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技研公開 2006
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5月25日~28日にかけて、世田谷区砧のNHK放送技術研究所で、NHKが研究・開発している内容を一般公開する展示会「技研公開 2006」が開催されている。スーパーハイビジョンといった次世代の放送技術のほか、ワンセグなどモバイル向け技術の研究内容も公開されており、入場無料で楽しめる。本稿では、携帯電話関連の技術を中心にお伝えする。
■ ワンセグ体験コーナーや未来のデジタル放送を紹介
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ワンセグの体験ブース
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4月1日から放送が開始された携帯電話向けの地上デジタル放送「ワンセグ」。携帯電話関連の展示は、ワンセグに関係するものが中心となった。
展示会では「放送の将来像」と題して、大きなスペースを割いて2010年頃の家庭をイメージした、放送と通信を活用するライフスタイルを紹介。リビングには、サーバー型の受信機が設置され、この受信機を中心に子供部屋や寝室などが全てホームネットワークでリンクしており、家庭のさまざまなシーンで、地上デジタル放送やインターネットコンテンツが楽しめるといった内容だ。
この中で、コンテンツを外に持ち出す利用シーンとしてモバイルが登場する。プレゼンテーションを行なったスタッフは、ガーデニングをしながらモバイル端末で地上デジタル放送を楽しむといった場面を説明し、富士通研究所が開発した地上デジタル放送対応端末を披露した。
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放送の将来像
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リビングをイメージしたコーナーでは、ホームネットワークの説明をしていた
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地上デジタル放送端末(試作機)
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ワンセグや音声放送などが楽しめる
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■ 携帯電話向けコンテンツ保護技術
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携帯用CAS技術
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デジタルコンテンツの流通技術を紹介するコーナーでは、放送波や通信から送信される視聴ライセンス情報に基づいて、コンテンツ保護やメタデータの改ざんを防止できるCAS(Conditional Access System)技術について紹介していた。
NHKでは、コンテンツ保護技術について、通信事業者と共同研究を進めている。NTTとの共同研究は、携帯電話だけでなく通信手段を持たないモバイル端末を想定し、暗号化された番組に対し、端末にSIMカード型のライセンスキーを装着して閲覧できるようにするというもの。ワンセグなどの放送波にIDを流し、受信端末側のSIMカードのIDと合致すると、ユーザーが契約しているチャンネルなどが閲覧できるようになるという。
SIMカードタイプとなるため、携帯電話のSIMカードへの応用も期待されるが、会場の説明員によれば、技術的には、携帯電話のSIMカードにこうした機能を搭載できるという。今後は技術面よりも、規格の策定や通信事業者との協調といった政治的なプロセスが必要となるようだ。
KDDIおよびKDDI研究所との共同研究は、暗号化された番組に対して、携帯電話のパケット通信でライセンスキーをダウンロードしてコンテンツを楽しむというもの。NTTとの研究が、通信手段のない端末を想定して、各チャンネルやサービス全体の鍵としてSIMカードを利用しているのに対し、KDDIとの研究は、通信できるため番組単位のペイパービューといったより細やかなライセンスキーが発行できる。
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SIMカードに対応した受信専用の端末
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こちらがCAS技術のSIMカード
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KDDIとの研究は、パケットでライセンスキーをダウンロードする
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ダウンロードすると、センターサーバー側にライセンスキーの発行記録が残る
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■ ワンセグ向け緊急警報用モジュール
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緊急警報対応のワンセグ実験機
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また、緊急警報放送時にワンセグを自動的に起動する「緊急警報放送待機回路」のデモンストレーションなども行なわれていた。
緊急警報放送待機回路は、地震や台風などの災害時に、ワンセグ対応携帯電話が自動的に起動し、緊急警報放送が受信できるようになるモジュール。ワンセグが今後社会のインフラとなる中で、放送局側では緊急放送をいつでもキャッチできる仕組みを研究・開発しているという。
ワンセグなどの地上デジタル放送には、緊急警報放送用の搬送波があらかじめ用意されている。今回のモジュールは、この放送波をつかむとテレビ機能が自動的に起動する。緊急警報を携帯電話のパケット網で伝えると、輻輳(ふくそう)などを引き起こして通信障害が発生する場合も考えられるため、一斉配信に適した放送波を利用して緊急警報を行なうという。
しかし、ワンセグ放送の閲覧は、現状で数時間程度となっているため、緊急警報のためにアプリを常時起動するのは現実的ではない。今回のモジュールは、アプリを起動していなくても、約0.2秒毎に送信されるワンセグの緊急警報信号のみを受信するため、待機電力を通常の1/10以下に低減できるという。NHK技術研究所では、今後さらに待機電力の低減を図り、将来的にはワンセグ対応端末の必須機能にしたい考えだ。
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緊急警報で自動的に起動する
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実験機の裏側にモジュールが用意されている
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■ 携帯向けのユニークな視聴技術
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AdapTVの概要
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このほか、視聴者個人の視聴環境に合わせた放送技術「AdapTV」の機能として、携帯電話向けのユニークな視聴技術が公開されていた。
この技術は、ディスプレイやコンテンツの内容に応じて、最適な表示をリアルタイムに変換していくというもの。サッカーの試合中継などで、大画面での閲覧を想定して撮影されていると、携帯電話の小さな画面では、選手の動きが細かすぎてわからない場面がある。こうした映像を携帯電話向けにリアルタイムに切り出し、試合状況や選手の表情が判別できるサイズに自動処理するというものだ。ボールや選手の動きをコンピューター側で把握し、最適な画面を放送するという。
説明員によれば、この技術を導入するための近道として、当初、選手のユニフォームやボールに超小型のチップを搭載し、動きを把握しやすくすることが考えられたという。海外では、2006年のFIFA ワールドカップ ドイツ大会において、選手を追いかける自動カメラ用にボールの中にチップを搭載する予定もあったが、選手側からの反対もあって、今回のワールドカップでは見送られたと話していた。
なお、NHK技術研究所のシステムでは、選手の位置やボールなどを手動で登録しておくことで、チップレス化している。将来的には、全て自動化していきたいという。
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人やボールの動きを赤枠で把握。携帯端末には青枠の部分が表示される
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携帯電話側のイメージ
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■ URL
技研公開 2006
http://www.nhk.or.jp/strl/open2006/
■ 関連記事
・ KDDIとNHK、放送に適した携帯向けコンテンツ保護技術
・ 携帯端末向け地上デジタル放送を一般公開
(津田 啓夢)
2006/05/25 20:36
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