携帯マルチメディア放送、電監審は「mmbiが適当」と答申


 8日、総務省で電波監理審議会(電監審)が開催された。8月17日付けで総務省から諮問された「携帯端末向けマルチメディア放送」を含む3つの案件について、電監審の原島博会長から答申内容が説明された。

これまでの流れ

 地上デジタルテレビ放送への完全移行に伴い、これまでアナログテレビ放送が使っていた電波の帯域が空くことになる。この“アナログテレビの跡地”の活用方法として、総務省では2007年11月、ITS(高度道路交通システム)や“テレビ以外の放送”などに割り当てる方針を示した。これを受け“テレビ以外の放送”として検討が進められたのが、携帯端末向けマルチメディア放送だ。携帯電話に代表される、モバイル機器向けの放送サービスという位置付けで、従来のテレビ放送のようなリアルタイム映像配信のほか、蓄積型配信や、ニュースや天気といったデータコンテンツ、電子書籍などの提供が想定されている。

 携帯端末向けマルチメディア放送のうち、VHF帯のハイバンド(VHF-HIGH)と呼ばれる207.5~222MHz帯については、放送設備を保有する“受託(ハード)事業者”と、コンテンツを提供する“委託(ソフト)事業者”を選定する流れとなり、まず受託事業者の免許1枠を先に決めることになった。2010年6月、募集の結果、NTTドコモ系列のマルチメディア放送(mmbi)と、KDDI系列のメディアフロージャパン企画が名乗りを挙げ、総務省で公開討論会などが行われた結果、8月17日に総務省から電監審へ、どちらへ免許を与えるべきか諮問が行われた。

 この諮問は、初めて電監審がどちらが優位か決める、という形のもの。8月17日、9月7日、9月8日に電監審会合が行われたほか、非公開ヒアリングと公開説明会が行われた。

「mmbiの方が適合度合いが高い」

電監審の原島会長

 電監審では、総務省から諮問されていた携帯端末向けマルチメディア放送について、名乗りを上げている2社を比較した結果、「(NTTドコモ系列の)mmbiからの申請の方が、比較審査基準への適合の度合いが高いと認められた」として、答申した。

 会見で報道陣に配られた資料は、mmbiをA社、メディアフロージャパンをB社として、総務省が両社の申請内容を比較しやすいよう項目ごとに揃えた上で、電監審による評価結果の文章が併記されている。具体的には、事業の確実性や受信端末の普及、計画実施能力と体制などで、両社の計画が比較しやすい形で整理されている。

 8日夕刻から行われた会見では、原島会長は「いずれの申請についても認定要件を満たしていることから、比較審査することになった」と最初の経緯から紹介。比較審査において、A社がB社より優位、と認めた点について触れた同氏は「委託放送業務の円滑な運営、主に委託向け料金設定が中心となるが、その料金水準に大きな差があり、mmbiが優位と判断した。また、基地局の整備能力についても、mmbi側のほうがより詳細な現地調査を終えているということで、確実性が高いと判断した」と述べる。

 メディアフロージャパンに対する評価としては、「ブースター障害などへの取り組みではメディアフロージャパンのほうが優位だった」(原島氏)とのことで、受信障害への取り組みを評価したとする。さらに、エリア設計についても、基地局設置運用の技術的能力や、実証実験・標準化活動に関してシミュレーション精度がやや優位としてエリア設計能力を評価した。

重要視した項目は3点

 mmbi、メディアフロージャパンどちらに対しても他社より優位と判断する点があったとのことだが、mmbiのほうが適当と判断した決め手について原島氏は「委託が参入しやすく、事業しやすい点が重要だろうと考えた。料金設定について、数字としてかなり大きな差があったので、重要な評価項目とした」と説明。質疑応答の際にも「委託にとって、魅力的な受託になる。それが一番だ」と述べた。

 基地局設置箇所について、5年後の基地局数がmmbiは125局、メディアフロージャパンが865局設置する予定で、その設置の確実性を検討したとき、mmbi側がより詳細な現地調査を終えており、確実性が高いと判断。その置局確実性を重要視したと述べる。ただ基地局設置のうち、mmbiが追求していた、メディアフロージャパンの東京タワーの利用計画については「それだけではない。申請書や説明を見ても確実性が十分と言えなかった」とした。

 さらに、財務面についても、単年度黒字化の時期などから、mmbiとメディアフロージャパンで数字上、大きな違いがあると指摘。ただし、これは「経営の話なので、いろいろな考え方があり、いろいろな形の配信事業が出てくる中で、携帯端末向けマルチメディア放送の計画が最初の通りに行くとは限らない。(それであれば)余裕のある財務基盤がいいだろう、柔軟に対応できるだろうということで、mmbiが優位と判断した」と語った。これについて、報道陣から「基地局の追加投資などのことか」と問われた原島氏は「比較的自由に対応できることがいいのではないか。単年度黒字、累積(損失の解消時期)の話とか、どちらに財務的に余裕があるか考えた」として、KDDI系列よりもドコモ系列のほうが優位との判断を示した。

 原島氏は「委員の立場はそれぞれ違うが、どちらがいいのか、という点で言えば、意見は一致した。(最終的に一致した? という問いに)項目ずつの議論から始めている。総合して、こちらですね、という形にした。最初から意見は同じだったかもしれないし、審議の結果、同じになったのかもしれないが、それは分からない」とした。

 日本独自方式であるISDB-Tmm方式を採用するmmbiを選んだことに関し、「ガラパゴス放送になるのでは? という声もあるが」という報道陣の問いかけに対しては「電監審としては2つの申請があり、その内容を基準に照らして、どちらが適合度合いが高いか判断した。将来の発展性ということで、より強そうなものを選んだということ」と語った。

 電監審は、総務大臣へアドバイス(勧告)する機関であり、今回の答申内容も総務大臣の判断へ大きな影響を与えると見られる。実際にmmbiが免許を獲得するかどうかは、総務大臣による認定を待つ必要があるが、今後の日程について、総務省 情報流通行政局総務課長の大橋秀行氏(前放送政策課長)は「定期的に(総務大臣へ)報告してきた。なるべく早めに(認定手続きと交付式が)行われるだろう」とした。電監審からは、データの解釈などファクト(事実)に関する確認、助言を求められたが、審議そのものについては総務省は入っていないとした。

 従来は総務省が判断し、その判断が適当かどうか電監審に諮問するというものばかりだったが、今回は初めて電監審が判断することになった。こうした形の諮問は「原則として(こういう手法が)できるということだけで、常にということではない。この方法を採らないのがベースだろうが、場合によっては採用することもあるだろう。コンセンサスを形成する上で、いろんなことを考えて、採用することもあるのではないか」とした。

mmbi、メディアフロージャパンの反応

 答申を受け、ドコモでは「(総務省から)連絡はいただいた。申請した通り、2012年4月の本放送開始に向けて、しっかりできるよう社内、パートナーとともに全力で取り組む」とコメント。mmbiも「全力で取り組む。正式な認定を受ければ、あらためて表明したい」とした。

 一方、メディアフロージャパンの親会社であるKDDIでは、答申内容を確認できていないため、コメントを差し控えるとした。ただし、何らかのアクションを起こす可能性はあると見られる。

 



(関口 聖)

2010/9/8 19:35