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アフリカのケータイ事情
KDDI総研 藤原正弘
 KDDI総研 第二市場分析室。専門は情報通信全般の社会・経済分析ということになっているが、まだネットワーク経済を勉強中の学生の身でもある。最近は、コンテンツ産業の調査にも手を出しており、「アキハバラ」にも馴染みたいのだが、なかなか踏み込めない二人娘の父親でもある。最近のレポートは、KDDI総研R&A誌「ヘドニック価格分析による携帯電話の機能評価」(2005年11月号)、「プラットフォームビジネスにおける企業連携」(2006年3月号)など。


 9月20日のこのコラムでは、アフリカではケータイがライフラインとしてなくてはならないものになっているという話題を取り上げた。今回は、もう少し細かい部分を見てみよう。

 10月8日付のフィナンシャルタイムズでは、ケニアのケータイ事情が取り上げられている。サファリコムという英ボーダフォンの出資を受けた携帯電話会社は、貧しい人たちを積極的にお客様として位置づけ、シェアを伸ばしてきている。元々、高額利用のビジネスユースから始まった携帯電話とは全く逆の発想だ。貧しいからこそ、ケータイのニーズがあると考えているのだ。

 実際、ほとんどの加入者はプリペイド型で、秒課金のコースを利用しているらしい。今すぐ必要な分しか買わないというのはケニアの国民性でもあるらしく、ガソリンも少しずつ朝、夕に分けて給油するのだとか。だから、プリペイドのチャージだって少しずつしかしない。

 また、いわゆる“ワン切り”の習慣も広く行き渡っている(1)。相手が電話に出る前に切って、相手にかけ直させる。自分は通話料を払わないのだ。おかげで、ネットワークの負荷が大きくなって困っているという。キャリアからしてみると、ショートメールを使ってもらいたいわけだが、それさえ惜しむのだ。

 端末は、日本円にして5,000円弱のベーシックなノキアの端末だ。これだって、ケニアの人にとっては、決して安いものではない。端末を、自分で買える人は余裕のある人で、100円弱で買えるSIMカードしか買わない人も多いのだ。端末は、持っている人に借りて、自分のシムカードに入れ替え、ワン切りでかける。これがサファリコムのユーザーの利用スタイルだ。

 ケータイ端末を貸し借りするのは、家族や友人や近所の人どうし。日本でも、昔は、お醤油やお米の貸し借りはしょっちゅうだった。私も小さい頃、アパートの4軒となりのうちに、ときどき電話を借りに行ったものだ。

 誰もが自分の端末を持っている日本では、ケータイが身近な人どうしをより強固にし、他人との接触を隔てるものになっているという研究もあるが、アフリカの場合は、ケータイがご近所を緩やかにつなぐものとして評価されていて(2)、その対照がおもしろい。

 また、プリペイドにチャージした通話時間は、ショートメールを使って、他人ともやり取りできるので、これを送金の代わりに使うことも多いのだ。ケニアでは銀行口座を作れるのは裕福な人だけなのだ。

 さらに、開発途上国でこそ、経済的な効果がハッキリ現れることもある。たとえば、漁師が魚市場に水揚げ量と価格を問い合わせたり、農家の人が農作物の出荷のときに市場に価格を問い合わせたりするためにケータイを使っている。おかげで、安く買いたたかれて損をしたり、売れ残ったりすることが減る。需給のバランスが取りやすくなるので、結果的には、商品の価格は下がって、消費者に利益がもたらされると同時に、生産者の売上げは上昇するという、好ましい経済効果が実証されており(3)、ケータイもなかなか社会に貢献しているのだ。



1. Guardian誌2005年9月14日の記事でも取り上げられている。

2. James Goodman, “Linking mobile phone ownership and use to social capital in rural South Africa and Tanzania”, Africa: The Impact of Mobile Phones, The Vodafone Policy Paper Series No.3 March 2005, pp.53-68

3. Robert Jensen, “The Digital Provide: Information (Technology), Market Performance, and Welfare in the South Indian Fisheries Sector”, the Quarterly Journal of Economics vol.CXXII August 2007 Issue 3, pp.879-924



KDDI総研 藤原正弘)
2007/10/30 10:43

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