ケータイ用語の基礎知識

第844回:サイバーフィジカルシステム とは

 今回ご紹介するサイバーフィジカルシステム(Cyber Physical System、CPS)とは、実世界に設置したセンサーでさまざまなデータを集め、大規模データの処理やAIなどを駆使して分析し、そうしたデータを活用するシステムのことを指す言葉です。

 あらゆるモノをインターネットにつないで情報活用する「IoT(Internet of the Things)」というコンセプトの一部、ひとつの活用形態とも言えますし、IoTがCPSの一部と言えるかもしれません。

 CPSでは、一般的にIoTで言われるような「物理的なセンサーからの情報」だけを収集するのではなく、IoTデバイスを使った人から発信されるデータや、人のもつスキル、「経験」など人の持つナレッジも、CPSでは対象に含まれます。また顧客からの注文など、従来のサービスを通じてデータベースに蓄積されるデータも活用します。

 さまざまデータを、クラウドやエッジコンピューティングで解析することで、これまで人が経験や勘で対応していたアクションをコンピューター側が行えるようにします。

 日本では、JEITA(電子情報技術産業協会)が「CPS/IoT推進タスクフォース」を設置して活動しています。具体的には、普及・啓発活動、基盤技術のテストベッド(実証)やプラットフォーム作り、研究開発の提案、政府に対する規制や制度面の提言、標準化の促進の提言といったことを行っています。

もうすぐやってくる「あらゆるモノをセンシング」する世界

 近年では、センサーの微細化、低電力化、廉価化といった進化によって、あらゆる場所にセンサーを設置できるようになりつつあります。2020年代の社会は、個人から地球環境まで、あらゆるデータが計測される時代になるでしょう。そして、これらのデータは、ビッグデータ処理、AI(人工知能)の進化によって、様々な角度から検証、解析できるようになります。

 たとえば個人の体調や、室内環境、移動履歴をセンサーで計測すれば、ヘルスケア情報を提供できるかもしれません。

 クルマの自動運転もCPSの一例に挙げられます。自動運転ではセンサーから得た実世界の情報を、クラウドやエッジといったコンピューティングを駆使して運転に反映します。

 もっと大きな問題も防げるかもしれません。たとえば、地盤の地滑り監視や、湖や川の氾濫監視、水質など環境監視といったことで災害時の人的被害を減らすこともできるでしょう。

 これらセンサーからクラウドなどへの情報伝達の要となるのが「通信」です。LPWAや5Gといった通信技術の登場と発達が、これまで人の常駐できなかった場所や時間に関わらず、あらゆる状況をクラウドに伝えてくれます。スマートフォンを含めて、通信機器はこのシステムの要となるでしょう。

 まとめて言うと「サイバーフィジカルシステム」とは、「実際の社会(フィジカル空間)」の多様なデータをネットの「仮想社会(サイバー空間)」に収集して解析することで、今まで経験と勘でしかわからなかった状況に、新たな知見を引き出したり、あるいは、新たなサービスの提供、社会的な課題を解決していけるようなシステムであると言えます。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)