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ソフトバンク、LTE-Advanvedに向けた基地局間協調伝送技術を披露

ソフトバンク、LTE-Advanvedに向けた基地局間協調伝送技術を披露

概要を説明したソフトバンクモバイル ワイヤレスシステム研究センター センター長の藤井輝也氏

 ソフトバンクモバイルは、LTE-Advanvedに向けた技術として開発を行っている複数基地局間協調伝送技術について、実証実験の内容を解説する記者向けの説明会を開催した。実証実験のフィールドとなった東京・お台場にて、室内および屋外でのデモンストレーションも披露された。

 ソフトバンクモバイルは、東京・お台場で実施している複数基地局間協調伝送技術について、2月14日に実験結果を公表している。現行のLTEでは、基地局から離れた、隣接する基地局の電波の圏内にもなる「セル境界」(セル端、セルエッジ)で、電波干渉などにより通信品質(スループット)が低下するというのが一般的な傾向になっている。同社が開発している複数基地局間協調伝送技術は、基地局同士が連携することでこうした端末のスループットの低下を回避しようというもの。

 具体的には「複数基地局間協調送信制御技術」(ECO-LTE)、「複数基地局間協調伝送技術」(CoMP)という2つの技術が中心となり、基地局間の接続として、光ファイバーではなくIPネットワークを利用する「基地局間インターフェース」(X2インターフェース)が用いられている。さらに、位相の操作で電波の方向を上下に調整する「垂直面内アンテナ指向制御技術」を用いて、セル境界のさらなるスループットの向上を図る。お台場では、これら4つの技術を中心に実験が行われている。

LTE以降のセルラー方式で目指す通信品質
ソフトバンクが提案するECO-LTEなどの技術
ECO-LTEの概要
CoMPの概要
協調制御の適用は基地局スループットで判断される
アンテナの制御技術とも連携を行う

 CoMPおよび「垂直面内アンテナ指向制御技術」はLTE-Advancedでの標準化に向けて働きかけている段階で、次世代の技術という位置付け。一方、ECO-LTEはCoMPから派生する形の技術となっているが、現行のLTEの基地局に適用可能で、端末側の改修も不要としている。このため、CoMPおよびECO-LTEはセル境界での端末のスループット向上、という点において同様の結果をもたらすが、実現可能な時期が異なる技術になっている。

 ECO-LTEは、セル境界などの、干渉によりスループットが低下するエリアにて、隣接する基地局からの電波を止めて干渉を抑え、スループットを向上させる技術。CoMPは逆に、協調MIMO伝送として、隣接する基地局をスレーブとして制御し、マスター基地局とスレーブ基地局から同時にデータを送信し、セル境界でのスループットを向上させる技術となっている。

 ECO-LTEおよびCoMPでは、隣接する基地局とその圏内にある端末も、無線リソースの増減といった形で影響を受けることになるが、協調制御の適用にあたっては、協調制御適用後のスループットが予め推定され、協調制御を行ったほうが基地局のスループットが向上する場合のみ適用されるというアルゴリズムが用いられている。また、協調制御はマスターとなるひとつの基地局の拡張スケジューラで制御できるようになっている。

 ECO-LTEおよびCoMPでは、現行のLTEでは実現されていない、基地局間を協調させる技術が重要になっている。基地局協調ネットワーク制御はソフトバンクが開発し提案している技術という。実験で用いられた基地局同士は、IPネットワークを利用するX2インターフェースで接続され、分散基地局制御構成となっている。時刻の同期はGPSを利用する。従来の、基地局を集中させ光ファイバーでアンテナと接続する集中基地局制御構成では、ほかの集中基地局が制御するクラスタとの間にクラスタ境界ができ、クラスタ間の協調制御が行えないなどの問題があったという。X2インターフェースでは、協調が必要な基地局を動的に変更でき、クラスタ境界も発生しないほか、協調制御効果自体も低下しないとしている。

技術的な解説を行ったソフトバンクモバイル ワイヤレスシステム研究センター ワイヤレスアクセス制御技術研究課長の長手厚史氏
デモンストレーションの内容を解説したソフトバンクモバイル ワイヤレスシステム研究センター モビリティネットワーク技術研究課 課長の岡廻隆生氏

お台場の路上でデモ、ECO-LTE/CoMPでセル境界が安定

 実験用装置を用いた室内のデモンストレーションでは、受信電力を制御して、端末が2つの基地局間を移動する様子が再現され、ECO-LTEおよびCoMPを用いることでセル境界のスループットが大幅に向上する様子が確認できた。デモでは、分かりやすくするために3Mbpsの動画をストリーミングで受信している画面が用意された。通常のLTEでは電波干渉が大きくなるセル境界で映像が乱れたり大きなブロックノイズが発生したりするなどの影響が見られ、ハンドオーバー後、干渉が減るに従って徐々にスループットが回復していったが、セル境界でECO-LTEまたはCoMPが適用されると、スループットは大幅に向上し映像は乱れることなく視聴できた。

 デモンストレーションでは、お台場の道路を走る実験用設備を搭載した車から映像を生中継する形で、フィールド実験の模様も公開された。青海、お台場、有明の3カ所に設置された実験用基地局からの電波を利用するもので、室内の実験よりも複雑なスループットの変化を見せるものの、ECO-LTEやCoMPを適用すると大幅にスループットが向上する様子が確認できた。

 また、実験用基地局では、有明に設置された基地局に「垂直面内アンテナ指向制御技術」が搭載されており、指向制御によりほかの2局への干渉を抑えると、さらに端末のスループットが安定・向上する様子も披露された。

デモンストレーションの様子

室内のデモンストレーション機材。手前の机が現行のLTEで、机上が端末、机の下にあるのが2つの基地局に相当する。奥の机はECO-LTE、CoMPを適用する端末と基地局に相当する機材が設置されている
セル境界にてECO-LTEが適用されている状態。通常のLTE(左)はスループットが低下しているが、ECO-LTE(右)が適用された端末はスループットが向上、映像が途切れていない
ECO-LTEによりスループットが向上した様子
セル境界を過ぎるとECO-LTEの適用が終了する
お台場の路上での実験。3つの実験基地局が配置されている。左下の青海の実験基地局のすぐ近くからデモ機材を搭載した車が出発する
(現行LTE)青海の実験基地局が近いエリアでは高いスループット
(現行LTE)20Mbps前後を記録している
(現行LTE)大通りに出て、路上の環境や別の台場実験基地局の干渉などによりスループットが低下した
(現行LTE)スループットが1.5Mbps程度に低下。それでも従来よりは高速だ
(ECO-LTE)ECO-LTEの実験では、台場実験基地局からの電波を協調制御で止める
(ECO-LTE)紫は現行LTE、ピンクがECO-LTE適用のグラフ。大通りに出てスループットが低下すると、ECO-LTEが適用されて隣接する台場実験基地局からの電波が停止、スループットが大幅に向上した
(ECO-LTE)20.3Mbpsと、大幅に向上している
(ECO-LTE)ECO-LTEの適用が終了した瞬間
スループットは元に戻った
(CoMP)CoMPではセル境界などにおいて隣接する台場実験基地局と協調MIMO伝送を行う
(CoMP)緑は現行LTEのグラフ。CoMPが適用された瞬間。ECO-LTE同様に干渉がなくなるため大幅にスループットが向上した
(CoMP)20Mbps前後と高速になる
CoMPに加えてアンテナ制御技術を行う実験。垂直面内アンテナ指向制御技術は有明実験基地局に搭載
紫のグラフが実験中のスループット。干渉が抑えられCoMPのみよりもさらにスループットが向上している
広いエリアでアンテナ制御によるスループット向上が確認できた

プレゼンテーション資料

太田 亮三