画部 商品企画2課の大西克明氏、同本部 デザインセンター デザイン2課 の高橋雄輔氏、通信国内事業部 国内技術部 プロジェクト3課の大内康史氏、久田晃一氏にお話を伺った。

タフネスケータイを求めるユーザーの声に応える

大西克明氏

――そもそも今回、TORQUEシリーズでフィーチャーフォンを商品化した狙いは?

大西氏
 TORQUEシリーズは今まで高耐久性スマートフォンブランドとして展開していました。しかし、TORQUEのオーナーズイベントで、「ハードキーの利便性が高いのでフィーチャーフォンが欲しい」という声を多数いただきました。

 一方、KDDIさんと話をする中で、かつてのG'zOne TYPE-Xの根強いファンがいて、高耐久フィーチャーフォンの後継機種を待ち望んでいる、と伺いました。これらがフィーチャーフォン版TORQUEの開発に至った背景です。

――やはりG'zOneシリーズを意識されていたのですね。

大西氏
 高耐久フィーチャーフォンについては、TORQUEユーザーからの声もありましたが、KDDIさんやTYPE-Xユーザーからも「TYPE-Xの後継となる機種を」という声があり、今回は企画検討時からG'zOneシリーズをベンチマークとしました。

――高耐久フィーチャーフォンというと、京セラでは北米向けに展開されていますが(AT&T向けのDuraXEなど)、そちらのノウハウを持ってきているのでしょうか。

久田氏
 もちろんそのあたりの構造ノウハウなどは持っていますが、とくに今回、耐久試験項目は海外モデルの方から取り入れました。

高橋雄輔氏

――設計面で海外モデルから導入しているポイントは?

高橋氏
 テンキーの形状は北米では非常に大事にされていて、今回はその考えを持ってきています。北米では主に法人向けなので、グローブ着用で使うシーンを想定しているのですが、TORQUE X01でもアウトドアシーンでのグローブ着用を考えています。

 押しやすさを大事にするために設計的にも工夫していて、たとえばキーのベース面を一段下げ、凸量を増やしています。ボタン一つ一つの大きさも、従来のフィーチャーフォンよりも大きくしました。キーエリア全体を大きくして、隣り合うキーの間隔も意識してデザインしました。ただ大きくするだけではなく、バランスも大事なので、そこも意識しています。

 また、北米だとキーの文字の色などでコントラストを効かしているものがあるので、今回はその考え方も持ってきています。キーの色や配置も機能ごとに切り分けたり、凹凸のあるパターンを使ったりしています。

 さらに、最下段にあるカスタマイズキーは、リブを立てて誤操作を防ぐようにデザインしています。

――海外で展開されているシリーズは、実用性重視の業務向けなデザインですが、TORQUEシリーズは印象が違います。このあたりは狙っているユーザー層が違うのでしょうか。

大西氏
 TORQUEシリーズの中心はコンシューマーです。これまでのスマートフォンでも耐久性と実用性を追求してきましたが、フィーチャーフォンも同様に開発しています。

高橋氏
 今回は一般のお客様向けにスポーティータフネスというコンセプトを掲げてデザインしました。TORQUEシリーズ全体のコンセプトでもありますが、それをどうフィーチャーフォンに落とし込むかを大事にしてデザインしています。

デザインと高耐久へのチャレンジ

2種のカラーでキー面の配色も若干異なる

――カラーバリエーションはシルバーとレッドと、コンシューマーモデルらしいものになっていますね。

高橋氏
 カラーについても社内外で調査し、シルバーとレッドの2色展開で、どちらも男心をくすぐるカラーとしました。

 シルバーに関しては、強さを演出するためにコントラストをはっきりさせ、ツールっぽさを目指しました。ツヤも少し落とすことで、渋い無骨さ、男らしいものになったと思います。

 レッドはスポーティな、勢いのある赤をイメージしています。深い奥行きのある赤をイメージしていて、たとえばSUVにあるような高級感のある磨き上げられた赤をイメージし、上質な赤を目指しました。

――デザインのモチーフはあるのでしょうか。

高橋氏
 具体的なものはありませんが、TORQUEらしい姿をイメージしつつ、久しぶりに登場する高耐久フィーチャーフォンのあるべき姿としての最適解について、かなり議論を重ねました。

 一番重要な「高耐久」というところを外観イメージに付加するために、強そうなデザインに仕上げる工夫をしていますが、ゴツゴツしたところはG'zOneシリーズの評価が高いので、その流れを踏襲しつつ今風のデザインを洗練させたいという思いがありました。

――サブディスプレイも比較的大きなものをしっかり搭載していますね。

高橋氏
 フィーチャーフォンは基本的に閉じて持ち歩きますが、TORQUE X01ではいろいろな情報が見られるので、普通のフィーチャーフォンよりもサブディスプレイの重要度を高く考えています。大きな特徴となるポイントでもあるので、今回のようなデザインとしました。

大西氏
 TORQUE X01ではアウトドアポータルという機能を搭載し、気温や気圧、潮汐などを見ることができます。こういった情報をサブディスプレイに表示し、サイドキーで表示/切り替えができます。

大内氏
 普通のフィーチャーフォンのサブディスプレイは時計表示がメインですが、TORQUE X01では情報量が多いため、それを表示するためにこのサイズになりました。

久田晃一氏

――可動部のある折りたたみデザインとなると、頑丈さを実現するための構造設計が大変なのでは。

久田氏
 京セラも海外向けで高耐久フィーチャーフォンを展開していますが、G'zOneも研究しました。材料的には、強度部品にはナイロン系の高強度樹脂をベースとして、それに装飾部品やバンパーを付けています。ナイロン樹脂は他モデルでも使っていますが、今回はヒンジ部分の強度に苦労しました。

 たとえばLCD側が強すぎると、衝撃が加わったときキー側が壊れてしまいますし、その逆もあります。そのあたりのバランスを考え、衝撃が分散するように作り込みました。

――ヒンジ部は強度を出すのが大変そうですね。

久田氏
 ヒンジと呼ばれるユニット自体は、実は従来から変えているわけではありません。従来から使っているヒンジユニットが十分な強度を持っていて、防水にも対応しています。

 どちらかというとヒンジユニットが強すぎて、衝撃が加わったときにケース側が負けてケースが折れてしまう、ということがあります。ヒンジがつないでる両サイドの構造をヒンジと同じ強度する必要があります。強度が必要な部分を高強度樹脂で覆いつつ、LCD側とキー側の強度バランスを上手く保つのが今回のポイントになっています。

 とくに今回は1.5mと1.8mのコンクリートと鉄板の落下試験対応がありますが、オープン状態での落下では相当なストレスがかかるので、最初から肉厚に設計し、修正を加えつつ開発しました。

 ちなみに内部の設計、レイアウトや構造も従来モデルとはまったく異なっています。ここにも非常に苦労しました。カメラも初期デザインでは左側に寄っていたのですが、それはデザイン的によろしくないということで、中央に寄せて、その分、周囲の部品の位置をいじったりして、ベースデザインを決めるまでに苦労しました。

アゴの出っ張りに隠された秘密

充電クレードルにに置いた状態

――本体をよく見ると、閉じたときにアゴが出っ張っています。これは何か意味があるのですか?

高橋氏
 今回のモデルでは、大音量のフロントデュアルスピーカーを特徴としています。従来の折りたたみデザインでは、閉じたときに聞きやすいように外側にスピーカーを配置していました。しかし今回は閉じていても開いていてもスピーカーが外に露出し、正面を向くように配置しています。デザイン的にも特徴となる仕様です。

大西氏
 アウトドアアプリの自動読み上げ機能があるので、それを閉じた状態でも聞こえやすくする、というコンセプトがありました。TORQUE X01をバックパックのショルダーハーネスに装着し、フィールドテストをしてきたのですが、実際のアウトドア環境でもデュアルスピーカーは聞き取りやすいです。

――スピーカーを使った読み上げ機能などは面白いですね。

大西氏
 クマ鈴やアウトドアポータルで搭載している圏外/圏内通知の機能は、開発初期では搭載されていなかったのですが、KDDIさんと一緒にフィールドテストをしている中で、こういった機能があると便利だよね、ということで仕様検討し、搭載した機能になります。

 登山道ともなると、どうしても圏外が出てきてしまいます。ちょっとネットにつなぎたいときも、圏内に入るまでアンテナ表示を気にしないといけないのがストレスになるところで、音声で圏内に入ったことを教えてくれるだけでも便利だよね、と考えました。

――圏外/圏内通知はスマートフォンにも欲しい機能です。

大西氏
 こちらの商品で開発した機能の展開は、今のところ未定ですが、便利なものはスマートフォンシリーズでも展開できれば、と考えています。

――クマ鈴もほかにはないユニークな機能ですね。

大西氏
 登山者を見ると、熊鈴を持っている人が多いのです。登山は持って行くアイテムが多いですが、TORQUE X01にこれを搭載することで持ち物が減るならば、と考えました。ライト機能なども、そういったところで進化を計っています。

大内康史氏

――屋外だとディスプレイの見やすさも気になります。

大内氏
 明るい屋外を意識して、メインディスプレイではアクリルパネルと液晶の間に空気層をなくし、強化ガラスと液晶を貼り合わせています。そうすることで屈折や反射のロスを防ぎ、見えやすくしました。アウトドアシーンを想定しているので、そのあたりを意識して開発しています。

――とはいえAndroidベースだと電池の持ちが少なくなるのでは。

大西氏
 電池の持ちも非常に意識しています。今回、読み上げ通知や登山向けのクマ鈴機能など、使いながら持ち歩くことを想定しているので、電池への影響が少ないようにと考えました。

背面パネルはロック機構付き。外すとバッテリを交換できる

――このあたりは従来のAndroidベースのフィーチャーフォンの開発ノウハウが活かされているのでしょうか。

大西氏
 ほぼ同じですが、アウトドアで使う機能はいろいろ工夫を施しています。

大内氏
 アプリが裏で動くので、それをいかに抑えるかの工夫をしています。ここがガラホの一つの技術的なポイントになっています。

――バッテリー容量は1500mAhと、Androidスマートフォンに比べると半分くらいですね。

大内氏
 かつてのフィーチャーフォンに比べるとかなり容量は増えていますが、しかしこれ以上容量を大きくすると重くなってしまいます。この容量の中で工夫をしています。

フィーチャーフォンの良いところを受け継ぐ

充電クレードルの表面はやや変わってテクスチャ仕様

――充電はクレードルも用意されているのがよいですね。

大西氏
 フィーチャーフォンユーザーの利用を見ると、クレードルを使っている人が非常に多いです。TORQUEにも必要だろう、と。

――背面パネルを外すとバッテリーが交換できる仕様ですが、たとえば法人など向けにLサイズバッテリーみたいなアイデアは?

大西氏
 かつてのフィーチャーフォンでは用意していたモデルもありましたが、TORQUE X01には今のところありません。ニーズ次第ですね。

――おサイフケータイや赤外線を省略せずに搭載しているのも凄いですね。

大西氏
 TORQUE X01を企画するにあたり、フィーチャーフォンを使ってきたお客様のために、元からあった機能を省かず、なるべく全て搭載しました。もちろんスマートフォンと併用するユーザーもたくさんいると思いますが、そこは必要に応じて使い分けてもらえればと思っています。

専用のハードホルダーを付けるとナイロンベルトとカラビナ風パーツでぶら下げられるようになる

――ストラップホールもありますね。これはハードホルダーの引っかかりも兼用ですか?

高橋氏
 TORQUE G02のストラップホールとハードホルダーを兼ねたデザインを踏襲しました。ストラップでもハードホルダーでも使いやすくなるようにデザインしています。

――このほかにもなにか特徴的なポイントはありますか。

大内氏
 カメラが13メガピクセルなのですが、実は弊社のフィーチャーフォンとしては最高解像度になります。このために今回、専用の画像処理プロセッサーを搭載するなど、カメラにはこだわりを持って開発しました。

久田氏
 フィーチャーフォンは何年も使い続ける人が少なくないですが、このモデルもそうなれば良いな、という思いがあります。しかし、やはり長く使っていると塗装がはげてきます。塗装強度を強くしても避けられません。そこで、塗装がはげることを想定し、今回はほぼ全パーツ、素材の樹脂を塗装に合わせて調色しました。

 普通は赤い塗装でも、メタリックに塗ってから赤を塗ったりするので、メタリック側に合わせたりと、素材自体は最終的な色とは違うことが多いのですが、今回は最終的な色に合わせて、素材の色を合わせることで、塗装がはげたり削れたりしても目立たなくしています。

――今シーズンの京セラは、DIGNO rafreといい、ボリュームゾーン以外にターゲットを絞って、しっかりとユーザーを取りに行っている印象を受けます。御社がこうしたボリュームゾーン以外に強い理由は。

大西氏
 フィーチャーフォン時代から「かんたんケータイ」などセグメントをしっかりとしていたので、そこが強みになっているのかと。京セラの商品戦略としても、あえてカテゴリーの個性が立っている製品に力を入れていますね。

――本日はお忙しいところ長時間ありがとうございました。