スマートフォンの次のステップを模索するMobile World Congress 2012

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 2月27日から3月1日まで、スペイン・バルセロナにおいて、GSMA主催による「Mobile World Congress 2012」が開催された。携帯電話・モバイル関連のイベントとしては世界最大規模のものであり、世界中の関連企業が集い、製品の展示や商談、交渉、キーパーソンによる講演などが行われる、携帯電話業界にとって最も重要なイベントとして知られている。会期中、本誌には数多くの現地からのレポート記事が掲載されたが、ここでは筆者が現地で見た各社の印象などを踏まえながら、Mobile World Congress 2012で見えてきた方向性について、説明しよう。


世界中の関連企業が集まるMobile World Congress

 携帯電話をはじめとした移動体通信業界は、端末だけでも1年間に全世界で17億台以上が出荷され、基地局やサービスなど、関連事業も含めた業界規模は大変に大きなものであり、世界経済にとっても重要な業界のひとつだと言われている。近年、リーマンショックや欧州の経済不安などの影響を指摘されてきたが、ここ数年はスマートフォンの普及により、インターネットやIT業界全体を巻き込み、新しいムーブメントを生み出しつつある。市場も欧米やアジアを中心とした『モバイル先進国』だけでなく、インドや中国、アフリカや中南米など、他のエリアでも急成長が進んでおり、ますますモバイルの果たす役割は大きくなりつつある。

 この携帯電話・モバイルの世界において、もっとも重要なイベントに位置付けられているのが、GSMA主催による「Mobile World Congress」だ。かつては「GSM World」「3GSM World Congress」などの名称で開催されていたが、2008年以降は現在の名称に変更され、スペイン・バルセロナで開催されている。

 Mobile World Congressは世界最大の携帯電話・モバイル関連のイベントだが、1月に開催される「Consumer Electronics Show」(CES)など、他のイベントと少し趣が異なる部分がある。他の多くのイベントは、来場するコンシューマー(一般消費者)を主なターゲットに捉えているのに対し、Mobile World Congressは業界に関わる企業同士の商談や交渉、会議などを中心に据えたイベントとなっている。とは言うものの、端末メーカーなどにとっては、コンシューマーの反響が結果的に各携帯電話事業者への採用に結びつくため、このMobile World Congressを狙い、新機種が発表されることが多い。

 現に、昨年のMobile World Congressでは、サムスンの2011年最大のヒット商品に成長した「GALAXY S II」が発表されている。Mobile World Congress 2011での発表後、2011年6月には日本でもNTTドコモから「GALAXY S II SC-02C」が発売され、ベストセラーを記録し、バリエーションモデルとなるLTE対応の「GALAXY S II LTE SC-03D」(2011年12月発売)、WiMAX対応の「GALAXY S II WiMAX ISW11SC」(2012年1月発売)も販売されている。もちろん、グローバル向けでも従来の「GALAXY S」に続き好調な売れ行きを記録している。

 こうした新機種は毎回、会期前日のプレスカンファレンスで発表されている。今年は残念ながら、サムスンがプレスカンファレンスを行わず、噂されていた「GALAXY S3」は発表されなかったが、日本市場にも関係の深いHuawei、ソニー・エリクソン(ソニーモバイル)、HTCがプレスカンファレンスを開催し、いずれも注目される新製品を発表している。各メーカーの発表内容は本誌レポートを参照していただきたいが、ここでは各社の発表内容と、Mobile World Congressのブースで見かけた新製品の印象について、説明しよう。


ハイスペックとデザインを追求するHuawei

「Ascend D quad」
「MediaPad 10 FHD」

 Mobile World Congress 2012の会期前日のプレスカンファレンスで先陣を切ったのは、日本でもおなじみのHuaweiだ。Huaweiというと、イー・モバイル向けのPocket WiFiシリーズなど、どちらかと言えばデータ通信端末が多いメーカーという印象が強いが、先般の2012 International CESでも世界最薄のスマートフォンをリリースするなど、スマートフォンのラインアップを急速に拡充しつつある。

 今回のMobile World Congress 2012では、世界最速を謳うクアッドコアCPU搭載のスマートフォンをはじめとした、3機種のスマートフォンが発表された。注目されるのはフラッグシップに位置付けられる「Ascend D quad」で、自社開発のクアッドコアCPU「K3V2」(1.5GHz駆動)を搭載している。

 これまでスマートフォンのプロセッサーと言えば、定番の米QualcommのSnapdragonシリーズをはじめ、Android 4.0のリードデバイスでも採用された米Texas Instruments(TI)製OMAPシリーズ、パソコン向けGPUなどでもおなじみの米NVIDIAによるTegraシリーズなど、ある程度決まったメーカーのプロセッサーが採用されてきた。そんな中、Huaweiが自社で開発したプロセッサー、しかもクアッドコアで1.5GHzという仕様のものを搭載してきたのは驚きに値する。また、このモデルには1.2GHzの同じプロセッサーを搭載したモデルや、2500mAhの大容量バッテリーを搭載したモデル(標準は1800mAh)もラインアップされており、ハイスペックでありながら、ユーザー(及び事業者)の幅広いニーズに対応できるようにしている。1つのモデルでありながら、こうしたスペックの違いによるバリエーションを持たせてきたことは、ある意味、BTOが当たり前のパソコンの世界の考え方が取り込まれてきたという見方もできる。

 具体的な市場展開については、日本を含むグローバルマーケットに展開していくとアピールしており、日本国内の市場への投入も念頭に置かれているようだ。関係者によれば、Huaweiとしては、日本市場を最新デバイスの動向などがいち早くわかる重要なマーケットと位置付けており、今後も重点的に関わっていきたいとしている。

 また、このプレスカンファレンスではフルHD(1920×1280ドット)パネルを採用したAndroid 4.0搭載タブレット端末も公開された。正式には未発表という扱いになるが、ボディも8.8mmと非常にスリムだ。国と地域によって、タブレット端末の受け入れられ方は異なるが、今後のタブレット端末のディスプレイはHDからフルHDへ移行していくことになるのかもしれない。

 この他にもHuaweiはデュアルコアプロセッサー搭載の「Ascend D1」などを合わせて発表したが、全体的に見て、最先端のハードウェアのスペックを追求することで、市場全体にアピールし、先行するサムスンやLGエレクトロニクス、アップルなどを追いかけていこうという力強い姿勢が感じられた。基地局など、バックヤードのビジネスでは着実に成功を収めつつある同社だけに、端末においてもその成功を活かし、市場での存在を広めていきたい構えのようだ。


「One Sony」としての「Xperia NXTシリーズ」

「Xperia P」
「Xperia U」

 長く携帯電話業界に親しまれてきた「ソニー・エリクソン」というブランドだが、既報の通り、エリクソンが持つ50%の出資分をソニーが買い取ることで、完全にソニー傘下に入ることになった。今回のMobile World Congress 2012は1月の2012 International CESに続き、新生「ソニーモバイル」としてのスタートを、欧州を中心とした携帯電話業界にお披露目するという意味合いも持つ。そして、新生「ソニーモバイル」を印象付けるように、会期前日に催されたプレスカンファレンスでは何度となく「One Sony」という言葉が使われていた。ソニー全体との連携はこれからを見ることになるが、スマートフォンのXperiaシリーズがソニーにとって、欠かせないピースのひとつであることは、しっかりと伝わってきている。

 ソニーモバイルは昨年のMobile World Congress 2011において、Playstation Suite採用第1弾となった「Xperia PLAY」などを発表したが、今回は1月に催された2012 International CESで公開された「Xperia S」をフラッグシップに据えた、次世代ラインアップ「Xperia NXTシリーズ」のミッドレンジ及びエントリーモデルとして、「Xperia P」と「Xperia U」が発表された。同時に、北米向けに発表済みの「Xperia ion」も欧州市場向けに公開された。

 ミッドレンジ及びエントリー向けモデルであり、デザイン的にもXperia Sの流れを踏襲しているということで、ハイエンド指向が強い日本のユーザーとしては、ちょっと肩すかしを食らったような印象を持つかもしれないが、会期中に掲載されたHead of Product portfolioの大澤斉氏のインタビューでも触れられているように、今回の2モデルはXperia Sと共に、ソニーとしてのスマートフォンを面で構成するために必要なモデルという位置付けだ。国内では急速にスマートフォンの市場が拡大しているが、それは日本以外の市場も同様で、今後スマートフォンをさらに広いユーザー層に拡大することを考えたとき、ソニーのスマートフォンとしての一貫した個性を持ちながら、幅広い価格帯のモデルを取り揃えることは当然の手法であり、ユーザーとしても安心感が持てる。

 しかし、そうは言ってもソニーモバイルが考えるだけに、この2モデルもXperia Sを単純にスペックダウンするのではなく、新たに「WhiteMagic技術」を搭載したディスプレイを採用するなど、より新しい要素を積極的に取り込んできている。日本市場への展開はすでにXperia Sをベースにした「Xperia NX」が発売され、Xperia acro HDもNTTドコモ向けとau向けが発表済みで、間もなく販売が開始される。そのため、Xperia PやXperia Uがすぐに日本でも登場するとはやや考えにくいが、Xperia Uの着せ替えやイルミネーションは日本市場でも若年層を中心に人気が出ると予想され、ユーザーからの声が多ければ、日本市場においてもスマートフォンの市場拡大に合わせてこの2モデルが登場してくる可能性は十分に考えられる。

 また、ユーザーとしては各社が提供を開始したLTEサービスに対応したXperiaの登場が気になるところだが、この点についても大澤氏は「ぜひご期待ください」と答えており、遅くとも年内にはLTE対応Xperiaがお目見えすることになるのかもしれない。

 ソニーモバイル全体としては、会社がソニー・エリクソンから完全にソニー傘下になったことで、社名の表記なども含めてまだ少しばたついている感は否めないが、プロダクトラインアップの考え方は、むしろ鮮明化してきた印象で、Audio&Visualへの取り組みなども含め、今後ますます「ソニーらしさ」を際立たせた商品ラインアップが展開されそうな印象だ。


新ラインアップ「HTC One」を展開するHTC

「HTC One X」
「HTC One S」
「HTC One V」

 会期前日のプレスカンファレンスの最後を飾ったのは、国内でもau向けやイー・モバイル向けでおなじみの台湾のHTCだ。HTCと言えば、OEMベンダーとしての時代も含め、スマートフォンの市場を常にリードしてきたメーカーのひとつだが、近年はアップルのiPhoneやサムスンのGALAXYなど、後発のスマートフォンに押され、一時の勢いを失いつつあるという見方もある。しかし、多彩なラインアップとHTCならではユーザーインターフェイスは、幅広いユーザー層に根強い人気を持ち、日本にもファンが多い。

 今回、HTCは会期前日のプレスカンファレンスにおいて、新しいラインアップ「HTC One」シリーズ3機種を発表した。HTCはこれまで「HTC Desire」や「HTC EVO」など、モデルごとに細かく名前を付け、ラインアップを展開してきた。日本のユーザーにはあまりなじみがないが、日本以外の市場では実に多彩なネーミングのモデルが数多くラインアップされてきた。そんな同社が敢えて「HTC One」というシンプルかつ力強いネーミングを与えたことはちょっとした驚きだが、プレスカンファレンス後に関係者に話を聞いたところ、「HTC One」というネーミングは社内でもかなり議論を尽くして生まれてきたもので、それだけに社内の新ラインアップに対する思いも並々ならぬものがあるという。

 ただ、その一方で、これまで展開してきたラインアップは少し整理をして、ある程度モデル数を絞り込むことも検討しているそうだ。そして、日本市場向けについては、日本向け仕様を盛り込んだモデルを開発すると話していたが、その翌日にKDDIとHTCから共同で「日本向け仕様を盛り込んだスマートフォンを開発する」旨のプレスリリースも出された。

 ちなみに、ネーミングについては、HTCとしてもう一度シンプルなものに戻して、仕切り直しをしたいという思いもうかがえるが、その一方で、昨今話題になることが多い商標問題などをクリアしやすいというメリットもありそうだ。

 肝心の端末そのものについては、NVIDIA製クアッドコアプロセッサー「Tegra3」、もしくは米Qualcomm製Snapdragon S4搭載のハイエンドモデル「HTC One X」、ほぼ同じデザインながら4.3インチディスプレイを搭載した「HTC One S」、HTC製Androidスマートフォンの初期モデル「HTC Legend」のデザインを継承した「HTC One V」がラインアップされており、今回はHTC One XとHTC One Sのみを試すことができた。

 Android 4.0を搭載し、HTCならではのUIとしてHTC Sense 4も搭載されていたが、HTC One XとHTC One Sの2機種はディスプレイサイズとその周囲のデザイン処理に違いがあるのみで、ボディデザインはほぼ共通仕様となっている。前述のソニーモバイルの話ではないが、デザインを統一することは「HTCらしさ」を主張するうえで、プラスになるのだろうが、サイズまでほぼ同じというのは、逆に不満に思うユーザーも生まれてくるかもしれない。

 また、今回のHTC Oneは800万画素の裏面照射型CMOSセンサーに、F2.0レンズを組み合わせ、HDRやフラッシュ、0.7秒間隔の撮影機能など、カメラ機能が強化されていることもアピールされた。オーディオについても昨年買収した「beats」によるチューニングを活かすなど、新しい取り組みを見せている。こうしたアピールは「今までのHTCにはなかった姿勢だ」と指摘する声もあった。

 日本のユーザーにとっては、KDDIとの共同開発に期待がかかるが、グローバル市場全体を考えると、多彩なラインアップでスマートフォンをリードしてきたHTCにとっても、スマートフォン市場のトレンドが変わりつつあることを感じ始めているのかもしれない。「HTC One」が、その名に込められた期待の通り、HTCのスマートフォンラインアップの再スタートを切るモデルとして広く市場に支持されるかどうか。今後の同社の取り組みにとアピールに期待したい。


GALAXY Note 10.1などでGALAXYの世界をさらに拡げるサムスン

「GALAXY Note 10.1」
「GALAXY Beam」

 昨年、Mobile World Congress 2011で発表し、世界的なヒットの商品へと成長した「GALAXY S II」。今年はその後継モデルに位置付けられる「GALAXY S3」が発表されるのではないかと期待されたが、昨年のようなプレスカンファレンスは催されなかった。

 しかし、今回もMobile World Congressに合わせ、昨年来欧州を中心に人気を拡大している手書き入力対応のスマートフォン「GALAXY Note」の大画面モデル「GALAXY Note 10.1」を発表し、プロジェクター搭載スマートフォン「GALAXY Beam」を展示したこもとあって、会場内のブースは昨年と変わらない盛況ぶりだった。

 GALAXY Noteの手書き入力については、2012 International CESのレポートでも触れたが、これまでのスマートフォンとは違った使い道を模索するものとして、非常に期待される。手書き入力で文字を入力できるだけでなく、図形を認識したり、絵を描いたりと、かなり利用範囲が広い。従来の5.3インチモデルのGALAXY Noteはどちらかと言えば、胸ポケットにも入れておくことができる「手帳」的なイメージの製品であるのに対し、今回の10.1インチモデルはカバンなどに入れて持ち歩く「ノート」的なイメージの製品にまとまっている印象だ。日本市場のことを考えると、まずは5.3インチモデルの登場を期待したいところだが、一般的なタブレット端末が今ひとつ奮っていない日本市場のことを考えると、10.1インチモデルもラインアップに加え、タブレット端末市場の活性化にも期待したいところだ。

 プロジェクター搭載のGALAXY Beamもなかなか楽しそうなモデルだ。プロジェクター搭載モデルと言えば、昨年、国内でNTTドコモがPROシリーズとしてシャープ製「SH-06C」を発売したが、市場の注目がスマートフォンに移行し始めた時期だったこともあり、十分な結果を残せなかった。しかし、スマートフォンに搭載したモデルということであれば、スマートフォンで楽しんでいるYouTubeなどのコンテンツも大画面に投影できるため、楽しみ方はグッと拡がりそうだ。プロジェクターというと、すぐにビジネスユースばかりが考えられがちだが、スマートフォンでこれだけ多くのコンテンツを楽しめるようになってきていることを考えれば、個人ユーザーの方がより多くの使い道を生み出しそうだ。最近では、ソニーのビデオカメラ、ハンディカムにもプロジェクター搭載モデルがラインアップに加わり、ハンディカムで撮影した動画をいつでも大画面で楽しめるとして注目を集めており、プロジェクターがひとつのトピックになりそうな印象だ。


こだわりの4:3液晶搭載「Optimus Vu:」などが注目のLGエレクトロニクス

「Optimus Vu:」
「Optimus 4X HD」

 昨年のMobile World Congress 2011では、初のAndroid 3.x搭載タブレット端末「Optimus Pad」を発表し、注目を集めたLGエレクトロニクス。国内市場でもOptimus LTE、PRADA Phoneなどが好調な売れ行きを記録している同社だが、今回のMobile World Congress 2012では、5インチディスプレイを搭載した「Optimus Vu:」、クアッドコアを採用した「Optimus 4X HD」などの最新モデルが出品された。

 個人的に、今回のMobile World Congress 2012でもっとも注目したのは、この「Optimus Vu:」だ。スマートフォンのディスプレイは大画面化が進んでいるが、GALAXY Noteなどを見てもわかるように、既存のスマートフォンとは少し違ったセグメントで5インチクラスのディスプレイを搭載したモデルが増えつつある。

 例えば、前述のGALAXY Noteの5.3インチというサイズもそのひとつだが、Optimus Vu:は5インチの液晶ディスプレイを搭載しながら、アスペクト比が「4:3」を採用しているのが特徴だ。これまで、スマートフォンやタブレット端末のディスプレイというと、動画コンテンツ、なかでも映画コンテンツの再生を意識して、16:9や16:10の比率のパネルを採用するモデルが主流だった。しかし、もう一方のコンテンツの主流である紙媒体に目を向けると、そのほとんどが4:3の比率で制作されており、こうしたコンテンツを16:9のディスプレイで見ようとすると、どうしても周囲にムダなスペースができてしまっていた。そこで、Optimus Vu:では敢えて「4:3」比率の液晶ディスプレイを搭載したというわけだ。

 日本市場に登場する可能性はまだ未知数だが、これまでのOptimus LTEなどのように、日本仕様を取り込み、日本語の手書き入力などもサポートするのであれば、5インチディスプレイを搭載した新しい商品群の市場を新たに作る意味でも期待できそうだ。

 また、もうひとつの最新モデルであるOptimus 4X HDは、NVIDIA製クアッドコアプロセッサー「Tegra3」を搭載したスマートフォンで、8.9mmというスリムボディながら、2150mAhの大容量バッテリーを搭載するなど、ハイスペックなモデルに仕上げられている。本当にスマートフォンにクアッドコアが必要なのかという部分については、まだ疑問が残るが、ハイスペックモデルへのニーズが高い日本市場への登場も期待したいところだ。


再び世界への道を進む日本勢

パナソニックのブース

 ここ数年、海外メーカー製のスマートフォンが日本市場で普及する一方、日本メーカーは海外市場から撤退するなどの動きが続き、その業績の不振ぶりが随分と厳しく書き立てられてきた。特に、Mobile World Congressではかつて日本メーカーがブースを出展していたエリアに韓国や中国の企業が出展し、最近では、日本勢はNTTドコモをはじめとしたごく一部の企業のみが出展している状況だった。

 しかし、今回のMobile World Congress 2012ではパナソニックがグローバル向けスマートフォン「ELUGA」「ELUGA Power」をひっさげて復活したり、NECもNECカシオのグローバル向けモデル3機種を展示したりするなど、再び世界市場へ打って出ようとしている。

 まず、パナソニックは会期直前にグローバル向けに発表されたスマートフォン「ELUGA」に加え、5インチディスプレイを搭載した「ELUGA Power」も出品していた。実は会期中、隣接する英Vodafoneの出展ブースの壁の一部が崩れ、安全確保のために両ブース内にいた人たちが一時的に退去させられるというアクシデントが起きたが、逆にそのことで来場者がパナソニックの新しいブースの位置を知ることになり、ブースを訪れる人が一段と増えたのではないかという話も聞かれた。

 端末については、スリムなボディと高精彩な有機ELディスプレイ、防水性能などの反響が上々なようで、今後のグローバル市場での展開に期待が掛かるところだ。

 NECについては、以前から基地局やネットワーク設備など、さまざまな形でMobile World Congressに出展してきたが、今回は直前に国内向け発表会でも明らかにされたグローバル向けモデル3機種に加え、昨年のCEATEC JAPANでも出品していたセンサー内蔵ジャケットなども展示し、注目を集めていた。NECカシオとしては、北米向けを中心に展開した考えだが、会期中には、このセンサー内蔵ジャケットが複数の海外メディアに取材され、配信されており、欧州市場でも十分に注目を集めるポテンシャルを秘めていると言えそうだ。

 富士通も、1月の2012 International CESに続き、Mobile World Congress 2012に出展していた。富士通はこれまで、海外のソリューション事業を中心に出品し、日本市場向けの端末などを最新トレンドとして紹介していたが、市場のトレンドがスマートフォンに移行したことに伴い、今回は国内向けの最新のスマートフォンやタブレット端末を並べたところ、(海外の)来場者からの反響が非常に良好だったという。ちなみに、2012 International CESで参考出品されたクアッドコアCPU(Tegra 3)搭載のスマートフォンは、前回がケース内での動作だったのに対し、今回は実際にユーザーが手にして触れるようにしており、かなり開発が進んでいる様子をうかがわせた。クアッドコアの必要性として、今のところ、ゲームが挙げられているが、できることならもう一捻りした提案を期待したいところだ。また、防水については、ブース前で水を張ったトレイにタブレット端末をつけるというデモを常時行っており、これも来場者の注目を集めていた。


NECカシオの「MEDIAS W」NECカシオのセンサージャケット
パナソニックの「ELUGA」富士通のクアッドコア、LTE対応端末

 

対話型エージェントアプリ「しゃべってコンシェル」

 そして、日本関連でもっとも存在感のある企業と言えば、やはり、NTTドコモをおいて他にない。今回は対話型エージェントアプリ「しゃべってコンシェル」、GSM/W-CDMA/HSPA+/LTEに対応したモデムチップ「4通信方式対応モデム」などが注目を集めていたが、4通信方式対応モデムは、Xiが採用する「FD-LTE」だけでなく中国などで採用される「TD-LTE」をサポートしている点などが気になるところだ。

 ところで、今回のNTTドコモのブースではNFCを使ったクーポンや決済サービスなどのデモが実施されていたが、最後に少しNFCの話についても補足しておきたい。非接触ICチップを使ったモバイル端末による決済サービスについては、国内ではおサイフケータイに採用されているFeliCaが広く普及しているのに対し、海外ではType A/Bが採用され、NFCでも後者が主流になり、日本のおサイフケータイは世界から取り残されるといった報道を何度となく見かけてきた。

 確かに、グローバル市場向けのスマートフォンにはFeliCaを搭載するものはなく、おサイフケータイはあくまでも日本仕様のサービスに過ぎず、今後はNFCを利用したモバイル決済サービスが世界的にも普及する可能性が高いと見られる。国内についても昨年末、「モバイル非接触ICサービス普及協議会」が設立されたため、今後は国内でも既存のおサイフケータイに加え、NFCを利用した決済サービスが登場し、当面は併用されていくことになる見込みだ。

RIMのブースに設けられたNFCのサインポスト

 ただ、それはあくまでも仕組みの話であって、ユーザー自身が使うケースを見ると、まだまだ国内外の差は大きい。2010年末に海外で登場したNEXUS Sや、GALAXY S II、2011年末のGALAXY NEXUSなど、NFC対応端末が登場したことで、Mobile World CongressでもNFC関連の展示を多く見かけるようになってきたが、NFC関連の出展で説明を聞いたり、デモを体験している人たちを見ていると、まだモバイル決済サービスなどがどういった形で使われるのか、どういった形でデータやお金が動いているのかが今ひとつ理解できていないように見受けられることも少なくない。

 もっとも身近な例を挙げると、BlackBerryでおなじみのResearch In Motionのブースには、BlackBerry Bold 9900がNFCに対応していることもあって、ブース内に「NFC」と書かれたサインポストが何カ所かに立てられている。そこには何かをかざすと、製品の関連情報が得られると書かれているのだが、しばらく様子を窺っていたところ、ほとんどの来場者はそのかざすエリアに、カードタイプの来場者バッジ(NFC対応)をかざし、無反応なサインポストに首を傾げながらその場を後にするのだ。おサイフケータイを体験したことがあるユーザーなら、もうおわかりだろうが、正しくはサインポストのかざすエリアにNFC対応端末をかざすと、製品情報のURLなどが端末に受信でき、あとはインターネットに接続して、製品情報などを閲覧するしくみなのだが、「携帯電話(スマートフォン)をかざす」という行為を未体験の人たちはまだこういう状況なのだ。

 ちなみに、念のために補足しておくと、この状況を見かけたのはバルセロナの街中ではなく、Mobile World Congressという世界最大のイベントの会場内で見かけたものであり、そこに訪れている人たちは多少なりと業種こそ違え、モバイル業界に何らかの形で関わってきた人たちであり、そういう人たちが戸惑っているわけだ。ただ、誤解しないで欲しいのは、「だから、海外の人たちは何も知らないよね」と言いたいのではなく、日本には2004年から8年間もおサイフケータイという形でのモバイル決済サービスをやってきた実績があり、そこには有形無形のノウハウが、企業にもユーザーにも蓄積されているということだ。それを今後、NFCサービスが世界に展開されるときにうまく活かすことができれば、ビジネスチャンスはあるだろうし、普及の後押しもできるかもしれない。NFCはあくまでも一例でしかないが、そういう視点で捉えれば、日本企業が世界のモバイル市場で戦っていくチャンスはもっとたくさんありそうだ。


スマートフォンは「作る」時代から「使う」時代へ

 今回のMobile World Congress 2012は、GALAXY S IIやAndroid 3.x搭載タブレットなどが発表された昨年に比べ、新製品や大きなトピックがなかったとも言われたが、実際にはHuaweiやソニーモバイル、HTC、ZTEなど、日本と関わりの深いメーカーが数多く新製品を発表するなど、スマートフォンを中心に今後の市場の盛り上がりを期待させる内容が数多く見受けられた。

 ただ、スマートフォンに関してひとつ言えることは、スマートフォンを開発し、市場に送り出すことがニュースになる時期はすでに終わりつつあるという印象だ。CPUやベースバンドチップ、ディスプレイ、メモリなどを集め、そこにAndroidというプラットフォームを搭載し、スマートフォンを開発しただけでは、もはや市場のプレゼンスは取れない時期に差し掛かりつつある。もちろん、ユーザーがスマートフォンを選ぶ上で、スペックが重要なファクターであることに確かだが、スペックや価格のみで勝敗が決まるのではなく、「このスマートフォンを選ぶと、何が体験できるのか」といったことを提案できなければ、大きなメーカーもキャリアも生き残れない時代に入りつつあるということだ。デザイン面で言えば、「このスマートフォンを持つ自分は、どう見えるか」といったことも大切な要素になってくるのかもしれない。

 また、もうひとつ最後に触れておきたいのは、日本に携帯電話業界に関連する企業の活躍への期待だ。筆者は昨年、はじめてMobile World Congressを取材し、正直なところ「アメリカのイベントほど、日本の関係者は多くないな」という印象を持った。ところが、今年は日本企業の出展が増え、日本の関係者にも数多くお会いすることができた。これはおそらく、スマートフォンが主流となる時代を迎え、日本の携帯電話・モバイル関連企業が世界市場へ出るべく、あるいは世界からの情報を得るべく、積極的に活動していることの表われだと捉えておきたい。2013年は、同じスペイン・バルセロナで、会場を他の場所に移してMobile World Congress 2013が開催されるとのことだ。それまでに、今年発表された製品が日本市場にも数多く登場し、日本のユーザーをもっと楽しませてくれることを期待したい。

 

(法林岳之)

2012/3/8 16:53