学生時代を終えると急に鉛筆を使う機会が少なくなってくる。手紙や文章をパソコンで書く機会が増えるにつれて、ボールペンやシャープペンシルさえ持つ機会が激減している。せいぜいアイデアメモの走り書きや地図などを書くときに、これらの筆記具の登板機会が多少あるに過ぎない。筆者はふだん、思いついたアイデアを書き留める時は、今や米国のホテルの備品の代表選手になっているビック社の太字の青いボールペンを使用している。もっとも最近は、日本国内でもこれよりスムースで書きやすい多くの新しい筆記具が登場してきており、選択の幅が広がり楽しい毎日だ。そうした筆記具もまたご紹介していきたいが、本日は、学生時代に帰って「ただの鉛筆」にフォーカスしてみたい。
筆者が中学校や高校の頃には、学生は1本10円くらいのごく普通の三菱やトンボなどのHBやFくらいの鉛筆を多く使っていた。こだわりのある先生が、MONOやUNIをいつも使っていたりしたら、羨望の眼差しで見たものだった。ナイフやカッターを使わなくても、クルクル回す鉛筆削りを使うだけでも、なぜかその瞬間は「無の境地」になれる場合がある。考え事をする人間は、こういう刹那的だが何も考えない一瞬が本当は大事なのだろうと思う。
もはや鉛筆では世界的に有名になったドイツのファーバーカステル社の何の変哲もない9000番鉛筆は、その「目立たなさが最高」のクラシカルな鉛筆だ。少し引っかかる感触の残るBクラスの芯の濃さが、なぜか人間の思考のスピードにマッチする。毎日、専用のシャープナー兼エクステンダーで、削って短くなっても、いつも適度な長さに保つことが可能だ。古典的な文具店で100円で売っている、短い鉛筆をあたかも長く偽装する金属製のただの「エクステンダー」とどこが違うかと聞かれても、明快な答えは見つからないが、持っているだけで幸せなのがファーバーカステルの250年近い伝統なのだろう。100円のエクステンダーと10円の鉛筆、3000円のエクステンダーと200円の鉛筆。どちらも字は書けるが、滅多なことで鉛筆で字を書かなくなった自称ハイテク業界人の筆者は後者の組み合わせになぜか妙に惹かれるものがあるのである。
品名 |
製造元 |
価格 |
購入場所 |
鉛筆 鉛筆削り兼エクステンダー |
ファーバーカステル |
200円(鉛筆) 3000円(エクステンダー) |
銀座 伊東屋 |
(ゼロ・ハリ)
2000/11/02 00:00
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