スタパ齋藤の「スタパトロニクスMobile」

iPhoneで本格的ストロボが使える無線アダプター!

iPhoneで本格的ストロボが使える無線アダプター!

 今回のブツはPotechの「Tric Flash Trigger TRIC-100」。コレ、ナニかと言いますと、iPhoneなどのiOS端末とBluetooth接続して使うデバイスで、iOS端末で一般的な外付けストロボ(フラッシュ)を使えるようにするという、いわば「iOS端末用ストロボ無線接続アダプター」です。メーカー直販価格は税込5900円で、製品紹介ページおよび購入窓口へのリンクはコチラにあります。

Potechの「Tric Flash Trigger TRIC-100」。対応iOS端末は、iPhone 5s以降のiPhoneと第6世代(2015年)以降のiPod Touchです。サイズは前後6×左右4×高さ4cm(約寸)で、電池込みの質量は約61g(実測値)。裏面には技適マークがあり、カメラのホットシューや三脚にセットできる構造になっています。
TRIC-100に一般的なクリップオンストロボをセットし、ストロボ用のスタンドで自立させたり、三脚にセットしたりして使えます。もちろん、TRIC-100をセットしたストロボを手持ちで使ってもOKです。
一般的なクリップオンストロボと組み合わせて使えるほか、本体側面のシンクロ端子を使えば、たとえば業務用大型ストロボなどともつなぐことができます。TRIC-100本体の電源は単四形電池×2本です。
左がiPhone 6s Plus(内蔵LEDフラッシュ使用)で撮った写真、右がiPhone 6s Plus+TRIC-100+ストロボを使って撮った写真です。どちらの写真も、なるべくキレイに見えるようにレタッチしてあります。ストロボを使うと、ずいぶん印象が変わります。

 外付けのストロボは、各メーカーからイロイロと発売されています。しかし、これまでiOS端末などスマートフォンで、そういったストロボを使う方法はありませんでした。それを可能にしたのがTRIC-100。各カメラメーカーや業務用ストロボメーカーから発売されている汎用的なストロボを、iPhoneなどiOS端末で使えるようになり、よりキレイな写真が撮れるようになったというわけですな。

 ちなみに、メーカーの「TRIC-100の効果をアピールしたフォトギャラリー」がコチラにあります。写真左がTRIC-100使用、右がiPhoneのみで撮影したものですが、確かに「あ~iPhoneだけだとそういう感じになりがちだな~」と思ったり。TRIC-100を使った効果を先に言ってしまうと、若干の露出/ライティング知識が必要にはなりますが、明らかによりキレイな写真が得られるようになると感じました。

 ただ、恐らくは「スマホでストロボ!? そこまでしたい?」という人と「それはイイ! RIC-100使ってみたい!」という人に別れそうな、かなりマニアックなアイテムではあります。でもiPhoneに新たな可能性をもたらしたアイテムであることは確かだと思います。ともあれ以降、TRIC-100の機能や使用感について見ていきましょう。

TRIC-100はどう使うのか?

 TRIC-100は、前述のとおりiOS端末とBluetooth接続して使うデバイス。TRIC-100にセットした一般的なカメラ用の外付けストロボの発光タイミングを、iOS端末の撮影タイミングと合わせるという動作をします。つまりiPhoneなどでシャッターを切れば、それに同調してストロボが光るわけですな。結果、iOS端末でストロボ撮影ができます。

 ただし、いくつか制限があります。まず、TRIC-100は専用アプリ(静止画撮影専用カメラアプリ)からでしか制御できません。便利機能ナシの、素朴というかプリミティブな感じのカメラアプリです。

 また、ストロボの発光と撮影タイミングが同調するシャッタースピードは1/30秒のみとなっています(実際は少々前後してもOKでした)。1/30秒だと、iOS端末をしっかり保持していないと手ブレしやすいシャッター速度ですな。

 それから、露出は手動になります。iOS端末で撮影すると、通常はアプリが露出を自動でコントロールして、適切な明るさの写真を撮れます。しかしTRIC-100の場合、これができません。ユーザーが自力で露出をコントロールする必要があります。ちなみに、露出コントロールに関して「できること」を挙げると、アプリ側ではISO感度の調整のみです。

 使用するストロボは、光量の手動調節に対応しいる必要があります。マニュアルモード搭載(でX接点対応)のストロボってコトですな。アプリ側ではISO感度のみの調節となるので、それに応じてストロボ側の光量を上げ下げして撮る必要があるわけです。

 てな感じで、何となくメンドクサそうなイメージですが、実際に使う手順を見てみましょう。まずはアプリのインストールです。

 アプリは、無料版の「TricCam Lite」と、有料版(600円)の「TricCam」があります。無料版は、1台のTRIC-100としか接続できませんが、有料版は4台まで接続可能。また、有料版はISO感度手動調節に加え、シャッタースピードやホワイトバランスやピントの手動調節もできます。

有料版も無料版も「ISO感度の手動調節」には対応しています。有料版は「シャッター速度の手動調節」も可能です。
有料版は、さらに「ホワイトバランスの手動調節」や「マニュアルフォーカス」にも対応。マニュアルフォーカス時には、画面の一部分を拡大しつつのピント微調節が可能です。

 アプリのインストールの次に、機材をセットします。電池を入れたTRIC-100にクリップオンストロボなどをセットし、TRIC-100とストロボの電源を入れます。TRIC-100とiOS端末はBluetooth接続して使いますが、ペアリングは上記専用アプリの右下に見えるアイコンをタップするだけです。

TRIC-100に適宜ストロボをセット。TRIC-100の電源が入った状態で、専用アプリ側のアイコン(赤矢印のもの)をタップすればペアリングがなされます。ペアリングが完了すると、アイコンの縁が緑色になり、TRIC-100のLEDランプが点灯状態になります。

 以上、セットアップ自体は非常にカンタンですな。あとは撮るだけです。

どんな効果があるのか? 実用的なのか?

 さて、TRIC-100を使うとどんな効果があるのか見てみましょう。もちろん、組み合わせるストロボや光の当て方によって効果は変わってきます。ここでは、iPhone 6s Plus単体で撮った写真と、TRIC-100とニッシンデジタル「i40」を組み合わせて撮った写真を比較してみます。「i40」の製品紹介ページはコチラですが、バウンス撮影機能や付属ディフューザーも積極的に使っています。また、ストロボを2台を使った「二灯撮影」も試してみました。

 なお、下に掲載した写真は、色や明るさの調節などのレタッチは行っていません。リサイズだけを施しました。

猫っていうかバステトの置物を撮ってみました。左は内蔵LEDフラッシュ不使用、右は使用です。内蔵フラッシュを使うと、対象の質感がよりよくわかったりもしますが、背景が近いと強い影が出たりもします。
TRIC-100とi40を使って撮りました。三脚を使っていないので、フレーミングが若干ズレているのはご愛敬。左が1灯撮影、右が2灯撮影です。どちらもやや露出オーバー気味になってしまいましたが、置物の細部までよく見えます。
今度は腕時計。左が内蔵LEDフラッシュ不使用、右が使用です。フラッシュ無しのほうは、けっこー良好♪
ストロボを使っての撮影。左が1灯、右が2灯です。ライティングが甘いですが、外部ストロボを使えばiPhoneでもかなりキレイに撮れますな~。レタッチで色味や明るさを調節すれば、ちょっとした製品写真として使えそうです。
今度はカメラ。左が内蔵LEDフラッシュ不使用、右が使用です。
ストロボを使用しての撮影。左が1灯、右が2灯ですが、2灯撮影はちょっと露出オーバーですな。

 TRIC-100使用時の露出の決定は、ストロボ側の光量を一定にして撮りながら、アプリ側でISO感度を変えることで露光量(写真の明るさ)を変えるという方法にしました。ストロボ使用時の写真は露出がオーバー気味になってしまいました(iPhone上で確認したら適正に見えたもののPC上で見たらやや明るい感じでした……iPhoneの画面、ちょっとコントラストが高いのかもしれません)。しかし、素材写真としてこれにレタッチを加えると考えれば、かなりイケると思います。

 ともあれ、やはりストロボ光は太陽光に近いスペクトラムが出ているので、色温度さえ合わせれば非常に自然な色味となりますし、レタッチで色調を補正した場合も良好な結果を得やすいです。また光量も十分得られるので、ストロボ光で不自然な影を消したり、背景の暗さを払拭するようなことも容易です。ストロボ自体の機材を変えれば、もっといろいろなメリットが得られると思います。

 で、その実用性ですが、TRIC-100本体およびアプリは、どちらもシンプルなので予想以上に容易に使えました。組み合わせるストロボにより、ストロボ側の発光量調節や発光角度調節は快適だったり不便だったりで、まあ使う機材次第だと思います。

 それ以上に使用感という部分を左右するのは、露出決定やライティング方法に関する知識かも、です。ある程度ストロボ撮影を知っているなら、TRIC-100自体は「iPhoneのシャッターに合わせてストロボを無線で発光させているだけ」なので、難しいことはありません。TRIC-100があれば、ほとんどの外付けストロボをiPhoneと組み合わせることができて「あっこれナニゲに凄いっ!」という感じになるかもしれません。

 一方、手動露出で行うストロボ撮影について知識がないと、「いつもと同じように撮ったのに、TRIC-100とストロボを使ったら手ブレが増えた(TRIC-100はシャッター速度1/30秒固定のため)」「背景が明るすぎる/暗過ぎる(iPhoneのISO感度とストロボ光量のバランスを取る必要があるため)」「テカりが多い写真ばかりになる(バウンス撮影などをしないとそうなる場合も多い)」など不都合が多く感じるかもしれません。

 結局、これまではカメラアプリが行ってきた「露出決定」を全て自分で行う必要があり、さらに撮影時だけ一瞬光る閃光という新たな光源が増えることになるので、シャッターボタンを押すだけでソコソコ良好な写真が得られるというイメージではなくなります。一方で、露出決定やライティングを覚えれば、得られる写真のアベレージは確実に上がると思います。てな感じで、TRIC-100は、ユーザーにある程度の知識を求める機材だと言えます。

 それと、撮影時はiPhoneとTRIC-100+ストロボといった感じで、「扱うモノが2つになる」のも、やや煩雑な感じかもしれません。そこまで考えると「じゃあ最初からミラーレスなりコンパクトなりのデジカメ使えば?」みたいな気分になるかもしれません。

 ですが、TRIC-100+ストロボには、工夫して楽しむという趣味性があり、さらに写真の仕上がりの良さを期待できるという魅力もあります。iOS端末でどんなふうに写真を楽しむかによっても、TRIC-100の価値はまた変わってくると思います。

実質、1灯あれば多灯撮影可能

 TRIC-100は、専用アプリ有料版を使えば、4台までのストロボを同調させることができます。ただ、実質的には、TRIC-100が1台あれば、同調させるストロボを何台でも追加できたりします。というのは、「TRIC-100と組み合わせるような外付けストロボ」を扱ってみるとわかりますが、手動で光量調節ができるようなストロボには、まあだいたい、「他のストロボ発光を感知してそれに同調して発光する」という機能があるからです。大雑把に「フォトセル」などと呼ばれる機構/機能です。

 たとえば、TRIC-100に「A」というストロボをセット。これはiOS端末(TRIC-100専用撮影アプリ)と同調して発光します。その近くに「ストロボ光に同調して発光するモード」にした他のストロボを追加して置けば、「A」が光ったと同時に追加したストロボも光ります(置く向きや距離で光らないこともあります)。ちなみにこの場合、ストロボ「A」をマスター・ストロボと呼び、マスター・ストロボの発光に同調して発光するほかのストロボをスレーブ・ストロボと呼びます。

中央の1台だけがTRIC-100にセットされています。周囲のストロボは「ストロボ光に同調して発光するモード」(スレーブ)にしてあります。iOS端末(TRIC-100専用撮影アプリ)でシャッターを切ると、TRIC-100により中央のストロボが発光。その光に同調して(感知して)周囲のストロボも光ります。右写真は並べたストロボをiPhoneで撮影していますが、撮影の瞬間に各ストロボが発光していることがわかります(ストロボ光の影響を考慮して上から撮影しています)。というわけで、1台のTRIC-100だけあれば、無線での多灯撮影ができることになります。使うアプリも無料版で事足りるかもしれません。

 ちなみに、フォトセル機能(と言っていいんでしょうか?)はジェネレータを使うスタジオ向け大型ストロボや、ロケに向くモノブロックストロボなど、プロ向けストロボにはたいてい備わっています。まあ、そういたストロボを使う人は、カメラもそれに応じたものを使っていますので、iOS端末でそういったプロ用ストロボを使うとは考えにくく、TRIC-100の必要性についても疑問です。

 ただ、TRIC-100によりiOS端末と一般的な市販ストロボが同調して発光することは、iOS端末と撮影用ストロボ全般の親和性が急激に高まったことでもあります。これは、iOS端末が「またひとつ影響を与える分野を広げ始めた」とも捉えられます。

 以前は「スマートフォンとコンパクトデジカメは別のモノ」だったような気がしますが、現在は「写真はスマートフォンで撮るからコンパクトデジカメは不要」という人も増えています。現在のTRIC-100については、「そこまでしてiOS端末でストロボ使うって、意味あるの?」という感じがするかもしれません。しかし、近い未来、「スマートフォン用の無線外付けストロボが欲しいんだけど、どの機種がいいかな?」という会話しているかもしれません。

スタパ齋藤

1964年8月28日デビュー。中学生時代にマイコン野郎と化し、高校時代にコンピュータ野郎と化し、大学時代にコンピュータゲーム野郎となって道を誤る。特技は太股の肉離れや乱文乱筆や電池の液漏れと20時間以上の連続睡眠の自称衝動買い技術者。収入のほとんどをカッコよいしサイバーだしナイスだしジョリーグッドなデバイスにつぎ込みつつライター稼業に勤しむ。