第497回:SCMS-Tとは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 「SCMS-T」とは、コンテンツ保護方式の1つで、国際規格の「IEC60958」で採用されているデジタルコンテンツの世代管理システム「SCMS」の派生規格です。

 BluetoothのA2DPプロファイルが利用可能な機器、たとえばワイヤレスヘッドセットやワイヤレススピーカーなどで、SCMS-T対応製品が存在しています。

 Bluetooth対応の携帯電話で、ワンセグの音声などをワイヤレスヘッドセットなどで再生する場合、SCMS-T対応機器が必須になっているものがあります。

 携帯電話の場合、音楽ダウンロードやワンセグなどよく使われるサービスでSCMS-Tが必須となっているため、Bluetoothヘッドセットを購入する際には、対応しているかどうか、確認する必要があります。

SCMSとは

 「SCMS-T」の元となった「SCMS」はもともと、民生用DAT(デジタルオーディオテープ)やMDなどのデジタル録音機器に付加されているコピー防止技術です。原本(オリジナル)から子世代へのコピーはできますが、子世代から孫世代へのコピーを禁止する、というコピープロテクションを実現するものです。

 ちなみに、SCMSという名称は、連続コピー管理システムを意味する英語の頭文字「Serial Copy Management System」の略称です。

 SCMS方式では、音を示すデジタルデータにSCMSビットというコピープロテクション用のデータを付加します。この付加データは、オリジナルとなるデータには「コピー許可」されていることを示す情報が書き込まれていますが、データの再生機器で再生、あるいはコピーされる際に「コピー不可」という情報に書き換えられます。

 そして、「コピー不可」という情報が書かれたデータは、再生はできますが、そこからデジタルデータとしてはコピーできないよう、再生機器は設計されているのです。こうすることによって、1世代だけのデジタルコピーは可能にしながら、コピーから新たなコピーを生成できないようにしているのです。

 SCMS-Tは、BluetoothのA2DPなどのAVプロファイルで同様のことを行います。A2DPは、“進化した音楽配信”を意味する「Advanced Audio Distribution Profile」の略で、Bluetoothの中でも「ハイクオリティオーディオ」のためのプロファイルです。最近登場している音楽再生対応のBluetoothヘッドフォンなどではおおむね対応しています。

 SCMS-T対応機器では、A2DPプロファイルを利用し、無線で送信されたデータの「コピー許可」という情報(フラグ)が、ヘッドセットへ転送された際に「コピー不可」に書き換えられるようになっています。また、「コピー不可」でヘッドセットに転送されたデータはSCMS-T対応のヘッドセットでは再生しますが、非対応ヘッドセットでは聞けなくなります。

 携帯電話の音楽ダウンロードサービスを利用した場合、音楽データを端末にダウンロードした時点で「コピー不可」情報が付加されています。これをBluetooth機器に無線で通信する際、SCMS-T対応ヘッドセットでは再生可能ですが、それ以外の機器では2回目のコピーとみなされるために聴けなくなる、という仕組みになっています。

 このような仕組みで、Bluetoothの無線を使ったデジタルコンテンツ再生での不正コピーを防いでいるのです。

ワンセグでは必須

 地上デジタルのテレビ放送では、規格上、Bluetoothを出力機器として使用する場合、SCMS-Tが必須とされています。具体的には、電波産業会(ARIB)が承認するARIB標準規格の「TR-B14 第八編 地上デジタルテレビジョン放送コンテンツ保護規定」の「5.3.1 出力に対する機能要件」に以下のような記載があります。


 「Bluetooth インタフェースでデジタル音声出力する場合は、接続認証、暗号化通信、A2DP(Advanced Audio Distribution Profile)及びSCMS-T を実装し、かつ、これらに対応しない機器には音声出力しないこと」

 つまり、ワンセグも含む、地上デジタル放送をBluetoothヘッドセットなどを利用して視聴する場合、必ず、受信機がSCMS-Tに対応し、なおかつSCMS-T対応ヘッドセットが必要である、ということになっているのです。

 Bluetoothを搭載していても、SCMS-Tを利用するA2DPプロファイルがない携帯電話などでは、ワンセグの音声をBluetoothヘッドセットで聞けない、ということもありますので、ヘッドセット側に加えて、端末側の対応プロファイル にも注意が必要です。

 



(大和 哲)

2010/12/21 12:22