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エフエム東京 デジタルラジオ事業本部の藤 勝之氏
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エフエム東京は、CSK-ISと共同で主体となって実施するユビキタス特区での実験内容について、概要を説明した。試験放送が続けられているデジタルラジオを発展させた内容で、放送と通信の融合をにらみ、制度面、技術面などさまざまな側面での実験が計画されている。
「ユビキタス特区」は、世界最先端の情報通信技術を開発・実証できる環境を整備するというもので、3月18日までに合計28件のプロジェクトがユビキタス特区事業として総務省に認定されている。エフエム東京とCSK-ISは、福岡県福岡市で実施する「3セグメント放送方式の実証」と題した事業で認定を受けている。
28日には都内で「マルチメディア放送 ビジネス フォーラム」(旧称:デジタルラジオ ニュービジネス フォーラム)の会員向けに説明会が開催された。説明にあたったエフエム東京 デジタルラジオ事業本部の藤 勝之氏は、ユビキタス特区での概要を「『フルバージョンのマルチメディア放送』の全貌公開」というタイトルで紹介した。
それによれば、実験はISDB-Tsbの3セグメント方式を用いたマルチメディア放送の各種実験で、現在試験放送中のデジタルラジオを基本にしたものとなっている。免許の申請主体はエフエム東京とCSK-ISで、福岡市や慶應義塾大学などが共同参加。福岡の地元放送局などが運営に協力し、複数のメーカーが端末開発に協力する。
ユビキタス特区での試験中、実施エリアとなる福岡市では、現在までにデジタルラジオを受信できる端末として販売された携帯電話やUSB接続型の端末で、実験放送を受信できる。
ユビキタス特区での実験期間は、2008年4月から2011年3月末まで。エフエム東京とCSK-ISは2008年4月に免許申請を行ない、7月初旬にも実験の詳細を明らかにする方針。
■ 「情報通信法(仮称)」を先取りした制度を導入
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制度面では「情報通信法(仮称)」を先取りした試み
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藤氏は同実験の新規性について、4つのポイントで解説を行なった。1つは制度面として、地上デジタル放送移行完了後に導入が見込まれ、放送・通信を融合させた法体系の実現を目指す「情報通信法(仮称)」を先取りした内容が盛り込まれる点。具体的には、現在の通信分野での事業のように、インフラを整えて貸し出す企業、それを借りてチャンネルの編成を行なう企業、さらに、コンテンツを製作する企業といった、3つの階層(レイヤー)構造を導入。これを放送分野に適用することで、放送と通信が融合された法体系の下での事業者間の役割や競争環境を想定し、実験を行なう。
藤氏は、放送業界に予見されるこの“新しい秩序”について、「チャンネルの編成事業者については、独禁法上の問題などがないよう、競争環境が作られることを検証する」とするとともに、「現状では、インフラレイヤーの企業が絶対に儲かるような価格体系や仕組みになっている。コンテンツ製作側はリスクばかりでコストをかけられないとなると、結果として寒いコンテンツばかりになる」として、インフラレイヤー上で各プレイヤーが競争環境にあることの重要性を解説した。藤氏はこの仕組みについて、「お互いが、同じ方向を向いて仕事をすることが重要。免許の上にあぐらをかけないように、誰も見ないようなものを作るところは退場せざるを得ないような状況を実験する」と語り、この実験が放送業界における新たな制度面での実験になっているとした。
■ 放送波ダウンロードによる課金ビジネス
2つ目の新規性は、ビジネス面で放送波ダウンロードコンテンツの課金が検証される。いわゆる超流通と呼ばれる仕組みを放送分野に応用することで、暗号化されたコンテンツを放送で一斉に配信しつつ、コンテンツ購入にあたる復号鍵の購入のみを通信で行なうというもの。藤氏はこの仕組みについて、「現在試験放送中のデジタルラジオでも実現できるように整備されているが、導入は先送りされ、提供はされていない。エフエム東京として新たなビジネスモデルになると考えており、福岡の実験では導入する」としており、すでに導入可能な仕組みに仕上がっているとした。
■ 「IP over デジタル放送」で“進化する放送”に
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「IP over デジタル放送」が実験における技術面での主力になる。国際展開も試みられるという
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3つ目は、技術面として「IP over デジタル放送」の実証実験を行なうというもので、「実験の、技術面での主力」と紹介した。IP over デジタル放送の特徴として、インターネット上のコンテンツを放送用に変換することなくデジタル放送波にのせる仕組みが紹介され、これによりデジタルラジオの内容とWEBでの更新を連動させて放送するといったことが可能になるとした。また、この「IP over デジタル放送」では、「インターネット上の技術革新が放送にも適用されることになる」として、従来は進化の速度が緩やかであった放送が、「進化する放送」になると語った。
福岡市などと協力して、地下街、地下鉄でのデジタルラジオの配信実験も行なわれる。地下街や地下鉄のコンコース階でデジタルラジオの受信が可能になるほか、地下鉄においては緊急時用のデータが各駅に用意され、災害発生時に各駅個別の避難情報などが受信できるようになる。
■ 他の通信方式との共用端末も開発
4つ目は、共用端末の開発。国際競争力を強化する観点からも、DVB-HやMediaFLOなど、ほかの通信方式も扱える共用端末の開発を行なうことを明らかにした。複数のメーカーが参加するとし、実験地の福岡市と近い、韓国や台湾からの旅行者を意識したような実験も計画していることを明らかにした。
■ URL
エフエム東京
http://www.tfm.co.jp/
CSK-IS
http://www.csk.com/csk-is/
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(太田 亮三)
2008/03/28 15:53
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