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CDMA方式の携帯電話向けチップメーカーとして知られるクアルコムは、同社のチップセットの新機能「BREW」などについて報道関係者向け説明会を開催した。
互換性の高さがビジネスチャンスを広げる
BREWは同社の携帯電話用チップセットに搭載されるプログラム開発プラットフォーム。これまでの携帯電話では、端末ごとに異なるプログラム開発プラットフォームが用いられていた。そのため、たとえばEZwebのブラウザなどのプログラムは、端末ごとに作りこまれたものしか使えなかった。しかし、BREWは公開された開発環境なので、端末のメーカー以外がプログラムを開発することが可能になる。
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米クアルコムのポール・ジェイコブス博士
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BREWは高い互換性も売り物にしている。米クアルコムのワイヤレス&インターネットグループ社長のポール・ジェイコブス氏は、フランスで開催されたGSMの会議上で、BREW対応のCDMA端末向けに開発されたBREWプログラムが同じバイナリのままでBREW対応の別のGPRS端末上でも動作させられたと述べ、BREW端末同士の互換性の高さを強調した。このときプログラムを開発した人間は、それがGPRS端末でも動くとは知らなかったという。
この互換性によって、サードパーティのプログラムベンダーが携帯電話用のプログラムを開発できる。ジェイコブス氏は、IBMがBREW向けにJavaの実行環境(いわゆるVM)を開発したことを例に挙げ、サードパーティの優れたソフトがさらに端末を高機能化させる可能性があることを示した。
BREW上でJava VMを始め、アドレス帳やブラウザが開発されることで、端末メーカーはサードパーティから優れたソフトを購入したり、あるいは旧端末からプログラムを流用することが容易になるので、開発にかかるコストや手間を大幅に削減することが可能になる。
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セガもBREW開発会社の1つ
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BREWのプログラムは、ネットワークで配布することも可能だ。これまでの端末では、携帯電話が搭載するブラウザやアドレス帳といったものは、購入後に変更することはできなかったが、BREWの場合はユーザーが必要なプログラムを追加したり交換することが可能だ。たとえばJavaの実行環境にバグが見つかった場合、販売された後の端末でも、ユーザーが修正されたバージョンをダウンロードすることが可能になる。バグ修正だけでなく、機能追加やパフォーマンス向上も、ショップに持っていくことなくユーザーの手で行なえるのだ。
BREWプログラムのネットワークを介した配布は、キャリアの主導の下で行なわれる。BREWは携帯電話の電話帳データにアクセスできるどころではなく、アドレス帳プログラム自体の置き換えすら可能なので、チェックを受けていないフリーソフトのようなプログラムを使うことはセキュリティ上非常に危険だ。そのため、ユーザーはベリサイン、クアルコム、キャリアがチェックし、承認したBREWプログラムのみしか端末にダウンロードできない仕組みが設けられる。
パソコン向けプログラムのように、ユーザーがインターネット上にある好きなプログラムをダウンロードして使える、という形式にはならないものの、開発者が効率よくBREWプログラムを公開できる仕組みとして、クアルコムでは「BREW UAM」を用意する。BREW UAMはクアルコムがチェックしたプログラムを、BREWを採用するキャリアに紹介するシステムで、キャリアはBREW UAMに登録されたプログラムの中から、そのキャリアの方針や提供国のニーズや法律にあった内容のものを選び、そのキャリアのユーザー向けに配信することができる。
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追加ソフトの購入からインストールまで、写真のお姉さんのように座ったままでもできてしまう
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開発者はBREW UAMに開発したプログラムを登録することにより、BREWを採用するキャリアの全ユーザー向けにビジネスを展開することが可能になるわけだ。米クアルコムのインターネットサービス部社長のペギー・ジョンソン氏は、BREWは日本のKDDIを始め、アジアや南北アメリカ地域など多数のキャリアが採用しており、加入者数は合計で8100万人いることを挙げ、BREWプログラムが巨大な市場を持っていることをアピールした。
BREW UAMにプログラムを登録するだけでなく、キャリアがプログラムを募集するケースもあり得る。可能性の話をすれば、KDDIがBREWプログラムの内容チェックとダウンロード販売代行を行ない、ジャストシステムが販売委託をして、ユーザーがATOK for BREWを購入して端末にインストールする、といったこともあり得ない話ではなくなるわけだ。
BREWとJavaは異なるものとして共存する
携帯電話向けのプログラム実行環境としては、すでにJavaが存在している。しかし「BREWとJavaは競合関係にない」とジェイコブス氏は言う。クアルコムでは、Javaの実行環境自体がBREW上で動作するとしており、JavaとBREWがまったく別次元にあると考えている。
Javaで書かれたプログラムは、実行環境となるVM上で動作する。VM自体がBREWで作られれば、しばしば行なわれるJava規格のバージョンアップ時にVMをアップデートできるし、ユーザーがより高速なJava VMを選んで入れ替えることも可能になる、という考えだ。
またBREWの場合、ハードに密着したプログラムを組めるため、Javaに比べて高速で高機能なプログラムを提供することも可能だ。国内初のBREW対応端末となるauのC3003PにプリインストールされるBREWプログラムを開発したナビタイムジャパン社長の大西氏は、同社が開発した地図ナビゲーションソフトを例に挙げ「地図描写で同じアルゴリズムを使っても、BREWの方がJavaより3倍くらい速いし、実行環境を立ち上げてそれから個々のプログラムを走らせるJavaに対して、BREWは瞬時に起動できる」と述べた。
もちろんJavaにはJavaのメリットもある。Javaはその実行環境にセキュリティ機能が組み込まれているので、ウイルスのような危険なプログラムを実行することは原則的に不可能だ。そのためiアプリのように、フリーのゲームなどが多数登場する可能性もある。ジェイコブス氏は「ユーザーはソフトが何言語で書かれたかは気にしない。開発者がどちらを使うかは問題ではない」と述べ、BREWがJavaに取って代わるものではないとした。
BREWはCDMA以外にも展開可能
そんなBREWだが、実は昨年11月に韓国のキャリア KTFreetel(KTF)がBREWのサービスを開始している。韓国では2002年2月末時点でBREW対応端末は4機種が出荷され、そのユーザーは23万4000人に上っており、1日平均で4万のダウンロードがあるという。ジョンソン氏は「BREWによりKTFのデータ通信ARPU(1人あたりの通信売上げ)が9%増加した」というデータを示し、BREWの導入がキャリアにとって有効であることをアピールした。
今月中には米国のキャリア ベライゾンもBREW対応端末の出荷を開始する。また、日本でも今月、ネットワーク配信には対応しないものの、BREWで作られたナビタイムジャパン製の地図ナビゲーションソフトを搭載した「C3003P」が出荷となる。この他にも、BREWは各国のCDMA方式端末に導入が決まっている。
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すでに多数の端末メーカーがBREW対応を発表している
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ジェイコブス氏は、BREWがクアルコム製チップだけの技術ではないとも述べた。先に述べたBREW対応のGPRS端末はクアルコム以外によるチップを使っているという。ジェイコブス氏は「多くの会社とBREWを載せることを協力している」と述べ、BREWの普及に力を入れていることも強調した。
ちなみに国内ではKDDIがBREWの採用を決定しているが、BREWプログラムのネットワーク配信についての詳細はまだ発表されていない。C3003PはBREWに対応するものの、プリインストールされたBREWプログラムしか動かせない形で出荷される。今回のクアルコムによる説明会でも、KDDIのサービスに関する具体的なコメントはなかった。
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ナビタイムジャパンでは地図データを容量の小さいベクトルデータにしている。それでも1枚1秒程度で描写できる
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ナビタイムジャパンの地図ソフトは、キャッシュなどを含めても100KBに収まっている
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KTFのBREW端末。サムソン製
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ベライズンのBREW端末。シャープ製
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auのBREW端末。パナソニック製
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・ クアルコム
http://www.qualcomm.com/
・ クアルコム「Javaより速く自由度が高い」携帯用アプリ開発環境。
・ クアルコム、BREWのソフトウェア開発キット日本語版を公開
・ au、電子コンパス搭載のGPSケータイ「C3003P」
(白根 雅彦)
2002/03/08 22:07
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