携帯マルチメディア放送の行方、mmbiとMediaFLO双方の主張


 7月21日、総務省において携帯向けマルチメディア放送を巡る非公開のヒアリングが行われた。受託事業者として参入を表明するマルチメディア放送(mmbi)と、メディアフロージャパン企画の2社は、それぞれヒアリング終了後に囲み取材に応じた。

 総務省では、携帯向けマルチメディア放送の受託放送事業者を1社とする方針を示している。NTTドコモを中心にテレビ放送事業者ら構成されるmmbiは、ISDB-Tmm方式を採用するとしており、KDDIとクアルコムが出資するメディアフロージャパン企画は、MediaFLO方式を採用する。ワンセグの流れを汲むISDB-Tmm方式か、米国で商用化されているMediaFLO方式か、いずれか1社が受託事業者となる。なお、受託事業者とは、いわばマルチメディア放送のプラットフォーム提供者にあたり、コンテンツは委託事業者から提供される。

ドコモ山田氏、「マルチメディア放送は100円玉何枚かの商売に」

NTTドコモ 山田氏
mmbi 二木氏

 非公開のヒアリングは、mmbi、メディアフロージャパン企画の順に行われた。ヒアリングを終えたNTTドコモの代表取締役社長 山田隆持氏は、「我々は、コンテンツとリーズナブルな料金、対応端末の3つが一番重要と(ヒアリングで)説明した。マルチメディア放送はアナログテレビ停波後の貴重な電波を使うため、なんとしても成功させなければならない。受託放送はリーズナブルな料金にかかっている。リーズナブルな料金にするためには、設備投資の委託料を安くしなければならない」と述べた。

 山田氏は、ドコモがエイベックスと展開しているiモード向け動画サービス「BeeTV」を例に、サービス利用料を月額315円で提供していると説明し、「マルチメディア放送をやるためには、100円玉何枚かの商売にしなければお客さんがたくさんは入ってこない」と訴えた。

 さらに、設備投資について「mmbiは438億円、メディアフロージャパン企画は960億円。mmbiは大電力方式を採用しており効率がよく、なおかつ性能もよいもの。万が一、MediaFLOに決まれば事業性は厳しい。我々は委託事業者の参入も厳しいと思っているし、対応端末もなかなか難しいのではないか」と語った。

 mmbiの代表取締役社長である二木治成氏は、設備コストについて言及し、MediaFLO陣営はコストがかかるため、委託料金が2~3倍高いと述べた。mmbiがコストを抑えられるのは、基地局数を抑えて大電力方式を採用した効果とした。二木氏は「安かろう悪かろうという指摘もあるが、全くの誤解。大規模の基地局をうつことによって本来の放送のメリットが出せる。品質も良くコストも下げられる」とした。

 端末開発の遅れについては、先日開催された展示会「WIRELESS JAPAN 2010」で実機を展示したこと、チップ開発も量産準備段階であることを説明した。また「ISDB-Tmmは、ISDB-T(ワンセグ放送)の上に移動体向けの改良を加えたもの。開発できるメーカーも世界に10社いる」とアピールし、端末開発はいつでも対応できる状態にあるとアピールした。

mmbiは送信出力を上げてエリア圏外を抑える

 mmbiの取締役 経営企画部長である石川昌行氏は、非公開ヒアリングにおいて、ワンセグとISDB-Tmmは基地局を設置する際の考え方が違うことを説明したことを明かした。ワンセグは地上デジタル放送から出発した技術であるため、地上高10mのところでエリア設計されているという、これに対し、ISDB-Tmmは地上高1.5mで設定しているとした。二木氏は「ワンセグの受信性能が悪いためISDB-Tmmも悪いとするのは、風が吹けば桶屋が儲かるといったような話。ワンセグは地デジ方式のおまけのようなもので、今回は移動体に合うような設計にしている」と述べた。

 ドコモの山田氏もこれを繰り返す形で「ワンセグについては、『家の中に入ると俺のところじゃ受信できない』とよく聞く。これは地デジの規格で運用しているため。今回のマルチメディア放送は、送信パワーを上げているので室内でも十分入る」と語った。

 二木氏は、ISDB-Tmm方式が未だ標準化されていないという指摘に対して、ISDB-Tと基本技術が共通しているため、ITU-Rにおいて年内には標準化される見通しであると述べた。

 さらに、親局と中継局から発射された放送波に時間差がある場合に、映像が正常に受信できなくなる受信障害「SFN混信」について、基地局の遅延を調整する機能があること、端末側が混信波を処理して影響を少なくする技術があることなどを紹介。電波の試験については、2008年から東京タワーを利用してやっていることを明かし、テレビ放送が終了した深夜にデータを収集していると説明した。

マルチメディア放送のメインは「放送」

 このほかドコモの山田氏は、「マルチメディア放送のメインは放送。いかに良いポジションから電波を吹くか。我々のグループはテレビ会社と連携しており、アナログを撤去した場所が使えるために効率がよい。また、大きな基地局で吹けば混信は少ない。ビル影は、アナログではゴーストになるが、デジタルはビル影の反射をうまく合成するとむしろ+αになる。放送に関しては我々の長所は一杯ある」とアピールした。二木氏も携帯向けマルチメディア放送に対して「あくまでも放送。連携はするが通信ではなく放送。今回のネットワーク作りは放送の考え方で作ることが合理的」とした。

 今回の囲み取材では、mmbi側がこれまで口にして来なかった言葉があった。二木氏は「宣伝不足」「我々のキャラクターからなかなか宣伝するのが苦手だった」「PRが苦手だったこともあり誤解を招いたんじゃないか。その結果を踏まえて、WIRELESS JAPAN 2010でしっかりアピールした」などと周知不足であったことを認めた。

 また、ドコモの山田氏は、仮にMediaFLOが採用された場合の対応について言及した。同氏は「BeeTVの経験から言うと利用料は300円。それを実現するために設備コストを下げた。(設備コスト高で)委託料の支払いが大きければ委託事業者は苦しいのではないか。要するに我々hじゃ委託事業者としては(MediaFLOに)乗れない」としたほか、「携帯電話へのMediaFLOチップの搭載にはお金がかかる。ワンセグのようにたくさん使っていただけるならば搭載するが、数が少なければ実績が出るまで待たないといけない」とした。

KDDI小野寺氏、MediaFLOの優位点はエリア

KDDI 小野寺氏

 MediaFLO陣営は、KDDIの代表取締役社長兼会長である小野寺正氏が対応した。

 小野寺氏は総務省側から問われた点として、事業計画書の不備をつこうとするような質問があったとした。また、有識者からはMediaFLOの優位な点を問われたとし、「エリアです、とはっきり答えた。エリアがなければユーザーは使わない」と回答したことを明かした。

 mmbi側が大電力方式で受信しやすくなるとアピールした点については、「これは皆さんご存じかと思う。今の地デジでさえビル影など地形難所がある。問題はパワーの問題ではない。我々は今回計算を示し、かなりの難地が出ると説明した。放送は元々、電波がどこまで届くか記載し、その中がどうなっているのかは記載しない。携帯電話のように面でカバーしているエリアを記載するものではない」と話した。

 またmmbiは、設備コストを抑えて委託事業者の負担を減らすことをアピールしており、それよりも設備コストの高いメディアフロージャパン企画側の事業採算性に対して懐疑的なコメントをしている。これに小野寺氏は「委託の採算性については十分理解している。しかし、エリアがカバーできなければ、お客さんに買ったけど使えないじゃないかと言われてしまう。ドコモさんは今まで、携帯電話についてはあれだけのエリアを構築している。(充実したエリアを作らなければ)ドコモさんも携帯のユーザーが満足してくれないことはわかっているはず。満足いただけなければユーザーは離れてしまう」と述べた。

小野寺氏「KDDIが全ての責任を負う」

 さらに、事業に対する考え方を示した小野寺氏は、現時点でKDDIが80%の株式を保有しており、ヒアリングの席で大株主の責任として「KDDIが全ての責任を負うと話した」と語った。さらに、モバイル放送がサービス展開し、採算がとれずにサービス終了となってしまった「モバHO!」について言及し、「東芝が(事業の)責任をとって損をとった。やっぱり主要な株主は事業に対して責任を持つのが当たり前だ」とコメント。責任の所在を明確に示した。なお、仮にMediaFLOに決まった場合に、ドコモ側の出資も受け入れていく方針も示された。

 1000億円弱という投資額について小野寺氏は、「(5年で投資を回収するとして)1年間で200億円。KDDIがその投資に耐えられないわけがなく、ドコモの方はもっと裕福だ。正直言って、今回のドコモの考えがよくわからない。ドコモの5000万ユーザーとソフトバンク2000万、合わせると7000万のユーザーがいる。このユーザーが使ってくれるかどうかがエリアだということは、皆さんよくご存知なはずだ」と語った。

 さらに、mmbi側が携帯向けマルチメディア放送を「放送」を軸に展開していることに触れ、「今回、モバイルマルチメディア放送とはストリーミングだけなのか、とはっきり聞いた」と述べ、総務省が「これはIPデータも含めて全て入る」と答えたと話した。同氏は「むしろデータをうまく使うことで新しいビジネスが展開できる。放送だけでいいのであれば、どうしてモバHO!が失敗したのか」など問いかけた。

 小野寺氏は囲み取材の中で、ドコモ側の姿勢について再三にわたり疑問を投げかけた。「ドコモさんは3Gでは技術の成果をどんどん出してきたはず。今回何かを出しているのか? ドコモがどう考えているのか不思議でしょうがない。あれだけ普段はエリアについて紹介するのに」などと語っていた。

 



(津田 啓夢)

2010/7/21 19:52