第532回:ゲーミフィケーション とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「ゲーミフィケーション」とは、ゲーム以外の分野で、ゲーム独特の発想・仕組みにより、ユーザーを引きつけて、その行動を活発化させたり、適切な使い方を気づかせたりするための手法を指す用語です。たとえば、携帯電話向けサイトを含む、なんらかの説明するWebサイト、通販サイト、家電内蔵のアプリケーション、あるいはビジネスそのものでの活用が想定されています。

 もともとは米国で生まれた言葉で、英語でもそのまま「Gamification」と表記され、日本語では「ゲーム化」などと訳されることもあるようです。

 

ゲームの長所を取り入れる

 そもそもゲーム、特にコンピュータを使ったゲームは、他の作品、あるいは他社との競争や淘汰が行われた結果、他の分野に比べて「人をひきつけるための工夫」が多くされてきた、と言える分野です。

 また、「良いゲームとは何か」というテーマは、非常に古くから議論され、かつてはパソコン誌のコラムなどでも定番のテーマとなっていた話題でもありますし、現在も「ゲームニクス」などという名前で研究対象にしている大学の研究室などもあります。

 これらで議論されていることを簡潔にまとめると、ゲームの長所とは

  • 直感的なユーザーインターフェイス。誰でもマニュアルを読まずに操作できる
  • 段階的学習効果。誰でもいつの間にか使い込めるようになる
  • のめりこみ、はまる演出。いつのまにか使っている中毒性

といった点が挙げられます。

 これは、約30年前に登場したアーケードゲームの元祖であるインベーダーゲームや、その後登場した家庭用ゲーム機や携帯用ゲーム機、あるいは、MobageやGREEなどで提供される携帯電話向けゲームにも通じることです。

 こうしたゲームならではの工夫を、他の分野でも活用する、ということが広い意味での「ゲーミフィケーション」とされています。たとえば、「見ただけで操作できるユーザーインターフェイス」「ある機能を使うと、他の機能が気になり、いろいろな機能をユーザー自身から使う気になる」という工夫をするようになってきたのです。

 また、「ゲーミフィケーション」に関しては、以下の4つのポイントもあります。

  • 自ら達成したいと感じさせるための「徹底した楽観性」(Urgent Optimism)
  • ユーザー同士が共に時間を過ごし、互いを認めあう「ソーシャル構造」(Social Fabric)
  • 自ら進んで取り組む「幸せを感じる生産性体験」(Blissful Productivity)
  • 関わることが楽しくなる「ストーリー性」(Epic Meaning)

 これらに組みこむことによって、ユーザーに自らの行為に対する責任を感じてもらえるようにする、それがゲーミフィケーションのポイントだというのです。これは、米国のオンラインゲームデザイナーであるジェーン・マクゴニガル氏による定義です。

 こうした考え方は、携帯電話・スマートフォンから利用できるサービスでも取り入れられつつあります。

 

レベルアップ、勲章などの手法

 広義のゲーミフィケーションとしては、上に挙げたような工夫をしてサイトやアプリ、あるいはサービスそのものを使いやすく、のめりこみやすくすることを指す用語として使われることが多く、最近マーケティング関連のセミナーなどでも触れられるようになってきています。

 その一方で、ゲーム分野の仕組みを取り入れてユーザーをひきつけること、ゲーム要素の中でも「のめりこみ、はまる、中毒性」に注視し、そのような要素を取り入れること、派生して意味としては本物のゲームとリアルとのリンクでユーザーをひきつけることなど、より具体的な手法で紹介されることもあります。

 たとえば、あるポータルサイトでは、ゲームでよく使われる「アバター」や「レベル」「勲章」などが使われています。あるいは、あるアプリケーションでは、「進捗度を目で見えるようにグラフ化」されていたり、「レベル表示」がされていて、使っていくうちに自分がどの程度機能を使っているのかが見えるようにすることがあります。

 最近のソーシャルゲーム、携帯電話向けゲームではでは、特にユーザー間の競争や協力、AR(拡張現実)技術などの特徴を持つものが多くなっていますが、そのような仕組みをWebサイトやオンラインショップサイトも出てきています。位置情報を活用するサービスでは、訪れた人に「市長」「リーダー」といった称号が与えられることがあります。これらが、「ゲーミフィケーション」の具体的な手法として紹介されます。

 ゲーミフィケーションという考え方や仕組みは、米国を始め、さまざまな国のWebサービスやビジネスに取り入れられつつあります。新たなマーケティングの手法として注目されつつあり、バズワード(明確な定義がない、流行語のような言葉)として使われることがあるかもしれない、といったことも頭に入れておくといいかもしれません。

 

(大和 哲)

2011/9/20 12:16