シャープが次世代電子書籍事業、タブレット端末も提供


試作機を手にするシャープの大畠氏とシャープ・エレクトロニクスマーケティングカンパニー オブ アメリカ(シャープの米国販売会社)家電マーケティング本部長のボブ・スキャグリオン氏

 シャープは20日、静止画やテキストに加えて、音声や動画も楽しめる次世代電子書籍フォーマット(次世代XMDF)を開発、2010年中に配信サービスとタブレット型端末を組み合わせた電子書籍事業へ参入すると発表した。

 XMDFは、シャープが提唱する電子書籍向けフォーマット。2009年2月に国際標準化された規格(IEC62448 Ecl.2 Annex B)で高速アクセス性や省メモリ、縦書き/ルビ表示とった仕様が特徴とされる。これまで携帯電話や電子辞書などで採用され、国内の対応端末は7000万台に達し、シャープ自身も電子書籍コンテンツ販売などを手がけてきた。今回は、新たなフォーマットである次世代XMDFが開発され、あわせて電子書籍事業へ参入する方針が示された。

マルチメディア対応、紙媒体向けデータと同時に生成

 今回開発された「次世代XMDF」は、これまで携帯電話向け小説やコマごとに割ったコミックが中心だったXMDFの環境に対して、端末ディスプレイの大型化や高速通信環境の充実などを受けて開発されたもの。オーサリングツールだけではなく、配信部分を司る配信サーバーシステムを用意するほか、今回はタブレット型端末も揃え、「トータルソリューション」が特徴とする。

 紙媒体向けに作成されたDTPデータを自動的にXMDFへ変換する仕組みを整え、紙書籍の発行と同時に電子書籍を発行できるようにする。対応するDTPツールとして、20日の発表会では「InDesign」(アドビ製)の名が挙げられ、「紙と電子のサイマル配信が可能」と紹介された。配信システムでは、自動定期配信機能が用意され、新聞のように毎日更新/購読する媒体に適した環境を整えた。また1つのデータから、携帯電話やスマートフォン、タブレット端末、テレビなど、複数の機器で利用できるデータを生成、レイアウトを最適化する「ワンソースマルチユース」も特徴という。

タブレット端末を開発、海外展開も

 20日の発表会では、試作機という2種類のタブレット端末が紹介された。1つは5.5インチ、もう1つは10.8インチディスプレイを搭載するとのことだが、詳細は9月ごろに発表会を開始し、別途案内するとされ、OSやCPUなどは明らかにされていない。

 ただ、プレゼンテーションでは、電子書籍だけではなく、さまざまな機能を備えることが紹介された。1つはFlash 10への対応で、ユーザー同士でコンテンツをオススメしあえるようSNSへの対応もうたわれている。Webブライジングや、書籍以外のアプリケーションの追加もできるとのことで、スマートフォン風のスペックになることを示唆した。電子書籍を閲覧する際は、たとえば新聞紙面を再現したレイアウトであっても、拡大したい部分をタッチすれば文字サイズだけ変更して閲覧できる仕組みを取り入れたり、海外旅行を紹介するコンテンツで街並みの写真に触れると、周辺にある店での買い物の様子などを動画で参照したりできるなど、インタラクティブ性を追求したコンテンツの作成/利用も可能としている。

 シャープではソリューションや端末販売を日本国外でも展開する構えで、第1弾として米国の通信事業者である、Verizon Wirelessとの交渉をスタートしたことを明らかにするとともに、Verizon Wirelssバイスプレジデントのアンソニー・A・ルイス氏からのビデオメッセージも公開された。提携について議論しているとのことで、今後、何らかの合意に至ればあらためて発表するという。

日本での展開、多種多様な企業との連携を模索

シャープ大畠氏
電子書籍端末の予測

 プレゼンテーションを行ったシャープ執行役員 情報通信事業統轄の大畠 昌巳氏は、今後数年間で国内外における電子書籍端末が急速に普及し、2012年度には国内で750万台、海外では5600万台に達するという予測データを示す。その上で、従来のXMDF形式では対応しきれない、ニーズの変化や環境の変化があるとして、次世代XMDFの特徴を紹介する。

 タブレット型端末を提供しつつも、「端末ビジネスとはとらえていない」と語り、「川上から川下まで提供する」(大畠氏)電子書籍の総合ソリューションと今回の取り組みを位置付けた。海外企業としてVerizon Wirelessとの協議を明らかにする一方、国内企業については、通信会社や取次企業などとの連携すべく、アプローチを進めていることを紹介する。企業ごとに次世代XMDFへ対応するかどうか、検討中のところもあるとしながらも、「趣旨に賛同した企業」として発表会で示された企業は大日本印刷、凸版印刷、ビットウェイ、モバイルブック・ジェーピー、毎日新聞社、日本経済新聞社、西日本新聞社、ダイヤモンド、日経BP、プレジデント、東洋経済新報社と新聞や雑誌、出版、電子書籍の主要企業が含まれる。出版社については、業界団体である日本電子書籍出版社協会から次世代XMDFへの期待を示すコメントが寄せられたが、通信企業については明らかにされていない。

 決済を含めたコンテンツ配信ストアのような取り組みを行うかどうか質疑応答で問われた大畠氏は、詳細なコメント、ビジネスモデルへの言及を避けつつも「当社だけでサービスはできない。関係する会社の協力を得ながら進めたい」と語り、さまざまな企業での採用を目指していく姿勢を示した。囲み取材では、出版社やエンドユーザーの双方にとって、現状の電子書籍は、紙書籍と同時にリリースすることが望まれているとの見解があらためて示された。

 



(関口 聖)

2010/7/20 14:28